エンド|抜去したヒトの単根歯28本を、根尖を接着剤で覆った「閉じた系」(電子顕微鏡と光学顕微鏡の試料はさらにシリコーン印象材に埋めた。マイクロCTの試料は埋める前に撮影)と、根尖孔を30号まで広げてストローで外へつないだ「開いた系」に分け、側面に穴のある洗浄針で同じ手順で洗浄し、マイクロCT・電子顕微鏡・光学顕微鏡で比べた実験室研究(Tay・Pashley ら 2010・Journal of Endodontics)
針で洗浄液を流せば、根尖部まで洗えているのか。Tay らは2010年、抜去歯の根尖を封じた模型(閉じた系)と、根尖を開けた模型(開いた系)を同じ手順で洗浄して比べました。マイクロCTでは、根尖を接着剤で覆った閉じた系の造影剤は根尖まで届かず、根尖に気泡が残りました(ベイパーロック。各群2本)。電子顕微鏡で見た根管壁のデブリスのスコアは、歯冠側・中央・根尖側のすべてで閉じた系のほうが有意に悪く(各群10本、各部位 p<0.001)、スメア層の除去には差を検出しませんでした(最後にMTADで洗浄した条件。p=1.000)。患者の歯ではなく、抜去歯で作った模型の結果です。
①根尖まで、洗浄液は届いている?
根管の拡大が終わり、洗浄針を作業長の少し手前まで入れて、次亜塩素酸ナトリウムを流す。根管は液で満たされているように見えます。でも、いちばん奥の根尖部まで、本当に洗浄液は入れ替わっているのでしょうか。
この問いを、抜去歯の根尖を「閉じた」模型と「開けた」模型で比べたのが、Tay らが2010年に Journal of Endodontics に出した実験室研究です。
・抜去したヒトの単根歯28本を、根尖を接着剤で覆った閉じた系(14本。電子顕微鏡と光学顕微鏡の試料はさらにシリコーン印象材に埋めた)と、根尖孔を30号まで広げてストローで外へつないだ開いた系(14本)に分け(各群14本は、評価ごとの本数2+10+2から筆者が合計)、側面に穴のある洗浄針(サイドベント)で同じ手順で洗浄した
・洗浄後の根管に、同じ側面に穴のある針(作業長の1mm手前)で造影剤を入れてマイクロCTで見ると(各群2本。両群ともシリコーン印象材に埋める前の試料で、閉じた系は根尖を接着剤で覆い、開いた系はストローを付けた段階)、閉じた系では造影剤が根尖まで届かず、根尖に気泡が残った(ベイパーロック)。開いた系では根尖0〜2mmまで届いた
・電子顕微鏡で見た根管壁のデブリス(削りかすなど)のスコアは、歯冠側・中央・根尖側の3つの部位すべてで、閉じた系のほうが有意に悪かった(各群10本、各部位 p<0.001)
・スメア層の除去には、2つの系の間で差を検出しなかった(3つの部位とも p=1.000。最後にMTAD(洗浄液)で洗浄した条件)
・著者らは、根尖の閉じ方が書かれていない研究の結論は慎重に読むべきだとし、この結果は側面に穴のある針での洗浄にだけ当てはまる、と書いている
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、次のように整理しています(引用文献にもとづく著者らの説明)。患者の口の中では、根は歯槽骨に囲まれているので、根管は先の閉じた管として振る舞います。先の閉じた管に液を流し込むと、奥に気体が閉じ込められ、洗浄液が根尖部に届きにくくなる。これがベイパーロックと呼ばれる現象です。
ところが、抜去歯を使った洗浄の研究には、根尖の閉じ方が不十分だったり、書かれていなかったりするものがあります。根尖が開いていれば、液は根尖孔から抜けていくので、閉じた根管とは別の条件で洗浄を調べていることになります。閉じた系と開いた系を、1つの研究の中で比べた報告はまだなかった、と著者らは述べています。
そこで著者らは「閉じた系と開いた系で、スメア層とデブリスの除去に差はない」という仮説(帰無仮説)を立て、それを確かめました。
③何をどう比べたか
・試料:抜去したヒトの単根歯28本を2群に分けた(各群14本。原著に14本の記載は無く、下の評価ごとの本数2+10+2から筆者が合計)。X線写真で根管が1本であることを確かめ、細い根管(33%)と太い根管(67%)が両群で同じ数になるように分けた。歯冠を切って根の長さを17mmにそろえた
・閉じた系:根の表面に接着剤を塗り、根尖を温めて使う柔らかい接着剤で覆ってから、シリコーン印象材(PVS)を入れた透明な筒に埋めた。根尖孔からの液の出入りを止める作り(電子顕微鏡と光学顕微鏡の試料。マイクロCTの試料は筒に埋める前の段階で撮った)
・開いた系:根尖孔を30号のファイルまで広げ、根の表面にストローの切れ端を接着して、根尖孔が外とつながるようにした
・拡大と洗浄:作業長は根尖孔の1mm手前。クラウンダウンで50号・テーパー0.04まで拡大。洗浄は1.3%次亜塩素酸ナトリウムを、側面に穴のある30ゲージの針(作業長の1mm手前)で、器具ごとに1mL。最後にMTAD(洗浄液)1mLを入れて5分置き、さらに4mLで洗浄(毎分5mL)。脱イオン水5mLで流し、ペーパーポイントで乾かした
・評価:①マイクロCT(各群2本):シリコーン印象材に埋める前の段階(閉じた系は根尖を接着剤で覆っただけ、開いた系はストローを付けた状態)で拡大・洗浄し、洗浄後の根管に、側面に穴のある30ゲージの針(作業長の1mm手前)で造影剤(8M塩化セシウム)を入れて撮影。②走査型電子顕微鏡(各群10本):根を縦に割り、根尖から0〜5mm(根尖側)・5〜10mm(中央)・11〜15mm(歯冠側)の根管壁を2,000倍で撮り、スメア層とデブリスをそれぞれ5段階のスコア(1がいちばんきれい)で採点。③光学顕微鏡(各群2本):根尖から0.5〜1mmの脱灰切片を染めて観察
・採点と解析:根管を形成した人とは別の2人が、どちらの系か分からない状態で採点し、食い違いは話し合いで一致させた。各根・各部位の10枚のスコアの中央値を、部位ごとにコクラン・マンテル・ヘンツェル検定で比べた
④結果1:閉じた系では、造影剤が根尖まで届かなかった
マイクロCTの写真では、根尖を接着剤で覆った閉じた系の根管に、側面に穴のある30ゲージの針(作業長の1mm手前)で入れた造影剤は根尖まで届かず、根尖の端に気泡が残っていました(原著の図1E。各群2本で、シリコーン印象材に埋める前の段階の試料)。開いた系では、造影剤は根管の根尖0〜2mmまで届き、気体の閉じ込めは見られませんでした(図1F)。
電子顕微鏡で見ると、閉じた系では根尖から0.5〜1mmの範囲でベイパーロックの影響がいちばん目立ち、デブリスとスメア層の残りが大きく残っていました(結果の本文の記述。原著の図2A・2Bの説明は「根尖2mmの範囲」の写真としている)。開いた系では、スメア層もデブリスもほぼ取り除かれていました(図2)。光学顕微鏡の切片(根尖から0.5〜1mm、各群2本)でも、閉じた系では根管の周りに染まったデブリスが詰まり、開いた系の根管はきれいでした(図3E・3F)。
⑤結果2:デブリスは3つの部位すべてで閉じた系に多く、スメア層は差を検出しなかった
電子顕微鏡のスコアを部位ごとに比べると、デブリスのスコアは、歯冠側(p<0.001)・中央(p<0.001)・根尖側(p<0.001)のすべてで、2つの系の間に有意な差がありました。原著の図3を見ると、閉じた系ではどの部位でもいちばんきれいなスコア1がほとんど無く、根尖側ではスコア3〜4が大半です。開いた系では、歯冠側はほぼスコア1、中央は大半がスコア1で残りがスコア2、根尖側はスコア1と2がほぼ半分ずつでした(下の表2。図から筆者が読み取った大まかな傾向で、原著は図の元の数値を示していない)。
一方、スメア層のスコアは、3つの部位とも2つの系で差を検出しませんでした。著者らは、スメア層のスコアに2つの系の差を検出しなかったと報告しています(p=1.000)。差を検出しなかったことは、スメア層の除去が同じだと証明したことではありません。ただ、この研究の条件(1.3%次亜塩素酸ナトリウムのあと、最後にMTADで洗浄)では、根尖を閉じても開けても、スメア層はほぼ取り除かれていました(図3A・3B)。
⑥著者らの考察と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・結論:デブリスの除去に、3つの部位すべてで差があったので、帰無仮説は棄てられた。根尖のベイパーロックは、根管のデブリスの除去を悪くする(著者らの結論)
・針での洗浄の届く範囲:針で押し出す洗浄では、洗浄液が入れ替わるのは針先から1〜1.5mm先までで、乱れた流れを起こすには速い流量が要る(著者らが引いた文献)。これまでの流れの計算の研究は、根管が洗浄液で完全に満たされている前提で、ベイパーロックの影響は適切には扱われてこなかった(著者ら)
・閉じた系の根尖部:気泡と根管壁の間に液の薄い膜ができ、根尖0.5〜1mmの象牙質が脱灰されたのだろう。それでも、液がよどむ「死水域」では洗浄液が十分に入れ替わらず、デブリスが大きく残った(著者らの解釈)
・ほかの研究の読み方:根尖の閉じ方が書かれていない、または不確かな研究の結論は、慎重に読むべきだ(著者ら)
・当てはまる範囲:この結果は側面に穴のある針での洗浄だけのもので、音波・超音波・陰圧で吸引する器具には広げられない。これらが根尖の気体を追い出せるかは、閉じた系と開いた系の両方で今後確かめる必要がある。洗浄液を満たした根管の中で、根管によく適合するガッタパーチャポイントを手で動かす方法には、気体を追い出す見込みがある(著者らの見通し。この研究では調べていない)
読み方として大事なのは、これは抜去歯で作った模型の実験だという点です。閉じた系は、患者の根尖の状態を、接着剤(電子顕微鏡と光学顕微鏡の試料はさらにシリコーン印象材)で真似たものです。患者の歯で、根尖部の清掃や治りがどう変わるかは調べていません。また、開いた系では根尖孔を30号まで広げていて、根尖孔の大きさも2つの系で違います(筆者の指摘)。デブリスの差のすべてを、気体の閉じ込めだけのせいと決めることはできません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・針で流すだけで根尖部まで洗えている、と思い込まない:根尖を接着剤で覆った歯では、側面に穴のある針の洗浄で根尖に気体が残った(マイクロCT、各群2本)。患者の根管でも同じことが起こるかは、この研究では確かめていない
・気体を追い出す工夫は、この研究の外の話:音波・超音波・陰圧で吸引する器具や、洗浄液を満たした根管でよく適合するガッタパーチャポイントを手で動かす方法について、著者らは今後確かめるべきこととして挙げているだけ。この研究から効果は言えない
なお、この研究は清掃の度合いを電子顕微鏡の写真のスコアで見たもので、細菌の数や、根尖の治り・症状は測っていません。
(2)本数が少ないことも限界です。電子顕微鏡の評価は各群10本、マイクロCTと光学顕微鏡は各群2本の観察で、CTと光学顕微鏡には検定がありません。
(3)根尖孔の大きさも違います。開いた系だけ根尖孔を30号まで広げており、デブリスの差には、気体の有無のほかに根尖孔の大きさが関わった可能性も残ります(筆者の指摘)。
(4)洗浄は側面に穴のある針で押し出す方法だけ、最後の洗浄液はMTADでした。ほかの洗浄液・針・器具に、そのまま当てはめることはできません。
(5)スコアは2人の評価者が、どちらの系か分からない状態で付け、食い違いは話し合いで一致させました。評価者どうしの一致度は示されていません。
(6)研究は所属大学の研究センターの資金で行われ、著者らは研究や資金提供者との金銭的な関係を否定しています(マイクロCTは米国国立歯科・頭蓋顔面研究所の研究費で導入)。著者の1人は Discus Dental 社のコンサルタントと記されています。照合に使ったのは、PubMed Central に公開された著者の受理原稿(最終の誌面の版とは体裁が異なる)です。
今日のひとこと
根尖を封じた抜去歯の模型では、側面に穴のある針で洗浄すると根尖に気泡が残り、デブリスは根管の3つの部位すべてで、根尖を開けた模型より有意に多く残りました。患者の歯で確かめた結果ではありませんが、「根尖が閉じた根管では、針で流しただけでは根尖部の液が入れ替わりにくいかもしれない」と意識すること、そして洗浄の実験を読むときに根尖の閉じ方を確かめること。それが、この論文に合った使い方です。


