エンド|ケイ酸三カルシウム系(バイオセラミック系)の材料 EndoSequence で処置したヒトの歯3本(断髄・再根管治療・逆根管充填)を、事情があって抜いた(または根の先を切り取った)あとに顕微鏡で観察した症例報告(Ricucciら 2020・Journal of Endodontics)
バイオセラミック系の材料は「生体親和性が高い」とよく言われます。ただ、もともと病気のあったヒトの歯で、その材料に触れた組織を見た報告は少ない、と著者らは書いています。治療がうまくいったヒトの歯は抜かれないので、組織を確かめる機会がほとんどないからです。Ricucciらは2020年、事情があって抜いた(または根の先を切り取った)ヒトの歯3本の組織を報告しました。断髄(34日後に抜歯)、再根管治療でシーラーが根尖の外に少し出た歯(7週後に根の先を切除)、逆根管充填(20か月後に抜歯)の3症例とも、EndoSequence の材料に触れた組織に炎症や異物の反応は観察されませんでした。創面には石灰化した壁が、シーラーから少し離れた所には新しい骨梁が、逆根管充填の材料は炎症のない結合組織に包まれ、その上の一部に細胞のあるセメント質の特徴をもつ組織ができていました。ただし、処置ごとに1本ずつの症例報告で、比べる対照の歯はありません。断髄の歯は、抜歯の前に冷たい刺激のあとも痛みが長引いていました。
①バイオセラミック材料に触れたヒトの組織に、炎症は起きる?
「バイオセラミック系の材料は生体親和性が高い」。よく聞く説明です。では、その材料に触れたヒトの歯髄や根尖の組織を、顕微鏡で直接見た報告はどれくらいあるでしょう。
治療がうまくいった歯は、ふつう抜かれません。だから、ヒトの組織がどう反応したかを確かめる機会はほとんどありません。Ricucciらが2020年に Journal of Endodontics に報告したのは、事情があって抜くことになった(または根の先を切り取った)ヒトの歯3本の組織の観察です。3本とも、ケイ酸三カルシウム系(いわゆるバイオセラミック系)の材料 EndoSequence を使って処置されていました。
・断髄(34日後に抜歯)、再根管治療でシーラーが根尖の外に少し出た歯(7週後に根の先を切除)、逆根管充填(20か月後に抜歯)の3症例で、材料に触れた組織に炎症や異物の反応は観察されなかった
・断髄の歯では創面に石灰化した連続した壁ができ、その下の歯髄に炎症は見られなかった。根尖の外に出たシーラーの周りでは、少し離れた所に新しい骨梁ができていた。逆根管充填の歯では、炎症のない結合組織が材料を包み、一部では細胞のあるセメント質の特徴をもつ石灰化した組織が材料の上にできていた
・ただし、症例報告(ヒトの歯3本・処置ごとに1本)で、比べる対照の歯はない。著者ら自身も「症例報告のエビデンスレベルは低い」と書いている
・断髄の歯は、抜歯の前の検査で冷たい刺激への反応が弱く、刺激のあとも痛みが長引いていた。組織の所見と症状は分けて読みたい
②なぜこの報告に意味があるのか
ケイ酸三カルシウム系の材料は、逆根管充填、穿孔の封鎖、アペキシフィケーション、生活歯髄療法、再生歯内療法、そして最近はシーラーにも使われています。著者らによれば、市販の製品は20種類を超えます。生体親和性や「バイオアクティブ」(体の組織と反応して硬組織の形成に関わる性質)は、実験室や動物の研究で報告されてきました(著者らは考察で、症例1の所見を「実験室と動物の研究で報告された生体親和性とバイオアクティブな性質を裏づけるもの」と書いています)。
著者らは序論で、この材料が登場してからの25年で総説はたくさん出ているのに、長期の臨床成績を調べた研究は少なく、もともと歯髄や根尖に病気のあったヒトの歯に使ったあとの組織の反応を報告したものはさらに少ない、と書いています。うまくいった歯を、組織を見るために抜くことは倫理的に許されないからです。
③何をどう調べたか
3つの症例とも、治療計画や手術の都合で、歯を抜く(または根の先を切り取る)ことになっていました。
・症例1(断髄):62歳の男性。歯周病で残りの歯を全部抜いて総義歯にする予定でしたが、抜歯の1か月前に上顎の犬歯(原著の歯番号6)が冷たい物にしみると訴え、全部の歯を同じ日に抜けるよう、その歯の断髄に同意しました。歯髄の診断は正常。ラバーダムのもとで歯髄を約2mm除去し、次亜塩素酸ナトリウムで洗って止血したあと、EndoSequence BC Sealer を創面に置き、仮封しました。34日後に抜歯。
・症例2(再根管治療):47歳の女性。上顎前歯部に感染した鼻口蓋管嚢胞があり、すでに根管治療されていた上顎右側犬歯(歯番号6)にも根尖の透過像がありました。再根管治療で、ガッタパーチャと EndoSequence BC Sealer をシングルコーン法で充填し、エックス線でシーラーが根尖の外にわずかに出ていました。7週後、嚢胞を摘出する手術で、この歯の根の先も一緒に切り取りました。
・症例3(逆根管充填):54歳の女性。根管治療済みの上顎小臼歯(歯番号13)に根尖の透過像があり、根の先3分の1にファイルの破折片がありました。根の先を切除し、EndoSequence BC Sealer と EndoSequence BC RRM のパテを併せて逆根管充填しました(シーラーは原文で low-density material と書かれています)。20か月後、インプラントの荷重の直前に、治療計画どおり抜歯しました。
抜いた歯・切り取った根の先は、ホルマリンに浸して脱灰し、パラフィンに埋めて厚さ5μmの切片にしました。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色と、細菌を染める染色(Brown and Brenn 法の変法)で、光学顕微鏡で観察しています。所見は切片の記述的な観察で、炎症の程度を数えたり点数を付けたりした評価は報告されていません。
※歯番号は原著の米国式の番号です。部位は筆者が番号から読み替えました(症例2の上顎右側犬歯は原著の図2の説明にも書かれています)。
④結果:3症例とも、材料に触れた組織に炎症は観察されなかった
症例1(断髄・34日):創面には、石灰化の徴候のある、連続した組織の壁ができていました。壁の中には細胞が取り込まれ、歯髄側は線維芽細胞に似た細胞が並び、象牙細管の構造はありませんでした。壁の下の歯髄には炎症がなく、断髄で触れなかった髄室の壁には象牙芽細胞の層が保たれていました。細菌の染色では、窩洞に細菌は見つかりませんでしたが、歯頸部の根面のむし歯にかかった象牙細管には多くの細菌がいました。なお、この歯の歯髄には、もともと歯髄結石やびまん性の石灰化、むし歯に反応した第三象牙質がありました。
症例2(再根管治療・7週):根尖の外に出たシーラーは、根尖の病変の組織の中にありました。その周りに、炎症細胞や、異物に反応する多核の巨細胞は見られませんでした。細かくなったシーラーの粒子が線維芽細胞やコラーゲン線維の間にあり、一部は線維芽細胞の細胞質の中にも見えました。材料から少し離れた所には、骨芽細胞が並ぶ新しい骨梁ができていました。細菌の染色では、根管と根尖の組織に細菌は見つかりませんでした。
症例3(逆根管充填・20か月):4か月後のエックス線で根尖の病変は治っていて、20か月後まで保たれていました。抜いた歯の根の先では、材料と接する組織に炎症の反応はまったく見られず、線維性の結合組織(線維芽細胞・コラーゲン線維・血管)が材料を包んでいました。材料の粒子が少し、炎症のない結合組織の中に散らばっていました。材料の上の組織が石灰化している所もあり、切除した根面を覆う組織とつながって、細胞のあるセメント質の特徴を示していました。一方、根の先から約4mmの横断切片では、根管の壁と象牙細管の中にわずかな細菌の集まりが見られました。
⑤結果の読み方
著者らのまとめは、「3症例に共通していたのは、観察した期間はそれぞれ違うものの、ケイ酸三カルシウム系の材料に触れた組織に炎症や異物の反応がなかったこと」です。そして、手術した場所の近くの象牙細管に細菌がいても、傷の治りは速く、セメント質や新しい骨梁で失われた組織が修復・再生されていた、と書いています。
著者らは考察で、症例3で根尖の組織に炎症がなかったことを、材料の封鎖性を裏づけるもの、と解釈しています(根管の中には細菌がいたため)。また症例1で、むし歯にかかった象牙細管に細菌がいても硬組織の壁ができたのは、第三象牙質の透過性が低く、細菌の産物が広がりにくかったためではないか、と考えています。どちらも組織像からの解釈で、この報告の中で確かめたものではありません。
著者らは、実験室・動物で示されてきた生体親和性とバイオアクティブな性質を、ヒトの組織で示した報告だと位置づけています。同時に、症例報告はエピソードの集まりなので、エビデンスレベルは低い、とも明記しています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この報告の価値は、「バイオセラミック系の材料は組織にやさしい」という実験室や動物での話を、もともと歯周病や根尖の病変があったヒトの歯の組織で見た、数少ない観察だという点です。断髄、根尖の外に出たシーラー、逆根管充填という、臨床で実際に出会う3つの場面がそろっています。
一方で、3本の歯を見た報告です。どのくらいの割合の歯でうまくいくのか、ほかの材料と比べてどうか、には答えていません。根尖の外に出たシーラーの周りに炎症が見られなかった(症例2)からといって、「シーラーを根尖の外に出しても構わない」という根拠にはなりません。また症例1は、組織では炎症のない歯髄が見られた一方、抜歯の前には冷たい刺激のあとに痛みが長引いていました。組織の所見と症状は、分けて考えたいところです。
バイオセラミック系の材料を選ぶ理由の一つとして心に留めつつ、無菌的な処置と緊密な封鎖という基本の上に置いて読みたい1本です。
(1)症例報告で、処置ごとに歯は1本ずつ、比べる対照の歯はありません。著者らも「症例報告のエビデンスレベルは低い」と書いています。
(2)処置の内容、材料の使い方(症例3はシーラーとパテを併用)、組織を採取するまでの期間(症例1は34日後に抜歯、症例2は7週後に根の先を切除、症例3は20か月後に抜歯)が歯ごとに違います。3本の結果を合わせて「この材料は必ずこうなる」とは言えません。
(3)所見は切片の記述的な観察で、炎症の程度などを数えたり点数を付けたりした評価は報告されていません。
(4)考察の、亜鉛華ユージノール系シーラーでは7週で強い炎症が残っていたという比較は、筆頭著者らが書籍で報告した別の症例との比較で、この研究の中の対照ではありません。
(5)症例1の歯は、もともと歯周病で動揺があり、歯髄に結石や石灰化がありました。抜歯の前には冷たい刺激のあとに痛みが長引いていました。
(6)著者らは利益相反なしとしています。研究資金の記載はありません。
ヒトの組織での手がかりとして価値のある1本です。成績や比較の答えは、臨床研究の続報で確かめていきたいところです。
今日のひとこと
EndoSequence で処置したヒトの歯3本では、材料に触れた歯髄や根尖の組織に炎症や異物の反応は観察されず、症例ごとに石灰化した壁・新しい骨梁・一部にセメント質の特徴をもつ組織が見られました。実験室や動物の話を、ヒトの組織で見た貴重な観察です。ただし、処置ごとに1本ずつの症例報告で、比べる対照も成績の割合もありません。「ヒトの組織でもこう見えた」という手がかりとして受け取り、成績や比較の答えは臨床研究で確かめる。そんな読み方が合う1本です。


