ペリオ|Phase2 歯周外科
くさび状欠損に歯肉退縮が重なった歯。詰めるのが先か、覆うのが先か、それとも両方か——判断の基準がCEJでは足りません。2011年、Zucchelliらは「どこまで覆えるか」を先に見積もり、その線と欠損の位置関係で術式を5つに振り分けました。そして1年後、患者の満足度を決めていたのは、覆えたミリ数ではありませんでした。
①詰めるのが先か、覆うのが先か
くさび状欠損(NCCL)に歯肉退縮が重なった歯を前にしたとき、判断は3つに割れます。欠損が歯冠だけにあるならレジンで修復、根面だけにあるなら歯周形成外科——教科書的にはそう整理されます。ところが実際には、NCCLは歯冠と歯根の両方にまたがっていることが多く、そのときセメント‐エナメル境(CEJ)は摩耗して消えています。つまり、術式選択の基準にしていた目印そのものが無いのです。
さらに厄介なのは、Miller III級・IV級では、解剖学的なCEJまで軟組織で覆えるとは限らない点です。乳頭の高さが失われている、歯が回転・挺出している、咬耗がある——こうした条件があると、被覆できる高さは解剖学的CEJより根尖側で頭打ちになります。基準がCEJでは足りないわけです。
②覆える高さを、先に測ってしまう
Zucchelliらが使ったのは、同じグループが2010年に報告した「最大根面被覆線(MRC)の術前予測法」です。理想的な歯間乳頭の高さを計算し、そこから被覆線を描くという方法で、術後3か月の歯肉縁の位置を予測できることが検証済みでした。
手順はこうです。まず、頬側の近遠心のライン角でCEJが交差する点(CEJ‐角点)と、コンタクトポイントとの距離を測って、理想的な乳頭の高さを求めます。NCCLがある歯でも、歯間の軟組織をプローブや小スパチュラで持ち上げれば、歯間部のCEJは触知できます。この寸法を、近遠心の乳頭先端から根尖方向へ置き換え、その水平投影の2点を結ぶと、スカラップした1本の線が引けます。これがMRC=根面被覆の到達しうる最も冠側の線です。
対象はボローニャ大学に紹介された94名(男性45・女性49、20〜48歳、平均34.6歳)。単独の歯肉退縮にNCCLを伴う歯を1本ずつ、連続的に組み入れています。Miller I級26・II級20・III級38・IV級10。1日10本を超える喫煙者、既に補綴物がある歯、大臼歯は除外されました。計測は術者と別の盲検の1名(検者内一致κ>0.75)が担当しています。
そしてMRCとNCCLの位置関係で、5つのタイプに振り分けます。
タイプ1=MRCがNCCLの最上端より1mm以上冠側。予測誤差1mmを吸収できる余裕があるので、修復せず冠側移動弁(CAF)だけで対応します(露出根面はNCCLごと機械的に整えてEDTAで処理し、弁はMRCより1mm冠側で縫合)。タイプ2=MRCがNCCL上端の1mm以内。余裕がないので、結合組織移植(CTG)を欠損の凹みに詰めて、弁が落ち込むのを防ぐ二層法。グラフトが空隙を埋める「詰め物」として働きます。タイプ3=MRCがNCCLの最深部にある。もっとも複雑で、歯冠側のオドントプラスティ(修復前)と根面のオドントプラスティ(手術中)で欠損を浅く広くし、レジンで修復してからCAF。タイプ4=MRCが最深部より根尖側。覆えない部分をレジンで修復し、その根尖側の露出根面をCAFで覆います。タイプ5=MRCがNCCLの下端かそれより根尖側。軟組織では覆えない位置なので、修復のみです。
③覆えた量は5倍違う。満足度は変わらない
1年後の平均根面被覆は、タイプ1が3.06±0.79mm、タイプ2が3.33±0.59mm、タイプ3が1.92±0.54mm、タイプ4が1.47±0.51mm、タイプ5が0.6±0.73mm。全体では2.07±1.12mmでした。Miller分類別ではI級2.69mm、II級3.1mm、III級1.55mm、IV級0.4mm。角化組織の幅は1.58±0.62mmから2.35±0.8mmへ増加(+0.76±0.86mm)し、プロービング深さは術前1.1±0.3mmから1年後1.2±0.3mmで、有意な変化はありません。1年後に出血部位はゼロ、プラークが付着していたのは3%の部位だけでした。
ここからが本題です。審美の総合満足度がVAS 80点以上だった患者は、タイプ1で15/15、タイプ2で17/18、タイプ3で26/27、タイプ4で17/19、タイプ5で13/15。50点未満をつけた患者は、全94名中ひとりもいません。被覆量が0.6mmのタイプ5と、3.33mmのタイプ2で、満足度に統計学的な差はありませんでした。
重回帰分析はさらに踏み込みます。患者の総合満足度も、患者による根面被覆の評価も、歯周病専門医による根面被覆の評価も、「色調の合い方(カラーマッチ)」とは統計学的に有意に相関しました(患者 F=36.9・専門医 F=99.4、いずれもp<0.01)。ところが、実際に覆えたミリ数とは相関しませんでした(専門医の評価で F=2.8、有意差なし)。専門医の評価でMiller分類による差が出たのはIV級だけで、III級では、被覆を制限する解剖学的条件があるにもかかわらず、専門医は「不完全な被覆」だと気づけませんでした。
④なぜ色が、ミリ数に勝つのか
著者らの解釈はこうです。見る人の目に立つのは、白いエナメル質・レジンと、ピンクの軟組織の「境目に別の色が挟まっているかどうか」。つまり黄色い象牙質やCEJが露出しているかどうかであって、軟組織の縁が何ミリ冠側にあるかではない。完全被覆が達成できない症例では、被覆量そのものより「色の連続性」が審美の評価を決めていた——というわけです。
この読みは、修復を先に行う設計とも噛み合います。レジン修復を歯周外科の前に済ませておくと、修復側は軟組織に邪魔されず、ラバーダムで隔離した状態で仕上げられます。そして外科側には、滑らかで凸型の安定した支持面ができる。弁が乗る土台が整い、同時に色の段差も消えている——2つの利点が同時に手に入ります。
⑤明日の臨床へ
1つ目。術前にMRCを引く。 歯間のCEJを触知して理想的な乳頭の高さを出し、被覆線を描く。この線が「臨床的CEJ」の代わりになります。線より冠側なら歯周外科だけで届き、線より根尖側なら修復が要る——判断はこれで分かれます。
2つ目。修復は外科の前に。 順番を逆にすると、軟組織が邪魔をして修復の質が落ちます。MRCは、レジンを根尖側でどこまで延ばすかのガイドラインとしても使えます。
3つ目。深い欠損は、削って浅くしてから詰める。 タイプ3の冠側・根面オドントプラスティは、欠損の鋭い段差を落として浅く広くする処置です。これによってレジンの適合が上がり、弁が乗る面も滑らかになります。
4つ目。説明の焦点を、ミリからカラーマッチへ。 「解剖学的CEJまでは戻せません」で終わらせず、「境目の色を揃えます」を伝える。この研究では、それが満足度と相関した唯一の因子でした。
今日のひとこと
くさび状欠損(NCCL)に単独の歯肉退縮を伴う94名94部位を対象に、術前に「最大根面被覆線(MRC)」を予測し、MRCとNCCLの位置関係で5つのタイプに分けて術式を選ぶ意思決定プロセスを提示した研究。タイプ1(MRCがNCCL上端より1mm以上冠側)は冠側移動弁のみ、タイプ2(MRCがNCCL上端の1mm以内)は結合組織移植+冠側移動弁、タイプ3(MRCがNCCLの最深部)は歯冠側・根面のオドントプラスティ+レジン修復+冠側移動弁、タイプ4(MRCが最深部より根尖側)はレジン修復+冠側移動弁、タイプ5(MRCがNCCL下端かそれより根尖側)は修復のみ。1年後の平均根面被覆はタイプ1が3.06±0.79mm、タイプ2が3.33±0.59mm、タイプ3が1.92±0.54mm、タイプ4が1.47±0.51mm、タイプ5が0.6±0.73mm(全体平均2.07±1.12mm)。角化組織の幅は1.58mmから2.35mmへ増加(+0.76±0.86mm)し、プロービング深さは1.1mmから1.2mmで変化なし。注目すべきは審美評価です。総合満足度がVAS 80点以上だった患者はタイプ1で15/15、タイプ2で17/18、タイプ3で26/27、タイプ4で17/19、タイプ5で13/15——被覆量が0.6mmと3.3mmで5倍以上違っても、満足度に有意差はありませんでした。患者の満足度・患者と歯周病専門医による根面被覆の評価は、いずれも「色調の合い方」と統計学的に相関し、実際に覆えたミリ数とは相関しませんでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


