エンド|練和の要らないバイオセラミック系の根管シーラー EndoSequence BC Sealer と、エポキシ系の AH Plus の、エックス線不透過性・pH・カルシウムイオンの溶出・流れを、シーラー単体の試料で比べた実験室研究(Candeiroら 2012・Journal of Endodontics)
バイオセラミック系のシーラーは、製造元の説明ではアルカリ性とされます。Candeiroらは2012年、練和の要らない EndoSequence BC Sealer(以下 BC Sealer)と AH Plus を、シーラー単体の試料で比べました。BC Sealer の pH は3〜240時間のすべての時点で 10.31〜11.21 と、AH Plus(7.17〜7.81)より有意に高く、カルシウムイオンの溶出も24時間を除く4時点で有意に多い結果でした。流れ(広がった円盤の直径の平均)は BC Sealer 26.96 mm、AH Plus 21.17 mm。エックス線不透過性の平均は BC Sealer 3.834 mm Al で AH Plus(6.936 mm Al)より有意に低かったものの、ISO の基準の 3 mm Al は超えていました。歯や患者さんでの成績を測った研究ではなく、試料はエックス線不透過性と流れが各材料5個、pH が各材料8個での結果です(カルシウムイオンの測定の試料数は原著に記載が見当たりません)。
①BC Sealer と AH Plus、シーラーの物性はどう違う?
バイオセラミック系のシーラーに替えてみたい。でも、エックス線写真で見えにくくならないか。流れすぎて根尖から出ないか。製造元が説明するアルカリ性や、カルシウムイオンの溶出は、実際に測るとどのくらいなのか。AH Plus に慣れた手で切り替えるとき、気になるのはこのあたりではないでしょうか。
この疑問に、材料の物性の数字で答えようとしたのが、Candeiroらが2012年に Journal of Endodontics に報告した実験室研究です。練和の要らない(既に練られた状態で出てくる)バイオセラミック系のシーラー EndoSequence BC Sealer(以下 BC Sealer)と、2つのペーストを練って使う AH Plus を、シーラー単体の試料で比べました。測ったのは、エックス線不透過性、pH、カルシウムイオンの溶出、流れの4つです。
・pH は、3〜240時間のすべての時点で BC Sealer が有意に高かった(BC Sealer 10.31〜11.21、AH Plus 7.17〜7.81)
・カルシウムイオンの溶出は、24時間を除く4つの時点と合計で BC Sealer が有意に多かった(合計 BC Sealer 2.585 mg/L、AH Plus 0.797 mg/L)
・流れ(広がった円盤の直径の平均)は BC Sealer 26.96 mm、AH Plus 21.17 mm で、BC Sealer が有意に大きかった
・エックス線不透過性の平均は BC Sealer 3.834 mm Al で、AH Plus の 6.936 mm Al より有意に低かった。ただし ISO 6876/2001 の基準(3 mm Al 以上)は超えていた
・いずれもシーラー単体の試料での実験室の結果で、歯や患者さんでの成績は測っていない
②なぜこの比較が必要だったか
著者らは序論で、バイオセラミック系の材料をこう紹介しています。ケイ酸カルシウムとリン酸カルシウムを組み合わせた材料で、製造元によれば、アルカリ性の pH、抗菌性、エックス線不透過性、生体親和性を持つ。硬化の途中でハイドロキシアパタイトを作り、象牙質と充填材とのあいだに結合を作ることも利点とされる。ここまでは、著者らが引いた文献と製造元の説明にもとづく整理です。
BC Sealer は、酸化ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、リン酸一カルシウム、水酸化カルシウムなどを含み、練和の要らない形で供給されます。象牙細管のように水分のある環境で硬化するように作られている、と著者らは書いています(象牙質は体積の約20%が水)。
一方で、当時は製造元から独立した研究がまだ少ない状態でした。そこで著者らは、BC Sealer の物性を測り、AH Plus と比べました。
③何をどう測ったか
・エックス線不透過性(各材料5個):直径10mm・厚さ1mmの金属リングにシーラーを詰め、37℃で硬化させた試料を、1〜10mmのアルミニウムの階段(1mm刻み)と一緒に撮影。写真の濃さを、同じ濃さになるアルミの厚さ(mm Al)に換算しました。比べるために、抜去歯の根から切り出した厚さ1mmの象牙質も一緒に撮っています。ISO 6876/2001 の方法です。
・流れ(各材料5個):0.05 mL のシーラーをガラス板にのせ、練和の開始から3分後に上からガラス板と重りで合計120gを載せ、練和の開始から10分の時点で外して、広がった円盤の最大と最小の直径を測りました。これも ISO 6876/2001 の方法です。
・pH(各材料8個):長さ10mm・内径1mmのポリエチレンの管にシーラーを詰め、37℃の脱イオン水10mLに浸けて、3・24・72・168・240時間に測りました。測るたびに新しい水の管へ移した、と原著にあります。
・カルシウムイオンの溶出:同じ5つの時点の溶出量(mg/L)を、原子吸光分光光度計で測りました。試料の作り方・試料数・浸けた液の条件は、原著のカルシウムの節には書かれていません(pH と同じ試料かどうかも明記がありません)。
統計は分散分析と Tukey の検定で、P<.05 を有意としています。pH とカルシウムイオンは、時点ごとに2つの材料を比べています。
④結果:pH・カルシウム・流れは BC Sealer が上、不透過性は AH Plus が上
エックス線不透過性(平均 ± 標準偏差)は、BC Sealer 3.834 ± 0.346 mm Al、AH Plus 6.936 ± 0.462 mm Al で、BC Sealer が有意に低い結果でした。それでも、ISO の基準の 3 mm Al は超えています。同じ厚さ1mmの象牙質は 1.045 ± 0.200 mm Al でした。なお抄録では 3.84 と 6.90 mm Al と書かれていて、結果の節の値と少し違います。
流れ(広がった円盤の直径の平均 ± 標準偏差)は、BC Sealer 26.96 ± 0.68 mm、AH Plus 21.17 ± 0.39 mm で、BC Sealer が有意に大きく広がりました。ISO の基準は20mm以上で、どちらも満たしています。
pH は、BC Sealer が 10.31(3時間)から 11.21(168時間)、AH Plus が 7.17〜7.81 で、5つの時点すべてで BC Sealer が有意に高い結果でした。対照は 6.90 で、浸ける前に測った脱イオン水の pH(6.9)と同じ値です。
カルシウムイオンは、BC Sealer のほうが多く出ていました。ただし24時間の時点だけは、BC Sealer 0.204 mg/L、AH Plus 0.182 mg/L で、有意差は検出されていません。両方の材料とも、168時間の時点の値がいちばん高く(BC Sealer 1.108 mg/L、AH Plus 0.635 mg/L)、合計は BC Sealer 2.585 mg/L、AH Plus 0.797 mg/L でした。
ひとつ気になる点があります。原著の表3の AH Plus の5つの時点の値を筆者が足すと 1.101 mg/L になり、表の合計 0.797 mg/L と合いません(BC Sealer は足すと 2.585 mg/L で一致します)。どちらが正しいかは、原著からは分かりません。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、BC Sealer のエックス線不透過性と流れは ISO 6876/2001 の推奨に合っており、ほかの物性もシーラーとして好ましい値だった、というものです。
製造元は BC Sealer の pH を 12.8 としていますが、この研究で測れた最も高い値は 11.21 でした。著者らは考察で、pH が11近いと根管に残った Enterococcus faecalis が生き残れないこと、硬組織の形成を促す仕組みが pH とカルシウムの放出に関係するとされること、カルシウムが多く出るのはケイ酸カルシウムの水和の反応によると考えられることを書いています。これらは著者らが引いた文献にもとづく説明や推測で、この研究で細菌や組織を使って確かめたことではありません。
168時間でカルシウムの溶出がいちばん多かったことについても、著者らは「水分のある環境での最終的な硬化が160〜240時間で起きるという報告と関係するかもしれない。確かめるにはさらに研究が要る」と書いています。また考察の中では、pH の最高値を「10日後に 11.21」と書いていますが、表2で 11.21 なのは168時間(7日)の値です。
流れについて、著者らは「流れが大きいと、峡部や側枝に入りやすい一方で、根尖の外へ押し出される可能性も高くなる。細胞毒性が低いと報告されていても、過剰充填は避けるべき」と書いています。さらに、硬化した BC Sealer にはファイルが入りにくく、通常の再根管治療では取り切れないことがある、という別の研究(Hess ら)も引いています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
BC Sealer に切り替えるときに、この数字から気にしておきたいのは2つです。ひとつは流れ。AH Plus より大きく広がったので、根尖を越えないように詰めることが、いつも以上に大事になりそうです。もうひとつはエックス線写真での見え方。BC Sealer の不透過性の平均は ISO の基準は満たしていますが、AH Plus の平均の約55%でした(3.834÷6.936、筆者の計算)。AH Plus と同じ感覚で術後のエックス線写真を見ると、シーラーの写り方が違って見える可能性があります。
アルカリ性であることと、カルシウムが出ることは、この研究でも数字で示されました(ただし pH の最高値 11.21 は、製造元の説明の 12.8 より低い値でした)。ただし、それで細菌が減るのか、根尖の病変が治りやすくなるのかは、この研究では測っていません。そこは臨床研究の結果で判断したいところです。
また、再根管治療になった時に取りにくい可能性も、著者らは引いています。シーラーを選ぶときの材料の一つとして読みたい1本です。
(1)シーラー単体の試料を使った実験室研究です。根管の中での広がり方や封鎖、細菌、根尖の治癒、患者さんの痛みや成績は測っていません。
(2)試料は、エックス線不透過性と流れが各材料5個、pH が各材料8個と少数です。カルシウムイオンの測定の試料数は原著に記載が見当たりません。pH とカルシウムイオンの表には標準偏差が載っていません。
(3)比べたのは BC Sealer と AH Plus の2製品だけです。ほかのバイオセラミック系のシーラーに、そのまま当てはまるとは限りません。
(4)原著の中に、数の食い違いがいくつかあります。エックス線不透過性は抄録(3.84・6.90 mm Al)と結果の節(3.834・6.936 mm Al)で少し違います。表3の AH Plus のカルシウムの合計(0.797 mg/L)は、5つの時点の値を足した値(1.101 mg/L、筆者の計算)と合いません。考察の「10日後に pH 11.21」は、表2では168時間(7日)の値です。
(5)抄録は「pH とカルシウムイオンの溶出は実験期間を通じて BC Sealer が多かった」と書いていますが、表3では24時間のカルシウムイオンに有意差は検出されていません。
(6)抗菌性や硬組織の形成、象牙質との結合については、著者らが引いた文献にもとづく考察で、この研究では確かめていません。
(7)著者らは利益相反はないと書いています。資金の記載は見当たりません。
BC Sealer の「アルカリ性で、よく広がり、エックス線不透過性は AH Plus より低い」という性格を、数字でつかむための1本、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験室研究では、BC Sealer は AH Plus より pH が高く、カルシウムイオンの溶出が多く、よく広がり、エックス線不透過性は低いものの ISO の基準は満たしていました。ただし、測ったのはシーラー単体の物性で、細菌が減るか・根尖の病変が治るかは調べていません。よく広がる分、根尖を越えないように詰めること。エックス線不透過性が AH Plus より低いこと。BC Sealer を使うときは、この2つを頭に置いておきたい1本です。


