エンド|根尖に気泡(ベイパーロック)が残るかを、超音波で液を動かす洗浄(PUI)とシリンジの針で流す洗浄(PPI)で比べた抜去歯の実験室研究を集め、3本(各群20本)をメタ分析したシステマティックレビュー(Dioguardi・Lo Muzio ら 2019・The Scientific World Journal)
根尖の閉じた根管の奥にたまる気泡は、洗浄液がその先へ届くのを妨げます。Dioguardi らは2019年、PUI と PPI を比べて根尖の気泡の有無を見た研究を集め、抜去歯の実験室研究3本をメタ分析しました。気泡が残った歯は3研究の合計で PUI 21/60本、PPI 47/60本で、3研究とも PUI の側に傾き、統合したオッズ比は0.08(95%CI 0.03–0.25)でした。ただし3本とも抜去歯に造影剤入りの液を入れて根尖まで届いたかを見た実験で、うち2本は同じ研究グループ、研究間のばらつきは中程度(I²=61%)。著者ら自身も統計的な検出力は低いと書いており、治療の成績は調べていません。
①根尖の「気泡のふた」、超音波で壊せる?
根管の中を次亜塩素酸ナトリウムで満たしたつもりでも、根尖の数ミリには液が届いていないことがある――「ベイパーロック(vapor lock)」と呼ばれる現象です。根尖の閉じた根管の奥に気泡がたまり、洗浄液がその先へ進めなくなります。
シリンジの針で流すだけで、この気泡は抜けるのか。超音波のチップで液を動かすと違うのか。これを、既に出ていた抜去歯の実験をまとめて比べたのが、Dioguardi らが2019年に The Scientific World Journal に出したシステマティックレビューとメタ分析です。
・抜去歯で、根尖に気泡が残るかを PUI(超音波で液を動かす洗浄)と PPI(シリンジの針で流す洗浄)で比べた実験室研究3本(各群20本、合計で各60本)をまとめたメタ分析
・気泡が残った歯は、3研究の合計で PUI 21/60本、PPI 47/60本。3研究とも PUI の側に傾き、統合したオッズ比は0.08(95%CI 0.03–0.25)だった
・ただし3本とも抜去歯の実験で、うち2本は同じ研究グループ。研究間のばらつきは中程度(I²=61%)で、著者ら自身も「統計的な検出力は低い」と書いている
・根管治療の成績や痛みなど、患者さんでの結果は調べていない
②なぜこの研究が必要だったか
著者らはまず、根管の清掃が足りないことが根管治療の失敗の一因になると、引用文献をもとに整理しています。清掃を妨げる要因には、根管の形(イスムス・側枝)、形成の仕方、そして液の反応の速さ、根管壁にかかる力、ベイパーロックといった物理的な要因がある、という立場です。
原著の説明では、ベイパーロックは先の閉じた管の中にできる空気やガスの泡で、根管の根尖側3分の1に泡ができると、洗浄液がその部分に化学的に届かなくなります。泡のもとの一つとして、次亜塩素酸ナトリウムが壊死した歯髄を溶かす時に出る二酸化炭素が挙げられています。
洗浄の方法は大きく2つです。PPI(Positive Pressure Irrigation)は、根管壁にくい込ませないようにしたシリンジの針で液を押し出す、いつもの洗浄。PUI(Passive Ultrasonic Irrigation)は、液を満たした根管に超音波のチップを入れ、壁に触れないように振動させて液を動かす方法です。PUI がベイパーロックを減らすかを、文献をまとめて確かめようとしたのが今回のレビューです。
③何をどう集めて、どう比べたか
・手順:PRISMA に沿ったシステマティックレビュー。2人のレビュアーが独立に選び、意見が割れた時は3人目を交えて決めた
・探した所:PubMed・EBSCO・Google Scholar(2017年12月〜2018年2月)。検索語は vapor lock/vapour lock、Google Scholar は「vapor lock endodontic」
・入れる条件:英語の論文、20試料以上、抜去歯だけを使った研究、根尖側をテーパー6%以上などの条件で形成した歯(根尖の太さは原文の表記が「20 mm」で、筆者は #20 の誤記と読んでいる)。PUI と PPI を比べ、気泡(ベイパーロック)があるか無いかを主な評価にした研究
・しぼり込み:データベース84件+Google Scholar 844件の計928件 → 重複を除いて794件 → 題名と抄録で85件 → 全文を読んだ16件 → 質的なまとめに5件 → PPI を含まない2件を除いた3件をメタ分析
・統計:RevMan 5.3。原著の図2は Mantel–Haenszel 法・固定効果モデルのオッズ比。研究間のばらつきは Q 検定と I² で見た
・バイアスの評価:実験室研究向けの決まった方法が無いとして、症例対照研究用の Newcastle–Ottawa 尺度を当てはめた
メタ分析に入った3本は次のとおりです。どれも抜去歯60本を3つの方法に20本ずつ分け、造影剤入りの洗浄液(5%次亜塩素酸ナトリウム+20%墨汁)を根管に入れ、根尖まで液が届いたか(気泡が残ったか)を見ています。レビューの本文で X線で判定したと書かれているのは Sáinz-Pardo 2014 と Castelo-Baz 2016 の2本で、Castelo-Baz 2012 の判定の仕方はレビューには書かれていません(個々の原著は筆者は読んでいません)。
・Castelo-Baz 2012:根尖の閉じた歯。ProTaper Universal F3 まで形成。PUI・PPI・CUI(液を流しながら超音波を当てる方法)の3群
・Castelo-Baz 2016:根尖の閉じた歯。GTX で 30/.06 まで形成。PUI・PPI・CUI の3群
・Sáinz-Pardo 2014:30本は根尖の閉じた歯、30本は開いた歯。ProFile で #30・テーパー6%まで形成。PUI・PPI・音波で液を動かす方法の3群(各群は閉じた歯10本+開いた歯10本)
メタ分析で比べたのは PUI と PPI だけです。CUI は Castelo-Baz の2研究、音波の方法は Sáinz-Pardo の1研究にだけあり、統合していません。
④結果1:3研究とも、PUI の方が気泡の残った歯が少なかった
それぞれの研究で、根尖に気泡が残った歯の本数です。原著の表1と図2の値です。
Castelo-Baz の2研究では、シリンジで流した群は20本すべてに気泡が残り、PUI では6本と12本でした。Sáinz-Pardo 2014 では PUI 3本・PPI 7本で、これは根尖の閉じた歯10本の中の数です。根尖の開いた歯では、どの方法でも気泡は残りませんでした。
3研究を足すと、気泡が残ったのは PUI 21/60本、PPI 47/60本です(原著の図2の合計)。なお原著の本文には「PPI では57/60本に気泡」とありますが、表1と図2の数(20+20+7)から足すと47本になります。この記事では表と図の値を使いました。
⑤結果2:統合したオッズ比は0.08、ただしばらつきは中程度
3研究のオッズ比を統合した結果を表にしました。
統合したオッズ比は 0.08(95%CI 0.03–0.25)で、統合の検定は Z=4.43(P<0.00001)でした。オッズ比が1より小さいほど、PUI の方が気泡の残る歯が少ないことを表します。オッズ比は「気泡が残る率が8%になる」という意味ではありません。研究ごとの残り方の比(リスク比)を本数から計算すると、0.30・0.60・0.43でした(筆者の計算)。
研究間のばらつきは I²=61%(P=0.08)で、著者らの区分では「中程度」です。研究ごとに見ると、Castelo-Baz の2研究は信頼区間が1を下回りましたが、Sáinz-Pardo 2014 は0.33(0.07–1.52)で1をまたいでおり、この研究だけでは有意な差を示せていません。重みの約8割(49.8%+29.2%=79.0%、図2の重みを筆者が合計)は Castelo-Baz の2研究にかかっています。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、PUI を使えばベイパーロックの形成を減らせ、PPI ではほぼ避けられないと結論しています。そのうえで「この研究の結果は統計的な検出力が低いものの、PUI は PPI よりベイパーロックを減らすのに効果的だった」と書いています。CUI と音波の方法もベイパーロックを減らす方法として挙げていますが、これはメタ分析ではなく、CUI は2研究(20本中4本と2本に気泡)、音波は1研究(閉じた歯10本中6本に気泡)の結果にもとづく記述です。
考察で著者らは、超音波のチップの振動が液の流れ(アコースティック・ストリーミング)や微小な気泡のはじけ(キャビテーション)を起こし、液を根尖側3分の1まで行き渡らせる、と他の文献をもとに説明しています。これはこのレビューで確かめた仕組みではありません。また、根尖孔から2mm以内でチップを使ったり、壁にくい込ませたりすると、次亜塩素酸ナトリウムが根尖の外へ押し出されやすくなる、という注意も書かれています。
読み方として大事なのは、「抜去歯で、造影剤入りの液が根尖まで届いたかを見た」研究のまとめだという点です。根管がきれいになったか、治療の成績が上がったかは測っていません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・超音波で液を動かす一手は、気泡を減らす方向に働いた:3研究とも PUI の側に傾いた。ただしゼロにはならず、Castelo-Baz 2016 では PUI でも20本中12本に残った
・チップの位置に気をつける:著者らは、根尖孔から2mm以内や壁にくい込ませた使い方での押し出しの危険にも触れている。壁に触れさせず、根尖孔に近づけすぎない使い方が前提
気泡が減ることが、根管の菌の減り方や治療の成績にどうつながるかは、このレビューの範囲の外です。導入を考える時は、清掃や消毒の効果、押し出しの危険を調べたほかの研究も合わせて判断したいところです。
(2)研究の質の評価に、症例対照研究用の Newcastle–Ottawa 尺度を実験室研究に当てはめています。著者らも実験室研究向けの決まった方法が無いためと書いています。
(3)研究間のばらつきが中程度(I²=61%)なのに固定効果モデルでまとめており、方法の節には「逆分散法」とある一方、図2は Mantel–Haenszel 法です。PPI の気泡の合計も、本文は57/60本、表と図からは47/60本で食い違います。
(4)判定は造影剤入りの液が根尖まで届いたかで、レビューに判定の仕方(X線)が書かれているのは3本中2本です。判定法の細部は個々の原著で確かめていません。Sáinz-Pardo 2014 は半数が根尖の開いた歯でした。
(5)著者らは利益相反は無いと書いています。
「シリンジだけでは根尖に気泡が残りやすく、超音波で液を動かすと減る方向」という実験室での一貫した傾向を、数字で並べてくれたレビューです。患者さんの根管での確かめが楽しみです。
今日のひとこと
抜去歯の実験3本をまとめたこのレビューでは、シリンジの針で流すだけの洗浄より、超音波で液を動かす洗浄(PUI)の方が、根尖に気泡の残った歯が少なく(21/60本 対 47/60本、統合したオッズ比0.08)、3研究とも同じ向きでした。ただし実験室研究3本だけで、2本は同じ研究グループ、治療の成績は調べていません。「シリンジだけでは根尖に気泡が残りやすい、超音波で液を動かすと減る方向」と読み、チップを壁に触れさせず根尖孔に近づけすぎない使い方で取り入れるのが、この論文に合った読み方です。


