エンド|粉液タイプのカルシウムシリケート系シーラー(BioRoot RCS)を使ったシングルコーン法と、酸化亜鉛ユージノール系シーラー(Pulp Canal Sealer EWT)を使った温かい垂直加圧充填を、4年間追った単一施設のランダム化比較試験(Bardiniら 2025・International Endodontic Journal)
シーラーを流してガッタパーチャを1本入れるだけのシングルコーン法。手軽ですが、長い目で見て成績は落ちないのか。Bardiniらは、大学病院でこの問いをランダム化比較試験で調べ、2025年に4年目の結果を報告しました。92本の歯を2つの方法に割り付け、4年の時点で評価できた67本(BioRoot RCS+シングルコーン 38本、Pulp Canal Sealer EWT+温かい垂直加圧 29本)で、成功率は緩い基準(治った+治りつつある)で 92.1% と 86.2%、厳しい基準(治った)で 86.8% と 約76〜79%(後者は原著の図と表で値が違う)でした。どちらの基準でも、群間の有意差は検出されませんでした。抜歯・充填の短さ・空隙・シーラーの押し出しにも有意差は検出されていません。ただし、解析できた歯は少なく、追跡できなかった歯は温かい垂直加圧の群で多く(46本中17本)、「同じ成績」と言い切れる設計(同等性・非劣性の試験)ではありません。
①バイオセラミックシーラーのシングルコーンで、4年の成績は落ちる?
バイオセラミック系のシーラーを流して、ガッタパーチャを1本入れて終わり。シングルコーン法は手早く、器具も少なくて済みます。一方で「温かい垂直加圧のほうが緊密に詰まるのでは」「長い目で見ると成績が落ちるのでは」と迷う場面もあるのではないでしょうか。
この問いをランダム化比較試験で調べたのが、イタリア・カリアリ大学の Bardini らです。粉と液を練るタイプのカルシウムシリケート系シーラー BioRoot RCS を使ったシングルコーン法(BIO群)と、酸化亜鉛ユージノール系シーラー Pulp Canal Sealer EWT を使った温かい垂直加圧(PCS群)を比べ、2025年に International Endodontic Journal で4年目の結果を報告しました。
・92本の歯を2つの方法に46本ずつ割り付け、4年の時点で評価できたのは67本(BIO群38本、PCS群29本)
・4年の成功率は、緩い基準(治った+治りつつある)で BIO群 92.1%・PCS群 86.2%。厳しい基準(治った)で BIO群 86.8%・PCS群 約76〜79%(PCS群の値は原著の図と表で違う)
・どちらの基準でも、群間の有意差は検出されなかった。抜歯・充填が短い・空隙・シーラーの押し出しにも、有意差は検出されなかった
・ただし解析できた歯は少なく、追跡できなかった歯は PCS群で多かった(46本中17本、BIO群は46本中8本)。「同じ成績」と言い切れる設計(同等性・非劣性の試験)ではない
②なぜこの研究が必要だったか
根管充填の質は、根管治療の成否を左右する因子の一つです。著者らは序論で、ヨーロッパ歯内療法学会の指針を引いて、失敗の約40〜60%が根管系の不十分な充填と関連すると紹介しています。
そこに登場したのが、カルシウムシリケート系のシーラーです。水分があっても硬化して封鎖する性質(水硬性)を持ち、組織の液に触れるとカルシウムイオンを出して表面に水酸化カルシウムやアパタイトをつくる、と説明されています。BioRoot RCS は2015年に出た粉液タイプのシーラーで、シングルコーン法か冷たい側方加圧で使うものとして紹介されました。
ただ、こうしたシーラーの多くは実験室で比べられてきたもので、中期〜長期の追跡をしたランダム化比較試験は少ない、と著者らは書いています。同じ研究班は、この試験の1年目の結果で、2つの方法の成績が同じように良好だったと報告していました。今回は、その2年目と4年目の結果です。
③何をどう調べたか
・デザイン:単一施設のランダム化比較試験(大学病院の外来・2016年5月〜2017年12月に登録)
・対象:18〜80歳の全身状態の良い患者さん(ASA分類 I・II)の、初回または再治療の根管治療が必要な永久歯(単根・複根)。治療できない歯・中等度以上の歯周炎の歯・亀裂や穿孔などで予後の悪い歯は除いた
・割り付け:56人92本。その日の1人目の患者さんをコイン投げでどちらかに割り付け、2人目からはその日のうちは交互に割り付けた(各群46本)。患者さんにはどちらの群かを知らせなかった
・術者と手順:4人の歯内療法の大学院生。ラバーダム下で、ProTaper Next で少なくとも X2 まで形成、5.25%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し、最後に生理食塩水で洗った(再治療はガッタパーチャを溶剤と器具で除去してから)
・BIO群:作業長にぴったり合うガッタパーチャのマスターコーンに BioRoot RCS を付けて入れ、余ったガッタパーチャを加熱した器具で切った(シングルコーン法)
・PCS群:Pulp Canal Sealer EWT を付けたマスターコーンを、加熱プラガー(SuperEndo Alpha 2)で切って加圧し、残りを加熱したガッタパーチャの注入(SuperEndo Beta 2)で埋めた(continuous wave 法)
・修復:コンポジットレジンで歯冠側を封鎖。全部被覆が必要な歯は、紹介元の歯科医師が1か月以内に被せた
・評価:1・3・6・12・24・48か月に、臨床症状とデンタルエックス線写真で評価。根尖の状態は、訓練を受けた2人の評価者がどちらの群かを知らない状態で、PAI(根尖周囲の指数。1が健全で5まで)で点数を付けた
・成功の基準:「治った」=症状がなく働いていて PAI 1。「治りつつある」=症状がなく働いていて、病変が小さくなっている(PAI 1より大きい)。厳しい基準は「治った」だけを、緩い基準は「治った」と「治りつつある」を成功に数えた。病変や症状のために抜歯した歯は失敗
・解析:1人から複数の歯が入るため、歯を単位に、患者さんの中での相関を考える方法(GEE)でロジスティック回帰。BIO群に女性が多かったため、性別を調整して解析した
④結果:4年の成功率に、群間の有意差は検出されなかった
割り付けた92本のうち、2年目と4年目の診察に来られなかった25本(BIO群8本、PCS群17本)は解析から外れ、4年の時点で解析できたのは67本(45人)でした。初回の根管治療が50本、再治療が17本です。
緩い基準(治った+治りつつある)では、BIO群 35/38本(92.1%)、PCS群 25/29本(86.2%)。厳しい基準(治った)では、BIO群 33/38本(86.8%)、PCS群は表1で23本(表の割合は78.6%)、図2aでは75.9%でした。どちらの基準でも、群間の有意差は検出されませんでした(性別などを調整した解析で p>.05)。
根尖病変のあった歯だけ(BIO群27本、PCS群25本)で比べても同じで、緩い基準で 88.9% と 88.0%、群間の有意差は検出されませんでした。
副次的な結果も、群間の有意差は検出されませんでした。抜歯は BIO群 3本(7.9%)、PCS群 4本(13.8%)で、7本とも2年目までに抜歯されていました。充填が短かった歯は 3本と4本、空隙は 0本と3本(PCS群だけ。正確検定で p=.076)、エックス線でシーラーの押し出しが見えた歯は 13本(34.2%)と13本(44.8%)でした。
根尖病変のあった歯では、PAI が4年までにすべての歯で下がり、時間とともに有意に低下しました。下がり方に、群による違いは検出されませんでした(原著の図3・表4)。
⑤結果の読み方
著者らは、BioRoot RCS を使ったシングルコーン法は、従来の温かい垂直加圧と比べて「少なくとも同じくらい信頼できるようだ」と結論しています。2年目・4年目の結果は、1年目の結果と一致していた、とも書いています。
ここで押さえておきたいのは、「有意差が検出されなかった」ことと「同じ成績だと示された」ことは違う、という点です。この試験は、同等性や非劣性を確かめるための設計ではありません。そして4年で解析できたのは67本で、PCS群は29本でした。数字の上では BIO群のほうが高めでしたが、この差も有意ではありませんでした。
もう一つ、この試験は「シーラー」と「充填法」を組にして比べています。BioRoot RCS+シングルコーン法と、Pulp Canal Sealer EWT+温かい垂直加圧です。成績の違いがなかったとしても、シーラーと充填法のどちらがどう効いたのかは分けられません。
⑥明日の臨床へ
この結果は、「シングルコーン法にすると長期の成績が落ちるのでは」という心配に対して、1つの臨床試験のデータを示してくれます。4年追っても、温かい垂直加圧より成績が悪い方向の有意差は見られませんでした。
ただし、前提があります。この試験の BIO群は、作業長にぴったり合うマスターコーンを選び、少なくとも X2 まで形成して、5.25%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄したうえでのシングルコーン法でした。シーラーを流してコーンを入れる工程だけを真似しても、同じ結果になるとは限りません。また、使ったのは粉液タイプの BioRoot RCS で、ほかのバイオセラミック系シーラー(練らずに使うプレミックス型など)にそのまま当てはまるかは、この試験からは分かりません。
楕円形や幅の広い根管では、シングルコーン法で空隙が増えやすいとする報告もある、と著者らは考察で触れています。この試験では、超音波などによるシーラーの撹拌は行っていません。根管の形に合わせて充填法を選ぶ、という基本の上で、シングルコーン法を選択肢の一つとして考えるための1本です。
(1)1施設の試験で、4年で解析できたのは67本(45人)です。事前の計算で必要とした数は各群41本でしたが、PCS群は29本でした。有意差が検出されなかったことを、「同じ成績」の証明とは読めません。
(2)2年目・4年目に来られなかった歯は、BIO群46本中8本、PCS群46本中17本と偏っていました。来られなかった歯の経過によっては、結果が変わる可能性があります。
(3)割り付けは、その日の1人目だけをコイン投げで決め、あとは交互に割り付ける方法でした。前もって隠された乱数による割り付けではありません。
(4)シーラーと充填法を組にした比較です。どちらの違いが効いたかは分けられず、BioRoot RCS 以外のシーラーに当てはまるかも分かりません。治療したのは4人の大学院生です。
(5)初回の根管治療(50本)と再治療(17本)を合わせて解析しています。根尖の評価は、デンタルエックス線写真(2次元の画像)と PAI によるものです。
(6)原著の中で数字が合わない箇所があります。厳しい基準の PCS群の成功率は、図2aで75.9%、表1で23本・78.6%(表1の本数から筆者が計算すると23/29本=79.3%)。原著の解析(表2)では群間の有意差は検出されていませんが、厳しい基準の PCS群の正確な成功数・割合は、この記載だけでは確定できません。
(7)資金はイタリア歯科医師会(ANDI)の一部助成で、著者らは利益相反なしとしています。
シングルコーン法の長期成績を、ランダム化比較試験で4年まで追った1本。より大きな試験での確認を待ちたい結果です。
今日のひとこと
BioRoot RCS を使ったシングルコーン法と、Pulp Canal Sealer EWT を使った温かい垂直加圧。4年で評価できた67本では、成功率・抜歯・充填の質のどれにも、群間の有意差は検出されませんでした。シングルコーン法を選ぶ根拠の一つにはなります。ただし、1施設の少ない歯数で、追跡できなかった歯は温かい垂直加圧の群で多く、「同じ成績」と言い切れる設計ではありません。シーラーと充填法を組にして比べているので、どちらの違いが効いたかも分けられません。形成と洗浄の手順をそろえた上での比較だった、という前提ごと持ち帰りたい1本です。


