ペリオ|Phase1 初期治療
ルートプレーニングの終わりを、私たちは「滑沢になったか」で判断します。粗さがプラークを呼び、炎症を招く——そう習ったからです。では、その滑沢さ自体に生物学的な意味はあるのでしょうか。1974年、抜歯予定の58歯を粗さ計で測り、隣接する歯肉を顕微鏡で数えた研究が、この前提を検証しています。
①「粗さをなくす」は、いつから目的になったのか
歯周治療では根面の粗さを取り除くことに、常に重点が置かれてきました。この考え方は、粗さ計(プロフィロメーター)の応用とあいまって、さまざまな歯周器具の「根面を滑沢にする能力」を調べる研究を数多く生み出しました。
ところが著者らは、ここに大きな空白があると指摘します。各種の器具が根面をどれだけ滑沢にできるかについては相当な情報が揃っている。しかし、根面の粗さそのものが生物学的にどんな意味をもつのかは、まだ明らかにされていない。
先行研究も割れていました。SwartzとPhillipsは粗い面が細菌の蓄積を促すと観察し、Tureskyらも同様の所見を報告。一方でClaytonとGreenは、粗さに統計学的な有意差があるポンティックのあいだで、プラーク蓄積に有意差はなかったと報告しています。
そこでこの研究の目的が定まります。ヒトにおける根面の粗さと、プラークの蓄積と、隣接歯肉組織の炎症指数との関係を明らかにすること。
②粗さ計と、顕微鏡で数える炎症
対象は義歯製作を予定していた20名(29〜73歳)の58歯。軽度から重度の歯周炎があり、セメント質が露出している歯です。1例を除き、全員に隣接する2歯以上の前歯がありました。
18名では十分な歯数が確保でき、無作為に3群へ割り付けています。①キュレット群(20歯・バンティングNo.5とNo.6)②超音波群(20歯・キャビトロン、P10チップののちEWPPチップ)③対照群(18歯・器具操作なし)。①と②では可能なかぎり滑沢になるまで器具を当て、対照歯にはポケット深さの測定以外は何もしていません。
処置後、被験者はいったん帰され、抜歯の日まで再来しません。器具操作から抜歯までの間隔は28〜232日。抜歯の直前にビスマルクブラウンで染め出し、0〜5の修正指数でプラークを採点しました。
採点の直後、歯肉を生検。歯肉縁から歯槽骨頂の高さまでを含む1標本を採り、抜去歯とともにコード化して保存します。
評価は2本立てです。根面の粗さは粗さ計で測って各歯の唇側面のスコアを算出。炎症は組織切片から「炎症指数」——上皮下結合組織のある顕微鏡視野内で、血管外の炎症細胞が全細胞数に占める割合を、約1000倍の油浸で数えたものです。予備検討で近心・遠心・中央の切片間に差がないことを確認し、各生検の中央部の1切片で代表させています。
そして重要なのは盲検性です。この研究のすべての測定は、その歯や生検がキュレット群・超音波群・対照群のどれに属するかを検者が知らない状態で行われ、データの分類は研究終了後まで行われませんでした。
③滑沢さの差は、確かに出た
まず粗さです。キュレット群9.51、超音波群17.21、対照群18.30。キュレットは超音波・対照のいずれと比べても高度に有意に滑沢(p<0.001)でした。一方で超音波と対照のあいだに有意差はありません(差1.085、t=1.09)。
つまり「器具によって根面の滑沢さは確かに変わる」という前提は、この研究でもきれいに再現されています。ここまでは想定どおり。
④ところが、歯肉は違いを知らなかった
炎症指数はキュレット群48.55、超音波群45.66、対照群52.72。分散分析で有意差はありません(F=0.676)。
歯肉縁上のプラークスコアもキュレット群3.11、超音波群2.88、対照群2.77で、こちらも有意差なし(F=1.57)。粗さでは倍近い差がついた群同士で、プラークも炎症も動かなかったことになります。
著者らは考察で2つの説明を挙げています。①粗さの差は統計学的には有意でも、生物学的に意味をもつほど大きくはなかったのかもしれない ②より可能性が高い説明として、被験者の口腔衛生の悪さ(平均プラークスコア2.90)と、唇側のポケットが浅かったことが関係しているかもしれない。
そしてこの誠実さがこの論文の価値です。「被験者の口腔衛生が不良であったため、滑沢な根面がプラークコントロールを高める能力について、価値判断を下すことは不可能である」。効果が無いと言い切るのではなく、この設計では判定できないと明示している。
もう一つ、対照群だけに現れた所見も興味深いところです。対照群ではポケット深さと炎症指数のあいだに高い相関(r=0.77、p<0.01)がありましたが、キュレット群・超音波群では、ポケット深さと炎症指数に有意な相関がありませんでした。著者らはここから、器具操作の後に残った「深さ」は、細胞レベルでのより強い炎症を意味するとは限らないという見方を示しています。
⑤明日の臨床へ
1つ目。手指の感覚を「歯石の有無」に使う。 滑沢さは、歯石が取れたかどうかを推し量るための手がかりであって、それ自体がゴールではありません。滑沢だから終わり、ではなく、歯石が無いから終わり。目的をここに置き直すと、CEJや根分岐部への時間の配分も変わってきます。
2つ目。セメント質を削りすぎない理由になる。 「もっと滑らかに」と器具を当て続ける行為に、この論文は生物学的な裏づけを与えませんでした。削る量を増やすことの利益は示されていない——過剰なルートプレーニングを控える根拠として使えます。
3つ目。器具の選択は「滑沢さ」だけで決めない。 超音波は対照と同程度の粗さでしたが、炎症もプラークもキュレット群と差がありませんでした。粗さの数値で器具の優劣を語るのは、この結果を見るかぎり早いと言えます。
今日のひとこと
義歯製作を控えた20名(29〜73歳・軽度〜重度の歯周炎でセメント質が露出)の58歯を、①キュレット ②超音波(キャビトロン) ③無処置の対照に無作為に割り付け、できるだけ滑沢になるまで器具を当てました。28〜232日後に染め出してプラークを採点し、歯肉を生検して抜歯。根面の粗さは粗さ計(プロフィロメーター)で、炎症は組織切片の血管外炎症細胞の割合(炎症指数)で、いずれも群を伏せた状態で測定しています。結果、粗さはキュレット9.51・超音波17.21・対照18.30で、キュレットは他の2つより有意に滑沢(p<0.001)、超音波と対照のあいだに差はありません。ところが炎症指数は48.55・45.66・52.72(有意差なし)、歯肉縁上プラークスコアも3.11・2.88・2.77(有意差なし)。著者らの結論は「本研究の範囲では、根面の粗さは隣接歯肉の平均炎症指数とも、歯肉縁上のプラーク蓄積とも有意に関連しなかった」。そして「歯石除去後の根面の滑沢化そのものに特異的な生物学的意義があることは示せなかった。したがって、根面の凹凸に潜む歯石を除去することこそが、ルートプレーニングの第一の根拠と考えるべきである」と述べています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


