ペリオ|Phase1 初期治療
縁上をきれいにしてから、縁下に入る。多くの医院がそう組み立てています。理にかなって見えますし、実際に再評価の数字も良くなります。ただ——その「前に挟んだ数回」は、半年後の結果まで変えているのでしょうか。2020年、Jentschらは52名をランダムに二つに分けて、そこを確かめました。
①「先にきれいにしてから」は、どこまで根拠があるか
プロフェッショナルな機械的プラーク除去(PMTC)が、SPT期に治療結果を何年も維持する道具として有効なことは、よく確かめられています。SRP後に毎週縁上バイオフィルムを除去すると、P. gingivalis・T. denticola・T. forsythia・A. actinomycetemcomitans の菌数が有意に減るという報告もあります。
ところが、「SRPの準備としてのPMTC」については、エビデンスがありませんでした。López らは、2型糖尿病を伴う中等度慢性歯周炎の患者に縁下器具操作なしのPMTCを繰り返し、PDやBOPの有意な改善を報告していますが、これは前処置としての価値を検証したものではありません。
そこでJentschらは、「SRPの前に2回のPMTCを挟むと、SRP後の結果が良くなるか」を、まっすぐに検証しました。仮説は「良くなる」。結果は、その仮説を棄却するものでした。
②52人を、ランダムに二つに分ける
対象は中等度から重度の慢性歯周炎 52名(女性29・男性23、平均51〜52歳)。16歯以上を有し、非隣接の4歯以上でPD 5mm以上、最大2歯でPD 7mm以上、隣接面プラーク指数(API)60%以上、喫煙は5本/日未満という条件です。糖尿病などの全身疾患、3か月以内の抗菌薬使用、1年以内の歯周治療歴、外科や抗菌薬併用が必要な症例は除外されています。
コンピュータ生成の割付表と封筒法で26名ずつに割り付け、SRPはすべて同じ歯科医師が、PMTCは同じ歯科助手が実施。測定は治療に関与しない盲検化された第三者が単独で行い、級内一致はκ=0.89でした。
流れはこうです。両群ともベースライン(t0)で、バイオフィルムコントロールの説明・動機づけ・指導を受けます。テスト群だけは、2週後と4週後に2回のPMTC(超音波器具とスケーラー204SDで、歯石・縁上および到達可能な縁下のバイオフィルムを除去)。6週後(t1)に全員が同じフルマウスSRP(24時間以内に2回、手用+超音波、局麻下)。術後7日はCHX洗口。3か月後にSPT。評価はt0・t1・t2(SRP後3か月)・t3(SRP後6か月)で、主要アウトカムは6か月後のPD変化です。
ここで重要なのは、対照群も「何もしていない」わけではないことです。説明・動機づけ・ブラッシング指導は、両群とも同じように受けています。比べているのは「指導だけ」対「指導+PMTC2回」——この設計が、結果の読み方を決めます。
③SRP直前だけ、はっきり差がついた
6週後(SRP直前)の時点では、テスト群だけがPD・CAL・BOPを有意に改善していました(p<0.001、p<0.01)。PD 2.87mm対3.15mm、BOP 35.4%対53.4%、PD 5mm以上の部位数15.8対21.4、API 29.5%対57.2%——いずれもテスト群が有意に良い(p<0.001〜p<0.05)。
ここだけ見れば、「PMTCを2回挟むと、こんなに違う」という結論になりそうです。実際、この数字は再評価の場面で私たちが見ている数字そのものでもあります。
ところが、SRPを終えた後の景色が変わります。3か月後(t2)と6か月後(t3)では、すべての臨床変数で群間に有意差がありませんでした。
BOPは、SRP後3か月で35.6%対35.6%——小数点まで一致しています。6か月では30.0%対36.2%とテスト群がやや低いものの、有意差はありません。PDは6か月で2.78mm対2.72mm、その差はわずか0.1mm(対照群のほうが浅い)。CALは3.88mm対3.88mmで同一です。
④むしろ、対照群のほうが減っている項目もある
さらに踏み込むと、いくつかの指標では対照群のほうが良い数字が出ています(いずれも有意差なし)。
PD 5mm以上の部位数は、6か月後でテスト群13.8か所・対照群11.2か所。減少率にすると、PMTCなし群58%・PMTCあり群50%——前処置をしなかった群のほうが、深い部位をよく減らしています。著者らはこの数字を、光線力学療法やSRP単独、全身抗菌薬併用で報告されている約80%の減少と比べて低いと率直に述べています。
細菌も同じでした。P. gingivalis・T. denticola・T. forsythia は両群ともSRP後3か月で有意に減少しましたが、群間比較ではどの時点でも統計学的な差がありません。A. actinomycetemcomitans はもともとほとんど検出されず、変化なし。GCF中のIL-1βは対照群のみ3・6か月後に有意に減少し、MMP-8はテスト群のみ3か月後に低下——方向がちぐはぐで、しかも群間差はありません。
⑤明日の臨床へ
1つ目。前処置の「回数」より、指導の「質」に時間を配る。 この試験の対照群も、ベースラインで説明・動機づけ・指導をきちんと受けています。それだけで、PMTC2回を足した群と同じ場所に着いた。チェアタイムをどこに使うかの判断材料になります。
2つ目。再評価の良い数字を、そのまま予後の良さと読まない。 SRP直前のBOP 35.4%対53.4%は、間違いなく「効いている」ように見えます。けれど3か月後には一致した。途中経過の差が、最終結果の差を意味しないことがある——この一本は、その具体例です。
3つ目。それでもPMTCの価値がゼロになるわけではない。 SPT期のPMTCが長期の維持に有効なことは、別の研究群で確かめられています。この試験が否定したのは「SRPの前処置としての上乗せ効果」だけです。維持期の役割まで一緒に捨てないよう、線を引いて読みたいところです。
4つ目。患者さんへの説明の順番を組み直せる。 「まず何回かお掃除してから、本格的な治療に入ります」という説明は、「まずご自身の磨き方を一緒に作ります。それが治療の結果を決めます」に置き換えられます。後者のほうが、この論文には忠実です。
今日のひとこと
中等度〜重度の慢性歯周炎 52名(35〜70歳・API 60%以上・喫煙5本/日未満)を、テスト群26名(SRPの前に2回のプロによる歯面清掃を追加)と対照群26名(説明・動機づけ・ブラッシング指導のみ)にランダムに割り付け、両群とも6週後に同じフルマウスSRPを受けて6か月追跡したRCT。SRP直前(6週時点)では、テスト群だけがポケット・付着レベル・BOPを有意に改善し、BOPは35.4%対53.4%、ポケットは2.87mm対3.15mmと明確な差がつきました。ところがSRP後3か月・6か月では、すべての臨床変数で群間差が消えます。BOPはSRP後3か月で35.6%対35.6%と完全に一致、6か月のポケットの差はわずか0.1mm。PD 5mm以上の部位の減少率にいたっては、前処置なし群58%・前処置あり群50%と、むしろ対照群のほうが大きい(有意差なし)。P. gingivalis・T. denticola・T. forsythiaは両群で減少しましたが、群間差はどの時点でもゼロ。GCF中のIL-1βとMMP-8にも群間差はありません。著者らの結論は明快です——「SRP前のプロフェッショナル・クリーニングは、SRPの臨床結果を改善しない」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


