ペリオ|Phase2 歯周外科
「この退縮、Millerの何級ですか」——そう聞かれて、IとIIの見分けに一瞬詰まったことはないでしょうか。2011年、Cairoらは分類の基準を頬側から隣接面へ移しました。見るのは隣接面の付着レベルだけ。それだけで検者間の一致率はほぼ完全になり、しかも6か月後にどこまで覆えるかまで言い当てました。
①「Millerの何級ですか」で、手が止まる
根面被覆を計画するとき、まず分類から入ります。1985年のMiller分類は、この30年以上、退縮を語るときの共通言語でした。歯肉縁が歯肉歯槽粘膜境(MGJ)に達しているかどうかでI級とII級を分け、隣接部の骨吸収や歯の位置異常があればIII級、それが重度ならIV級——そう習ったはずです。
ところが、実際にチェアサイドで使うと引っかかります。MGJに「達している」かどうかの線引きは意外に曖昧です。III級とIV級を分ける「隣接部の組織喪失量」に、明確な計測手順がありません。歯の位置異常がどこまで影響するのかも、はっきりしていません。さらに、Miller分類そのものの検者間一致率を検証した報告は、当時ひとつも存在しませんでした。分類は共通言語のはずなのに、その言語が通じているかを誰も確かめていなかったわけです。
②基準を、頬側から隣接面へ移す
Cairoらが提案したのは、頬側の退縮を、隣接面の臨床的付着レベル(CAL)だけで3つに分けるという方法です。
RT1(Recession Type 1)は、隣接面の付着喪失がないもの。近心にも遠心にも、隣接面のセメント‐エナメル境(CEJ)が臨床的に触知できない状態を指します。RT2は、隣接面の付着喪失があるが、その量が頬側の付着喪失と同じかそれより小さいもの。RT3は、隣接面の付着喪失が頬側の付着喪失より大きいものです。近心と遠心で値が違う場合は、喪失量の大きい側で判定します。
基準がCALひとつに絞られているのが、この分類の設計思想です。CALは歯周組織の評価にもっとも広く使われている指標で、隣接面のCALは骨吸収の有無を間接的に読む道具としても信頼できるとされてきました。MGJの位置も、歯の位置異常も、角化歯肉の幅も、判定には使いません。
検証は2部構成です。前半は信頼性の検証で、25名(平均43.9歳)の116部位が対象。平均退縮量は3.2±1.2mm、全顎のプラークスコアと出血スコアが15%未満、CEJが明瞭に読める歯だけを対象としています。訓練を受けた2名の歯周病専門医が、互いの結果を知らされないまま各部位を2回ずつ判定しました。後半は予後の探索で、別の66名133部位(同一術者が2006〜2008年に連続治療)を後ろ向きにRT分類し、6か月後の結果と照合しています。
③一致率も、予測力も出た
まず信頼性です。検者間の級内相関係数(ICC)は、RT分類で0.86(95%CI 0.80〜0.90)。0.81以上は「ほぼ完全な一致」に分類されます。検者内のICCは両名とも0.93。2名それぞれと第一著者との比較でも0.90・0.88と、いずれも高い水準でした。内訳はRT1が32部位(28%)、RT2が50部位(43%)、RT3が34部位(29%)で、3群にきれいに分かれています。
そして予後です。完全根面被覆が得られたのは、RT1で56/76部位(74%)、RT2で8/33部位(24%)、RT3では0/24部位(0%)でした。術式は冠側移動弁(CAF)単独・CAF+結合組織移植(CTG)・遊離歯肉移植(FGG)など複数が混在していますが、それでもRT分類による差ははっきり出ています。
退縮量の減少(Rec Red)は、RT1が2.5±0.9mm、RT2が2.2±0.8mm、RT3が0.4±0.9mm。術前の退縮量はRT1が2.8mm、RT2が3.2mm、RT3が3.5mmとほぼ揃っているので、差は出発点ではなく到達点の違いです。患者を変量効果に入れた混合モデルでは、RT分類は退縮量の減少を強く予測(p<0.0001、R²=0.83)し、術前の退縮量が同じなら、RT1はRT2より平均0.57mm多く戻せる(95%CI 0.31〜0.84mm)と推定されました。
④なぜ隣接面が、頬側の天井になるのか
著者らの解釈はこうです。隣接面の付着レベルが、頬側で到達しうる被覆の上限を決めている。移植片や弁は、治癒の間ずっと隣接部の軟組織から支持と血流を受けています。その供給源が根尖側へ下がっていれば、頬側の組織だけを冠側に引き上げても、支える土台が足りない——という理屈です。
この見方は、3群の内訳とも整合します。RT1は「歯周組織が健康な人に、ブラッシング圧などの機械的要因で生じた退縮」にあたり、RT2とRT3は歯周炎に伴う退縮です。さらにRT2は水平的な骨吸収、RT3は隣接部の垂直性骨欠損を伴う退縮に対応します。同じ「頬側の退縮」でも、背後にある病態が違うわけで、そこを分けたのがこの分類の実質です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。判定に必要なのはプローブ1本。 頬側のCALと、近遠心のCALを測って比べるだけです。隣接面のCEJが触知できなければRT1、触知できて隣接面の喪失が頬側以下ならRT2、頬側より大きければRT3。MGJの位置を目測する必要も、X線で骨吸収量を推し量る必要もありません。
2つ目。RT2でも、完全被覆は諦めない。 Miller分類では隣接部の骨吸収があると「部分的な被覆しか望めない」とされてきましたが、この研究ではRT2の24%(8/33部位)で完全被覆が得られています。トンネリング+CTGで多数歯のIII級退縮に完全被覆が得られたという報告もあり、「隣接面に喪失がある=無理」ではないことが見えてきました。
3つ目。RT3は、順番を変える。 この研究のRT3は根面被覆ではなく歯肉増大を目的として治療されており、退縮量の減少は平均0.4mmにとどまりました(FGG後のクリーピングアタッチメントによるものと考えられています)。著者らは、RT3では頬側の被覆を計画する前に、隣接部の軟組織・硬組織の再建で付着を獲得することが先だと述べています。患者への説明でも「まず歯間の環境を整える」という順序を共有できます。
4つ目。分類を、術前説明の言葉にする。 74%・24%・0%という数字は、そのまま「どこまで期待できるか」の説明材料になります。期待値を先に揃えておけば、部分被覆で終わった場合の受け止め方も変わります。
今日のひとこと
頬側の歯肉退縮を、隣接面の臨床的付着レベル(CAL)だけで3つに分ける新しい分類の提案と検証。RT1=隣接面の付着喪失なし、RT2=隣接面の付着喪失が頬側と同じか、それより小さい、RT3=隣接面の付着喪失が頬側より大きい。25名116部位で2名の盲検検者が判定したところ、検者間の級内相関係数(ICC)は0.86、検者内は0.93で、いずれも「ほぼ完全な一致」にあたります。さらに別の66名133部位(同一術者が2006〜2008年に治療)を後ろ向きに分類し、6か月後の結果と照らし合わせました。完全根面被覆が得られたのは、RT1で56/76部位(74%)、RT2で8/33部位(24%)、RT3では0/24部位(0%)。退縮量の減少はRT1が2.5±0.9mm、RT2が2.2±0.8mm、RT3が0.4±0.9mmでした。混合モデルでRT分類は退縮量の減少を強く予測(p<0.0001)し、術前の退縮量が同じなら、RT1はRT2より平均0.57mm多く戻せる(95%CI 0.31〜0.84mm)という関係が示されました。著者らは「隣接面の付着レベルは、頬側で到達しうる被覆の上限を決めている」と考察しています。Miller分類ではIII級に一括りにされてきた症例のうち、24%で完全被覆が得られたという点も、この分類の実用的な収穫です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


