1問1答 論文 歯周病

付着歯肉がゼロでも、6年間は進まなかった

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase4 メインテナンス

付着歯肉が足りない部位を見つけると、移植を考えます。「歯周組織の維持には一定幅の付着歯肉が必要」という前提があるからです。1985年、Kennedyらは同じ患者の左右で移植した側としない側を6年間比べ、その前提を検証しました。

論文
A longitudinal evaluation of varying widths of attached gingiva
著者
Kennedy JE, Bird WC, Palcanis KG, Dorfman HS
掲載
Journal of Clinical Periodontology 1985;12(8):667-675
種類
縦断的スプリットマウス試験(米国バージニア医科大学/左右同名歯の唇頬側に両側性の付着歯肉不足がある患者を対象に、片側へ遊離歯肉移植を行い対側を非手術の対照として6年追跡。当初92名から32名が6年を完遂/3〜6か月ごとのメインテナンス)
PMID
3902907

「付着歯肉が足りないから移植」の前提を、6年で確かめる

付着歯肉の幅は、歯種や歯面によって一定のパターンを持ち、年齢とともに増える可能性も報告されています。「一定幅の付着歯肉が歯周の健康とアタッチメントの維持に必須である」という信念が、その幅を確立・増加させる外科処置を生んできました遊離自家歯肉移植は、安定した付着歯肉帯を得るための予知性の高い手段です

ところが、この前提そのものへの疑問が並行して積み上がっていました。

  • Lang & Löe(1972)は、6週間の管理下の口腔衛生でも、角化歯肉が2mm未満の部位では炎症が残ったと報告
  • これに対しMiyasatoら(1977)は、角化歯肉が1.0mm以下の部位でも、プラークがコントロールされていれば歯肉の炎症は最小限だったと観察
  • Lindhe & Nyman(1980)の後ろ向き評価でも、角化歯肉の有無が歯周組織に不利に働くことは示されなかった
  • Tenenbaum(1982)は、付着歯肉の幅と退縮の頻度に相関を認めなかった

そこでこの研究は、同じ患者の左右で比べます。片側に遊離歯肉移植を行い、対側は非手術のままメインテナンスだけを続ける患者内で比較するため、口腔衛生の水準や全身的な条件が揃うのが強みです

先に結論: 対照側(移植なし)でも、6年間で追加の退縮もアタッチメントロスも起こらなかった「退縮あり+付着歯肉ゼロ」の部位に限っても同じだった移植側では角化組織と付着歯肉が有意に増え、退縮とアタッチメントは改善した著者らの結論は「付着歯肉がなくても、炎症をコントロールすれば歯周の健康は維持できる」

同じ口の中で、片側だけ移植する

対象は、左右同名歯の唇頬側に両側性の付着歯肉不足がある患者すべての部位にまずスケーリング・ルートプレーニングと口腔衛生指導を行い、そのうえで無作為に片側を実験側(遊離自家歯肉移植)、対側を対照側(スケーリング・ルートプレーニングとプラークコントロールのみ)に割り付けました

リコールは3〜6か月間隔、必要ならそれより短く設定。1年目は3か月ごと、以降の5年は6か月ごとに測定しています

当初92名のうち、6年を追えたのは32名。そのうち14名は、開始時点で「退縮あり、かつ付着歯肉ゼロ」という組み合わせを持っていました

ここで注目したいのが、この研究の倫理設計です。大学の人体研究委員会がこの研究を承認する条件として、対照側で2回連続の検査において1mmを超える追加の退縮またはアタッチメントロスが観察された場合、その部位は遊離歯肉移植で治療することが求められていました6年間でこれに該当したのは3名です(1名は前報以降、2名を含め計3名が対照側の退縮のために研究から除外)

検査者の校正も行われ、62%の測定が完全一致、32%が±1mm以内、6%が±2mm以内でした変化が偶然を超えているかは、統計的有意性と、校正の不完全さから期待される変化頻度の両方で判定されています

移植しなくても、6年は動かなかった

0 1.7 3.3 5 対照側14部位の計測値 (mm) 2.4 2.6 4 4.1 0 0 歯肉退縮 アタッチメントロス 付着歯肉 薄い棒=初期 / 濃い棒=6年後。「退縮あり+付着歯肉ゼロ」で移植をしなかった14部位。いずれも有意な変化はなかった
対照側で「退縮あり+付着歯肉ゼロ」だった14部位の6年変化。いずれも有意差なし

対照側の全32部位では、6年間で退縮は1.0→1.0mm、アタッチメントロスは2.5→2.4mm、角化組織は1.4→1.6mm、付着歯肉は0.3→0.5mm。いずれも有意な変化はありませんでした

より厳しい条件——「退縮があり、かつ付着歯肉がゼロ」だった14部位に絞っても同じです。退縮2.4→2.6mm、アタッチメントロス4.0→4.1mm、付着歯肉0.0→0.0mm。追加の退縮もアタッチメントの喪失も起こりませんでした

0 0.5 1 1.5 指数(0〜3のスケール) 1.2 0.2 0.9 0.2 歯肉炎指数 プラーク指数 薄い棒=初期 / 濃い棒=6年後。同じ対照側14部位。移植をしなくても、炎症とプラークは有意に低下した(いずれもP≤0.001)
同じ14部位の炎症とプラーク。移植しなくても大きく下がっている

一方で、炎症は確実に下がっています。対照側14部位で歯肉炎指数は1.2→0.2、プラーク指数は0.9→0.2(いずれもP≤0.001)全32部位でも歯肉炎指数1.3→0.5、プラーク指数1.1→0.3

移植側の変化は、当然ながら明快です。

  • 全32部位:角化組織1.3→6.2mm、付着歯肉0.3→5.0mm(いずれもP≤0.001)。歯肉炎指数1.3→0.3、プラーク指数1.1→0.3
  • 退縮+付着歯肉ゼロの14部位:角化組織0.8→5.5mm、付着歯肉0.0→4.2mm。さらに退縮が2.3→1.7mmへ減り(P≤0.05)、アタッチメントロスも4.1→3.1mmへ改善(P≤0.05)

6年時点の両側比較では、角化組織と付着歯肉の量は移植側で有意に多い。しかしプラークと歯肉の炎症をコントロールする能力に、付着歯肉の有無による差は認められませんでした退縮+付着歯肉ゼロの部位では、移植側で退縮が少なく、臨床的アタッチメントの獲得がありました

中断した10人が示したこと

この研究をただの「移植不要論」にしていないのが、この部分です。

研究への参加を中断した10名が、経済的な誘因を提供されて再評価に応じました。平均27か月(範囲0〜40か月)参加した後、平均61か月(範囲55〜80か月)にわたってメインテナンスを受けていなかった人たちです著者らは彼らが受けていた歯科診療を「エピソード的(episodic)と表現するのが最も適切で、誰もメインテナンスのプログラムには参加していなかった」と書いています

再評価の結果です。

  • 対照側:歯肉炎指数が初期値付近まで戻った(0.9→0.2→1.2)。これに伴い平均0.5mmの退縮が生じ、その頻度は20%で、校正の誤差に帰せられる範囲を超えていた(0.2→0.3→0.8mm)
  • 移植側:歯肉炎指数とプラーク指数は初期値より有意に低いまま維持された。追加の退縮もアタッチメントロスも起こらず、移植で得られた角化組織と付着歯肉の増加は安定していた

著者らはこの解釈に慎重です。「メインテナンスを中断した患者に関するこの観察の解釈は慎重に行わなければならない。明らかに、最小限あるいは無付着歯肉の部位で歯肉の炎症が再確立され、時間とともに退縮に至った。しかし遊離歯肉移植で以前に治療された部位で同じ期間内に退縮が起こらなかったからといって、付着歯肉の存在が退縮に対する防御を与えると結論することはできない」

そしてEricsson & Lindhe(1984)の炎症性細胞浸潤の分布の違い——角化歯肉が狭い部位では歯肉のほぼ全結合組織が炎症細胞で占められるのに対し、幅の広い部位では浸潤が歯面側に限局する——を引き、「遊離歯肉移植は、測定可能な退縮が起こるまでの時間の枠を単に引き延ばしているだけかもしれない」と述べます。

明日の臨床へ

第一に、付着歯肉の幅だけを理由に移植を決めない著者らは「付着歯肉が不十分あるいは無い部位で歯周のアタッチメント装置を維持するための努力は、歯垢のコントロールに向けられるべきである」と述べていますそのうえで「デントジンジバルユニットの寸法を注意深く記録し、これらの部位を時間をかけて追跡するほうが、正当化されないかもしれない外科処置を用いるより賢明に思われる」

第二に、追跡の基準を持つ。この研究が採った「2回連続の検査で1mmを超える追加の退縮またはアタッチメントロス」は、そのまま実務の閾値として使えます6年でこれに該当したのは3名。著者らは、脱落者にも同じ頻度で起きたと仮定すると全体で約9%になると推定しています

第三に、メインテナンスから外れたときに何が起きるかを知っておく中断した10名の対照側では、炎症が戻り、20%の頻度で平均0.5mmの退縮が生じました。付着歯肉がない部位ほど、通い続けてもらう意味が大きいということです。

ここだけ、冷静に補助線。当初92名から6年を完遂したのは32名で、脱落が大きい研究です(ただし著者らは、6年時点で継続群と中断群のベースライン値に差はなく、自己選択された特殊な集団を扱っていたわけではないと確認しています)。また移植側の「退縮の改善」は creeping attachment を含む現象で、すべての症例で期待できるものではありません。中断群の解釈についても著者ら自身が「付着歯肉が退縮を防ぐと結論することはできない」と釘を刺しています。それでも、同じ口の中で片側だけを手術し、6年という長さで、しかも中断した患者まで追いかけて再評価したこの設計は、いま読んでも誠実です。この論文の主張は「移植は無意味だ」ではなく、「決め手は付着歯肉の幅ではなく、プラーク起因の炎症のコントロールである」というものでした。

今日のひとこと

両側とも、スケーリング・ルートプレーニング・口腔衛生指導と3〜6か月のメインテナンスを受け、片側だけに遊離自家歯肉移植を行った対照側では6年間で、歯肉炎指数が1.3→0.5、プラーク指数が1.1→0.3へ有意に低下した(いずれもP≤0.001)一方、退縮(1.0→1.0mm)とアタッチメントロス(2.5→2.4mm)は変化しなかったとくに「退縮があり、かつ付着歯肉がゼロ」だった14部位に限っても、対照側で追加の退縮やアタッチメントロスは起こらなかった(退縮2.4→2.6mm、アタッチメントロス4.0→4.1mm、いずれも有意差なし)実験側(移植)では角化組織が1.3→6.2mm、付着歯肉が0.3→5.0mmへ有意に増加し、6年間安定した退縮+付着歯肉ゼロの部位では、移植側で退縮が2.3→1.7mmへ減り、臨床的アタッチメントも4.1→3.1mmへ改善した研究を約5年間中断した10名を再評価すると、対照側では歯肉炎が初期値まで戻り、平均0.5mmの退縮が20%の頻度で生じていた。移植側では同様の変化は見られなかった著者らの結論は「付着歯肉がなくても、歯肉の炎症をコントロールすることで歯周の健康とアタッチメントを維持することは可能である」

出典:Kennedy JE, Bird WC, Palcanis KG, Dorfman HS. A longitudinal evaluation of varying widths of attached gingiva. J Clin Periodontol 1985;12(8):667-675. PMID: 3902907
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。