ペリオ|⑥Phase4 メインテナンス
「予防は大事だが、そこまで手間をかけられない」——この感覚は、今も現場に残っています。1971年からスウェーデンで始まった2年間の比較試験は、その手間を実際に測りました。2週に1度・1回10分のプロフェッショナル清掃。かかった時間は年間およそ3時間。同じ2年間で、対照群の子どもたちが通常の歯科治療に費やした時間は年間2.3時間でした。
①「予防は手間がかかりすぎる」への、50年前の返答
プロフェッショナルクリーニングを軸にした予防プログラムを組もうとすると、必ず同じ壁に当たります。時間が足りない。2週に1度など、とても回せない——そう感じるのが普通です。
この論文が面白いのは、その「手間」を実際に時計で測っている点にあります。テスト群の子どもたちが1年間にプロフェッショナル清掃へ費やした時間は、およそ3時間。そして著者らは、これを対照群の子どもたちが通常の歯科治療に費やした年間2.3時間と比べるべきだ、と書いています。
予防に使う時間と、治療に使う時間。この2つは、そもそも同じオーダーの数字だったわけです。
②学童192名を、2週に1度
舞台はスウェーデン・カールスタッド市のノルストランド校。1971年の秋、7〜8歳(グループI)・10〜11歳(グループII)・13〜14歳(グループIII)の学童192名が参加しました。クラス単位で群分けし、各学年から2クラスをテスト群、残りを対照群としています。
ベースライン検査では、テスト群と対照群のあいだに口腔衛生状態・歯肉炎・う蝕経験の明らかな差はありませんでした。う蝕がある子・不適合修復がある子は、まず治療を済ませてから試験に入っています(=開口したう窩がない状態でスタート)。
- テスト群:学期中は2週に1度(年20回)、歯科衛生士による約10分のプロフェッショナル清掃。エリスロシン4%の染め出しペレットでプラークを染め、その子に合わせてバス法のブラッシングを指導し、フロス(デントテープ)と往復式の歯間チップを使った歯間清掃を実施。そのうえで全歯面を回転ラバーカップで、咬合面の小窩裂溝はポイントブラシで清掃し、5%モノフルオロリン酸ナトリウムを含む研磨ペーストを一貫して使用
- 対照群:学期中は月1回(年10回)、歯科衛生士の監督下でバス法により2分間ブラッシング。そのとき0.2%フッ化ナトリウム溶液を歯と歯肉に応用。加えて年1回、学校歯科診療所で診査と必要な治療を受けた
テスト群には、子ども本人と保護者に対して、歯肉炎・歯周炎・う蝕の成り立ちを口頭と文書で詳しく説明しています。12か月後・24か月後には保護者会を開き、経過を共有しました。プログラムは年におよそ9か月間動いています。
2年間の脱落は、転校による19名(1年目)と5名(2年目)で、最終的にテスト群101名・対照群91名が完遂。記録はすべて1人の歯科医師が行い、再現性はう蝕診断で97.6〜98.5%、歯肉の評価で93.9%でした。
③2年後、う蝕は19対575になった
2年間の新生う蝕面(1人あたり平均DFS)は、テスト群が0.27(7〜8歳)/0.12(10〜11歳)/0.17(13〜14歳)。対照群は4.24/5.83/8.15でした(群間差はP<0.001)。
実数で見ると、差はさらに鮮明です。2年間で、テスト群101名に生じた新生う蝕面は合計19面。対照群91名では575面でした。著者らはこれを「1年目は98%、2年目は95%の、一次う蝕と二次う蝕の抑制」と表現しています。
二次う蝕(再発う蝕)はテスト群では1面も検出されず、対照群では全年齢群で発生しました(2年間で0.40/0.48/1.70面)。年長のグループIIIで、年少のグループIより大きな値になっています。2年間で永久歯を抜歯した子は、両群ともいませんでした。
歯肉の状態も同じ方向を向きました。テスト群のGIは開始時の平均0.70/0.67/0.93から、1年後には約0.25まで下がり、2年目もその状態を保っています(1973年で0.22/0.28/0.19)。対照群は0.73/0.74/0.89から0.79/0.71/0.78で、ほぼ動いていません(群間差はP<0.001)。
特筆すべきは分布です。テスト群では1年後・2年後を通じて、GI=2(明らかな発赤・腫脹・圧迫による出血)と判定された歯肉ユニットが、101名の中に1つもありませんでした。全ユニットの約70%はGI=0、すなわち臨床的に健康でした。
プラーク指数(PlI)は、テスト群が1.12/1.06/1.29から0.34/0.30/0.27へ。対照群は1.19/0.94/1.26から1.09/0.99/1.00へ(すべての群でP<0.001)。テスト群では、染め出しやプローブを使わずに肉眼で見えるプラークを持つ子が、1年後・2年後ともゼロになりました。
④効いたのは「フッ化物」か「清掃」か
このプログラムは、清掃とフッ化物を同時に投入しています。どちらが効いたのか、という問いは自然に出てきます。
著者らは、う蝕予防効果が平滑面と小窩裂溝でほぼ同等だったことを手がかりに、「清掃とフッ化物応用が同時に行われたため、フッ化物が平滑面や口腔面だけでなく、隣接面の接触点や咬合面の裂溝にも届いた」と説明しています。そのうえで「フッ化物の局所応用の役割は見過ごせないが、我々の考えでは、頻回の専門的(すなわち十分な)歯面清掃を主軸とした予防プログラム全体の一部にすぎない」と書いています。
歯肉の側にも、興味深い観察があります。対照群では、隣接部のGIが口蓋側・頬側より有意に高いという、疫学研究でおなじみの傾向が出ました。ところがテスト群では、この差が消えていたのです。著者らは「2週に1度、フロスやチップで隣接面をていねいに清掃すれば、隣接面のプラーク指数がやや高めであっても、乳頭部の歯肉炎は防げる」と結論づけています。
⑤明日の臨床へ
第一に、「予防は手間がかかる」の中身を数字にする。この試験でテスト群が使ったのは、1回10分・年20回=年間およそ3時間。対照群の子どもが通常の歯科治療に使った年間2.3時間と、ほぼ同じ桁です。予防に時間を移すのか、治療に時間を使い続けるのか——という選択に見えてきます。
第二に、頻度と内容をセットで見る。この10分は、ただ機械で磨く10分ではありません。染め出し→その場での個別指導→フロスと歯間チップ→ラバーカップとポイントブラシ→フッ化物入り研磨ペースト、という手順が毎回入っています。そして本人と保護者に「なぜやるか」を最初に説明し、24か月のあいだ繰り返し指導しています。器械だけを速く回しても、この結果には届きません。
第三に、対象年齢を選ぶ。対照群の新生う蝕面は、7〜8歳の4.24に対し13〜14歳では8.15と、年齢が上がるほど増えました。一方でテスト群は全年齢で0.1〜0.3に収まっています。ただしグループIIIの43名は、150名の7年生の中から特にDF値の高い子を選んで組まれた集団で、もともとハイリスクだった点は割り引いて読む必要があります。
今日のひとこと
テスト群は学期中2週に1度(年20回)、歯科衛生士による約10分のプロフェッショナル清掃を受けた(染め出し→バス法の個別指導→フロスと歯間チップ→回転ラバーカップとポイントブラシ→5%モノフルオロリン酸ナトリウム含有研磨ペースト)。対照群は月1回(年10回)、0.2%フッ化ナトリウム溶液を用いた2分間の監督下ブラッシングを受けた。2年後、テスト群のプラーク指数は約0.3、対照群は約1.0(すべての群でP<0.001)。歯肉炎指数はテスト群約0.25、対照群約0.75(同じくP<0.001)。2年間の新生う蝕面(1人あたり平均DFS)は、テスト群が0.27/0.12/0.17(7〜8歳/10〜11歳/13〜14歳)、対照群が4.24/5.83/8.15。実数ではテスト群101名で19面、対照群91名で575面だった。う蝕抑制率は1年目98%、2年目95%。二次う蝕はテスト群でゼロ、対照群では全年齢群で発生した(0.40/0.48/1.70)。テスト群では1年後・2年後を通じて、歯肉炎指数2(明らかな炎症)と判定された歯肉ユニットが1つもなかった。2年間で永久歯の抜歯は両群ともゼロだった。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


