ペリオ|Phase1 初期治療
初期治療で手用と超音波を尽くしても、5mmを超える部位はしぶとく残ります。そこにエリスリトールのパウダーを吹き込むと、結果は変わるのか。2022年、Divnic-Resnikらは同じ患者の左右を分けて、半年追いかけました。差が出た場所と、まったく動かなかった場所が、はっきり分かれています。
①手用と超音波を尽くしても、残る部位がある
初期治療の再評価で、ほとんどの部位は3mm台に収まったのに、数か所だけ5mmや6mmのまま残っている——よくある景色です。器具が届いていないのか、根面の形態なのか、あるいは残っているのは歯石ではなくバイオフィルムなのか。
ここにエアポリッシング装置(APD)を足すという発想は、以前からありました。低研磨性で水溶性のパウダー(グリシン、エリスリトール)と縁下用ノズルの登場で、根面を傷めずに縁下のバイオフィルムを飛ばせるようになったからです。術後の不快感が少なく、時間もかからず、根分岐部や器具の届きにくい部位に有利という報告もあります。
ただし「エアフロー単独では足りない」ことは既にはっきりしています。グリシンパウダーの単独使用と従来の器具操作を比べたKargasら(2015)では、エアフロー群のほうが残存ポケットが有意に深かった。石灰化した沈着物を落とす力はないのだから、置き換えは成立しない、という結論です。
では「置き換え」ではなく「上乗せ」ならどうか。しかもエリスリトールで、SPT期ではなく初期治療で。ここが空白でした。エリスリトールはin vitroで P. gingivalis を濃度依存的に減らし、細胞外マトリックスの産生を抑えることが示されており、期待する理由はあります。
②同じ口の中で、左右を分けて比べる
対象は広汎型ステージ2・3グレードBの歯周炎患者21名(解析は20名。女性13・男性7、平均60.2歳、平均26.4歯)。18歳以上・全身的に健康・20歯以上を保有し各象限に6歯以上という条件で、喫煙者、妊娠授乳中、エリスリトールやクロルヘキシジンにアレルギーのある人、3か月以内に縁下器具操作や抗菌薬を使った人は除外されています。グレードCが外されているのは、全身抗菌薬の併用や外科移行の必要性が絡んで比較が濁るためです。
設計はスプリットマウス。コイントスで上下1象限ずつをテスト側に割り付け、反対側を対照側にします。術者は同一の歯周病専門医ひとりで、12時間以内に全処置を完了。測定と細菌サンプリングは、割付を知らない別の検者が単独で担当しました。
テスト側の手順は、まずエリスリトールパウダー(平均粒径14μm・クロルヘキシジン0.3%含有)でエアフローをかけ、5mm以上のポケットには縁下用ノズルで1面あたり約5秒。その後に4mm以上のポケットへピエゾと手用キュレットを入れます。対照側は超音波と手用のみ。両側とも局所麻酔下です。
3か月後の再評価で、4mm以上かつ炎症のある部位には、同じプロトコルで再治療。相対的アタッチメントレベル(RAL)は、個々に作った吸引成形のアクリルステントを基準点として、フロリダプローブで測定しています。再現性を担保するための工夫です。
③全顎の平均では、差はつかなかった
まず口全体の平均から。PPDは、テスト側が3か月で0.6mm・6か月で0.7mm減少、対照側は3か月・6か月とも0.5mm減少。相対的アタッチメントゲインは、テスト側0.8mm・0.9mm、対照側0.7mm・0.7mm。BOPは両側とも有意に減りました。
いずれも、ベースラインとの比較では有意(p<0.05)です。しかしテスト側と対照側を突き合わせると、どの時点でも統計学的な差はありませんでした。10%未満のBOPを達成した側の数も、群間差なし。
ここで終われば「エアフローの上乗せ効果はなかった」という、よくある結論になります。著者らはもう一段、深さで層別しました。
④「もともと深かった部位」だけ、景色が変わる
ベースラインで深かった部位(PPD 5.5mm以上)は、テスト側72部位・対照側64部位。このうち6か月後に浅い部位(3.4mm以下)まで改善したのは、テスト側39部位・対照側18部位でした。割合にすると54.2%対28.1%、リスク比 約1.9倍(本文の割合から計算)で、群間差は有意(p=0.004)です。
興味深いのは時間の効き方で、3か月時点では28部位対18部位、群間差は有意ではありません(p=0.408)。差が開いたのは3か月から6か月にかけて——テスト側だけが28から39へ伸び、対照側は18のまま動かなかったのです。
アタッチメントも同じ形をしています。深い部位の相対的アタッチメントゲインは、3か月で2.95mm対2.05mm(群間差は有意でない)、6か月で3.26mm対1.72mm(p=0.010)。対照側は3か月の2.05mmから6か月の1.72mmへわずかに戻っており、テスト側は伸び続けています。
一方浅い部位・中等度の部位だけを取り出した解析では、群間に有意差はありませんでした。効果が見えるのは深い部位に限られる、という素直な読み方になります。
⑤ところが、細菌の数は動かなかった
この論文の誠実なところは、細菌学的アウトカムで期待が外れたことを、そのまま書いている点です。
ベースライン・処置直後・1週・1か月・3か月・6か月と6時点でペーパーポイントを用いてサンプリングし、P. gingivalis をはじめとする菌種を定量しています。それでもテスト側と対照側の間に、統計学的に有意な差はどの時点でも認められませんでした。
in vitroでエリスリトールが示した抗菌的な作用は、口の中では検出できるほどの差にならなかったということです。つまり臨床パラメータの差を「菌が減ったから」で説明することは、この研究のデータではできません。物理的なバイオフィルム除去の質、器具の届きにくい部位へのアクセス、あるいは根面の滑沢化の程度——説明はいくつも立てられますが、いずれも本研究では検証されていない仮説です。
⑥明日の臨床へ
1つ目。使うなら「深い部位」に絞る。 浅い部位・中等度の部位では差が出ていません。全顎に均等に時間をかけるより、5.5mm以上の部位に縁下ノズルを充てるという使い方が、このデータには忠実です。
2つ目。再評価は3か月で切らない。 この試験で差が開いたのは3か月から6か月にかけてでした。3か月の再評価だけで「上乗せの効果はなかった」と判断すると、実際の到達点を見誤る可能性があります。
3つ目。置き換えではなく上乗せ、を守る。 テスト側でも、エアフローの後にピエゾと手用キュレットが必ず入っています。石灰化した沈着物は器具でしか落ちない——Kargasらの結果を踏まえた、この試験の前提です。順番も、エアフローを先、器具を後(気腫のリスクを下げるためのメーカー指示に沿った順序)。
4つ目。患者さんへの説明は控えめに。 効果が示されたのは「深い部位が浅い部位まで改善した割合」であって、「歯を残せる」でも「菌が減る」でもありません。言えることの範囲を、データの範囲に合わせておくのが安全です。
今日のひとこと
ステージ2・3グレードBの広汎型歯周炎の患者20名を対象に、同じ口の中で左右を分け(スプリットマウス)、片側は手用+超音波の縁下器具操作のみ、反対側はそれに加えてエリスリトールパウダーのエアポリッシング(EPAP)を併用し、3か月・6か月後の臨床パラメータと縁下プラークの細菌を比較したRCT。全顎レベルでは、PPD減少(0.7mm対0.5mm)も付着レベルの獲得(0.9mm対0.7mm)もBOPも、群間に有意差はありません。ところがもともと深かった部位(PPD 5.5mm以上)だけを取り出すと景色が変わります。6か月後に浅い部位(3.4mm以下)まで改善した数は、併用側で72部位中39部位(54.2%)、器具のみ側で64部位中18部位(28.1%)——リスク比にすると約1.9倍(本文の割合から計算)で、有意差あり(p=0.004)。深い部位の相対的アタッチメントゲインも、6か月で3.26mm対1.72mm(p=0.010)と併用側が上回りました。一方で細菌学的には、P. gingivalis をはじめどの菌種も、どの時点でも群間差なし。著者らの結論は抑制的で、「初期治療におけるEPAPの併用は、もともと深いポケット(5.5mm以上)では有益かもしれない」という書き方に留めています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


