カリオロジー|歯磨剤の量・ブラッシング時間・すすぎ量と隣接面フッ素濃度
「フッ素入りの歯磨き粉を使ってください」——ここまでは、誰もが言います。ですが患者さんが実際にどう使うかで、隣接面に届くフッ素の量は大きく変わります。同じ歯磨剤で、いちばん良い磨き方といちばん悪い磨き方を比べたら、差は2.8倍でした。
①「フッ素入りを使ってください」の、その先
う蝕予防の指導で、フッ化物配合歯磨剤を勧めない人はもういません。1,450ppmが標準になり、銘柄の話もひととおり出尽くしました。
ですが診療室を出たあと、患者さんはこう磨いています。歯ブラシに豆粒ほどの歯磨剤を乗せ、1分弱で終え、コップになみなみと水を入れて2回3回とゆすぐ。
同じチューブを渡していても、これでは届く量が違うのではないか——その「違い」を、隣接面といういちばん困る部位で実測したのがこの研究です。
②紙のポイントで、隣接面の唾液だけを取る
スウェーデン・ヨーテボリ大学(サールグレンスカ・アカデミー)の石塚ら(第二所属に東京歯科大学)によるランダム化クロスオーバー試験です。
- シリーズ1:健常成人8名が、8通りの磨き方をすべて経験する(歯磨剤 1cm or 2cm ×時間 1分 or 2分 ×すすぎ水 10mL or 20mL)
- シリーズ2:別の成人8名が、剤形3種(ペースト・ジェル・フォーム)×すすぎ2条件(すすがない or 10mL)=6通りを経験する
- 採取部位は25/26と46/45の隣接面。5×2mmの三角形に切った濾紙のポイントを20秒挟んで、その場所の唾液だけを吸わせる(1枚あたり約4μL)
- 採取はブラッシング前と、2・5・10・30・60分後。フッ素イオン電極で測定し、0〜60分の曲線下面積(AUC)を主要評価項目とした
被験者は12時間前からフッ化物製品を断ち(歯磨剤・錠剤・洗口液・ガム・お茶まで)、来院1時間前からは飲食も禁止。すすぎは使い捨てコップの脱イオン水で10秒と、手順まで統一されています。全身状態が良く、24歯以上あり、刺激時唾液が1.0mL/分を超える人だけが選ばれました。
細かいようですが、この統制があるから「磨き方の違いだけ」を取り出せます。
③736 対 265——2.8倍
いちばん高かったのは2cm・2分・すすぎ10mLの736±113、いちばん低かったのは1cm・1分・すすぎ20mLの265±49。その比は2.8倍(p<0.001)でした。
三つの因子を、それぞれ他の条件をまたいで平均した効果はこうです。
- 歯磨剤の量を1cm→2cmにする:+47.2%(p<0.01)
- すすぎ水を20mL→10mLに減らす:+41.2%(p<0.01)
- ブラッシング時間を1分→2分にする:+26.8%(p<0.01)
もっとも大きいのは量でした。もう一つ目を引くのは、2cm・2分という条件のときだけ、すすぎ水を10mLに減らした効果が跳ね上がっている点です(差は328.1、他の組み合わせでは67〜144)。ただしこの研究は三因子を別々に評価しており、交互作用の検定はしていません。著者らも「三つは完全に独立ではないと考えられる」と、あくまで推測として述べるにとどめています。それでも、たくさん出して長く磨いても、大量の水で流せば持ち去られるという向きは読み取れます。
④ジェルはペーストと同じだった(フッ素量は4割なのに)
ここからは別の8名で行われたシリーズ2です。使われたのはいずれも1,450ppmF(フッ化ナトリウム)の3製品で、ペースト・ジェル・フォームを比べています。
2cm分を秤にかけると、含まれるフッ素量はこれだけ違います。
- ペースト 1.28g(フッ素 1.86mg)
- ジェル 0.52g(フッ素 0.76mg)=ペーストの約4割
- フォーム 0.13g(フッ素 0.19mg)=ペーストの約1割
ところが結果は、ペーストとジェルで有意差なし(すすがない条件で差 −2.3、p=0.93/10mLで差 4.1、p=0.75)。フォームだけが有意に低い(p<0.01)という形でした。
著者らは、ジェルの発泡性の低さを理由に挙げています。泡立たない分、口の中で薄まらず流れ出しにくい。フッ素の総量が4割でも、隣接面に居座る量では並んだ、という読み方です。
そしてすすぎの効果は剤形を問わず一貫していました。すすがない場合と10mLですすいだ場合の差は、ペースト −114.2、ジェル −107.8、フォーム −74.8(いずれもp<0.001)。どの剤形でも、すすげば半分近くが持ち去られます。
⑤明日の臨床へ
- 銘柄を揃えたあとに残る伸びしろは、手順の側にある。同じチューブで2.8倍の差がつくのだから、製品を選び直す前に使い方を見直す価値がある(もっとも、シリーズ2が示すように剤形の違いは無視できません)
- 数字で言う。「たっぷり」ではなく「2cm」、「しっかり」ではなく「2分」、「軽く」ではなく「水は10mL、ペットボトルのキャップ1.5杯ぶん、1回だけ」。曖昧な副詞は、患者さんの手元で必ず縮む
- いちばん効くのは量。時間を延ばすより、まず出す量を見直すほうが伸びしろが大きい(ただし6歳未満の小児は誤飲量の観点から別扱い=この研究の対象は成人である)
- すすぎが苦手な人にはフォームという選択肢。著者らは「フォームは、うがいが上手にできない高齢者や特別な配慮が必要な患者への、フッ化物の投与手段の代替になりうる。その場合はすすがないことの重要性を強調する必要がある」と述べています。ただし「フォームですすがない」と「ペーストですすぐ」を統計的に比べた検定は、この論文にはありません(数値上は152と120ですが、直接比較はされていません)
- ジェルは「フッ素量が少ない=弱い」ではない。総量ではなく、口に残る量で考える
今日のひとこと
歯磨剤2cm・2分・すすぎは水10mL。健常成人8名の試験では、この三つを揃えた条件と最悪の条件で、隣接面のフッ素に2.8倍の開きがあった。銘柄を揃えたあとに残る伸びしろは、手順の側にある。


