1問1答 論文 歯周病

「取り切れた」と判断した根面の、7割に歯石が残っていた

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

SRPを終え、エキスプローラーを走らせる。滑沢だ、取り切れた——そう判断します。ですがその判断は、どれくらい当たっているのか。ノースカロライナ大学のグループは、抜歯予定の101本を丁寧にSRPし、3人の歯周病専門医に評価させたあと、実際に抜いて実体顕微鏡で確かめました。数字は、決して気持ちのよいものではありません。

論文
The Effectiveness of Subgingival Scaling and Root Planing I. Clinical Detection of Residual Calculus
著者
Sherman PR, Hutchens LH Jr, Jewson LG, Moriarty JM, Greco GW, McFall WT Jr
掲載
Journal of Periodontology 1990;61(1):3-8
種類
臨床+抜去歯の実体顕微鏡観察(7名・101歯・461面)
PMID
2179512

エキスプローラーが「滑沢だ」と言ったとき

SRPを終えます。エキスプローラーを走らせる。引っかかりがない。取り切れた——そう記録して、次の部位へ移ります。

この判断は、歯周治療のすべての土台にあります。「終わった」と決めるのが私たちである以上、その判断が当たっていなければ、その後のすべて(再評価、外科への移行、メインテナンス間隔)が、ずれた地図の上に組み立てられることになります。

1990年、ノースカロライナ大学のグループが、この判断の精度を正面から測りました。方法は単純で、そして残酷です。抜歯予定の歯を丁寧にSRPし、3人の歯周病専門医に「きれいかどうか」を判定させ、そのあと実際に抜いて実体顕微鏡で見たのです。

先に結論: 顕微鏡では461面中266面(57.7%)に歯石が残っていた。臨床で「歯石あり」とされたのは18.8%だけ。実際に残っていた266面のうち206面(77.4%)が「きれいだ」と判定されていた

なぜこの検証が必要だったのか

歯肉縁下の器具操作の目的は、石灰化した沈着物を除去し、臨床的に滑沢な根面をつくること——当時からそう定義されてきました。そしてその達成度は、術者がエキスプローラー・プローブ・キュレットで確かめるという主観的な方法で評価されてきました。

しかしこの方法には、以前から疑問が呈されていました。Jonesら(1972)はSEMで観察した根面を「かなりの量の残存歯石」があったと報告し、Walker & Ash(1976)はさらに具体的な理由を挙げています——エキスプローラーの先端の太さが、器具でバニッシュされた残存歯石の縁の高さより大きい。段差が探針の直径以下なら、指先には何も伝わりません。

プローブを使えばなおさらです。先端径が大きくなるぶん、感度は下がります。「引っかからない」は「無い」ではない——理屈としては指摘されていましたが、その差が実際に何%なのかは、数えられていませんでした。

抜く前に判定し、抜いてから確かめる

対象は中等度〜進行した歯周炎の患者7名(35〜74歳)。それぞれ7〜19本が歯周的・補綴的な理由で抜歯適応と判断されていました。合計101歯・476面

SRPは局所麻酔下で、超音波スケーラー(Cavitron・P-10ユニバーサルチップ)とグレーシーキュレットを使用。時間制限は設けず、術者が納得するまで行いました。約1週間後に2回目のアポイントを設け、器具操作した面を評価して追加のSRPを実施しています。1歯あたりの総処置時間は平均9.4分(超音波3.6分+手用器具5.8分)。かなり丁寧な処置です。

判定は3人の訓練された歯周病専門医が、CP-8ペリオプローブとG-2歯肉縁下エキスプローラーで行います。「さらなる器具操作でより滑沢にできる」と判断した面を不満足(=歯石あり)としました。互いの記録は見られません。3人中2人以上が不満足と判定した面を、臨床的に陽性と定義しています。

3か月のメインテナンス期間(月1回の口腔衛生チェックと縁上清掃)を経て、最終評価の後に抜歯。歯肉縁を1/2ラウンドバーでマーキングし、10倍の実体顕微鏡で歯石の有無を確認、25倍でトレースしてコンピュータでポケット面積と歯石面積を算出しました。

結果——実際と判定は、重ならなかった

0 25% 50% 75% 残存歯石が認められた面の割合 (%) 57.7% 18.8% 63.3% 24% 47.8% 12.1% 全体 隣接面 頬舌側 濃い棒=実体顕微鏡での実際、淡い棒=プローブとエキスプローラーによる臨床判定
実体顕微鏡での実際と、臨床判定の乖離(%)

顕微鏡で残存歯石が確認されたのは461面中266面(57.7%)。臨床的に歯石ありとされたのは18.8%にとどまりました。

誤りの内訳が重要です。実際に歯石が残っていた266面のうち、206面(77.4%)が「きれいだ」と判定されていました(偽陰性)。逆に、顕微鏡で歯石がなかった195面のうち「歯石あり」とされたのは23面(11.8%)だけです(偽陽性)。

つまり誤りは一方向に偏っていました。「あると言えばだいたい当たる(≥2名が歯石ありとしたとき、正しかったのは72.3%)。しかし無いと言ったときは、半分以上外れる」。

残存量そのものは、決して大きくありません。1面あたりの歯石面積は平均3.1%(0〜31.9%)。0.1〜5.0%が132面、5.0〜10.0%が84面(33.2%)、10%を超えたのは37面(14.7%)でした。小さいからこそ、見つからないのです。

0 25% 50% 75% 残存歯石が認められた面の割合 (%) 53.1% 6.7% 50.2% 24.8% 65.9% 34.2% 1.0〜3.0mm 3.5〜6.0mm 6.5mm以上 初期ポケット深さ別。浅い部位ほど、実際と判定の隔たりが大きい
初期ポケット深さ別の乖離(%)。浅い部位ほど盲点になっている

そして最も意外なのがこれです。浅い部位(1.0〜3.0mm)で、実際と判定の隔たりが最大でした。顕微鏡では53.1%に歯石があったのに、臨床で指摘されたのは6.7%。深い部位(6.5mm以上)では65.9%対34.2%で、まだ半分は拾えています。

臨床の実感とは逆です。私たちは深いポケットを警戒し、浅い部位は「見えているから大丈夫」と考えます。ですが浅い部位でこそ、判定は甘くなっていました

そして、判定そのものが揺れていた

もうひとつの発見は、判定の再現性です。

SRPを行う前、3人の評価者の一致率は85.3〜89.3%と高いものでした。ところがSRP直後には51.4〜59.1%まで落ちます。κ値を見ると、SRP前が0.22〜0.37、SRP直後は0.047〜0.271——偶然の一致とほとんど変わらない水準です。

同じ人が1週間後にもう一度判定した場合(検者内一致)も、パーセント一致率は76.7〜89.5%でしたが、κ値は0.17〜0.50。統計学的に許容できる水準に達したのは3人中1人だけでした。

ここが要点: 未処置の根面なら、歯石の有無は誰が見てもほぼ一致する。だがSRP後の根面については、誰が判定するか・いつ判定するかで答えが変わる。バニッシュされた歯石と、器具操作でついた粗さの区別がつかないからである。

もっとも著者らは、「器具操作による粗さを歯石と誤認しているだけではないか」という懸念も検証しています。顕微鏡で歯石ゼロだった195面のうち、不満足とされたのは11.8%だけ——粗さによる誤認は主要な問題ではありませんでした。

明日の臨床へ

この研究は35年前のものですが、指先の感覚が主要な評価手段であることは今も変わりません。持ち帰れるものを3つ。

1つ目。「滑沢=清潔」を終着点にしない。滑沢感は、歯石が無いことの証拠にはなりません。この研究以降、歯周治療の評価軸が「歯石の有無」からBOPの消失・ポケットの減少といった生体の反応へ移っていったのは、まさにこの限界が示されたからです。著者ら自身、最後にこう書いています——歯肉縁下歯石の除去が重要なエンドポイントなら、その検出を助ける他の臨床パラメータを探すべきだと。

2つ目。浅い部位を素通りしない。53.1%対6.7%という数字は、私たちが「見えているから大丈夫」と思っている場所こそ、実は最も雑になっていることを示しています。再SRPの計画では、深い部位だけでなく浅いのにBOPが残る部位を拾うべきでしょう。

3つ目。隣接面と大臼歯を別枠で考える。隣接面は顕微鏡で63.3%(頬舌側47.8%)、大臼歯は臨床でも不満足率が最も高い(24.0%)。器具の届きにくさは、判定の当たりにくさと重なります。

そして——1歯あたり9.4分という時間を、専門医が、麻酔下で、2回に分けてかけた結果がこの数字であることを、忘れないでおきたいところです。「もっと丁寧にやれば取り切れる」という話ではありません。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。患者7名という規模で、部位数(461面)に対して被験者数が少ないことは著者ら自身が指摘しています(患者間で歯石の分布に差があるため、少数例では一致率の評価が不安定になる)。また対象は抜歯適応と判断された歯であり、保存可能な歯より条件が悪い可能性があります。器具も1990年当時のもので、現在の細径チップやパウダーメンテナンスは含まれていません。それでも、「臨床判定と実際を同一の面で突き合わせる」という設計は今も再現が難しく、偽陰性77.4%という数字は歯周治療の評価観を書き換えた一本として、いまも参照する価値があります。

今日のひとこと

顕微鏡で歯石が残っていたのは461面中266面(57.7%)。ところが臨床的に「歯石あり」と判定されたのは18.8%だけでした。実際に歯石が残っていた266面のうち206面(77.4%)が「きれいだ」と判定されています。逆の見落とし(偽陽性)は11.8%と少なく、つまり誤りは一方向——見落とす側に偏っていました。さらに検者間の一致率は、SRP前の85〜89%からSRP直後には51〜59%まで落ち、κ値は偶然と変わらない水準でした。

出典:Sherman PR, Hutchens LH Jr, Jewson LG, Moriarty JM, Greco GW, McFall WT Jr. The effectiveness of subgingival scaling and root planing. I. Clinical detection of residual calculus. J Periodontol 1990;61(1):3-8. PMID: 2179512
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。