1問1答 論文 歯周病

インプラント周囲炎は、どんな人・どんな口で起きやすいのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

インプラントにも「歯ぐきの病気」があります。粘膜炎から周囲炎へ、なぜ進むのか。そして何が危険因子なのか。2017年の World Workshop でこのテーマを整理した総説が、強いエビデンスのある3つの危険因子を明確に示しました。それは、天然歯の歯周病とほとんど同じ顔ぶれでした。

論文
Peri-implantitis
著者
Schwarz F, Derks J, Monje A, Wang HL
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2018;45(Suppl 20):S246-S266
種類
ナラティブレビュー(2017 World Workshop)
PMID
29926484

そのインプラント、10年後も「歯ぐき」は健康ですか

上手く入ったインプラント。骨とも結合し、噛めている。患者さんも喜んでいる。

けれど数年後、リコールでプローブを入れると出血する。ポケットが深くなり、X線で骨がわずかに下がっている。インプラント周囲炎の始まりです。

天然歯に歯周病があるように、インプラントにも「歯ぐきの病気」があります。粘膜だけの炎症がインプラント周囲粘膜炎、そこに支持骨の喪失が加わったものがインプラント周囲炎。名前は知っていても、「どんな人・どんな口で起きやすいのか」を整理して言えるでしょうか。

2017年、歯周病とインプラント疾患の世界的な定義を刷新した「World Workshop」で、Schwarz らがこのテーマの総説をまとめました。インプラント周囲炎とは何か、どう進むのか、そして何が危険因子なのか。埋入する前・した後の私たちの判断に、そのまま効いてくる内容です。

先に結論: 強いエビデンスのある危険因子は3つ——歯周炎の既往・不良なプラークコントロール・治療後のメインテナンス未受診。埋入前のリスク評価と、埋入後に通ってもらう仕組みが要になります。

粘膜炎から周囲炎へ——どう進むのか

まず定義を整理します。インプラント周囲粘膜炎は、インプラント周囲の軟組織に起きる炎症で、骨はまだ失われていない状態。インプラント周囲炎は、そこに支持骨の進行性の喪失が加わった状態です。天然歯でいう歯肉炎と歯周炎の関係に近い構図です。

問題は、粘膜炎から周囲炎へ移行する仕組みが、まだ十分に解明されていないという点です。すべての粘膜炎が周囲炎に進むわけではありません。ただ、周囲炎の前段階として粘膜炎があること、そして軟組織の炎症を伴わずに骨だけが進行性に失われることは稀だということは、この総説が示しています。炎症が入口になっている、という理解です。

進み方にも特徴があります。周囲炎の骨吸収は直線的ではなく、非直線的で加速しやすい。そして経過の早い時期にも発症し得る。「何年も経ってからゆっくり」ではなく、比較的早く始まり、進むときは一気に進むことがある、というのが実態に近いのです。

病理の面でも、周囲炎の炎症病巣は天然歯の歯周炎より大きいことが報告されています。外科的に開けてみると、欠損は全周性(インプラントを取り囲む形)を呈することが多い。深いポケットと出血・排膿を伴います。

この総説が整理したこと

Schwarz らのこの論文は、新しい実験を行ったものではありません。2017年の World Workshop に向けて、それまでのエビデンスを集めて「インプラント周囲炎の定義・特徴・危険因子」を体系的に整理したナラティブレビューです。

整理の軸は大きく3つ。(1)インプラント周囲炎とは何か(定義と病理・臨床像)、(2)どう発症し進行するか(自然経過)、そして(3)何が危険因子かです。とりわけ危険因子は、エビデンスの強さで「強い」ものと「限定的」なものに仕分けした点が実務的に効きます。

「なんとなくリスクが高そう」ではなく、どの因子が確からしく、どの因子はまだ結論を保留すべきか。この仕分けを頭に入れておくと、患者さんへの説明と、自分の臨床判断の優先順位が変わります。

危険因子——強い3つと、限定的な3つ

この総説の中心が、危険因子の仕分けです。図で全体像を掴んでください。

強いエビデンス 確かな危険因子 限定的なエビデンス 関連はあるが結論保留

インプラント 周囲炎

歯周炎の既往 不良なプラーク コントロール メインテナンス 未受診

余剰の粘膜下 セメント 角化粘膜の不足 清掃が難しい インプラント位置

図:インプラント周囲炎の危険因子。左のコーラルが強いエビデンスのある3因子、右のグレーが関連は指摘されるが結論が限定的な3因子。喫煙・糖尿病は結論を出すには証拠が不十分と位置づけられた。

強いエビデンスのある3因子は、慢性歯周炎の既往・不良なプラークコントロール・インプラント治療後の定期メインテナンス未受診。並べてみると、どれも天然歯の歯周病とまったく同じ顔ぶれです。細菌性プラークが炎症を駆動し、清掃と定期管理がそれを抑える——この構図がインプラントでも成り立っています。

限定的なエビデンスの因子は、余剰の粘膜下セメント・角化粘膜の不足・清掃が難しいインプラント位置。いずれも「関連しそう」という報告はあるものの、危険因子と断定するには証拠がまだ足りない、という位置づけです。臨床の実感としては無視できませんが、エビデンスの重みは上の3つとは別、と分けて考えます。

よく話題になる喫煙糖尿病について、この総説は「結論を出すにはエビデンスが不十分」としています。天然歯の歯周炎では明確なリスクですが、インプラント周囲炎に関しては当時の証拠が一致しておらず、白黒つけられなかった、という慎重な判断です。リスクとして意識はしつつ、「確定」とは言い切らない——この温度感が大切です。

明日の臨床へ——埋入前のふるい分けと、埋入後の仕組み

危険因子が「天然歯の歯周病と同じ顔ぶれ」だとわかると、やることはシンプルになります。

1. 埋入する前に、歯周状態を評価する。 最大の危険因子は歯周炎の既往です。活動性の歯周炎を残したまま埋入すれば、その細菌環境がインプラントにも及びます。埋入は「歯周治療が終わってから」が原則。歯周炎の既往がある患者さんは、埋入後もハイリスク群として扱う——ここが出発点です。

2. 清掃できる状態で入れる。 不良なプラークコントロールが危険因子である以上、患者さん自身が清掃できるかどうかは埋入設計の一部です。清掃が難しい位置・角度・補綴形態は、それだけでリスクを積み上げます。セメント固定なら余剰セメントを残さない配慮も要ります(限定的とはいえ、取り返しがつきにくい因子です)。

3. 「入れて終わり」にしない。 メインテナンス未受診が独立した強い危険因子だという事実は重い。天然歯の歯周治療とまったく同じで、定期的に通ってもらう仕組みまで含めてインプラント治療です。埋入を勧める段階で、「一生の定期管理がセットです」と伝えておく。ここを曖昧にしたまま埋入すると、危険因子を一つ抱えたまま走り出すことになります。

そして周囲炎は早期にも起こり、進むときは加速する。だからこそ、粘膜炎の段階(骨が失われる前)で気づいて止めることに意味があります。リコールでのプロービングと出血のチェックは、その最前線です。

今日から使える一言: インプラント周囲炎の三大リスクは「歯周病の既往がある人・清掃できない口・通わない人」。埋入前のリスク評価と、埋入後のメインテナンスが要。天然歯の歯周治療と、やることは同じ。

ここだけ、冷静に補助線

この論文は新しいデータを出した研究ではなく、2017年時点のエビデンスを整理したナラティブレビュー(総説)です。したがって示されているのは「その時点で確からしいと言えること」であり、危険因子の強弱は今後の研究で更新され得ます(実際、喫煙・糖尿病の位置づけはその後も議論が続いています)。また「強いエビデンス」といっても、多くは観察研究に基づく関連であり、介入で危険因子を取り除けば周囲炎がどれだけ減るかを直接証明したものではありません。とはいえ、この総説の価値は「何を優先して見ればいいか」の地図をくれることにあります。ぼくがいちばん実務的だと思うのは、危険因子が天然歯の歯周病とほぼ同じだと明示された点です。特別な新しい話ではなく、歯周病の管理ができている医院は、インプラント周囲炎の管理もできる——そう読み替えられる。埋入という「点」ではなく、歯周管理という「線」の延長でインプラントを診る。その姿勢を後押ししてくれる一本です。

今日のひとこと

強いエビデンスのある危険因子は、慢性歯周炎の既往・不良なプラークコントロール・インプラント治療後の定期メインテナンス未受診の3つ。喫煙と糖尿病は結論を出すには証拠が不十分でした。埋入前のリスク評価と、埋入後に通ってもらう仕組みが、そのまま予防になります。

出典:Schwarz F, Derks J, Monje A, Wang HL. Peri-implantitis. J Clin Periodontol 2018;45(Suppl 20):S246-S266. PMID: 29926484(doi: 10.1111/jcpe.12954)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。