ペリオ|Phase1 初期治療
「先生、抗生剤も出しておきますか」。歯周基本治療で一度は迷う場面です。効くという報告も、変わらないという報告もある。この問いに、ヨーロッパ歯周病学会のワークショップが158本の論文を集め、25本を選び、薬剤ごと・ポケットの深さごとに数字を積み上げました。得られたのは「深いところで、コンマ数ミリ」という、正直な答えでした。
①「抗生剤も、出しておきますか」
歯周基本治療の説明が終わったあと、患者さんや衛生士さんから、あるいは自分自身の頭の中から、この問いが出てきます。深いポケットが何本も残っている。SRPだけで足りるのか、それとも薬の力も借りるべきか。
教科書には「補助的に有効な場合がある」と書いてあります。ですが「何ミリ得をするのか」を、数字で言えるでしょうか。
2002年、ヨーロッパ歯周病学会の第4回ワークショップに向けて、Herreraらがこの問いにシステマティックレビューで答えました。彼らが集めたのは158本。そこから条件を満たした25本を選び、薬剤ごと・ポケットの深さごとに数字を積み上げています。
②なぜ「効く/効かない」が割れてきたのか
SRPは非外科治療の土台です。ですが著者らは冒頭でこう書いています。この治療の結果はしばしば予測がつかず、多くの要因に左右される——と。
プラークバイオフィルムのなかには、器具の届かない深部や根分岐部に潜むもの、さらに組織の内部に侵入する菌種がいます。機械的な清掃だけでは取りきれない相手がいる。だから「薬で叩く」という発想が出てくるわけです。
一方で、抗菌薬には耐性菌・副作用・服薬コンプライアンスというコストが必ずついてきます。効果が「あるかもしれない」程度なら、割に合いません。だから効果の大きさを、ミリ単位で知る必要があるのです。
③25本を、薬剤別・深さ別に積み上げる
組み入れの条件はこうです。①全身的に健康な慢性歯周炎(CP)または侵襲性歯周炎(AgP)の患者、②SRP+全身抗菌薬 対 SRP単独(またはプラセボ併用)の比較、③追跡6か月以上、④主要評価項目は臨床的アタッチメントレベル(CAL)の変化とポケット深さ(PPD)の変化。
MEDLINE・EMBASE・コクランに加え、主要誌のハンドサーチも行い、158本から25本が残りました。統合できたのは、平均差と標準誤差が揃っていたものだけです。
④数字は「深いポケットだけ」を指していた
この図の右端が、この論文のいちばん誠実なところです。浅い・中等度のポケットでは、薬を足しても数字が動かない。動くのは深いところだけでした。
さらに、全ポケットをならして見たときの上乗せは、CALで0.04〜0.3mm、深いポケットのPPDで0.05〜0.6mm。25本のうち多くが「test群のほうがよい」方向を向いてはいましたが、その幅は決して大きくありません。
⑤なぜ深いところでだけ効くのか
理屈は素直です。器具が届かない場所ほど、薬の出番が残るから。
浅いポケットは、SRPだけでほぼ取りきれます。取りきれているところに薬を足しても、上乗せの余地がない。一方、6mmを超えるポケットや根分岐部では、器具の到達性が落ち、バイオフィルムと組織内侵入菌が残ります。ここに全身投与された薬が歯肉溝滲出液を介して届く——これが上乗せの正体です。
著者らが結論で挙げた「より恩恵を受けやすい患者像」も、この理屈と一致します。深いポケットを持つ人、進行中/活動性の病変を持つ人、特定の細菌プロファイルを持つ人です。
⑥明日の臨床へ
この論文を臨床の言葉に直すと、こうなります。
順番も大切です。抗菌薬はSRPの代わりではなく、SRPの後押し。バイオフィルムを壊さずに薬だけ投じても、薬は届きません。まず徹底した機械的清掃、それでも残る深部に対して、期間を区切って併用する——これが25本の数字から読み取れる使い方です。
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
抗菌薬は、SRPの成績を底上げする万能薬ではありませんでした。深いポケットという限られた戦場でだけ、コンマ数ミリの援護をしてくれる存在です。
「出すか出さないか」で迷ったときは、まずポケットの深さを見る。この論文は、そういう順番を教えてくれます。
今日のひとこと
SRPに全身抗菌薬を足すと、深い歯周ポケット(6mm超)では上乗せが出ました。アモキシシリン+メトロニダゾールはアタッチメント獲得で0.45mm(p=0.001)、スピラマイシンはポケット減少で0.41mm(p=0.014)。ただし中等度ポケット(4〜6mm)では0.15mmで有意差なし。全ポケットをならすと上乗せは0.04〜0.3mmにすぎません。「全員に出す薬」ではなく「深いポケットが残る人に、狙って使う薬」だというのが、25本の数字が示した位置づけです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


