1問1答 論文 歯周病

分岐部の病変は、髄床底の副根管のせい?——1,140歯の透明標本が示した「枝の居場所」

ペリオ|診断・予後評価

1問1答 論文解説

根分岐部に透過像を見つけると、つい「髄床底の副根管から歯髄の炎症が漏れたのでは」と考えたくなる。1,140歯を透明標本にして枝を数えた古典は、その筋書きに冷や水を浴びせる。枝の主戦場は根尖部(17.0%)で、分岐部はわずか2.3%。髄床底から出た側枝はゼロだった。

論文
Frequency, location, and direction of the lateral, secondary, and accessory canals
著者
De Deus QD(ベロオリゾンテ・ブラジル)
掲載
Journal of Endodontics 1975;1(11):361-366
種類
ヒト抜去歯1,140歯の透明標本による解剖学的観察研究
PMID
10697487

その分岐部の透過像、本当に「髄床底の副根管」ですか

下顎第一大臼歯の根分岐部に、ぽつんと透過像。歯髄は生きている。プロービングも一部だけ深い。こんなとき「髄床底に副根管があって、そこから歯髄の炎症が漏れたのでは」と説明した経験は、誰にでもあると思う。教科書でもよく見る筋書きだ。

ところが、この「髄床底の副根管」という犯人像は、実際に歯を透明にして数えた研究ではほとんど支持されない。今日はその出発点になった古典を読み直す。

結論を先に: 1,140歯を透明標本にして数えたところ、枝を持つ歯は27.4%。その居場所は根尖部に集中(17.0%)し、根の基部(分岐部を含む)はわずか1.6%。しかも髄床底から直接出た側枝は1本も見つからなかった

まず言葉を揃える——側枝・副根管・分枝

この論文は用語をきちんと定義してから数えている。読むときの前提になるので、ここだけ整理しておく。

側枝(lateral canal)は、主根管から歯根膜へ向かう枝で、根の中央部(body)に多い。主根管に対してやや根尖寄りに傾くことが多く、ときに完全な直角に走る。副根管(secondary canal)は、根尖部で主根管から歯根膜へ抜ける枝。分枝(accessory canal)は、その副根管からさらに分かれて歯根膜に開く枝を指す。

いずれも「歯髄と歯周組織をつなぐ通路」であることは同じ。だからこそ、エンド-ペリオ病変の議論で必ず名前が挙がる。問題はその通路が、根のどこに開いているかだ。

今回の一手:1,140歯を透明にして、全周から数えた

ブラジル・ベロオリゾンテのDe Deusは、ヒトの抜去永久歯1,140歯(上下顎の全歯種)を集め、透明標本にした。歯冠から髄腔へ小さな窓を開けて内容を除去し、次亜塩素酸ナトリウムに7日間浸けて有機質を溶かす。流水で24時間、アセトンで6時間脱水したのち、墨汁に浸して減圧下で枝の隅々までインクを引き込む。脱灰し、フェノールで透明化してサリチル酸メチルに保存する——という、当時としては手の込んだ手順である。

こうして中身が黒く染まった「透明な歯」を、3倍のレンズで全周から観察し、枝の頻度・部位・方向を歯種ごとに記録した。部位は根尖部(apex)・根中央部(body)・根基部(base、分岐部を含む)の3つに分けている。

結果1:枝の居場所は「根尖」に偏っている

1,140歯のうち、何らかの枝を持っていたのは313歯=27.4%。4本に1本強である。そしてその居場所は、きれいに偏っていた。

0 6.7% 13.3% 20% その部位に枝を認めた歯の割合 (%) 17% 8.8% 1.6% 根尖部 根中央部 根基部(分岐部を含む) 1,140歯中313歯(27.4%)に何らかの枝を認めた(De Deus 1975)
枝を認めた部位の分布。根尖部17.0%に対し、分岐部を含む根基部はわずか1.6%だった。

根尖部17.0%、根中央部8.8%、根基部1.6%。枝の話をするなら、まず根尖部の話をするべきという順序が、数字ではっきり出ている。

結果2:分岐部は2.3%、髄床底からはゼロ

本題の分岐部に絞ってみる。小臼歯・大臼歯の分岐部(二根分岐・三根分岐)に側枝が開いていたのは2.3%。しかも、その全部が主根管から出たものだった。

そして著者はこう書いている——髄腔(pulp chamber)そのものから出た側枝は、1本も見つからなかった。過去には「髄床底から分岐部へ抜ける副根管がある」と報告した研究もあるが、この1,140歯の観察では、その像は再現されなかった。

0 6.7% 13.3% 20% 枝を認めた歯の割合 (%) 16.4% 10.4% 2.3% 0% 根尖部の副根管 側枝(全体) 分岐部の側枝 髄床底からの側枝 分岐部の側枝はすべて主根管由来。髄床底から出た側枝は1本も無かった
枝の種類別の頻度。根尖部の副根管16.4%、側枝10.4%に対し、分岐部の側枝は2.3%、髄床底由来は0本。
つまり: 分岐部に病変があるとき、「髄床底の副根管から歯髄の炎症が降りてきた」という説明が当てはまる歯は、解剖学的にかなり少数派ということになる。

どの歯に多いか——小臼歯と大臼歯

歯種による差もはっきりしている。小臼歯と大臼歯は枝のバリエーションが最も多彩で、切歯は最も乏しかった。表を追うと、上顎第一小臼歯(100歯)では側枝19.0%・根尖の副根管20.0%、上顎第一大臼歯(68歯)では根尖の副根管が32.3%と、部位によっては3歯に1歯の割合で枝が見つかる。

方向は歯種でばらつくが、根尖部では近心・遠心方向へ抜けるものが多く、根中央部では舌側・遠心が目立つ。要するに「デンタル1枚の正放線投影では、そもそも見えない方向へ抜けている枝が少なくない」ということでもある。

明日の臨床へ

この解剖のデータは、日々の診断の「順番」を変えてくれる。

1. 分岐部の透過像は、まず歯周組織側から読む。髄床底の副根管を第一の犯人にする根拠は薄い。プロービング・BOP・骨形態・咬合性外傷といった歯周側の要因を先に潰したほうが、当たる確率が高い。

2. 歯髄との交通を疑うなら、視線は根尖側へ。枝の主戦場は根尖部である。歯内由来を考えるなら、根尖近くの側方病変(lateral lesion)や、根尖からやや離れた位置の透過像に注目したい。

3. 小臼歯・大臼歯の根管治療では、根尖部の清掃と緊密な充填を。枝そのものを器具で触ることはできないが、主根管の細菌量を減らし、封鎖することが、枝を経由した歯周組織側への影響を減らす唯一の現実的な手段になる。

ここだけ、冷静に補助線これは1975年の抜去歯の形態観察であり、「分岐部病変の原因が歯周由来だと臨床的に証明した」研究ではない。透明標本の作製法や染色の入り具合で検出率は変わりうるし、枝が「存在する」ことと「病態として機能している」ことも別の話だ。それでも1,140歯という規模で部位まで記録した仕事は今も参照され続けており、「分岐部=髄床底の副根管」という思い込みを外す物差しとしては十分に役に立つ。

今日のひとこと

枝は根尖に住んでいる。分岐部の病変を見たら、髄床底の副根管を呼び出す前に、歯周組織側から読み直したい。

出典:De Deus QD. Frequency, location, and direction of the lateral, secondary, and accessory canals. Journal of Endodontics 1975;1(11):361-366. PMID: 10697487

本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新エビデンスをご確認ください。

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