カリオロジー|ヒトのう蝕の無い第三大臼歯の象牙質を「ダイヤモンドバーで切削/その後#600耐水ペーパーで研磨/割断(スメア層なし)」の3通りに整え、ウルトラマイルドの1ステップ・セルフエッチ接着材(Clearfil S3 Bond)を塗って、接着1日後の界面を透過型電子顕微鏡で観察した実験室研究(Mine・De Munck・Van Meerbeek ほか 2014・Dental Materials)
マイルドなセルフエッチ接着材は酸が弱い(Clearfil S3 Bond は pH 約2.7)。では、バーで削ったあとの象牙質を覆うスメア層は、きちんと溶かせているのか。Mine らは2014年、ヒトの抜去歯の接着界面を透過型電子顕微鏡で観察しました。接着材は、バーで削った面のスメア層も、耐水ペーパーで研磨した面のスメア層も溶かさず、染み込んで「レジン・スメア複合体」を作っていました。その中にはハイドロキシアパタイトが多く残っていました。スメア層の無い割断面では、接着材が象牙質と反応した層は多くの場所で約100nmにとどまりました。バーで削った面はスメア層が最大約5µmと厚くて厚さもまちまちで、複合体の一部が抜け落ちた像(レジンが十分に入っていない所)もありました。ただし接着材1種・接着1日後の顕微鏡観察で、接着強さや長期の耐久性は測っていない研究です。
①マイルドなセルフエッチで、バーで削った面のスメア層は溶ける?
窩洞をバーで形成すると、象牙質の表面は削りかす(スメア層)で覆われます。リン酸エッチをすればスメア層は取れますが、マイルドなセルフエッチ接着材は酸が弱い。では、そのスメア層は溶かせているのか、それとも残ったまま接着しているのか。
これをヒトの抜去歯の接着界面で、透過型電子顕微鏡(TEM)を使って観察したのが、ベルギー KU Leuven の Van Meerbeek 教授のグループと大阪大学の Mine らが2014年に Dental Materials に出した実験室研究です。
・ヒトのう蝕の無い第三大臼歯の象牙質を3通りに整え、ウルトラマイルドのセルフエッチ接着材(Clearfil S3 Bond)を塗って、接着1日後の界面を電子顕微鏡で観察した(歯の本数の記載は無い)
・バーで削った面も、耐水ペーパーで研磨した面も、接着材はスメア層を溶かさず、染み込んでいた。染み込んだスメア層は「レジン・スメア複合体」になり、中にハイドロキシアパタイトが多く残っていた
・スメア層の無い割断面では、接着材が象牙質と反応した層(ハイブリッド層)は多くの場所で約100nmまでだった
・バーで削った面はスメア層が最大約5µmと厚く、厚さもまちまちで、複合体の一部が抜け落ちた像(レジンが十分に入っていない所)があった
②なぜこの研究が必要だったか
接着の実験室研究では、試料をそろえやすいので、象牙質を耐水ペーパー(SiCペーパー)で研磨した面がよく使われます。一方、臨床でダイヤモンドバーやタングステンカーバイドバーで削った面のスメア層は、厚く詰まっていて、特にセルフエッチ接着材の接着を妨げるかもしれない、と著者らは引用文献をもとに書いています。
しかも、ウルトラマイルドと呼ばれるセルフエッチ接着材は酸がかなり弱く(pH 約2.7)、スメア層をどれだけ溶かし、どれだけレジンで包み込めているのかを、細かい形で示したデータはほとんどありませんでした。レジンの染み込みが不十分だと、界面が早く劣化するおそれがあります。そこで、象牙質の表面の整え方の違いで界面の微細な構造がどう変わるかを、電子顕微鏡で調べたのが今回の研究です。
③何をどう比べたか
・歯:ヒトのう蝕の無い第三大臼歯(0.5%クロラミン液に4℃で保管し、抜去後1か月以内に使用)。3群に無作為に分けた。歯の本数は書かれていない
・象牙質の整え方(3通り):
①バーで切削:歯冠を象牙質の中央の高さで切り、中目(粒径100µm)のダイヤモンドバーを注水下の高速ハンドピースで当ててスメア層を作った
②耐水ペーパーで研磨:①の半分を、さらに#600の耐水ペーパーで注水研磨した
③割断:歯の周りに浅い溝を入れて鉗子で割り、スメア層の無い面を作った
・接着材:ウルトラマイルドの1ステップ・セルフエッチ接着材 Clearfil S3 Bond(クラレノリタケデンタル。機能性モノマー10-MDP入り、pH 約2.7)を製造者の指示どおり塗り、フロアブルレジン(Clearfil Protect Liner F)を薄く重ねて光照射
・観察:37℃の蒸留水に1日置いてから、脱灰しない切片と実験室で脱灰した切片(厚さ60〜100nm)、脱灰しない極薄切片(30〜50nm)を作り、染色あり・なしで透過型電子顕微鏡で観察。別の試料を硝酸銀液に浸し、銀の沈着でナノリーケージ(界面の小さなすき間・水の多い所)も見た
この研究は顕微鏡で形を見た研究で、接着強さは測っておらず、群の間の統計の検定もしていません。以下の「厚い・薄い」「多い・少ない」は、著者らが電子顕微鏡の像から記述したものです。
④結果1:スメア層は溶けずに残り、「レジン・スメア複合体」になった
3通りの面で見えたものを、模式図にまとめました。
割断面(スメア層なし)では、スメア層は見えず、はっきりしたレジンタグができていました。脱灰して染色した切片では、接着材が象牙質と反応した層(本当のハイブリッド層)は、深い所でも数百nmまでで、多くの場所ではコラーゲン線維1本の太さ(約100nm)を超えていませんでした。
耐水ペーパーで研磨した面は平らで、スメア層は最大約1µmと薄く均一でした。象牙細管にはスメア層の栓(スメアプラグ)が入り、レジンタグは割断面より目立ちませんでした。バーで削った面は凹凸が大きく、スメア層は最大約5µmと厚く、場所によって厚さが大きく違いました(図の説明では、ある像で「ほぼ0〜3µm」、別の像で「4µmを超える」と書かれています)。
そして、接着材は耐水ペーパーの面のスメア層も、バーの面のスメア層も溶かしていませんでした。スメア層は溶けずにレジンが染み込み、「レジン・スメア複合体」になっていました。この複合体の中には、ハイドロキシアパタイトが(しばしば砕けた形で)多く残っていました。脱灰して染色した切片では、この2つの面で、本当のハイブリッド層の上にレジン・スメア複合体が乗った、厚い2層の構造が見えました。
⑤結果2:バーで削った面では、レジンが十分に入っていない所もあった
バーで削った面では、レジン・スメア複合体の一部が抜け落ちた像があり、著者らは、複合体の中にレジンが十分に染み込んでいない所があったと読んでいます。極薄切片でも、すき間のある弱そうな部分が見えました。
硝酸銀で調べたナノリーケージは、割断面では接着材の中と界面に小さな銀の沈着が少しあるだけでした。耐水ペーパーとバーの面では、レジン・スメア複合体の中と下の象牙質に、点状・かたまり状の銀の沈着がさまざまに見られました(結果の本文の記載。バーの面の図の説明では、複合体の中の銀の沈着は数か所だけとも書かれています)。著者らは、レジンは耐水ペーパーの面の方がバーの面より効果的に染み込んでいたと考察しています。
一方で、観察したどの切片でも、ハイブリッド層とレジン・スメア複合体がはがれた像はありませんでした。
⑥著者らの結論と考察
著者らは、象牙質の表面の整え方が、スメア層の性質と、(ウルトラ)マイルドのセルフエッチ接着材との反応を大きく左右したと結論しています(統計の検定ではなく、顕微鏡像からの結論です)。界面は、耐水ペーパーの面の方が、臨床に近いバーの面より均一でした。
考察では、次の点を述べています。いずれも著者らの解釈や仮説で、この研究で直接確かめたものではありません。
・レジン・スメア複合体の中に残ったハイドロキシアパタイトと、10-MDP が化学的に結びつけるので、レジンでよく包まれたスメアの粒は、界面を補強しているかもしれない(はがれた像が無かったことがこの仮説を支える、と著者らは書いています)
・染色していない極薄切片で界面に見えた、電子線を通しにくい帯は、10-MDP とカルシウムの化学的な結合を表している可能性がある
・ただし、バーの面で見えた複合体の抜け落ちや弱い部分が、接着の耐久性にとって重大な問題かどうかは、まだはっきりしない
・バー以外の削り方(手用の切削、レーザー、エアアブレージョンなど)が、セルフエッチ接着材の接着にどう影響するかは、さらに調べる必要がある
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・耐水ペーパーで研磨した実験の結果を、そのまま臨床のバーの面に当てはめない:バーの面はスメア層が厚くまちまちで、レジンが十分に入っていない所もあった
・ただし接着強さや耐久性は測っていない:残ったスメア層が接着を弱めるのか、補強するのかは、この研究からは決められない
使っているセルフエッチ接着材が、バーで削った面にどう効くのか。その答えは製品や削り方で変わり得るので、接着強さや長期の成績を調べた研究と合わせて判断するのが無難です。
(2)歯の本数が書かれておらず、統計の検定もしていません。示された像がどれだけ代表的かは、本文からは分かりません。
(3)接着材は Clearfil S3 Bond の1種だけ、観察は接着1日後だけです。ほかのセルフエッチ接着材や、時間がたった界面にそのまま当てはまるとは限りません。
(4)抜去したヒトの第三大臼歯の、象牙質の中央の高さの面での結果です。う蝕のある象牙質や深い窩洞は調べていません。
(5)研究資金の記載は無く、著者らは利益相反なしと記載しています。
「マイルドなセルフエッチは、スメア層を溶かしていない」という界面の実像を見せてくれる面白い研究です。接着強さや耐久性を測った研究と合わせて読みたいところです。
今日のひとこと
ヒトの抜去歯の電子顕微鏡観察で、ウルトラマイルドのセルフエッチ接着材(Clearfil S3 Bond)は、バーで削った面・耐水ペーパーで研磨した面のスメア層を溶かさず、染み込んで「レジン・スメア複合体」を作り、その中にハイドロキシアパタイトが多く残っていました。臨床に近いバーの面ではスメア層が厚くまちまちで、レジンが十分に入っていない所もありました。接着材1種・接着1日後の観察で、接着強さや耐久性は測っていないので、「マイルドなセルフエッチでは、バーで作ったスメア層は界面に残る前提で考える。耐水ペーパーで研磨した実験の結果を、そのまま臨床のバーの面に当てはめない」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


