1問1答 論文 歯周病

SRPに全身抗菌薬を足すと、何ミリ得をするのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「先生、抗生剤も出しておきますか」。歯周基本治療で一度は迷う場面です。効くという報告も、変わらないという報告もある。この問いに、ヨーロッパ歯周病学会のワークショップが158本の論文を集め、25本を選び、薬剤ごと・ポケットの深さごとに数字を積み上げました。得られたのは「深いところで、コンマ数ミリ」という、正直な答えでした。

論文
A systematic review on the effect of systemic antimicrobials as an adjunct to scaling and root planing in periodontitis patients
著者
Herrera D, Sanz M, Jepsen S, Needleman I, Roldán S
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2002;29(Suppl 3):136-159
種類
システマティックレビュー/メタアナリシス
PMID
12787214

「抗生剤も、出しておきますか」

歯周基本治療の説明が終わったあと、患者さんや衛生士さんから、あるいは自分自身の頭の中から、この問いが出てきます。深いポケットが何本も残っている。SRPだけで足りるのか、それとも薬の力も借りるべきか。

教科書には「補助的に有効な場合がある」と書いてあります。ですが「何ミリ得をするのか」を、数字で言えるでしょうか。

2002年、ヨーロッパ歯周病学会の第4回ワークショップに向けて、Herreraらがこの問いにシステマティックレビューで答えました。彼らが集めたのは158本。そこから条件を満たした25本を選び、薬剤ごと・ポケットの深さごとに数字を積み上げています。

先に結論: 上乗せが出たのは深いポケット(6mm超)だけ。アモキシシリン+メトロニダゾールでアタッチメント獲得0.45mm、スピラマイシンでポケット減少0.41mm。中等度(4〜6mm)は0.15mmで有意差なしだった。

なぜ「効く/効かない」が割れてきたのか

SRPは非外科治療の土台です。ですが著者らは冒頭でこう書いています。この治療の結果はしばしば予測がつかず、多くの要因に左右される——と。

プラークバイオフィルムのなかには、器具の届かない深部や根分岐部に潜むもの、さらに組織の内部に侵入する菌種がいます。機械的な清掃だけでは取りきれない相手がいる。だから「薬で叩く」という発想が出てくるわけです。

一方で、抗菌薬には耐性菌・副作用・服薬コンプライアンスというコストが必ずついてきます。効果が「あるかもしれない」程度なら、割に合いません。だから効果の大きさを、ミリ単位で知る必要があるのです。

25本を、薬剤別・深さ別に積み上げる

組み入れの条件はこうです。①全身的に健康な慢性歯周炎(CP)または侵襲性歯周炎(AgP)の患者、②SRP+全身抗菌薬 対 SRP単独(またはプラセボ併用)の比較、③追跡6か月以上、④主要評価項目は臨床的アタッチメントレベル(CAL)の変化とポケット深さ(PPD)の変化

MEDLINE・EMBASE・コクランに加え、主要誌のハンドサーチも行い、158本から25本が残りました。統合できたのは、平均差と標準誤差が揃っていたものだけです。

質の評価: 著者らは選ばれた25本の質も採点しています。結果は厳しいものでした。ランダム化の方法と割付の隠蔽はほとんど報告されておらず、盲検化の定義も明確でないことが多かった。この時代の歯周治療の臨床試験が抱えていた共通の弱点です。

数字は「深いポケットだけ」を指していた

SRPに全身抗菌薬を足したときの上乗せ量(mm)

0.6 0.3 0

0.551 メトロニダゾール CAL・6mm超 p=0.057

0.450 アモキシ+メトロ CAL・6mm超 p=0.001

0.407 スピラマイシン PPD・6mm超 p=0.014

0.154 アモキシ+メトロ CAL・4〜6mm p=0.354

統合された上乗せ量(SRP単独との差)。ティールは深いポケット(6mm超)、オレンジは中等度ポケット(4〜6mm)。同じ薬でも、深さが変わると効果が消える。アモキシシリン+メトロニダゾールは6mm超で0.450mm(95%信頼区間 0.192〜0.709)と明確だったが、4〜6mmでは0.154mm(同 −0.172〜0.480)で有意差はつかなかった。

この図の右端が、この論文のいちばん誠実なところです。浅い・中等度のポケットでは、薬を足しても数字が動かない。動くのは深いところだけでした。

さらに、全ポケットをならして見たときの上乗せは、CALで0.04〜0.3mm、深いポケットのPPDで0.05〜0.6mm。25本のうち多くが「test群のほうがよい」方向を向いてはいましたが、その幅は決して大きくありません。

なぜ深いところでだけ効くのか

理屈は素直です。器具が届かない場所ほど、薬の出番が残るから。

浅いポケットは、SRPだけでほぼ取りきれます。取りきれているところに薬を足しても、上乗せの余地がない。一方、6mmを超えるポケットや根分岐部では、器具の到達性が落ち、バイオフィルムと組織内侵入菌が残ります。ここに全身投与された薬が歯肉溝滲出液を介して届く——これが上乗せの正体です。

著者らが結論で挙げた「より恩恵を受けやすい患者像」も、この理屈と一致します。深いポケットを持つ人、進行中/活動性の病変を持つ人、特定の細菌プロファイルを持つ人です。

明日の臨床へ

この論文を臨床の言葉に直すと、こうなります。

使いどころ: 全員に出す薬ではなく、再評価で深いポケットが残った人に狙って使う薬。しかも上乗せはコンマ数ミリ。耐性菌・副作用・服薬コンプライアンスというコストと天秤にかける価値があるのは、機械的清掃をやりきってなお深部が残る場面に限られる。

順番も大切です。抗菌薬はSRPの代わりではなく、SRPの後押し。バイオフィルムを壊さずに薬だけ投じても、薬は届きません。まず徹底した機械的清掃、それでも残る深部に対して、期間を区切って併用する——これが25本の数字から読み取れる使い方です。

ここだけ、冷静に補助線

組み入れられた研究の質にはばらつきがあり、ランダム化・割付隠蔽・盲検化の報告が乏しいものが多くありました。また、統合できたのは平均差と標準誤差が揃った一部だけで、メタアナリシスは限られた薬剤・限られた比較でしか実施できていません。1本あたりの症例数も小さく、スピラマイシンの解析は2本、アモキシ+メトロも2本の統合です。「深いポケットで上乗せが出た」という方向性は信頼できますが、その正確な大きさは、まだ幅を持って見るのが妥当でしょう。とはいえ、ばらばらだった報告を薬剤別・深さ別に整理して「どこで効くのか」を見せた功績は大きく、その後の全身抗菌薬の使い方を方向づけた一本です。

今日のひとこと

抗菌薬は、SRPの成績を底上げする万能薬ではありませんでした。深いポケットという限られた戦場でだけ、コンマ数ミリの援護をしてくれる存在です。

「出すか出さないか」で迷ったときは、まずポケットの深さを見る。この論文は、そういう順番を教えてくれます。

今日のひとこと

SRPに全身抗菌薬を足すと、深い歯周ポケット(6mm超)では上乗せが出ました。アモキシシリン+メトロニダゾールはアタッチメント獲得で0.45mm(p=0.001)、スピラマイシンはポケット減少で0.41mm(p=0.014)。ただし中等度ポケット(4〜6mm)では0.15mmで有意差なし。全ポケットをならすと上乗せは0.04〜0.3mmにすぎません。「全員に出す薬」ではなく「深いポケットが残る人に、狙って使う薬」だというのが、25本の数字が示した位置づけです。

出典:Herrera D, Sanz M, Jepsen S, Needleman I, Roldán S. A systematic review on the effect of systemic antimicrobials as an adjunct to scaling and root planing in periodontitis patients. J Clin Periodontol 2002;29(Suppl 3):136-159. PMID: 12787214
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。