歯周炎の新分類:ステージ(Stage)とグレード(Grade)|2017 World Workshop
同じ「重度歯周炎」でも、これから急に進む人と、もう止まっている人がいます。従来の分類は「どれだけ壊れたか」しか語れませんでした。2017年のワールドワークショップは、慢性/侵襲性という区別を手放し、代わりに「ステージ=今の被害と治療の難しさ」「グレード=これからの進み方」の2軸を置きました。いま毎日の診断書に書いている、あの表の原典です。
①「この人は慢性? それとも侵襲性?」で止まった経験
30代後半、プラークはそこそこ、でも大臼歯と切歯の骨がごっそり無い。慢性歯周炎と書くべきか、侵襲性歯周炎と書くべきか——診断名の欄で手が止まった経験は、多くの先生にあるはずです。
この迷いは、先生の勉強不足のせいではありませんでした。1999年の分類は、侵襲性歯周炎に主基準・副基準を定めたものの、日常臨床でその基準を当てはめるのが難しく、診断カテゴリー同士が大きく重なっていた。しかも侵襲性歯周炎の基準の多くは、きちんとデザインされた研究で妥当性が確認されないままでした。臨床家も教育者も研究者も疫学者も、20年にわたって同じ違和感を訴え続けた。それが、新しい分類ワークショップを開く最大の理由になりました。
②4つのレビューが出した答え:「別の病気ではない」
2017年のワールドワークショップは、慢性/侵襲性の議論のために委託レビューを走らせました。返ってきた結論は、率直なものでした。
つまり「別の病気だから分ける」という前提そのものが支えを失った。代わりに浮かび上がったのは、同じ病気の中で、人によって進み方も治しにくさも違うという見方です。そこで著者らは、区別の軸を病名から「今どうなっているか(ステージ)」と「これからどうなりそうか(グレード)」へ移しました。がんの領域で長く使われてきた staging の発想を、歯周病に持ち込んだわけです。
③その前に:そもそも「歯周炎の患者」とは誰か
分類の前に、症例定義(case definition)が要ります。ワークショップが提案したのは、次のどちらかを満たすこと。
ただし、その CAL が歯周炎以外で説明できるなら除外します。外傷性の歯肉退縮、歯頸部に及ぶう蝕、智歯の位置異常や抜歯に関連した第二大臼歯遠心のCAL、辺縁歯周組織へ排膿する歯内病変、そして垂直性歯根破折。この5つは、日常でよく出会う「歯周炎に見えるけれど歯周炎ではないもの」です。
面白いのは、CALの具体的な閾値(たとえば2mm以上)をあえて決めなかったこと。測定誤差を避けようと閾値を上げると、今度は初期の歯周炎を歯肉炎と誤分類してしまうからです。代わりに「隣接しない2歯で」という条件で特異度を担保しました。BOP(プロービング時の出血)は治療後のリスク評価には重要だが、症例定義や重症度分類そのものは変えない——これも明記されています。
④ステージI〜IV:重症度+「治すのがどれだけ難しいか」
ステージの新しさは、「壊れ具合」だけでなく「治療の複雑さ」を正面から入れたところにあります。
重症度は歯間部CALを第一の指標とし、いちばん悪い歯で判定します(ポケット深さや骨吸収は特異度が低いため、CALが主役)。CALが取れない場合はエックス線の骨吸収で代用しますが、その場合軽度〜中等度を取りこぼす限界がある、と釘が刺されています。
そして歯周炎による歯の喪失が重症度に組み込まれました。これは従来の分類にあった逆説を潰すためです——いちばん悪い歯を抜いてしまうと、残った歯で測る重症度は「軽く」なってしまう。この不合理を、喪失歯数(4歯以下=III、5歯以上=IV)を数えることで塞ぎました。
複雑さの因子は、1つでもあれば上のステージへ動かすのがルールです。著者らが挙げる例が具体的で助かります。根分岐部II度・III度があれば、CALがどうであれステージIII以上。臼歯部の咬合崩壊があればステージIV。根幹が短い歯なら、CAL 4mm でも分岐部II度になりうるので、ステージIIからIIIへ動く。ステージIIIとIVを分けるのは、主に複雑さの因子です。
治療後の扱いも決まっています。複雑さの因子が治療で消えても、ステージは下げない(元の複雑さはメインテナンスでずっと考慮すべきだから)。例外は歯周組織再生療法の成功で、これは支持組織そのものが改善するので CAL・骨吸収の値が実際に良くなります。
⑤グレードA〜C:この人はこれから、どれくらいの速さで進むか
ここが、この分類のいちばん臨床的な部分です。ステージが「過去の被害」なら、グレードは「これからの見通し」。
使い方の順序が決まっているのが親切です。まず全員をグレードBと仮定する。そのうえで、AかCへ動かす証拠を探しに行く。
直接の証拠があればそれが最優先——5年前の診断可能なエックス線があれば、骨レベルを比べるだけです。5年で2mm以上ならC、2mm未満ならB、失っていなければA。
直接の証拠がなければ間接推定。最も悪い歯の骨吸収(根長に対する%)を、患者さんの年齢で割る。0.25未満ならA、0.25〜1.0がB、1.0を超えればC。50歳で骨が25%減っていれば 0.5 でB、30歳で40%減っていれば 1.33 でC。暗算でできます。
臨床像も手がかりになります。プラークは多いのに破壊が少なければA。プラーク量に見合った破壊ならB。プラーク量から予想されるより破壊が大きければC(大臼歯・切歯パターン、標準的な細菌コントロールに期待どおり反応しない場合も含む)。冒頭の「30代でプラークそこそこ、大臼歯と切歯が崩壊」は、まさにここに落ちます。侵襲性歯周炎という病名は消えましたが、その臨床像はグレードCとして分類の中に残ったのです。
最後に修飾因子。喫煙は1日10本未満でB、10本以上でC。糖尿病はHbA1c 7.0%未満でB、7.0%以上でC。重要なのは、これらは進行速度の判定とは独立にグレードを押し上げるという点です。著者らの例:中等度のアタッチメントロス(ステージII)で進行速度はBと仮定、しかしコントロール不良の2型糖尿病があれば、それだけでグレードCへ引き上げる。
⑥明日の臨床へ:診断名が「治療計画」と「説明」に変わる
3つの次元で書く、と覚えるのが実用的です。①歯周炎の症例か(隣接しない2歯以上のCAL)→ ②どの型か(壊死性/全身疾患の直接症状/通常の歯周炎)→ ③ステージとグレード。
これが日々の仕事をどう変えるか。ステージは、誰が治療すべきかを語ります。複雑さの因子は「この症例にどれだけの技量と経験が要るか」を明示するために入っているので、紹介するかどうかの判断材料になります。
グレードは、メインテナンス間隔と介入の強さを語ります。同じステージIIIでも、グレードAとグレードCではリコール間隔も、禁煙・血糖への踏み込み方も変わってよい。むしろ変えるべきだという根拠が、診断名そのものに書き込まれます。
そして患者さんへの説明。「重度歯周病です」より、「今の壊れ具合はIII、進み方はC。だからタバコと血糖を一緒に管理したい」のほうが、はるかに伝わります。医科の主治医と話すときも同じで、グレードの修飾因子はそのまま連携の言語になります。歯周炎は、肥満に次いで2番目に多い「修正可能な全身炎症負荷の要因」として位置づけられている、と著者らは書いています。
今日のひとこと
歯周炎の診断は「どれだけ壊れたか」の一次元から、「ステージ(今の被害+治療の複雑さ)」×「グレード(これからの進み方+リスク因子)」の二次元へ移った。ステージは歯間部CALを第一に、複雑さの因子が1つでもあれば上のステージへ。グレードはまずBと仮定し、進行の直接・間接の証拠と、喫煙・糖尿病で上へ動かす。慢性/侵襲性を分けないのは「病態が違うという証拠がなかった」から。分ける診断から、その人の将来を見積もる診断へ——精密医療への第一歩と位置づけられている。


