ペリオ|Phase1 初期治療
メインテナンスで見つかる4mm超のポケット。毎回そこへ超音波を入れていくのが習慣になっていませんか。歯石になる前の柔らかい沈着物を落とすだけなら、鋼のチップである必要はないのではないか——2014年、ジュネーブ大学のグループが、エリスリトールパウダーによる歯肉縁下エアポリッシングと超音波デブライドメントを、同じ患者の左右で1年間比べました。
①メインテナンスの4mm超に、毎回鋼のチップを当てるのか
包括的な歯周治療を終えても、深い病変は完全には浅くなりません。172名のコホートでは、能動的治療の完了時点でPD>4mmの残存ポケットが704部位(1人平均4.1部位)あり、平均11年のSPTを経た再評価では959部位(1人5.4部位)に増えていたという報告があります。患者自身のセルフケアは、そうしたポケットの中に新しくできる沈着物には届きません。だからプロフェッショナルの介入が要る——ここは動きません。
問題は「何で」介入するかです。従来は鋼のキュレットか、ソニック・超音波で動くスチールチップ。ただ、この種の器具を繰り返し当てることには望まない副作用があります。歯肉退縮と歯質の喪失です。
ここで著者らはひとつの前提に目を向けます。メインテナンスの来院間隔では、歯肉縁下の沈着物は「硬く強固に付着した歯石」になるまで石灰化していないかもしれない。だとすれば、鋼の器具より侵襲の小さい方法の方が、この状況には適しているのではないか。
候補がエアポリッシングです。研磨粉を含んだ圧縮空気のジェットで面を清掃する技術で、ポケット内に入るノズルを使えば、残存ポケットの根面バイオフィルムを縁下から除去できる。すでに短期(7日)の安全性・患者受容性・微生物学的効果は50名で検証済み、2か月のスプリットマウス研究でも超音波と差がないことが確認されていました。足りなかったのは「繰り返し行った場合の長期の結果」です。
②同じ患者の、左右で比べる
デザインは単施設・検者盲検・ランダム化・12か月・同一患者内(within-subject)平行デザイン。つまり1人の口の右側と左側に、それぞれの方法を割り当てる形です。
対象は全身的に健康な50名(平均58.5歳、男21・女29、喫煙者19名=38%)。条件は、包括的歯周治療の完了後3か月以上メインテナンスに入っていること、左右それぞれにPD>4mmの残存ポケットが1つ以上あること、臨床的に検出できる歯肉縁下歯石がないこと。49名が完走しました。
処置は0・3・6・9か月の4回。各時点でPD>4mmのすべての部位を処置します。
テスト側=歯肉縁下エアポリッシング。エリスリトールパウダー(平均粒径14μm、保存目的で0.3%クロルヘキシジンを含有)を、ポケット内に挿入できる専用ノズルで1部位5秒。ノズルの先端から水も同時に出て、ポケットが洗われます。
コントロール側=超音波デブライドメント。ピエゾ式のPSチップで1部位約20秒。
いずれも麻酔なし。処置直後に、患者は100mmのVAS(一端が「痛みなし」、他端が「最悪の痛み」)で痛みを申告します。同じ人が両方を受けて評価するので、比較としてはかなり強い形です。
ベースラインでは6,918部位を観察し、そのうち457部位(7%)がPD>4mm(5〜9mm)でした。
③ポケットの減り方は、同じだった
12か月後、PD>4mmの残存部位は全体でテスト側176・コントロール側164。患者あたりに直すとエア側3.6部位、超音波側3.9部位。ベースラインは4.6と4.8でしたから、どちらも有意に減っています(p<0.001)。そして群間の差は有意ではありません。
各患者の最深部位(研究部位)を見ても、12か月のPDはエア4.5mm・超音波4.4mm、BOP+は31%と27%、歯肉退縮は1.0mmと0.8mm——いずれも差なしです。
細菌(6菌種のリアルタイムPCR)の検出頻度も、1,000 cells/ml超・100,000 cells/ml超のいずれでも群間差はありませんでした。ただし1点だけ動きます。12か月時点で A. actinomycetemcomitans が1,000 cells/mlを超えた部位は、エア側3・超音波側10(p=0.035)。しかもエア側には100,000超の検体がひとつもありませんでした(超音波側は2つ)。従来の機械的デブライドメント単独では A. actinomycetemcomitans に対する効果が限られることは以前から知られており、著者らは今後注目に値する所見としています(0.3%クロルヘキシジンの寄与かどうかは不明とも書いています)。
④違いは、痛みに出た
エアポリッシング 20.4mm、超音波 48.6mm(p=0.004)。急性の痛みにおいてVASの臨床的に意味のある最小変化は16mmとされますから、28mmの差は「感じ方が違う」と言える幅です。
時間も見ておきましょう。ハンドピースを取ってから戻すまでの実測で、エア側1.5±1.4分/人、超音波側1.7±1.5分/人。ほぼ同じです。
有害事象は軽微でした。5名がパウダーの味を「よくない」と述べ、1名が初回処置の夜に不調と発熱を報告(数時間で自然に消失)。硬組織・軟組織に臨床的な変化はなく、最も多かった感想は「エアポリッシング中に冷たさを感じた」というものでした。
なぜエリスリトールなのか、という点にも触れておきます。in vitroでは、炭酸水素ナトリウム・グリシンと比べてエリスリトールが最も体積喪失と欠損深さが小さく、最も滑沢な面を作りました(Tocha 2013)。以前使われていたグリシン(粒径20μm)より粒が細かく、そのぶん組織に優しい可能性がある。エリスリトールは糖アルコールで、食品添加物として使われる非毒性・化学的に中性・水溶性の物質です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。適応は「歯石がない残存ポケット」。この研究の組み入れ条件には「臨床的に検出できる歯肉縁下歯石がないこと」が入っています。硬い歯石が付いているなら、まず器具で取る必要があります。この結果が使えるのは、メインテナンス中に再形成される柔らかい沈着物が相手のときです。
2つ目。痛みで足が遠のく人にこそ効く。メインテナンスは続かなければ意味がありません。麻酔なしで痛みが半分以下という差は、来院の継続率という一番大事なアウトカムに効いてくる可能性があります。
3つ目。1回では終わらない前提で設計する。この研究では1年間に4回の処置機会があり、超音波側は4回すべてで処置された部位が55、エア側は39でした。どちらの方法でも、残存ポケットは繰り返しの管理を必要とするという事実は変わりません。
今日のひとこと
メインテナンス中の50名(49名完走)の口を左右に分け、0・3・6・9か月の時点でPD>4mmのすべての部位を、片側はエリスリトールパウダー(平均粒径14μm)による歯肉縁下エアポリッシング、もう片側は超音波デブライドメントで処置しました。12か月後、患者あたりのPD>4mm部位数はエア側4.6→3.6、超音波側4.8→3.9。どちらも有意に減り、群間差はありません。一方で痛みのVASはエア20.4mm vs 超音波48.6mm(p=0.004)と、半分以下でした。施術時間もほぼ同じ(1.5分 vs 1.7分)。細菌の検出頻度に差はありませんでしたが、A. actinomycetemcomitans が1,000 cells/mlを超えた部位はエア側3・超音波側10(p=0.035)で、エア側には100,000超の検体がひとつもありませんでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


