1問1答 論文 歯周病

「重度歯周病の歯、歯髄は無事?」——生きている歯髄で静かに起きていたこと

1問1答 論文 歯周病

重度慢性歯周炎の抜去歯におけるセメント質の微細構造と歯髄の病理所見

深いポケット、露出した根面。それでも冷刺激には反応するから「歯髄は生きている」と判断して、そのまま歯周治療に進みます。では、その“生きている歯髄”の中身は、健康な歯と同じなのでしょうか。2019年の研究が、抜いた歯を顕微鏡でのぞいて答えを出しました。

論文
Li X, Hu L, Ma L, et al. Severe periodontitis may influence cementum and dental pulp through inflammation, oxidative stress, and apoptosis. J Periodontol. 2019. doi:10.1002/JPER.18-0604
デザイン
抜去歯を用いた横断的な観察研究(ex vivo・SEM/組織学/免疫染色/ウエスタンブロット)
対象
重度慢性歯周炎の大臼歯80歯(CAL≧5mm・骨吸収>6mm・歯髄生活反応あり)/対照=正常な埋伏智歯50歯
主要評価
セメント質の微細構造、歯髄の炎症・酸化ストレス・アポトーシス・オートファジー
PMID
31161648

「歯髄は生きています」——それで終わりにしていないか

重度歯周炎の大臼歯。ポケットは深く、根面は露出し、動揺もある。それでも冷刺激に反応するので、カルテには「生活歯」と書きます。歯内療法の適応ではない、と判断してSRPへ進む。日常的な流れです。

でも、ふと思うことがあります。あれだけ根面の外側が炎症にさらされていて、内側の歯髄は本当に“いつも通り”なのだろうかと。反応する=健康、とは限らないのではないか。今日の論文は、その疑問を抜去歯で確かめにいきました。

これまで:歯周炎と歯髄の関係は、報告がバラバラだった

根尖性歯周炎と歯髄の関係はよく調べられてきましたが、辺縁性(=いわゆる歯周病)と歯髄の関係は報告が少なく、しかも結論が割れていました。「関連なし」とする研究もあれば、「密接に関連する」とする研究もある。

著者らはその理由を、症例の組み入れ・除外基準があいまいだったことに見ています。カリエスや修復物、咬耗のある歯が混じっていれば、歯髄の変化が歯周炎のせいなのか他の要因なのか分かりません。そこで今回は、基準を厳しく絞りました。

今回の一手:条件を揃えて、抜いた歯を徹底的に調べる

集めたのは重度慢性歯周炎の大臼歯80歯。条件は、6部位すべてでCAL 5mm以上歯槽骨吸収が6mm超(ただし根尖には未到達)、そして冷刺激(−20℃のアイススティック)に反応する=歯髄生活反応あり。カリエス・修復物・咬耗・摩耗・酸蝕・咬合性外傷のある歯、1年以内に歯周治療を受けた歯は除外。デンタルX線で根尖病変も除いています。

対照は正常な近心傾斜の埋伏智歯50歯。智歯周囲炎の既往があるものは除外しました。

そのうえで、セメント質を走査型電子顕微鏡(SEM)で(各群10歯)、歯髄をHE染色・Masson染色・免疫染色・ウエスタンブロットで調べています。

結果その1:セメント質は“歯冠側と中央”だけが荒れていた

① 歯周ポケットの炎症環境

② セメント質の微細構造が変化 歯冠側と中央にひび割れ様の粗造化(根尖側は健康歯と差なし)

③ 象牙細管・側枝・根分岐部の副根管 著者が想定する、炎症性因子の通り道

④ 歯髄 炎症・酸化ストレス・アポトーシス・オートファジーの亢進

この論文が描いた道筋(概念図)。ポケットの炎症環境がセメント質の微細構造を変え、象牙細管・側枝・根分岐部の副根管を介して歯髄に影響しうる、というのが著者らの想定である(Li 2019)。

SEMで根面を上部・中央・根尖側の3か所で観察したところ、上部(歯冠側)と中央のセメント質にひび割れ様の粗造化(原著の表現は rhagades/chapped)が見られました。おもしろいのは、根尖側では健康歯と差がなかったこと。X線でも、根の上部〜中央が低密度に写り、顕微鏡所見とよく一致していました。

つまりポケットが到達している範囲だけが荒れていたわけです。「炎症環境にさらされた面が変化する」という、素直な絵になっています。

結果その2:生きている歯髄の中で、静かに起きていたこと

増えていた

IL-1β(炎症性サイトカイン) IL-17(炎症性サイトカイン) ROS(活性酸素種) TUNEL陽性・切断型カスパーゼ3 線維化(Masson染色) LC3B・p62(オートファジー) ※ 前駆体プロカスパーゼ3には差がなかった

減っていた

SOD1(抗酸化酵素) 微小血管密度(CD31陽性) 酸化ストレスを打ち消す側と、 歯髄を養う血管の側が、ともに低下

対照は正常な埋伏智歯50歯。歯周炎群80歯はいずれも冷刺激に反応する生活歯だった 抜去歯を調べた横断的な観察研究であり、因果関係を示すものではない

重度歯周炎の歯の歯髄で、健康歯(埋伏智歯)と比べて増えていた指標・減っていた指標。数値は原著では図で示され、いずれも有意差あり(Li 2019)。

歯髄はHE染色で組織構築が乱れ、空胞変性を示しました。Masson染色では線維化が増加。CD31で数えた微小血管密度は有意に低下(P=0.0001)していました。

炎症のマーカーでは、IL-1βとIL-17がともに有意に増加。酸化ストレスでは、ROSが著明に増加(健康歯ではほとんど検出されないレベル)し、逆に抗酸化酵素のSOD1は低下。細胞死の指標では、TUNEL陽性細胞と切断型カスパーゼ3が増加(前駆体のプロカスパーゼ3には差なし=実際に活性化していた、ということ)。

さらに著者らが「興味深い」と書いているのがオートファジーです。LC3BとP62が両方とも増えていました。ふつうオートファジーが回っていればP62は分解されて減るので、原著は「分解より形成のほうが速い」=オートファジーの流れが滞っている可能性を示すと解釈しています。なぜそうなるのかは、著者自身も「不明で、さらなる研究が必要」としています。

明日の臨床へ:使えるのは「見立ての解像度」

正直に言うと、この論文は明日から術式を変えるタイプの研究ではありません。抜去歯を調べた観察研究で、「歯髄が壊れるから抜髄しましょう」という話にはまったくなりません。それでも、見立ての解像度は少し上がります。

ひとつ目。「生活反応あり=歯髄は健康」ではないかもしれないという視点。重度歯周炎の歯で、治療後に温度痛が長引いたり、後から歯髄壊死に至ったりする経験は誰にでもあると思います。その背景に、こうしたすでに始まっていた変化があるのかもしれない、と考えると腑に落ちます。

ふたつ目。SRPで触っている面が、実際に荒れている面だということ。歯冠側〜中央のセメント質が変化しているという所見は、根面デブライドメントの手応えや、術後の知覚過敏の説明にもつながります。

みっつ目。歯周-歯内病変を疑う閾値。深いポケットの歯に不明瞭な症状が出たとき、「歯髄側も無傷とは限らない」と一段丁寧に診る——それだけでも、見落としは減ります。

ここだけ、冷静に補助線。 解釈には注意が要ります。まず、これは抜去歯を調べた横断的な観察研究で、歯周炎が歯髄の変化を「起こした」ことを証明したものではありません。次に、対照が埋伏智歯である点。著者自身も、埋伏智歯は咬合力を受けていないため結果に影響しうると認めています。加えて、歯周炎群は平均50.1歳、対照群は平均32.2歳と年齢が18歳ほど違い、加齢による歯髄の変化(線維化・血管密度低下)と切り分けられていません。臨床アウトカム(歯髄壊死の発生率・症状・予後)は一切測られていません。ですから受け取り方としては、「重度歯周炎の歯では、歯髄も分子レベルで無風ではなさそうだ」という仮説の裏づけまで。ここから先は、臨床研究の続報を待ちたいところです。

今日のひとこと

冷刺激に反応する“生活歯”でも、重度歯周炎の歯では歯髄が静かに変わっていた——IL-1βとIL-17が増え、ROSが増えSOD1が減り、TUNEL陽性と切断型カスパーゼ3が増加。血管密度は低下し、線維化が進んでいた。セメント質は歯冠側と中央にひび割れ様の粗造化があり、根尖側は健康歯と差がなかった。ただしこれは抜去歯の観察研究で、因果も臨床アウトカムも示していない。「歯周炎の重い歯は、歯髄も無傷ではないかもしれない」——その程度の重みで受け取るのがちょうどいい。

出典:Li X, Hu L, Ma L, Chang S, Wang W, Feng Y, Xu Y, Hu J, Zhang C, Wang S. Severe periodontitis may influence cementum and dental pulp through inflammation, oxidative stress, and apoptosis. J Periodontol. 2019. doi:10.1002/JPER.18-0604. PMID: 31161648
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。