1問1答 論文 歯周病

殺菌成分入りの歯磨剤を2年使ったら

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「もっと効く歯磨剤はありませんか」。患者さんからも、スタッフからも、時々こう聞かれます。プラーク抑制効果が確実に証明されている薬剤といえば、クロルヘキシジン。それを歯磨剤に入れて2年間使ったら、何が起きるのか。1975年、73人の歯学部生を対象に行われた二重盲検試験の答えは、少し意外なものでした。

論文
Effect of 2-years’ use of chlorhexidine-containing dentifrices on plaque, gingivitis, and caries
著者
Johansen JR, Gjermo P, Eriksen HM
掲載
Scandinavian Journal of Dental Research 1975;83(5):288-292
種類
二重盲検ランダム化比較試験(2年間)
PMID
1101363

「もっと効く歯磨剤はありませんか」

メインテナンスで来院された患者さん。磨けてはいるが、あと一歩。そんなとき「何かいい歯磨剤はないですか」と聞かれることがあります。歯周病の主原因がプラークである以上、化学的に細菌を抑える成分を足せば、機械的清掃の足りない分を補えるはずだ——この発想は、いまも歯磨剤の売り場を支えています。

その筆頭がクロルヘキシジンです。洗口液としてのプラーク抑制効果は、1970年代の時点ですでに実験的歯肉炎モデルで繰り返し確認されていました。ならば毎日必ず使う歯磨剤に入れてしまえばいい。誰もがそう考えます。

オスロ大学の3人が、それを2年かけて確かめました。

先に結論: プラーク指数も歯肉炎指数も、クロルヘキシジン配合とプラセボで統計学的な差はつかなかった。確実に増えたのは歯と前歯部修復物の着色だけ。ただし対象はもともとよく磨けている歯学部生だった。

2年間、73人の学生で

対象は19〜23歳の歯学部1年生73名。全員をランダムに5群へ振り分けました。

使った歯磨剤は2種類のベースです。ひとつは通常の研磨剤入りで、これにクロルヘキシジン・ジグルコネートを1%(L-10群)と0.4%(L-04群)加えたもの、そして無添加のプラセボ(L-placebo群)。もうひとつは研磨剤を含まないベースで、0.4%配合(F-04群)とプラセボ(F-placebo群)。クロルヘキシジンの抗菌活性を邪魔することが知られている硫酸塩・リン酸塩は、あらかじめ処方から外してあります。

チューブはすべてコード化され、被験者も検査者も中身を知らない二重盲検。歯ブラシと歯磨剤は希望に応じて配布し、使用本数を協力度の指標として記録しました。ブラッシング習慣には介入せず、「1回あたり歯ブラシ1本分(約1g)を、1日2回」とだけ伝えています。

評価は開始時に加えて6・12・18・24か月。プラーク指数(PlI)と歯肉炎指数(GI)は訓練・較正済みの歯科衛生士2名が、う蝕の診査は著者の1名が担当しました。う蝕診査のたびに全員へ徹底したプロフェッショナルクリーニングを行い、着色から群がばれることを防いでいます。この一手間が、この研究の質を支えています。

プラークも歯肉炎も、重なった

2年間で脱落したのは13名、60名が完走しました。脱落理由は留年や退学が中心で、着色を理由に離脱したのは1%配合群とプラセボ群から各1名ずつ。苦味を理由にした離脱は、無研磨剤プラセボ群の1名だけでした。

肝心の結果です。

プラーク指数(PlI)は、どちらの群でも同じだけ下がった 1.0 0.5 0

約0.95 約1/3へ クロルヘキシジン配合

約0.95 約1/3へ プラセボ

開始時 24か月後 群間差:いずれの評価時点でも統計学的有意差なし

開始時の平均PlIは各群0.91〜0.98。2年間で活性群・プラセボ群ともに約3分の1まで低下したが、どの評価時点でも群間に統計学的有意差は認められなかった。図は本文記載の値からの作図。

歯肉炎指数(GI)はさらに動きません。2年を通じてほぼ一定のまま推移し、こちらも群間差なし。研磨剤入りのクロルヘキシジン群(L-04・L-10)でわずかに低いスコアが観察されたと著者は書いていますが、統計学的な差には至りませんでした

う蝕にだけ、影が見えた

唯一、傾向らしきものが見えたのがう蝕です。1%配合群(L-10)は、すべての評価時点で他のどの群よりう蝕指数が低い値を示しました。ただし著者自身が「差は小さい」と断っています。

1人あたりのう蝕病変数(2年間・平滑面と隣接面) 7 4 0

約2.7 約6.3 1%配合

約4.3 約5.0 0.4%配合

約4.0 約5.4 プラセボ

進行した病変 停止・再石灰化した病変

1%配合群では進行した病変が少なく、停止・再石灰化した病変が多いという向きが見えた。ただし群間差は小さく、この群は開始時点でもっともう蝕指数が低かった(もともとう蝕活動性が低い集団だった可能性がある)と著者は但し書きを付けている。数値は原著の図から読み取った概数。

著者らはこれを、プラークのではなく質(病原性)の変化ではないかと考察しています。長期使用で Streptococcus mutans がほぼ消失するという当時の報告があったためです。

なぜ、差がつかなかったのか

ここが本題です。著者自身が結論部でこう書いています。被験者は高度に選ばれた集団だったと。

若い歯学部生。口腔衛生は良好、歯肉は健康、う蝕活動性も低い。しかも歯学部という環境と、研究に参加しているという意識そのものによって、開始から6か月でプラーク指数がさらに下がっています。そして12か月目に臨床実習が始まると、全群でもう一段下がった。

つまりこの2年間、被験者はひたすら機械的清掃が上手になり続けていたのです。すでに床がきれいな部屋に、強力な洗剤を足しても、きれいさは変わりません。クロルヘキシジンのプラーク抑制効果は、優秀なブラッシングに覆い隠されてしまった——これが著者らの読みです。

歯肉炎指数が動かなかったのも、同じ理由に加えて指数側の問題があります。GIのスコア1は「ごく軽度の炎症」で、強めのブラッシングでも生じうる。この集団では、そもそも臨床的な歯肉炎を示すスコアがほとんど出ていませんでした。差を検出する余地が、最初からなかったということです。

明日の臨床へ

この論文が教えるのは「クロルヘキシジンは無意味だ」ではありません。薬剤の上乗せ効果は、機械的清掃が不十分な人にしか現れない、ということです。

裏を返せば、化学的プラークコントロールを持ち出すべき相手ははっきりします。著者らも最後に、心身に障害があってセルフケアが難しい方や、う蝕活動性が高く口腔衛生状態の悪い集団への応用を挙げています。50年前の提案ですが、今の要介護高齢者や周術期口腔管理を思えば、そのまま通用する視点です。

もうひとつ、安全性の情報も価値があります。2年間の使用で全身的な副作用は認められず、ウイルス感染や消化器症状の頻度も群間で差がありませんでした。試験終了直後の調査でも、クロルヘキシジン耐性のプラーク細菌は生じていません。副作用は着色に集約され、その程度は配合濃度と研磨剤の有無に相関しました。

使い分けの目安: よく磨けている人に薬剤を足しても、得られるのは着色だけ。逆に機械的清掃が届かない状況——セルフケア困難・術後・急性期——でこそ、クロルヘキシジンは本領を発揮する。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 対象は73名の若い歯学部生で、口腔衛生・歯肉の状態・う蝕活動性のすべてが良好な集団でした。この結果を歯周炎患者にそのまま外挿することはできません。う蝕の傾向も統計学的検定を経た主要評価項目ではなく、1%配合群は開始時点でもっともう蝕が少なかったという交絡も残ります。また1975年の報告であり、現在の歯磨剤の基剤・界面活性剤の処方とは前提が異なる点にも注意が要ります。それでも「二重盲検で2年」という設計は今なお貴重で、薬剤の効果は対象集団によって見え方が変わるという原則を、これほど素直に示した研究はそう多くありません。

今日のひとこと

クロルヘキシジンを歯磨剤に配合しても、プラーク指数・歯肉炎指数のどちらも、プラセボ歯磨剤と統計学的な差は出ませんでした。残ったのは歯と前歯部修復物の着色だけ。ただしこの結果は「薬が効かない」ことの証明ではなく、「もともとよく磨けている人に、薬の上乗せは見えない」ことの証明です。相手を選べば、薬剤は今も強い武器になります。

出典:Johansen JR, Gjermo P, Eriksen HM. Effect of 2-years’ use of chlorhexidine-containing dentifrices on plaque, gingivitis, and caries. Scand J Dent Res 1975;83(5):288-292. PMID: 1101363
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。