1問1答 論文 虫歯

う蝕の「透明層」は、いちばん硬い層なのか?——う蝕のある抜去第三大臼歯の象牙質を、硬さ・X線・電子顕微鏡で同じ場所について見比べた観察研究では、Knoop硬さの最高部は正常な領域と弱透明層の境界にあり、細管が結晶でふさがった強透明層は、すでに硬さが下がった所にあった(小川 1981)

1問1答 論文 カリオロジー

カリオロジー|う蝕のある抜去第三大臼歯(透明層が象牙質の中央約3分の1にあるもの)と健全歯の象牙質を、肉眼、Knoop硬さ、研磨標本、マイクロラジオグラム、走査・透過電子顕微鏡で観察した研究(小川和男 1981・口腔病学会雑誌)。硬さを測った圧痕を目印に、同じ場所を各方法で見比べている。調べた歯の本数の記載はなく、統計処理もない

う蝕の下にある「透明層」。象牙細管が石灰化物でふさがり、X線を通しにくく、硬化層とも呼ばれてきました。では、透明層はいちばん硬い層なのでしょうか。小川は1981年、う蝕のある抜去第三大臼歯の象牙質を、歯髄側の正常な領域から透明層、さらに細菌の入った表層側まで、複数の方法で同じ場所について見比べました。Knoop硬さの曲線の最高部は、正常な領域と弱透明層の境界にあり、ほとんどの細管が結晶でふさがった強透明層は、隣の正常な象牙質より硬さが明らかに下がった所にありました。強透明層では、細管の中は主に斜方形の結晶で埋まってX線透過性がはっきり低下している一方、細管の壁の層と細管のあいだの象牙質では結晶が減っていました。著者は、強透明層にはすでにう蝕の影響が及んでいる、と結論しています。ただし、抜去歯の形態を観察した研究で、調べた歯の本数は書かれておらず、統計処理もありません。どこまで削るかや、治療の成績を調べた研究ではありません。

論文
ウ蝕象牙質における透明層の構造変化に関する観察(Observations on Structure of Transparent Layer in Carious Dentin)
著者
小川和男(東京医科歯科大学歯学部 第1歯科保存学教室〈主任・指導:総山孝雄教授〉、口腔解剖学教室〈指導:一條尚教授〉)
掲載
口腔病学会雑誌 1981;48(1):104-151(和文の原著。1980年12月25日受付)
種類
抜去歯の形態を観察した研究。健全歯は主に第三大臼歯(一部はほかの臼歯)、う蝕歯は第三大臼歯で、透明層が象牙質の中央約3分の1にあるものを使った。調べた歯の本数の記載はない。歯を縦に半切し、(1)肉眼と実体顕微鏡で色調を観察、(2)微小硬度計でKnoop硬さを測定(荷重50g・15秒・50μmおき。う蝕の表層の中央から象牙細管と平行に歯髄壁まで。隣の正常な領域も同様)、(3)同じ試料を厚さ50〜60μmの研磨標本にして透明層を観察(無染色、カルボールフクシン染色)、(4)マイクロラジオグラムでX線透過性を観察、(5)トルイジンブルー染色切片を光学顕微鏡で観察、(6)走査電子顕微鏡(割断面、研磨面、0.1規定塩酸15秒の酸腐蝕面)と透過電子顕微鏡(未脱灰の超薄切片、切片上での0.001規定塩酸による酸腐蝕)で観察。硬さ測定の圧痕で位置を確かめながら、同じ場所の所見を対比した。第二象牙質ができて細管の走向が大きく変わった領域は除いた。統計処理はなく、所見の記述と、写真(図1、図3〜60)、硬さの曲線(図2)、模式図(図61)で示されている
資金・利益相反
資金や利益相反についての記載は論文中に見当たらない
PMID
6942064

①う蝕の「透明層」は、いちばん硬い層なのか

う蝕を取り進めていくと、どこかで手ごたえが変わります。その先にあるとされるのが「透明層」です。象牙細管が石灰化物でふさがり、X線を通しにくい。そのため「硬化層」とも呼ばれてきました。名前からは、周りより硬い層を思い浮かべます。では、実際に測ると、透明層はいちばん硬い所にあるのでしょうか。

この問いに、同じ歯の同じ場所を複数の方法で見比べることで答えたのが、小川が1981年に口腔病学会雑誌に報告した研究です。東京医科歯科大学の総山孝雄教授と一條尚教授の指導による、48頁の原著です。

結論を先に書きます。
・研磨標本で見ると、透明層は透明度の強い「強透明層」と、弱い「弱透明層」に分かれた。肉眼で透明感のある層は、強透明層にほぼ一致した
・Knoop硬さの曲線の最高部は、正常な領域と弱透明層の境界にあった。強透明層は、隣の正常な象牙質より硬さが明らかに下がった所にあった
・象牙細管は、透明層のすぐ歯髄側から狭くなりはじめ、弱透明層では多くが、強透明層ではほとんどが結晶でふさがっていた。強透明層の細管は主に斜方形の結晶で埋まり、X線透過性がはっきり低下していた
・その強透明層で、細管の壁の層と細管のあいだの象牙質では、結晶の減少がみられた。著者は、強透明層にはすでにう蝕の影響が及んでいると結論した
・着色層では、細管をふさぐ結晶が溶けて細管が中空になり、さらに表層側で細菌が入っていた
・う蝕のある抜去第三大臼歯の形態を観察した研究。調べた歯の本数の記載はなく、統計処理もない。どこまで削るかや治療の成績は調べていない

②なぜこの研究が必要だったか

著者は緒言で、透明層についての研究の歴史をこう整理しています。う蝕象牙質の透明層は古くから記載されており、象牙細管が石灰塩でふさがることでできること、X線透過度が低いことが分かってきた。この頃から「硬化層」という名前も併用されるようになった。その後は電子顕微鏡による観察も加わった、と。

ところが、所見は研究者によって分かれていました。研磨標本のマイクロラジオグラムでは、透明層にほぼ一致してX線透過性が下がるという報告が多い一方、上がる場合もあるという報告や、透明層とX線透過性の変化は必ずしも一致しないという報告もありました。

著者が特に問題にしたのは、次の点です。臨床で手ごたえとして感じる硬さの変化を裏づける所見が明らかにされていないため、う蝕の治療を合理的にする根拠を確立できなかった。これに対して奥瀬らは、肉眼的な色調の変化に合わせてう蝕象牙質の硬さを測り、細菌の侵入の深さとの関係を調べていました。さらに、う蝕象牙質には、生理的に再石灰化しうる第2層と、しえない第1層の区別があることが分かってきた、と著者は書いています。ここまでは、著者が引いた文献にもとづく整理です。

そこでこの研究は、透明層に的をしぼりました。肉眼の所見と硬さの曲線で位置を確かめながら、光学顕微鏡、マイクロラジオグラム、走査・透過電子顕微鏡で、象牙細管と管間象牙質の構造の変化を観察しています。

③何をどう調べたか

材料は抜去歯です。健全歯の観察には主に第三大臼歯を、う蝕歯の観察には第三大臼歯で、透明層が象牙質の中央約3分の1の領域にあるものを使いました。調べた歯の本数は、論文に書かれていません。

この研究の工夫は、同じ場所を、いくつもの方法で見るところにあります。まず歯を縦に半切し、断面を肉眼で観察する。次に断面を研磨し、微小硬度計でKnoop硬さを測る。荷重は50g、時間は15秒、50μmおきに、う蝕の表層の中央から象牙細管と平行に歯髄壁まで測りました。隣の正常な領域も、同じように測っています。

硬さを測ると、表面に小さな圧痕が残ります。著者はこの圧痕を目印にしました。同じ試料を薄い研磨標本にして透明層の位置を確かめ、マイクロラジオグラムでX線透過性を見る。さらに走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡で、圧痕の位置を頼りに、歯髄側から表層側へと順に観察していきます。「硬さがここから下がりはじめた、その場所の細管はどうなっているか」を直接つなげるための方法です。

用語を整理しておきます。原著は、本来の象牙細管の壁の内側にできる、結晶が緻密に集まった層を intratubular layer(この記事では「細管の壁の層」)、細管と細管のあいだを intertubular dentin(「細管のあいだの象牙質」)と呼んでいます。そして、細管の壁の層のさらに内側に結晶が沈着して細管を狭くしたりふさいだりする層を、innermost layer と呼んでいます。

統計処理はありません。結果は、所見の記述と、写真(図1、図3〜60)、硬さの曲線(図2)、模式図(図61)で示されています。

④結果:硬さの山は、正常な領域と弱透明層の境界にあった

まず、層の区別です。断面を肉眼で見ると、表層側に着色層があり、その歯髄側に、透明感があってわずかにアメ色がかった層が見えました。研磨標本にすると、この透明感のある層にほぼ一致して、透明度の強い層が見えます。著者はこれを「強透明層」と呼びました。さらにその歯髄側、正常な領域との移行部に、透明度の弱い層があり、これを「弱透明層」と呼んでいます。透明度は、歯髄側に向かうほど弱くなっていました。

層ごとの所見を、2つの表にまとめました。

図1:う蝕のある象牙質の、層ごとの所見(象牙細管の中と、その周り) 層 象牙細管の中 細管の周りの象牙質 着色層(細菌が入った所) 中空。細菌が入る 結晶は著しく溶ける 着色層(透明層の近く) 結晶が溶け、多くは中空 結晶の減少が進む 強透明層 ほとんどが閉鎖(主に斜方形の結晶) 結晶の減少がみられる 弱透明層 多くが閉鎖(微細な板状の結晶) 顕微鏡では正常との違いを認めず 透明層の直下 多くが狭くなる(微細な板状の結晶) 顕微鏡では正常との違いを認めず 正常な領域(歯髄側) 中空のものが多い 正常 表層側を上、歯髄側を下に並べた。原著の所見と結論を筆者が表に整理したもの。強透明層・弱透明層=研磨標本で見た透 明層のうち、透明度の強い部分と弱い部分。 う蝕のある抜去第三大臼歯(透明層が象牙質の中央約3分の1にあるもの)の観察。調べた歯の本数の記載はなく、統計処理 もない。 細管の周りの象牙質=原著の intratubular layer(細管の壁の層)と intertubular dentin(細管のあいだの象牙質)。 所見は細管や歯によって違いがあり、表は「多くの細管」での様子をまとめたもの。
図1:う蝕のある象牙質の、層ごとの所見(象牙細管の中と、その周り)。表層側を上、歯髄側を下に並べた。原著の所見と結論を、筆者が表に整理したもの。数値ではなく、所見の記述をまとめている。
図2:う蝕のある象牙質の、層ごとの所見(X線透過性とKnoop硬さ) 層 X線透過性 Knoop硬さ 着色層(細菌が入った所) 表層側ほど高い 測れないことが多い 着色層(透明層の近く) やや高い 大部分は測れない 強透明層 はっきり低い 隣の正常部より明らかに低い 弱透明層 ほとんどの場合、わずかに低い 下がりはじめる 透明層の直下 差を認めない例と、低い例 境界で最も高い 正常な領域(歯髄側) ほぼ均一 歯髄側ほど低い 表層側を上、歯髄側を下に並べた。原著の所見と結論を筆者が表に整理したもの。強透明層・弱透明層=研磨標本で見た透 明層のうち、透明度の強い部分と弱い部分。 う蝕のある抜去第三大臼歯(透明層が象牙質の中央約3分の1にあるもの)の観察。調べた歯の本数の記載はなく、統計処理 もない。 X線透過性は、研磨標本のマイクロラジオグラムで、隣の正常な領域と比べたもの(低い=X線を通しにくい)。 Knoop硬さの最高部は、正常な領域と弱透明層の境界にあった。「下がりはじめる」などは硬さの曲線と圧痕の幅からの記 述で、数値は原著の本文に載っていない。
図2:同じ層ごとの、X線透過性とKnoop硬さ。原著の所見と結論を、筆者が表に整理したもの。

硬さ。歯髄側から透明層に向かって、Knoop硬さは上がっていきます。そして、透明層のすぐ歯髄側(著者の言う「透明層直下」)と弱透明層の移行部あたりで、最高になりました(結論では「正常な領域と弱透明層との境界部」と表現されています)。弱透明層に入ると硬さは下がりはじめ、強透明層では、隣の正常な象牙質の同じ深さの硬さと比べて、明らかに低くなっていました。強透明層より表層側は、軟化のため大部分が測定できません。著者は「透明層はすでに軟化した領域に存在している」と書いています。

象牙細管の中。透明層のすぐ歯髄側で、細管の壁の層の内側に、微細な板状の結晶が現れます。これで多くの細管が狭くなっていました。弱透明層では、この結晶が細管の中央に向かって沈着し、多くの細管がふさがります。強透明層になると、ほとんどの細管が完全にふさがっていました。弱透明層から強透明層へ移るわずかな部分では大きな板状の結晶が、強透明層の大部分では斜方形の結晶が、石垣のように緻密に細管を満たしていました。

細管の周り。筆者が特に注目したのは、ここです。弱透明層(と、強透明層へ移るわずかな部分)までは、細管の壁の層にも、細管のあいだの象牙質にも、正常な象牙質との違いは見られませんでした。ところが強透明層の大部分では、細管の壁の層で結晶のあいだが広がり、結晶の密度と大きさが減っていました。細管のあいだの象牙質でも、結晶が溶けて減っている部分が見られるようになります。細管の中は結晶で詰まっているのに、周りの象牙質からは結晶が減りはじめている、という状態です。

X線。マイクロラジオグラムでは、透明層のすぐ歯髄側でX線透過性が下がりはじめ、強透明層ではその範囲にほぼ一致して、はっきり低下していました。著者は、周りの結晶がわずかに減っているのにX線透過性が下がるのは、ほとんどの細管が緻密な結晶でふさがるためだろう、と考察しています。

酸への抵抗。切片の上で酸を作用させると、弱透明層の細管をふさぐ微細な板状の結晶は、周りの象牙質の結晶とほぼ同時に溶けました。一方、強透明層の斜方形の結晶は、周りの結晶が溶けたあともしばらく残り、さらに長く作用させると溶けました。

表層側。透明層を越えて着色層に入ると、細管をふさいでいた結晶は細管の中央から消えていき、ほとんどの細管が中空になります。さらに表層側では、細管の中に細菌が見られるようになり、細管の壁の層は細菌の侵入の程度に応じて薄くなって消え、細管のあいだの象牙質の結晶も著しく溶けていました。

健全歯との比較も行われています。健全歯の象牙質でも、表層では細管が微細な板状の結晶で狭くなったり、ふさがったりしているものがありました。ただ、う蝕のある歯では、健全歯の同じ位置と比べて、この結晶の形成が進んでいました。著者は、う蝕があると細管をふさぐ層の形成が健全歯より早く進むことが分かった、と述べています。

⑤結果の読み方

著者は、所見から次のように考察しています。

透明に見える理由について。強透明層では、周りの象牙質に変化が始まっていても、細管がふさがっているので透明度が高い。透明層より表層側では、細管が中空になっているので不透明に見える。このことから、透明層が透明に見えるのは、主に細管がふさがることによる、と著者は考えました。

硬さについて。弱透明層では、細管の壁の層も細管のあいだの象牙質も、電子顕微鏡では正常と違いが見られず、しかも多くの細管がふさがっていました。それなのに硬さは下がりはじめています。著者は、これらの部分がすでにう蝕の影響を受け、結晶が減っていることも考えられる、と書いています。これは観察で確かめた事実ではなく、著者の推測です。

結晶の正体について。著者は、斜方形の結晶をウィットロカイトとする他の研究者の見解を紹介しています。ただ、この研究自体は、結晶の成分を分析していません。大きな板状の結晶と斜方形の結晶の関係も、「目下のところ明らかでない」としています。

そして、清水が記載した「う蝕象牙質第2層」との対応です。著者は、清水の第2層は、自分の所見では、透明層と、それより表層側で細菌のいない部分までの領域に相当すると思われる、と述べています。

⑥明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。

この論文は、どこまで削るかを調べた研究ではありません。それでも、日々の判断の土台になる整理を1つくれます。「透明に見える」「X線を通しにくい」「硬い」は、同じ場所を指しているとは限らない、ということです。細管が結晶でふさがって透明に見え、X線を通しにくくなっている層でも、硬さはすでに下がっていました。「硬化層」という名前から受ける印象と、測った硬さは、ずれていたわけです。

硬さを頼りに「硬い所まで」取ろうとすると、どこに行き着くか。この研究の所見では、硬さの最高部は正常な領域と弱透明層の境界にありました。表層側からそこまで追えば、細管が結晶でふさがった強透明層と弱透明層を通り越すことになります。もちろん、手の感覚とKnoop硬さは同じものではありませんし、この研究は臨床の切削を調べていません。ただ、「硬さだけを基準にすると取りすぎるかもしれない」という問題意識の出どころを、形態の面から見せてくれます。

一方で、強透明層を「残してよい健全な層」と読むのも行き過ぎです。この層では、細管の周りの結晶が減りはじめていました。残したときに歯髄がどうなるか、接着がどうなるか、再石灰化するかどうかは、この論文は調べていません。それは、検知液や臨床成績を扱う別の研究の仕事です。

ここだけ、冷静に補助線硬さの圧痕を目印にして、同じ場所を光学顕微鏡・X線・電子顕微鏡で見比べる。手間のかかる方法で、透明層の内側を丁寧に描いた1本です。そのうえで、読むときの補助線をいくつか。
(1)抜去歯の形態を観察した研究です。患者さんの歯で、どこまで削るかや、歯髄の経過、修復の成績を調べたものではありません。
(2)調べた歯の本数が書かれていません。統計処理もなく、結果は所見の記述と写真で示されています。硬さの曲線として載っているのは、1つの標本(標本A)の図です。
(3)対象は、第三大臼歯で、透明層が象牙質の中央約3分の1にあるものに限られます。歯髄に近い深いう蝕や、ほかの歯種にそのまま当てはまるかは分かりません。著者自身、象牙質の深層に透明層ができた場合は、X線透過性が上がることも考えられる、と述べています。
(4)所見は、細管や歯によって違いがありました。著者は「ほとんどの細管」「多くの細管」と書き分けており、例外も記載しています。記事の表は、多くの細管での様子をまとめたものです。
(5)結晶の成分は分析していません。斜方形の結晶をウィットロカイトとするのは、著者が引いた他の研究者の見解です。
(6)弱透明層で硬さが下がりはじめる理由は、著者の推測です。電子顕微鏡では、弱透明層の細管の周りに正常との違いは見られていません。
(7)硬さの圧痕は、幅が約100〜200μmありました。1つの測定値には、多くの細管と、その周りの象牙質が含まれます。
(8)図書館のPDFはスキャンで、本文は文字認識にかけて読み、要所は頁の画像で確かめました。写真(図1、図3〜60)の細部までは、この記事では踏み込んでいません。
う蝕象牙質の「層」の話は、検知液や接着の議論の前提として、いまもよく出てきます。その層が形の上でどう見えるのかを、自分の目で確かめたくなったときに戻ってきたい研究です。

今日のひとこと

この研究が示したのは、う蝕のある抜去歯の象牙質では、Knoop硬さの最高部は正常な領域と弱透明層の境界にあり、ほとんどの細管が結晶でふさがった強透明層は、すでに硬さが下がった所にあったということです。強透明層では、細管の中は主に斜方形の結晶で埋まってX線を通しにくくなっている一方、細管の壁の層と細管のあいだの象牙質では結晶が減っていました。透明に見えること、X線を通しにくいこと、硬いこと。この3つは、同じ場所を指しているとは限りません。ただし、抜去した第三大臼歯の形態を観察した研究で、調べた歯の本数は書かれておらず、統計処理もありません。どこまで削るかや、歯髄の経過、修復の成績は調べていません。う蝕象牙質の「層」の話を読むときの、土台になる1本です。

小川和男. ウ蝕象牙質における透明層の構造変化に関する観察. 口腔病学会雑誌. 1981;48(1):104-151. doi: 10.5357/koubyou.48.104. PMID: 6942064
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。