ペリオ|歯周病の診断・予後評価
根の横に長く伸びた黒い影。深いポケット。動揺。この所見の前で、私たちは毎回同じ迷いに立ちます。抜髄すべきか、歯周治療で追うべきか。1972年に Simon・Glick・Frank が示した5分類は、この迷いを「原因はどちらか」という一つの問いに畳み直しました。半世紀を経て2013年に全文再掲された、歯内歯周病変の原典です。
①この黒い影の前で、毎回同じ迷いに立つ
下顎大臼歯。近心根に沿って根尖まで伸びる透過像。プロービングすると深く入る。患者さんは「ときどき腫れる」と言う。
さて、どうするか。抜髄して根管治療から入るか、それともスケーリング・ルートプレーニングで様子を見るか。この判断を間違えると、半年後に「治っていない」という顔をした患者さんと向き合うことになります。
1972年、Simon・Glick・Frank の3人はこの迷いに対して、驚くほどシンプルな整理を提示しました。問うべきは「原因はどちらか」と「もう一方が後から加わっているか」の2つだけ。この原典は半世紀のあいだ引用され続け、著者の追悼にあわせて2013年に Journal of Endodontics へ全文が再掲されました。いまも生きている論文です。
②なぜ混乱が起きるのか——同じ像が、違う原因から生まれる
著者らが冒頭で述べているのは、この領域の混乱の理由です。歯周組織と歯髄の関係が意識されるようになるほど、かえって議論と混乱が増した。原因が違うのに、エックス線写真の見た目が同じになるからです。
歯髄が壊死した歯では、根尖から歯根膜を通って瘻管(フィステル)が形成されます。この経路が近心または遠心の根面に沿って歯頸部まで抜けると、歯根全長に沿った透過像になります。歯周ポケットからの骨吸収と、見た目が区別できません。
もう一つ厄介なのが根分岐部です。根尖から分岐部へ瘻管が伸びる場合、あるいは分岐部に開口する側枝から歯髄の刺激が続く場合、エックス線上は完全に「根分岐部病変」の顔をします。著者らはここで一つの鑑別点を示します。近心・遠心の歯槽骨頂が比較的正常で、分岐部だけが透過している場合は、歯髄由来を疑うべきである。
さらに、頬側や舌側に瘻管が走ると歯根に重なってエックス線に写らないこともある。上顎大臼歯では口蓋根が三根分岐部を隠します。だから著者らは「瘻孔にガッタパーチャポイントかシルバーポイントを挿入して撮影し、病変の起源を確定せよ」と書きます。1972年の助言ですが、いまも変わらず有効です。
③5つの型——「どちらが先か」で並べ直す
① 純粋な歯内病変。 歯肉溝からの排膿や頬側付着歯肉の腫脹を伴い、痛みは通常ありません。臨床の第一印象は「歯周由来」ですが、歯根膜を通っているだけで、実体は歯髄疾患による瘻管です。歯髄が電気診・温度診に反応せず、プロービングで歯石やプラークがほとんど触れない。この型は根管治療だけで治ります。
② 歯内病変+二次的な歯周炎。 ①を放置すると、歯肉縁にプラークが付き歯周炎が始まります。プローブや探針が歯石やプラークに触れた瞬間、この歯の治療方針と予後は変わる。根管治療と歯周治療の両方が必要になり、根管治療が適切であれば予後は歯周治療しだいです。逆に言えば、根管治療だけでは病変の一部しか治らない——それがこの型の見分け方でもあります。
③ 純粋な歯周病変。 歯周炎が根面に沿って根尖領域まで進行したもの。歯髄は生活反応を示し、プロービングでは根面に沿って歯石が触れます。予後は完全に歯周治療の有効性しだい。全部被覆冠が入っていて歯髄診断に迷うときのために、著者らはテストキャビティを勧めています。麻酔せず、注水せずに1/2番か2番のラウンドバーで象牙質まで小さな穴を開け、切削時に痛みが出れば生活歯——つまり歯周病変だと分かる、という方法です。
④ 歯周病変+二次的な歯髄壊死。 歯周病変が根尖方向へ進むと、側枝や副根管が口腔環境に露出して歯髄が壊死することがあります。加えて、歯周処置でキュレットが側枝や根尖の血流を断つことでも壊死は起こりうる。ここで著者らが強調するのは、この型は②とエックス線上まったく区別がつかないという事実です。だからこそ、歯周治療をしているのに予想どおり反応しない歯は、歯髄診査をやり直せ。生活歯だったはずの歯が、いま失活しているかもしれない。
⑤ 真の複合病変。 歯髄由来の根尖病変と、独立して存在する歯周病変が、根面のどこかで出会って融合したもの。臨床像もエックス線像も、②④と区別がつきません。根管治療が成功すれば根尖部の治癒は期待できますが、歯周側が治るかどうかは進行度しだいです。
④診断を分けるのは、たった2つの所見
5つに分かれると聞くと複雑に思えますが、実際に使う道具は2つしかありません。
1つ目は歯髄生活反応。 生きていれば③(純粋な歯周病変)。失活していれば①②④⑤のいずれか。
2つ目はプローブで歯石に触れるか。 触れなければ①(純粋な歯内病変=根管治療だけで治る)。触れれば②④⑤のいずれかで、歯周治療が必ず必要になります。
そして②④⑤の区別は、臨床的にはあまり重要ではありません。なぜなら、どれも「根管治療+歯周治療の両方が必要で、予後は歯周治療の成否で決まる」という同じ結論に着地するからです。エックス線で区別できないものを無理に区別する必要はない、という設計になっているのが、この分類の賢いところだと思います。
もう一つ、著者らは重要な鑑別を添えています。垂直歯根破折も、同じようなエックス線像を呈しうる。瘻孔があるなら、フラップを開けて起源を確かめる必要があるかもしれない。そして破折が歯髄まで達して壊死を招いた場合、それも「真の複合病変」と呼びうる、と。
⑤明日の臨床へ——順番を、逆にしない
この論文から現場に持ち帰れることは3つあります。
1. 深いポケットを見たら、まず歯髄を診る。 順番が逆になりがちです。ポケットが深い=歯周病、と決めてスケーリングから入ると、①の症例で治らない。歯髄診査を先に置くだけで、5分類のどこにいるかが半分決まります。
2. 「治りきらない」は、診断の見直しサインと考える。 著者らが繰り返すのはこの点です。根管治療をしたのに一部しか治らない → 二次的な歯周炎(②)を疑う。歯周治療をしているのに反応が悪い → 二次的な歯髄壊死(④)を疑う。治癒しない事実そのものが、次の診断の情報になる。
3. 予後の説明は、歯周側の見込みで話す。 ①以外のすべての型で、著者らは「予後は歯周治療しだい」と書いています。患者さんに「神経の治療をすれば治りますよ」と言い切ってしまうと、あとで説明が苦しくなる。「神経の治療で治る範囲と、歯ぐきの治療で決まる範囲があります」と最初に分けて伝えておくほうが、結果的に信頼を損ないません。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
歯内歯周病変は、原因(歯髄か歯周組織か)と二次感染の有無で5つに分かれる。診断の決め手は歯髄生活反応とプローブで触れる歯石。そして予後は、ほぼ歯周治療の成否で決まる。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


