ペリオ|Phase1 初期治療
クラウンのマージンをどこに置くか。「歯肉縁上が原則」と習いますが、審美的な要求や既存の修復物の都合で、歯肉の下に入れる場面は消えません。では実際、縁下に入れたマージンは二次カリエスになりやすいのでしょうか。2013年、Papageorgiouらは5,600件超の文献からこの問いを検証しました。答えは、少し意外な形をしています。
①「可能なら縁上に」の根拠は、どこにあるのか
クラウンのマージンは可能なかぎり歯肉縁上に置く——教科書はそう勧めてきました。理由も筋が通っています。歯肉溝の中は、口の中の他の場所とは環境が違うからです。
栄養の主な供給源は唾液ではなく歯肉溝滲出液で、これは血漿に近い組成でタンパク・アルブミン・白血球・免疫グロブリン・補体を含みます。嫌気的で、食事由来の成分にも唾液の緩衝作用にも触れにくい。歯肉溝やポケットのアルカリ性pHは、歯周病原菌の定着を選択的に促しうる。加えて、縁を歯肉の下に置くとポケットのスペースを使うことになり、歯周組織の炎症のリスクが上がるとも指摘されてきました。
いっぽうでカリエスリスクの高い患者では、むしろ縁下配置を支持する意見もありました。歯肉退縮が進むまでセメント質が細菌に曝されるのを遅らせられる、という理屈です。逆に、マージン位置はカリエス発生に影響しないという報告もある。要するに、この点の証拠は一致していませんでした。
そこで著者らは、「マージンの位置は、支台歯のカリエス感受性に影響するのか」という一点だけを、系統的に検証しに行きます。著者らの知る限り、この問いに系統的な方法で取り組んだのはこれが初めてでした。
②5,657件から、22研究まで
検索はMEDLINE・EMBASE・Cochrane(CDSR/CENTRAL)・Google Scholar・Scopusで、2012年3〜4月まで。参考文献も手で辿り、補綴系の主要4誌はハンドサーチしました。
ヒットは5,541件、手検索で116件追加。除外基準は明快で、実験室研究・症例報告・技術論文・英語抄録のない論文は除く。組み入れ条件は①支台歯のカリエス感受性を報告した臨床研究 ②平均追跡が2年以上 ③修復物と支台歯の数が明記 ④マージン位置がカリエス発生と結びつけて報告されていること。
残ったのは22研究。補綴装置2,648個、患者1,242名、平均追跡は2〜11.4年、発表年は1990〜2012年。ほとんどが大学病院で行われた研究で、ランダム化比較試験はわずか1件、大半は「強さの分類」で最も弱いカテゴリーCに相当しました。
そして、ここがこの論文の実質的な結論を決めます。22研究のうち、対照群と実験群のカリエス発生を直接比較していたのは3研究だけ。うち1件はオーバーデンチャー下のコーヌスクローネで微生物環境が違うため除外され、メタ解析に使えたのは2研究(Ericson 1990・Valderhaug 1993)でした。
③10年までは差が出ず、15年で逆転する
5年まで:リスク比 1.25(95%CI 0.70〜2.22)、p>0.05、I²=0%。縁下の方が1.25倍多いように見えますが、信頼区間が1.0を大きく跨いでおり、差があるとは言えません。
10年:リスク比 1.22(0.81〜1.83)、p>0.05。こちらもValderhaugの1件のみに基づく値で、やはり有意差なし。
15年:リスク比 0.67(0.45〜1.00)、p=0.05。ここで向きが変わります。縁下の方が二次カリエスが少ないという傾向です。3時点のあいだの差そのものも p=0.08(I²=61.4%)で、無関係とは言い切れない揺れがあります。
著者らはこの15年での逆転に、2つの説明を並べています。
ひとつは、露出のタイミング。15年という期間には歯肉退縮がかなり進みます。縁下に置いたマージンでは、セメント質が露出するのが「歯肉が縁を越えて下がるまで」遅れる。曝露が遅れれば、カリエスの発生も遅れる。
もうひとつは、見つけにくさ。歯肉縁下の病変(根面カリエス)は、歯冠部のカリエスに比べて発見も治療も難しく、そのため過小報告されている可能性がある——著者ら自身がそう書いています。つまりこの0.67は、実際に少なかったのか、見えていなかっただけなのか、この研究からは分けられません。
④そもそも、比較の土台が薄い
もう一つ見ておきたいのが、対象の偏りです。支台歯レベルで報告された2,516本のうち、2,110本(83.9%)は縁と同位か縁上。縁下は406本(16.1%)だけでした。面レベルで測った7研究では比率が近く(縁上・同位51.0%/縁下49.0%)なりますが、それでも直接比較の研究数は増えません。
そしてカリエス自体が、どの群でもきわめて少なかった。支台歯レベルの推定カリエス発生率は100補綴年あたり対照群で0〜2.40、縁下群では0。面レベルでも対照0〜1.01、縁下0〜1.25です。
著者らはこの低さの理由を、治療計画が適切に設計・実施されていたこと、そして経過観察とメインテナンスが行き届いていたことに求めています。ほとんどが大学病院のコホートである点も効いている。そのうえでこう書きます——適切な口腔衛生とメインテナンスのプロトコルの下にある集団では、補綴マージンの位置は決定的(critical)ではないかもしれない。
⑤明日の臨床へ
1つ目。縁下を避ける理由を、虫歯以外に置き直す。著者らは、縁下配置を選ぶときに慎重に天秤にかけるべき事項を具体的に挙げています——歯質の削除量が増える/歯が弱くなる/術者の技術要求が高くなる/歯根の感覚(象牙質の露出)/歯髄露出の可能性があり歯の生活力を損なう/印象採得と治療計画が複雑になる/マージンの適合と歯の生活性の評価が難しくなる。虫歯のリスクが決め手にならないなら、判断の軸はこちら側に移ります。
2つ目。「予防のための拡大」はもう通用しない。論文はG. V. Blackの extension for prevention の原則がもはや当てはまらないことを前提に議論を組んでいます。削って予防するのではなく、削らずに管理する。
3つ目。縁下を選んだなら、メインテナンスの設計まで含めて選ぶ。この研究でカリエスが少なかったのは、適切なメインテナンス下のコホートだったからです。定期的なプロフェッショナルケアが前提条件であり、その前提が崩れれば同じ結果にはなりません。
今日のひとこと
22研究(補綴装置2,648・患者1,242名・平均追跡2〜11.4年)を集めたものの、縁下マージンと縁上・歯肉縁と同位のマージンを直接比較できた研究は2件だけでした。その2件を統合すると、二次カリエスのリスク比は5年までで1.25(95%CI 0.70〜2.22)、10年で1.22(0.81〜1.83)、いずれも有意差なし。ところが15年では0.67(0.45〜1.00、p=0.05)と、むしろ縁下の方が少ない傾向が出ています。ただしエビデンスの質はGRADEで「very low(非常に低い)」。著者らは、15年時点の逆転を歯肉退縮によってセメント質が露出する時期が縁下では遅れるためと説明する一方、縁下(根面)のカリエスは発見が難しく過小報告されている可能性にも触れています。結論は「短期〜中期(10年以内)では差を検出できず、決定的な証拠はない」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


