エンド|根管治療をした上顎小臼歯のMOD窩洞を、コアの作り方3通り(通常のレジン/短繊維レジンだけ/ポスト+短繊維レジン)と咬頭被覆3通り(なし/直接法/間接法のCAD/CAMオーバーレイ)の9群で修復し、繰り返しの荷重で破折までのサイクル数を比べた実験室の研究(Fráter・Sáry・Molnár・Braunitzer・Lassila・Vallittu・Garoushi 2021・Clinical Oral Investigations)。抜去歯108本のうち103本を解析。口の中での成績を調べた研究ではない
根管治療をした小臼歯のMOD窩洞。咬頭を覆うかどうかに加えて、その下のコアを何で作るかは迷うところです。Fráterらは抜去した上顎小臼歯108本を使った実験室の研究で、コア3通りと咬頭被覆3通りを組み合わせた9群に繰り返しの荷重をかけました。破折までの平均サイクル数がいちばん長かったのは、ポスト+短繊維レジンのコアに間接法のCAD/CAMオーバーレイをのせた群(30,729回)。同じ被覆どうしで通常のレジンのコアと比べて有意差があったのは、ポスト+短繊維レジンのコアだけでした。一方で、試験の上限50,000回まで耐えた歯は1本もなく、どの群も修復できない破折の方が多かった(54.5〜91.7%)。抜去歯での結果であり、著者らも口の中での検証が必要だと書いています。
①失活小臼歯のMOD、土台は何で作る?
根管治療をした上顎小臼歯で、近心も遠心も辺縁隆線がないMOD窩洞。「咬頭は覆っておきたい」とは考えても、その下のコアを通常のコンポジットレジンで作るか、繊維で強化した材料で作るか、ポストまで入れるかは、迷うところだと思います。
Fráterらは、抜去した上顎小臼歯108本を使った実験室の研究(in vitro)で、コアの作り方3通りと咬頭被覆3通りを組み合わせた9つの群に繰り返しの荷重をかけ、破折するまでのサイクル数を比べました。口の中での成績を調べた研究ではない点を、最初に押さえておきます。
・解析できたのは103本(各群11〜12本)。試験の上限50,000回まで耐えた歯は1本もなかった
・破折までの平均サイクル数がいちばん長かったのは、ポスト+短繊維レジンのコアに間接法のCAD/CAMオーバーレイをのせたC3群(30,729回)。ほかの8群すべてより有意に長かった(p<0.05)
・いちばん短かったのは、通常のレジンで充填しただけの対照A1群(11,591回)
・同じ被覆どうしで通常のレジンのコアと比べて有意差があったのは、ポスト+短繊維レジンのコアだけ(p=0.006、0.004、0.002)。短繊維レジンだけのコアでは有意差は検出されなかった(p=0.135、0.581、0.669)
・破折のしかたは、どの群も修復できない破折(CEJより下に及ぶ)の方が多かった(54.5〜91.7%)。いちばん長く耐えたC3群は12本中11本(91.7%)
・著者らも「口の中で確かめる必要がある」と書いている
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、先行研究を引いてこう整理しています。Ⅰ級の咬合面窩洞では咬頭の剛性の低下は5〜20%にとどまるのに対し、MOD窩洞では平均63%低下する。おもな理由は両方の辺縁隆線を失うことで、破折強度は最大54%下がりうる。だから根管治療をした小臼歯のMOD窩洞では、歯冠の内側からの補強が欠かせない、と。ここまでは著者らが引いた先行研究の数字で、この研究で測ったものではありません。
この30年ほど、根管治療歯の修復には既製のファイバーポストがよく使われてきました。ただ、小臼歯を本当に補強できているかは議論が続いています。破折抵抗が上がったという報告も、上がらなかったという報告もあります。著者らは理由として、根管の歯頸部でポストが合わずセメントが厚くなること、ポストとセメントの接着の弱さ、根管内での繊維の位置を挙げています。
そこで著者らのグループは、根管の形に合わせて繊維強化材料で個別に土台を作る方法を提案してきました。短繊維強化型のフロアブルレジン(SFRC)をポスト孔から積み上げる「Bioblockテクニック」と、個別に調整する一方向性のファイバーポストをSFRCで装着する方法です。
ここから2つの問いが出てきます。繊維で強化したコアを使えば、MOD窩洞で「必須」とされてきた咬頭被覆はなくてもよいのか。咬頭被覆をするなら、直接法と間接法で差はあるのか。この研究はそれを抜去歯で確かめようとしました。
③実験の組み立て:コア3通り×被覆3通りの9群
歯周病か矯正の理由で抜去された上顎小臼歯108本に、規格化したMOD窩洞を形成し(歯肉側壁はCEJの1mm上)、根管治療をしました。根管形成はProTaper UniversalのF2まで、根管充填はマッチドシングルコーン法です。歯の大きさをそろえたうえで、9群(各12本)に無作為に分けています。
・通常のレジン(1の群):粒子フィラー型の通常のコンポジットレジン(原著の略語はPFC)で積層充填。ポスト孔は形成しない
・短繊維レジンだけ(2の群):根管口から6mmのポスト孔を形成し、短繊維強化型フロアブルレジン(SFRC)をポスト孔から窩洞まで積み上げる(Bioblockテクニック)。ポストは残さない(深い層に光を届けるために一時的に差し込むだけ)
・ポスト+短繊維レジン(3の群):同じ6mmのポスト孔に、個別に調整する一方向性のファイバーポストを、SFRCで装着してコアまで築造する
・A群:被覆なし。コアの上の咬合面2mmを通常のレジンで仕上げる
・B群:直接法の被覆。咬頭を2mm削除し、通常のレジンで咬頭を作り直す
・C群:間接法の被覆。咬頭を2mm削除し、厚さ2mmのCAD/CAMコンポジットレジン製オーバーレイをレジンセメントで装着する
たとえばA1は「通常のレジンで充填しただけ」の対照群、C3は「ポスト+短繊維レジンのコアにCAD/CAMオーバーレイ」です。接着の処理は全群で共通にし、修復材料はすべて同じメーカーのものを使っています。
荷重は、歯根膜を模して埋め込んだ歯の頬側咬頭の三角隆線に、歯軸に対して135度の方向からかけました。著者らは、斜めの荷重は根管治療歯の力学試験でいちばん厳しい条件だと説明しています。5Hzの繰り返し荷重を100Nから始め、5,000回ごとに100Nずつ上げて1,000Nまで。破折するか50,000回に達するまで続ける「加速疲労試験」です。口の中で何年もかけて起こる疲労を、荷重を上げながら短時間で再現しようとする方法で、サイクル数がそのまま年数に対応するわけではありません。
記録したのは、破折までに耐えたサイクル数です。カプラン・マイヤー法で生存を解析し、群どうしを1対1で比べています。破折のしかたは2人の評価者が顕微鏡で見て、CEJより上で止まる「修復できる破折」と、CEJより下に及び抜歯になる可能性が高い「修復できない破折」に分けました。
④結果(1):長く耐えたのは「ポスト+短繊維レジン」のコア
試験の途中で、歯ではなく埋め込みの材料が壊れた5本が除外され、解析は103本になりました(A1・A3・B1・B3・C1の各群が11本、ほかは12本)。
・全体:103本の平均は19,849回。50,000回に達した歯はなし
・最長はC3(30,729回)。ほかの8群すべてと有意差(表3のp値は0.001未満〜0.022)
・最短は対照A1(11,591回)。A2(p=0.135)とB1(p=0.076)とは有意差なし。ほかの6群はA1より有意に長い
・コアの違い(同じ被覆どうしで、通常のレジンのコアと比較)
ポスト+短繊維レジン:A3 p=0.006、B3 p=0.004、C3 p=0.002(すべて有意に長い)
短繊維レジンだけ:A2 p=0.135、B2 p=0.581、C2 p=0.669(有意差なし)
・被覆の違い(同じコアどうしで比較)
直接法の被覆と被覆なし:B1とA1 p=0.076、B2とA2 p=0.419、B3とA3 p=0.251(すべて有意差なし)
間接法と直接法:C1とB1 p=0.011、C2とB2 p=0.060、C3とB3 p=0.022(3組のうち2組で間接法が有意に長い)
並べてみると、コアの材料そのものより「長い繊維(ポスト)と短い繊維(SFRC)を組み合わせたかどうか」で線が引かれています。短繊維レジンだけのコアは、平均の数字では通常のレジンより長い群もありますが、同じ被覆どうしの比較ではどれも有意差に届いていません。
もう1つ目を引くのは、被覆をしないA3(ポスト+短繊維レジン、20,296回)が、間接法で覆ったC1(22,125回、p=0.579)やC2(21,740回、p=0.713)と有意差がなかったことです。著者らはここから、繊維で強化した土台による直接修復が、間接法の咬頭被覆の代わりになる可能性を論じています。ただし各群11〜12本の実験で「差が検出されなかった」という結果であり、「同じだと確かめられた」わけではありません。
⑤結果(2):壊れ方は、どの群も「修復できない破折」が多かった
長く耐えた群ほど壊れ方もよい、とはなりませんでした。修復できない破折は、いちばん少ないB3でも11本中6本(54.5%)、いちばん多いC3では12本中11本(91.7%)です。対照のA1は11本中9本(81.8%)、被覆なしでポスト+短繊維レジンのA3は11本中10本(90.9%)でした。表4の本数を筆者が合計すると、103本のうち77本(約75%)が修復できない破折です。
著者らは「すべての群で修復できない破折が優勢だった」として、破折のしかたに違いはないという仮説を採択しています。ただ、群の間で割合を比べた検定の結果は示されていません。1群11〜12本なので、1本変わるだけで割合が8〜9ポイント動く点にも注意が要ります。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・長い繊維(ポスト)は、小臼歯にかかる圧縮・せん断・引張りの力に対して追加の支えになる。前歯や小臼歯のように、せん断と引張りの力がかかりやすい部位では、長い繊維を含めることが勧められる
・ポストをSFRCで装着すると、長い繊維か短い繊維のどちらかが根管壁にじかに接する。荷重で有害な応力が生じるのは根管壁のあたりなので、そこに強い材料を置けることが効いているのだろう
・短繊維レジンは、材料の中を進む亀裂の向きを変えたり止めたりする働きをもつとされる
・それでも修復できない破折が多かったのは、短繊維レジンのコアの上にのせた通常のレジンの層が2mmあったことで説明できるかもしれない
短繊維レジンだけのコア(A2)が対照と有意差なしだったのは、先行する実験室研究とは食い違います。著者らは、先行研究は歯冠部の窩洞だけにSFRCを使い、1回の荷重で壊す試験だったこと、大臼歯を使った研究もあることを、違いの理由として挙げています。
⑦明日の臨床へ
・個別に作るファイバーポストと、ポストの装着とコアを兼ねるSFRCの組み合わせは、咬頭被覆の有無にかかわらず、疲労への抵抗と生存の面でよい成績を示した
・間接法のCAD/CAMオーバーレイの成績は、直接法のレジンのオーバーレイを上回った
・これらは口の中(in vivo)で確かめる必要がある
・この研究から言えるのは「抜去歯の加速疲労試験では、土台の作り方で破折までのサイクル数が変わった」というところまでです。口の中で歯が長持ちするか、破折が減るかは、この研究からは分かりません
・咬頭被覆を考えるとき、上にのせる物だけでなく、その下のコアをどう作るかにも目を向ける材料になります。この実験では、同じ被覆でもコアによって平均サイクル数に差が出ました
・「繊維で強化すれば咬頭被覆はいらない」とまでは読めません。被覆なしのA3と間接法のC1・C2に差が検出されなかったのは各群11〜12本の結果で、いちばん長く耐えたのは被覆もしたC3でした
・「短繊維レジンを使えば十分」とも読めません。同じ被覆どうしの比較では、短繊維レジンだけのコアに有意差は出ていません
・壊れ方は別の問題として残ります。繊維で強化した群でも、修復できない破折が半数を超えていました
・間接法のオーバーレイはCAD/CAMのコンポジットレジン製です。セラミックのオーバーレイや全部被覆冠に当てはまるかは調べられていません。著者らは、ブリッジや義歯の支台歯にこの土台を使うことは今のデータでは支持されない、とも書いています
・手間と費用について、原著は比べていません。一般に、個別のポストとSFRCを使う方法は材料と手順が増えます。ポスト孔の形成で歯質を削ることも含めて選ぶことになります
(1)抜去歯を使った実験室の研究です。著者らも、荷重試験を液体の中で行っていないこと、口の中での検証が必要なこと、摩耗・色調の安定・隣接面コンタクトの経過は調べていないことを限界に挙げています。
(2)「生存」は、荷重を段階的に上げる加速疲労試験で破折までに耐えたサイクル数のことです。臨床の生存率や年数とは別の物差しです。荷重は頬側咬頭への斜め方向の1通りだけでした。
(3)各群11〜12本で、9群を総当たりにした36通りの比較です(36通りは9群から筆者が数えた数で、原著に書かれた数字ではありません)。本文には、比較の多さに対するp値の補正についての記載が見当たりません。B2と対照の差(p=0.043)のように境目に近いものは、とくに控えめに読みたいところです。
(4)結論には「間接法のCAD/CAMオーバーレイは直接法を上回った」とありますが、表3で同じコアどうしを比べると、有意差があるのは3組のうち2組です(C1とB1 p=0.011、C3とB3 p=0.022。C2とB2はp=0.060)。考察では、繊維で強化したコアの中で直接法と間接法に差があったのはC3とB3の組だけ、と書かれています。
(5)抄録と本文は「ポスト+短繊維レジン」の成績を前に出していますが、短繊維レジンだけのコアは、同じ被覆の通常のレジンのコアと有意差がありません。「繊維で強化したコア」とひとまとめにせず、2つを分けて読む必要があります。
(6)統計の記載に小さな食い違いがあります。方法には1対1の比較はBreslow法と書かれ、表3の表題にはlog-rank検定と書かれています。また本文は表2に平均と中央値を示すとしていますが、載っているのは平均と標準偏差だけです。A2群は標準偏差(11,556回)が平均(16,528回)に対して大きく、ばらつきの大きい群でした。
(7)本文には「生存率」という言葉が出てきますが、50,000回まで耐えた歯はありません。ここでの生存率は、各サイクルの時点でまだ破折していなかった歯の割合のことで、臨床の生存率ではありません。
(8)修復材料はすべて同じメーカー(GC)の製品です。著者の1人は、そのグループ企業(Stick Tech)の研修と研究開発の相談役を務めていると開示しています。ほかの著者は利益相反なしと申告しています。資金はハンガリーの公的な研究助成などです。
(9)上顎小臼歯、ポスト孔の深さ6mm、咬頭の削除量2mm、オーバーレイの厚さ2mmという条件での結果です。大臼歯や、条件の違う窩洞にそのまま当てはめることはできません。
それでも、「何で覆うか」だけでなく「下に何を置くか」で結果が動くことを、同じ条件の9群で見せてくれた実験は貴重です。口の中での検証が続くことを期待したい1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、抜去した上顎小臼歯のMOD窩洞を繰り返しの荷重で試すと、ポスト+短繊維レジンのコアにCAD/CAMオーバーレイをのせた群が破折までいちばん長く耐えた(平均30,729回。対照は11,591回)ということです。同じ被覆どうしで通常のレジンのコアと比べて有意差があったのは、ポスト+短繊維レジンのコアだけで、短繊維レジンだけのコアでは有意差は検出されませんでした。一方、50,000回まで耐えた歯は1本もなく、どの群も修復できない破折の方が多いままでした(54.5〜91.7%)。いちばん長く耐えた群でも、12本中11本は修復できない破折です。これは実験室の結果で、口の中で歯が長持ちすることを示したものではありません。著者ら自身が、口の中での検証が必要だと書いています。「何で覆うか」に加えて「下に何を置くか」を考える材料にしたい1本です。


