1問1答 論文 保存修復

歯肉縁下のCRに、歯肉の上皮細胞は付くのか?——ヒト歯肉上皮の細胞株を使った実験室研究では、作ったばかりのコンポジットレジンの試料に、細胞を播いて4時間後に付着した細胞(CRの4条件それぞれの平均)は播いた細胞の1.1〜5.5%で、ウシのエナメル質(平均43%)より少なかった(各条件n=3)。細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとの試料では、作ったばかりの試料より、細胞を播いて4時間後の付着細胞の密度が高かったが、各条件2個の試料の値で、筆者が表3を見比べるとエナメル質の値には届いていない(Boloori 2020)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|2種類のコンポジットレジン(TEGDMAを含むものと含まないもの)を、十分に硬化または部分的に硬化させた試料に、ヒト歯肉上皮の細胞株 Ca9-22 を播き、4時間後の付着・細胞毒性・遺伝子の発現を、ウシのエナメル質や培養用プラスチックと比べた実験室研究(Bolooriら 2020・European Cells and Materials)

窩洞の辺縁が歯肉縁より下になれば、コンポジットレジン(CR)は歯肉の上皮細胞とじかに接します。Bolooriらは2020年、CRの試料にヒト歯肉上皮の細胞株を播き、付着した細胞を数えました。作ったばかりのCRの試料に、細胞を播いて4時間後に付着していた細胞は、CRの4条件それぞれの平均で、播いた細胞の1.1〜5.5%。ウシの歯のエナメル質の試料では平均43%でした(原著の結果の本文の値。図5の説明で n=3)。細胞を入れない培地に37℃で8日間浸して成分を溶出させたあとのCRの試料では、細胞を播いて4時間後に付着した細胞の密度が、作ったばかりの試料より高くなっていました(原著の表3の試料ごとの値で、溶出後のCRは1mm²あたり578〜1308個。作ったばかりのCRは30〜387個、エナメル質は1436個と1459個)。ただし、これは1回の実験で各条件2個の試料の値で、検定は示されていません。作ったばかりの試料に付着した細胞の割合について、著者らは、TEGDMAを含むCRも含まないCRもエナメル質より有意に少なく、十分に硬化させた試料と部分的に硬化させた試料のあいだに有意な違いはなかった、と述べています。著者らは、CRが上皮細胞に与える負の影響は一過性かもしれないと結ぶ一方で、そのあいだにバイオフィルムができて封鎖を妨げるかもしれない、とも書いています。細胞株を使った実験室研究(in vitro)で、口の中での上皮の付着を調べた研究ではありません。

論文
Gingival epithelium attachment to well- or partially cured resin composites
著者
E. Boloori, T. Schoenmaker, C.J. Kleverlaan, B.G. Loos, T.J. de Vries(オランダ・Academic Center for Dentistry Amsterdam(ACTA)歯周病学講座・歯科材料学講座)
掲載
European Cells and Materials 2020;40:259-275
種類
実験室研究(in vitro)。コンポジットレジンは Filtek Supreme XTE(3M ESPE。TEGDMAを含む)と ELS(Saremco Dental。TEGDMAを含まない)。直径5.3mm・高さ1mmの円板3枚をカバーガラスをはさんで重ね、上から10秒光照射(998mW/cm²)し、上の円板を「十分に硬化」、下の円板を「部分的に硬化」の試料とした(計4条件)。対照は、ウシの切歯のエナメル質の試料(研磨)と、培養用プラスチック。ヒト歯肉上皮の細胞株 Ca9-22 を、試料の作製から2時間以内に1ウェルあたり10万個播き、37℃で4時間培養。付着した細胞を走査型電子顕微鏡と共焦点顕微鏡で数えた。CRの試料を細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとの付着、その培地(溶出液)と細胞を含む培地を等量で合わせて4時間培養したときのプラスチックへの付着(原著の図6、n=9)、細胞毒性(LDH)、代謝の活性(alamarBlue)、遺伝子の発現(IL1B・IL6・MMP2・BCL2・BAX・SOD2・BCL6・ITGAV・ITGA4。qPCR。対照はプラスチックの上の細胞)も調べた。一元配置分散分析とTukeyの検定(有意水準5%)
資金・利益相反
オランダ歯周病学会(NVvP)の資金の援助。著者らは、利益相反はなく、材料の企業に金銭的な利害はないと明記している
PMID
33242338

①歯肉縁下のCRに、歯肉の上皮細胞は付くのか?

隣接面のう蝕を削っていくと、窩洞の辺縁が歯肉縁より下になることがあります。そこにコンポジットレジン(CR)を詰めれば、修復物は歯肉の上皮細胞とじかに接します。エナメル質には接合上皮が付着して、口の中と体の内側を隔てる封鎖を作っています。同じことは、CRの表面でも起こるのでしょうか。

この問いを培養細胞で調べたのが、Bolooriらが2020年に European Cells and Materials に報告した実験室研究です。作ったばかりのCRの試料と、細胞を入れない培地に37℃で8日間浸して成分を溶出させたあとのCRの試料に、ヒト歯肉上皮の細胞株を播き、付着した細胞の数を数えました。

結論を先に書きます。
・作ったばかりのCRの試料に、細胞を播いて4時間後に付着していた細胞は、CRの4条件それぞれの平均で播いた細胞の1.1〜5.5%。ウシの歯のエナメル質の試料では平均43%だった(原著の結果の本文の値。図5の説明で n=3)。著者らは考察で、この割合はTEGDMAを含むCRも含まないCRもエナメル質より有意に少なく、十分に硬化させた試料と部分的に硬化させた試料のあいだに有意な違いはなかった、と述べている
・細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとのCRの試料では、細胞を播いて4時間後に付着した細胞の密度が、作ったばかりの試料より高かった(原著の表3の試料ごとの値で、溶出後のCRは1mm²あたり578〜1308個。作ったばかりのCRは30〜387個、エナメル質は1436個と1459個)。ただし、これは1回の実験で、各条件2個の試料の値。検定は示されていない
・細胞を播いて4時間後、CRの一部の条件に付着した細胞では、炎症などに関わる遺伝子(IL6、MMP2、BCL6、ITGA4)の発現が、培養用プラスチックの上の細胞より有意に高かった(原著の図9、n=12。エナメル質の上の細胞では測っていない)
・著者らは、CRが上皮細胞に与える負の影響は「一過性かもしれない」と結んでいる。細胞株を使った実験室研究(in vitro)で、口の中での上皮の付着や、歯周組織の状態を調べた研究ではない

②なぜこの実験が必要だったか

著者らは序論で、こう整理しています。CRは、メタクリレート系のモノマーの混合物(粘度を下げるためのTEGDMAなどを含む)と、フィラーからできている。光で重合させても、多くの場合は重合が不完全で、結合していないモノマーが表面から溶け出すことは避けられない。溶け出しの多くは修復から0〜8日のあいだに起こるが、その後も年単位で続きうる。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。

先行研究では、モノマーが歯肉の線維芽細胞に用量に応じた毒性を示すこと、CRへの上皮細胞の付着が対照の材料より少ないこと、モノマーに触れた細胞で炎症性サイトカインの産生が増えることが報告されていました。そこでメーカーは、TEGDMAを含まないCRを開発しています。著者らが使った ELS もその1つで、メーカーはTEGDMAを含まないぶん生体適合性が高いと説明している、と著者らは書いています。

この研究の目的は、TEGDMAを含むCRと含まないCRを、十分に硬化させた場合と部分的に硬化させた場合に分けて、歯肉上皮の細胞の付着を調べることでした。あわせて、細胞毒性、細胞の活性、遺伝子の発現も調べています。

③何をどう比べたか

CRは2種類です。Filtek Supreme XTE(3M ESPE。TEGDMAを含む)と、ELS(Saremco Dental。TEGDMAを含まない)。直径5.3mm・高さ1mmの円板の試料を作りました。

硬化の程度は2通りです。円板3枚を、あいだにカバーガラスをはさんで重ね、上から10秒だけ光照射します(998mW/cm²)。いちばん上の円板を「十分に硬化」、いちばん下の円板を「部分的に硬化」の試料として使いました。2種類のCR×2通りの硬化で、4条件です。

対照は、ウシの切歯から作った同じ大きさのエナメル質の試料(研磨紙で研磨)と、培養用のプラスチック(試料を入れないウェル)です。

細胞は、ヒト歯肉上皮の細胞株 Ca9-22 です。試料を作ってから2時間以内に、1ウェルあたり10万個の細胞を播き、37℃で4時間培養しました。評価は次のとおりです。

・細胞の付着:細胞を播いて4時間後に固定し、走査型電子顕微鏡(SEM)と共焦点顕微鏡で数えた(付着した細胞の割合は原著の結果の本文の値。図5の説明で n=3。図5そのものは1mm²あたりの細胞数の図)
・溶出後の試料への付着:CRの試料を、細胞を入れない培地に37℃で8日間浸してから取り出し、同じ手順で細胞を播いて、4時間後に数えた(1回の実験、各条件2個の試料。原著の表3)
・溶出液の影響:試料を細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとの培地(溶出液)75µLと、細胞を含む培地75µL(1ウェルあたり10万個)を等量で合わせてウェルに入れ、37℃で4時間培養して、ウェルの底のプラスチックに付着した細胞を数えた(3回の実験の合計で9個。原著の図6、n=9)
・細胞毒性:壊れた細胞から培養液に出る酵素(LDH)を測り、試料を入れずに培養した細胞を0%、全ての細胞を壊した条件を100%とした割合で表した(原著の図1、n=12)
・細胞の活性:代謝の活性(alamarBlue)を、プラスチックの上の細胞を1として表した(原著の図2、n=9)
・遺伝子の発現:炎症、タンパク分解、細胞死、活性酸素、付着に関わる遺伝子(IL1B・IL6・MMP2・BCL2・BAX・SOD2・BCL6・ITGAV・ITGA4)をqPCRで測った(試料に付着した細胞の結果は原著の図9、n=12。対照はプラスチックの上の細胞)

統計は、一元配置分散分析とTukeyの検定です(有意水準5%)。遺伝子の発現は、2倍以上の差があり、かつ統計的に有意なものを、生物学的に意味のある差としています。

④結果:作ったばかりのCRには、細胞が付きにくかった

図1:作ったばかりの試料に4時間で付着した細胞の割合と、細胞毒性(各条件の平均。原著の本文) 試料 付着した細胞の割合 細胞毒性(LDH) Filtek Supreme XTE・十分に硬化 5.5% 35% Filtek Supreme XTE・部分的に硬化 1.1% 57% ELS・十分に硬化 2.6% 41% ELS・部分的に硬化 4.8% 51% ウシのエナメル質(対照) 43% 1% 付着した細胞の割合=播いた細胞(1ウェルあたり10万個)のうち、4時間後に試料に付着していた細胞の割合。 細胞毒性=細胞を播いて4時間培養したときに、壊れた細胞から出る酵素(LDH)の量。試料を入れずに培養した細胞を0%、 全ての細胞を壊した条件を100%とした割合(原著の図1、n=12)。 細胞毒性の有意差の記載は原著の中で食い違う。図1の説明と考察では、エナメル質はコンポジットレジンの4条件のどれ とも有意に違う(p<0.05)。結果の節の本文は、部分的に硬化させた2条件について、対照との差は有意でなかったと書 いている。 Filtek Supreme XTE=TEGDMAを含むコンポジットレジン。ELS=TEGDMAを含まないコンポジットレジン。 ヒト歯肉上皮の細胞株(Ca9-22)を使った実験室研究(in vitro)。数値は原著の結果の節の本文に書かれた平均で、 5つの条件の全て。付着した細胞の割合は各条件 n=3(原著の図5の説明)。
図1:作ったばかりの試料に、細胞を播いて4時間後に付着していた細胞の割合(図5の説明で n=3)と、細胞毒性(図1の説明で n=12)。どちらも原著の結果の節の本文に書かれた各条件の平均。

作ったばかりの試料に、細胞を播いて4時間後に付着していた細胞は、ウシのエナメル質で播いた細胞の平均43%でした(原著の結果の本文の値。図5の説明で n=3)。CRでは、十分に硬化させた Filtek Supreme XTE で5.5%、部分的に硬化させた同じCRで1.1%、十分に硬化させた ELS で2.6%、部分的に硬化させた ELS で4.8%です。著者らは本文で「エナメル質にはCRのおよそ7倍の細胞が付着した」と書き、考察で、CRの種類(TEGDMAの有無)にかかわらず有意に少なかった、十分に硬化させた試料と部分的に硬化させた試料のあいだに有意な違いはなかった、と述べています。

細胞を播いて4時間培養したときの細胞毒性(LDH)は、結果の節の本文の値では、エナメル質の試料で平均1%、CRの4条件で平均35〜57%でした(原著の図1、n=12)。有意差の記載は、原著の中で合いません。図1の説明と考察では、エナメル質はCRの4条件のどれとも有意に違う(p<0.05)とされ、抄録も、作ったばかりのCRの試料で細胞毒性が有意に高かったと書いています。一方、結果の節の本文は、部分的に硬化させた2条件(Filtek Supreme XTE と ELS)について「細胞毒性があるように見えたが、対照との差は有意ではなかった」と書いています(補助線(6))。

図2:付着した細胞の密度(1mm²あたりの個数。試料1・試料2の値。原著の表3) 試料 作ったばかりの試料 培地に8日間浸した試料 Filtek Supreme XTE・十分に硬化 309・151 694・602 Filtek Supreme XTE・部分的に硬化 263・127 851・578 ELS・十分に硬化 329・30 1308・855 ELS・部分的に硬化 387・330 731・796 ウシのエナメル質(対照) 1459・1436 (実施なし) 1回の実験で、各条件2個の試料の値。検定は示されていない。 培地に8日間浸した試料=細胞を入れない培地に37℃で8日間浸し、成分を溶出させたあとの試料。細胞を播いて4時間後に 数えた。 Filtek Supreme XTE=TEGDMAを含むコンポジットレジン。ELS=TEGDMAを含まないコンポジットレジン。 ヒト歯肉上皮の細胞株(Ca9-22)を使った実験室研究(in vitro)。原著の表3の全ての値。
図2:作ったばかりの試料と、細胞を入れない培地に37℃で8日間浸して溶出させた試料に、細胞を播いて4時間後に付着した細胞の密度(原著の表3の全ての値)。1回の実験、各条件2個の試料。

次に、溶出の影響です。細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとのCRの試料では、細胞を播いて4時間後に付着した細胞の密度が、4条件とも、作ったばかりの試料より高くなっていました。著者らは本文で「2.5〜14倍」、考察では「3倍」と書いています。ただし、表3は1回の実験で、各条件2個の試料の値です。検定は示されていません。エナメル質の試料の値は1mm²あたり1436個と1459個で、溶出後のCRの値(4条件×各2個の試料。578〜1308個)は、どれもこれを下回っています(筆者が表3を見比べた読み取りで、原著はこの比較を書いていません)。

溶出液そのものの影響も調べられています。試料を、細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとの培地(溶出液)75µLに、細胞を含む培地75µL(1ウェルあたり10万個)を等量で合わせてウェルに入れ、37℃で4時間培養して、ウェルの底のプラスチックに付着した細胞を数えました(3回の実験の合計で9個。原著の図6、n=9)。部分的に硬化させた Filtek Supreme XTE と、ELS の2条件(十分に硬化・部分的に硬化)の溶出液では、プラスチックへの細胞の付着が、エナメル質の試料の溶出液に比べて、50%以上、有意に減りました。十分に硬化させた Filtek Supreme XTE の溶出液は、図6の記号ではエナメル質の溶出液と有意な違いが示されていません。

遺伝子の発現は、細胞を播いて4時間後に試料に付着していた細胞で測り、培養用プラスチックの上の細胞を対照にして比べています(原著の図9、n=12)。IL6 と MMP2 は、部分的に硬化させた Filtek Supreme XTE と、十分に硬化させた ELS に付着した細胞で、およそ7倍(p<0.05)。BCL6 は、部分的に硬化させた Filtek Supreme XTE、十分に硬化させた ELS、部分的に硬化させた ELS で5倍。細胞どうしの付着に関わる ITGA4 は、部分的に硬化させた Filtek Supreme XTE と十分に硬化させた ELS で、最大10倍でした(p<0.05)。BCL2、SOD2、ITGAV には、条件のあいだで有意な違いは検出されませんでした。IL1B と BAX の変化は、著者らが意味のある差とした2倍の基準に届いていません。エナメル質の上の細胞では、遺伝子の発現は測られていません。

⑤結果の読み方

著者らの結論はこうです。CRは、TEGDMAの有無や硬化の程度にかかわらず、Ca9-22 歯肉上皮細胞の付着に負の影響を与え、これらの細胞に細胞毒性と炎症性の作用を示す。ただし、少なくとも1週間溶出させた試料では上皮細胞が付着する力がかなり高まるので、これらの影響は一過性のように見える。

結論の「少なくとも1週間溶出させた試料」にあたる実験は、細胞を入れない培地に37℃で8日間浸した試料に細胞を播き、4時間後に付着していた細胞の密度を、作ったばかりの試料と比べたものです。1回の実験で、各条件2個の試料の値で、検定は示されていません。また、結論にある細胞毒性については、有意差の記載が原著の中で合いません(④と補助線(6))。

そして、但し書きが続きます。その1週間のあいだに、修復物の表面に新しいバイオフィルムができ、接合上皮の細胞がきちんとした封鎖を作るのを妨げるかもしれない、と。実験で付着した細胞の密度が高かったのは、細胞を入れない培地に8日間浸したあとの試料ですが、口の中ではその間に細菌の定着が先に進んでいる可能性がある、という指摘です。これは著者らの考察で、この実験がバイオフィルムを扱ったわけではありません。

著者らは考察で、TEGDMAを含まない ELS でも、含む Filtek Supreme XTE と同じような影響(細胞毒性・細胞の活性・炎症に関わる遺伝子の発現・付着)が見られたとし、TEGDMA以外の溶け出す成分も大きな役割を果たしうる、と述べています。ただし細胞の活性は、図2の説明と考察では ELS と Filtek Supreme XTE のあいだに有意な違いがあるとされ、原著の中で記載が合いません(補助線(5))。口の中では唾液が絶えず飲み込まれるので、溶け出したモノマーは実験の8日間よりずっと早く取り除かれるかもしれない、とも書いていますが、これも確かめられてはいません。作ったばかりのCRに細胞が付きにくい仕組みは「分かっていない」と著者ら自身が書いています。

⑥明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。

この実験が教えてくれるのは、「詰めた直後のCRの表面は、歯肉の上皮細胞にとって居心地のよい場所ではないかもしれない」という見方です。そしてそれは、時間がたって成分が溶け出すと変わるかもしれない。歯肉縁下にCRの辺縁を置く修復で、術直後の歯肉の反応をどう見るか、いつ評価するかを考えるときの、材料の1つになります。

ただし、ここから「1週間たてば上皮はCRに付着する」とは言えません。使われたのは細胞株で、見たのは播いてから4時間の付着です。接合上皮が作る付着の構造を確かめた実験ではありません。溶出後の試料の値は各条件2個だけで、エナメル質の値には届いていません。口の中では、唾液も、プラークも、歯肉溝滲出液もあります。

著者らの但し書き(その1週間のあいだにバイオフィルムができるかもしれない)を踏まえると、歯肉縁下にCRを置いたあとの最初の時期に、修復物の表面をどう清潔に保つかが気になります。この実験が清掃の効果を調べたわけではありませんが、そう考えるきっかけをくれる実験です。

ここだけ、冷静に補助線歯肉縁下のCRと上皮の関係という、臨床では確かめにくい問いに、細胞の実験で迫った1本です。そのうえで、読むときの補助線をいくつか。
(1)実験室研究(in vitro)です。ヒト歯肉上皮の細胞株(Ca9-22)を、CRの円板の上で4時間培養しています。患者さんの口の中での上皮の付着や、歯周組織の状態を調べた研究ではありません。
(2)溶出後の試料の実験(表3)は、1回の実験で、各条件2個の試料です。検定は示されていません。抄録は、溶出後の付着と細胞毒性が「ウシのエナメル質と同程度になった」とまとめていますが、表3の値を筆者が見比べると、溶出後のCRはエナメル質を下回っています。結果の節にも「8日間培地で溶出させた試料では、細胞の付着は対照の水準に戻っていた」という一文がありますが、数値は示されていません。溶出後の細胞毒性の数値は、結果の節に見当たりません。
(3)溶出後の付着が「何倍」かは、原著の中で揺れがあります(結果の節では2.5〜14倍、考察では3倍)。
(4)対照のエナメル質は、ウシの歯を研磨したものです。遺伝子の発現は、エナメル質の上の細胞では測られていません(著者ら自身が挙げた限界)。遺伝子の結果は、培養用プラスチックとの比較です。
(5)細胞の活性(alamarBlue。原著の図2、n=9)について、結果の節は「ELS と Filtek Supreme XTE のあいだに有意な違いはなさそう」と書き、図2の説明と考察は「有意な違いがある」としています。原著の中で食い違っているので、この記事では主な結果として扱っていません。抄録の「CRの条件(TEGDMAの有無・硬化の程度)のあいだに有意な違いはなかった」というまとめとも合わないので、この記事では、そのまとめを、考察で対象を特定している付着の割合についての記述に絞って引いています。
(6)細胞毒性(原著の図1、n=12)の記載にも、原著の中で合わない所があります。結果の節の本文は、平均の値(CRの4条件で35〜57%、エナメル質で1%)を挙げたうえで、部分的に硬化させた2条件(Filtek Supreme XTE と ELS)について「細胞毒性があるように見えたが、対照との差は有意ではなかった」と書いています。十分に硬化させた2条件について、結果の節の本文は有意かどうかを書いていません。一方、図1の説明と考察は、エナメル質はCRの4条件のどれとも有意に違う、としています(抄録も、作ったばかりのCRの試料で細胞毒性が有意に高かったと書いています)。図1の棒の高さも、本文の値とは合って見えません。この記事は本文の値を引用し、有意差は原著の中の記載の食い違いとして、両方を紹介しました。
(7)作ったばかりの試料への付着(図5、n=3。図5は1mm²あたりの細胞数の棒グラフで、割合は結果の本文の値)には、図の中に検定の印がありません。「有意に少ない」は、抄録と考察の記述によります。
(8)CRは2製品、硬化の条件は「重ねた円板の上と下」という作り方です。製品や照射の条件が変われば、結果が変わるかもしれません。
(9)研究は、オランダ歯周病学会(NVvP)の資金の援助を受けています。著者らは、利益相反はなく、材料の企業に金銭的な利害はないと明記しています。
歯肉縁下に置いたCRと歯肉の上皮の関係を考える手がかりをくれる研究(口の中で確かめた結果ではありません)、という位置づけで読むのがよさそうです。

今日のひとこと

この実験が示したのは、作ったばかりのコンポジットレジンの試料には、歯肉上皮の細胞株が付きにくかったということです(細胞を播いて4時間後に付着していた細胞は、CRの4条件それぞれの平均で播いた細胞の1.1〜5.5%。ウシのエナメル質では平均43%。原著の結果の本文の値。図5の説明で n=3)。細胞を入れない培地に37℃で8日間浸したあとの試料では、細胞を播いて4時間後に付着していた細胞の密度が作ったばかりの試料より高く、著者らは、負の影響は一過性かもしれないと結んでいます。ただし、溶出後の値は1回の実験・各条件2個の試料のもので、筆者が表3を見比べると、エナメル質の値には届いていません。著者ら自身、そのあいだにバイオフィルムができて封鎖を妨げるかもしれない、と書いています。細胞株を4時間培養した実験室研究で、口の中での上皮の付着や歯周組織の状態は調べていません。歯肉縁下に置いたCRと歯肉の上皮の関係を考える手がかりの1つ(口の中で確かめた結果ではない)、という位置づけで読みたい1本です。

Boloori E, Schoenmaker T, Kleverlaan CJ, Loos BG, de Vries TJ. Gingival epithelium attachment to well- or partially cured resin composites. Eur Cell Mater. 2020;40:259-275. doi: 10.22203/eCM.v040a16. PMID: 33242338
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。