1問1答 論文 歯周病

すり減った歯列、原因をどう突き止めるか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

咬耗の強い患者さんを前にして、「ブラキシズムですね」で止まっていないでしょうか。摩耗の原因は機械的なものと化学的なものがあり、しかも多くは複合しています。テキサス大学の補綴科が、摩耗の「性状」→「部位」→「症状と問診」という3段階の決定木を示しました。挙上する前に、まず犯人を特定する話です。

論文
Analyzing the Etiology of an Extremely Worn Dentition
著者
Verrett RG
掲載
Journal of Prosthodontics 2001;10(4):224-233
種類
ナラティブ総説(診断アルゴリズムの提案)
PMID
11781971

「ブラキシズムですね」で止まっていないか

広範囲にすり減った歯列。咬合高径も落ちていそうな顔貌。補綴で立て直す前に、私たちはひとつ答えを出さなければなりません。なぜ、ここまですり減ったのか

原因を特定しないまま形態だけ回復すると、同じことがもう一度起こります。それも、今度は高価な補綴物の上で。

ところが実際には、重度の摩耗は多くが多因子性です。テキサス大学の補綴科は、この混沌を整理する順序を示しました。性状 → 部位 → 症状と問診という3段の決定木です。

先に結論: 最初の分岐は「機械的か、化学的か」。ファセットの稜線が鋭い/修復物が歯質と同じ速度で摩耗無症状なら機械的。辺縁の丸いカッピング/対合歯と適合しない/修復物が島のように浮き上がるしみるなら化学的。ここを間違えると、その先の推論がすべてずれる。

用語を、原因で整理し直す

表面の喪失は4つに分けられます。用語は原因で定義されている点が肝心です。

  • 咬耗(attrition):咀嚼やパラファンクションによる機械的摩耗。歯どうしが接触する面に限られる
  • 摩耗(abrasion):歯どうしの接触以外の異常な機械的過程による喪失。
  • 侵蝕(erosion):細菌が関与しない化学的過程による進行性の喪失。
  • アブフラクション(abfraction):歯の撓みに起因するとされる、歯頸部の楔状欠損。理論としては議論が続いており、この総説では扱われていません。

これらは3つの原因カテゴリー——機械的(咬耗+摩耗)化学的(侵蝕)、そして提案されている生体力学的——にまとまります。

そして重要な前提がひとつ。部位だけでは原因は特定できません。多くの報告が、表面喪失の原因が多因子性であることを確認しています。部位は、性状で当たりをつけたあとに使う第2の手がかりです。

第1段:性状で見分ける

最初の分岐:機械的摩耗か、化学的侵蝕か

機械的摩耗 ・ファセットの稜線が鋭い ・修復物が隣接歯質と同じ速度で摩耗 ・多くは無症状 ・パラファンクションの既往がある ・ファセットが咬合器上の模型で合致する 2つ以上の動く面のあいだで起きる

化学的侵蝕 ・咬合面のカッピング・クレーター ・欠損の辺縁が丸い ・修復物が島のように浮き上がる ・着色は少ないがしみやすい ・対合歯の面と適合しない 丸いカッピングは侵蝕に特徴的な所見

原著Fig.2・Fig.3の記述に基づく整理。咬合器に付着した模型でファセットが合致するかどうかは、この段階の決め手のひとつ。侵蝕によるカッピングは、対合面と合致しません。

第2段:機械的なら、部位でパターンを読む

機械的だと決まったら、次はどこがすり減っているかです。4つのパターンが挙げられています。

パターン1|前歯の摩耗が臼歯より強い。 臼歯部の支持が不十分・不安定なことが原因として挙げられます。臼歯の喪失は外傷性の前方咬合を生む主要因と報告されており、臼歯部の早期接触も前歯の機能量を増やします。

パターン2|後方から前方へ、進むほど摩耗が強くなる。 慢性のブラキシズムに典型的な像です。確定診断は模型を手で咬合させ、ファセットが一致するかを見ること。あわせて舌側縁の圧痕・頬粘膜の咬傷・ポーセレン修復物の破折が支持所見になります。エナメル質が穿孔すると、咬合面にカッピングが生じることもあります(この時点では化学的な像と混同しやすい)。

パターン3|犬歯・小臼歯の唇頬側面がすり減る。 過度のブラッシングによる摩耗です。解剖学的な細部が失われ、「サンドブラストをかけたような」外観を呈します。診断は簡単で、患者さんに実際に磨いてみせてもらう。摩耗の部位とブラッシングの動きが一致すれば確定です。喪失量は、技術・時間・歯ブラシの硬さ・歯磨剤の研磨性に左右されます。

パターン4|部位がばらばらで、咬合面と切縁が中心。 異物によるパラファンクションを疑います。報告されているものは、パイプの吸い口、ピン、針、ヘアピン、クリップ、ひまわりの種、缶飲料。職業上の要請・習癖・ストレスが背景にあります。

第2段:化学的なら、酸の出どころを探す

侵蝕は近年その重要性が増しています。摩耗の評価のために紹介された100名の患者を調べた研究では、89%で侵蝕が関与因子と判定されました。英国の1993年の小児歯科健康調査では、5歳児の52%に明らかな侵蝕の所見が見られています。

ここでも部位がパターンを分けます。

前歯の喪失が臼歯より強いとき——上顎前歯の口蓋側が主役なら、まず慢性の嘔吐・胃食道逆流を疑います。胃内容物の平均pHは3.8。後方から前方へ進むほど侵蝕が強くなり、口蓋側面は非常に平滑になります。上顎大臼歯・小臼歯の舌側にシャンファー状の欠損が出ることもあります。下顎歯は舌と頬粘膜に守られて、影響が最小——この左右差ならぬ上下差が、決定的な手がかりです。

GERDは、げっぷ・口中の酸味・起床時の胃痛・胸やけ・知覚過敏で示唆されますが、自覚症状がまったくない患者も多く、確定には24時間pHモニタリングが要ることもあります。

アルコール依存も見逃せません。胃炎に伴う慢性の嘔吐・逆流を生み、西欧諸国では男性の10%にのぼるとも推定されています。慢性アルコール依存で入院した37名を調べた報告では、92%に化学的侵蝕が認められました。しかも、まとめ飲みをする人より日常的に飲む人のほうが重症でした。

一方、柑橘類をしゃぶる習慣は、上顎前歯の唇側面に侵蝕を作ります。臼歯はほぼ無傷のまま、前歯から臼歯への明瞭な移行が観察されます。

臼歯の喪失が前歯より強いときは、食事由来を考えます。106名を調べた研究では、柑橘類を1日2回超、またはソフトドリンクを1日1回以上摂る人で有意にリスクが上がりました。18種の酸性飲料を調べた研究では、エナメル質の侵蝕はpHの低下とともに対数的に増加します。ただし炭酸ミネラルウォーターは注いだ時点でpHが0.5近く上昇し、侵蝕作用はごく小さいとされました。

そして特徴的なのが、炭酸飲料を口に含んで転がす習慣。この場合、喪失が最大になるのは下顎第一大臼歯と第二小臼歯の領域です。頬粘膜と舌縁が液の広がりを制限するためで、部位そのものが習癖を語ります。

明日の臨床へ

この総説を1枚の手順に畳むと、こうなります。

3段階の決定木

STEP 1 性状を見る 機械的か 化学的か

STEP 2 部位を見る 前歯 臼歯 唇頬側 ばらばら

STEP 3 症状と問診 随伴所見 habits 食事 全身

あわせて集めておくもの ・過去のバイトウィング等のエックス線写真 → 喪失の進行速度がわかる ・過去に採得した模型 → 進行の有無を客観的に比べられる ・顔貌所見(薄い口唇・口角の下垂)

過去のエックス線写真と模型は、「いま進行中なのか、すでに止まっているのか」を判定する数少ない客観的資料になる。初診時に古い資料の有無を必ず尋ねておきたい。

そして、忘れてはならない第4の可能性があります。遺伝性の形成異常です。エナメル質形成不全症はエナメル質を薄く脆くし、化学的侵蝕と機械的摩耗の両方に対する抵抗性を落とします。象牙質形成不全症はエナメル象牙境の結合が弱く、早期の咬耗と急速な摩耗、う蝕感受性の亢進を招きます。若年で不釣り合いに強い摩耗を見たら、この線も考える

問診で必ず押さえる4点: ①全身の既往(逆流・摂食障害・飲酒)②食習慣(柑橘・炭酸飲料の頻度と摂り方)③職業上の要因・習癖 ④ブラッシングの実演。摩耗のリスクには男性・咬合力の強さ・唾液の緩衝能の低さ・分泌量の少なさが関連するという報告もある。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: これはナラティブ総説であり、系統的レビューではありません。文献の選択基準は示されておらず、提示される決定木も著者の臨床経験と引用文献に基づく提案です。パターンと原因の対応づけには前向き研究による検証が伴っておらず、感度・特異度は分かりません。また2001年の報告で、アブフラクションの位置づけや侵蝕の疫学はその後も更新されています。それでも、「部位だけでは原因は決まらない。まず性状を見よ」という順序の提案は臨床的に堅牢で、摩耗症例の初診で何を観察し何を聞くかというチェックリストとしての価値は今も十分にあります。

今日のひとこと

摩耗の原因究明は、①機械的か化学的かを性状で見分ける → ②どこがすり減っているかを見る → ③随伴症状と問診で habits を詰める、という順で進みます。機械的摩耗はファセットの稜線が鋭く、修復物が歯質と同じ速度で摩耗し、無症状。化学的侵蝕は辺縁が丸いカッピングで、対合歯とは適合せず、修復物が島のように浮き上がり、しみやすい。この見分けが最初の分岐点です。

出典:Verrett RG. Analyzing the etiology of an extremely worn dentition. J Prosthodont 2001;10(4):224-233. PMID: 11781971(doi: 10.1053/jpro.2001.28264)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。