エンド|牛の前歯80本を、フェルール(2mmあり/なし)・ポストの種類(鋳造ポストコア/グラスファイバーポスト)・ポストの長さ(12mm/7mm)の組み合わせで8群(各10本)に分け、歯根のひずみ・破折抵抗・壊れ方を調べ、有限要素解析を合わせた実験室の研究(Santos-Filhoら 2014・Journal of Endodontics)。1回の荷重で壊した試験で、ヒトの口の中での経過を追った研究ではない。資金はブラジルの公的研究助成(CNPq)
フェルールが取れる前歯と、取れない前歯。鋳造のメタルポストコアか、グラスファイバーポストか。ポストはどこまで深く入れるか。Santos-Filhoらは2014年、牛の前歯80本を使い、この3つの条件を組み合わせた実験を報告しました。フェルール2mmがある群は、ない群より破折抵抗が有意に高く(あり909〜1026N、なし607〜724N。各群の平均値)、ポストの長さ(12mmと7mm)で破折抵抗に統計学的な差はありませんでした。一方、壊れ方は違っていました。7mmの鋳造ポストコアは歯根の破折が90〜100%、7mmのグラスファイバーはポスト・コアの破折が60%です(原著の図から筆者が読み取った割合)。牛の歯に1回だけ力をかけて壊した実験室の研究で、口の中での持ちを比べた結論ではありません。
①フェルールが取れない前歯、鋳造ポストコアか、ファイバーポストか
根管治療をした前歯にポストを立てる。歯頸部の歯質をクラウンで抱え込む「フェルール」が取れる歯と、取れない歯がある。鋳造のメタルポストコアにするか、グラスファイバーポストにするか。ポストはどこまで深く入れるか。迷う場面だと思います。
Santos-Filhoらは2014年、この3つの条件(フェルール・ポストの種類・ポストの長さ)を組み合わせた実験を報告しました。使ったのは牛の前歯80本です。ヒトの口の中で経過を追った研究ではなく、実験室で力をかけて調べた研究です。
・フェルール2mmがある群は、ない群より破折抵抗が有意に高かった(あり 909〜1026N、なし 607〜724N。各群の平均値)
・ポストの長さ(12mmと7mm)で、破折抵抗に統計学的な差はなかった。ポストの種類どうしも、原著の表2の比較では有意差が示されていない
・壊れ方は違った。7mmの鋳造ポストコアは歯根の破折が90〜100%で、うち歯根の中央部が40%。7mmのグラスファイバーは、ポスト・コアの破折が60%、歯根の歯頸側の破折が40%(原著の図から筆者が読み取った割合)
・短い鋳造ポストコアでは、歯根の隣接面のひずみが高かった
・著者らの結論は「フェルールが決定的な要因。フェルールがないとき、グラスファイバーポストは壊れ方の面で保存的な選択」。臨床での持ちを比べた結論ではありません
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、根管治療した前歯は、う蝕・髄腔開拡・歯質の性質の変化によって力学的な失敗が起きやすく、歯根の修復にポストが必要になることがある、と整理しています。
鋳造の金属ポストは弾性率が高く、何十年も使われてきました。一方、グラスファイバーポストは歯根の象牙質に近い性質をもち、金属ポストに代わる選択肢になっている、と著者らは先行研究を引いて述べています。
根管治療歯の修復の結果には、残っている象牙質の量と位置、ポストの種類、ポストの長さ、フェルールの有無、最終補綴がかかわるとされます。そこで著者らは、フェルール・ポストの種類・長さを1つの実験の中で組み合わせ、2つの仮説を確かめました。「ポストの種類とフェルールは、ひずみ・応力分布・破折抵抗・壊れ方に影響する」「ポストが短いと、歯根のひずみが増え、破折抵抗が下がる」です。
③実験の組み立て:牛の前歯80本を8つの群に分けた
・対象:大きさと形のそろった、亀裂のない牛の前歯80本
・フェルール:2mmあり(40本)/なし(40本)
・ポストの種類:鋳造ポストコア(ニッケルクロム合金)/グラスファイバーポスト+コンポジットレジンのコア
・ポストの長さ:12mm/7mm
・以上の組み合わせで8群、各群10本
・ポストはどちらもセルフアドヒーシブレジンセメントで装着し、全部の歯にニッケルクロム合金の鋳造冠をかぶせた
・歯根はレジンに埋め、歯根膜の代わりにポリエーテル印象材の層を置いた
測ったものは4つです。
・破折抵抗:各群10本。同じ方向から、壊れるまで力をかけた(毎分0.5mm)
・壊れ方:I=ポストまたはコアの破折、II=歯根の歯頸側1/3の破折、III=歯根の中央1/3の破折、IV=歯根の根尖側1/3の破折、V=垂直性歯根破折、の5分類
・有限要素解析:上顎中切歯の形をもとにしたコンピュータ上のモデル9個(8つの群と健全歯)に、100Nの斜めの力をかけて応力の分布を見た
ひずみと破折抵抗は、三元配置分散分析とTukeyの検定で比べています(有意水準5%)。
④結果(1):破折抵抗を分けたのは、フェルールの有無だった
・鋳造ポストコア12mm:フェルールなし 724N(82)/あり 1026N(240)
・鋳造ポストコア7mm:なし 668N(133)/あり 909N(67)
・グラスファイバー12mm:なし 607N(64)/あり 918N(112)
・グラスファイバー7mm:なし 682N(89)/あり 913N(145)
・どの組み合わせでも、フェルールありは、なしより有意に高かった(P<.05)。差は231〜311N(筆者の計算)
ポストの長さについては、著者らは「破折抵抗の値に統計学的な差はなかった」と書いています。ポストの種類については、表2の群どうしの比較を示す記号が、鋳造とグラスファイバーで同じです。つまり、表2の比較では有意差は示されていません。
「有意差が示されなかった」は、「同じだと確かめられた」とは別のことです。各群10本の実験で、小さな差を見つける力は限られます。
⑤結果(2):壊れ方は、ポストの種類と長さで違っていた
・グラスファイバー7mm:フェルールあり・なしとも、ポスト・コアの破折が60%、歯根の歯頸側1/3の破折が40%。歯根の中央より根尖側の破折はなかった
・鋳造ポストコア7mm:歯根の破折がフェルールありで90%、なしで100%。どちらも歯根の中央1/3の破折が40%
・鋳造ポストコア12mm:歯根の破折は約9割。歯根の中央1/3の破折は、フェルールなしで30%、ありで約11%。フェルールありの群には垂直性歯根破折もあった(約11%)
・グラスファイバー12mm:フェルールなしではポスト・コアの破折が50%、歯根の中央1/3の破折が30%。フェルールありでは歯根の中央1/3が20%、根尖側1/3が40%
著者らは本文で、「グラスファイバーの群の破折は、コアと歯根の歯冠側1/3にかかわるものだった」「鋳造の群は、ポストを短くすると壊滅的な失敗が多く、グラスファイバーの群は修復できない失敗が少なかった」とまとめています。
ただし、どの分類を「壊滅的」「修復できない」とするかは、この論文の中では決められていません。壊れ方の群間の差について、検定の結果も示されていません。各群10本の内訳の話です。
⑥結果(3):短い鋳造ポストコアでは、隣接面のひずみが高かった
・鋳造ポストコア12mm:フェルールなし 153(30)/あり 179(106)
・鋳造ポストコア7mm:なし 359(20)/あり 547(181)
・グラスファイバー12mm:なし 135(81)/あり 294(140)
・グラスファイバー7mm:なし 108(68)/あり 88(20)
・7mmでは、鋳造ポストコアの方がグラスファイバーより有意に高かった(フェルールあり・なしとも。P<.05)。12mmでは、ポストの種類のあいだに有意差は示されていない
唇側面のひずみは、様子が違います。フェルールなしの群では、グラスファイバーの方が高い値でした(12mmで666と619、7mmで639と130)。このうち表の記号で有意差が示されているのは7mmだけです。
有限要素解析では、鋳造ポストコアのモデルで、フェルールの部分とポストと象牙質の境目に高い応力が見られました。グラスファイバーのモデルでは、応力は歯根の外側に分布し、健全歯のモデルに近い姿でした。ポストを短くした影響が出たのは鋳造だけで、根管の中のより狭い範囲に高い応力が集まりました。ただし、原著に載っているのは0〜50MPaの目盛りが付いた色分けの図で、群ごとの最大応力などの数値の一覧は示されていません。
⑦なぜこうなったのか(著者らの考察)
・ポストを短くしても、破折抵抗の値に統計学的な差はなかった。しかし、鋳造の群では隣接面のひずみが高くなり、それが歯根の中央1/3の破折が増えることにつながった
・鋳造の群で好ましくない壊れ方が多かったのは、根管の中の高い応力の集中が、亀裂の起点に伝わったためと考えられる
・フェルールがあり、象牙質に近い性質の材料を使うことが、応力の分布と破折抵抗を良くする
・グラスファイバーポストは弾性率が低く、歯根よりもコンポジットレジンのコアとポストの方が先に壊れやすい
著者らの結論は、「この研究の限界の範囲内で、フェルールの存在は、ひずみ・応力分布・破折抵抗・壊れ方を決める要因である。フェルールがないとき、グラスファイバーポストは、壊滅的でない壊れ方が見られたことから保存的な選択である。鋳造ポストコアを使うなら、ポストはできるだけ長くすべきで、グラスファイバーポストの力学的なふるまいは、ポストの長さの影響を受けにくかった」です。
⑧明日の臨床へ
・フェルールがある群は、ポストの種類にかかわらず破折抵抗が高かった
・フェルールがないとき、グラスファイバーポストは壊れ方の面で保存的な選択である
・鋳造ポストコアを使うなら、ポストはできるだけ長くする
・グラスファイバーポストは、ポストの長さの影響を受けにくかった
・この実験からまず読めるのは、「ポストの種類や長さを選ぶ前に、フェルールを残せるか」という順番です。破折抵抗で有意な差がはっきり示されたのは、フェルールの有無でした
・「フェルールがなければファイバー」は、壊れ方の観察にもとづく著者らの提案です。フェルールなしの破折抵抗は、グラスファイバーが607Nと682N、鋳造が724Nと668Nで、グラスファイバーの方が強かったわけではありません
・「ファイバーなら歯根は割れない」とは読めません。12mmのグラスファイバーでは、歯根の破折が50〜70%ありました(図2の読み取りから筆者が計算)
・牛の歯に1回だけ力をかけて壊した実験です。口の中で何年もつか、どちらの歯が長く残るかは、この研究からは分かりません。臨床での成績は、患者さんを追った研究で確かめる必要があります
(1)牛の前歯を使った実験室の研究です。ヒトの歯とは大きさや象牙質が違います。力は斜めの方向から1回だけ、壊れるまでかけており、噛む力の繰り返しや温度の変化は与えていません。破折抵抗の数字は、口の中での持ちを表すものではありません。
(2)各群10本、ひずみの測定は各群5本です。標準偏差も大きく(たとえば鋳造12mm・フェルールありは1026N、標準偏差240)、小さな差を見つける力は限られます。
(3)壊れ方の割合は、原著では図(図2)だけで示され、検定はされていません。どの分類が「壊滅的」かの定義もありません。図を読み取ると、12mmのグラスファイバー・フェルールありの群では、歯根の中央1/3と根尖側1/3の破折が合わせて60%あります。この群について、著者らは本文で触れていません。
(4)抄録は「7mmの鋳造ポストコアは歯根破折の割合が高かった」と書いています。図2を読み取ると、鋳造の歯根破折は7mmで90〜100%、12mmでも約9割で、長さで違うのは主に歯根の中央1/3の割合(40%と、30%・約11%)です。また、鋳造12mm・フェルールありの群だけ、棒の区切りが10本では出ない割合(約11%・67%・11%・11%)になっていて、その説明は原著にありません。
(5)本文と表が合わない箇所があります。考察は「ポストの種類は破折抵抗にも影響した」と書いていますが、表2の群どうしの比較では、鋳造とグラスファイバーのあいだに有意差は示されていません。結果の本文は「グラスファイバーのひずみは2つの長さで同じくらい」と書いていますが、表1では、フェルールありの隣接面で12mmが294、7mmが88で、別の記号が付いています。
(6)有限要素解析は、各条件につき1つのモデルで、グラスファイバーポスト以外の材料を均質で等方性とみなした、線形の計算です。結果は目盛り付きの色分けの図で示され、群ごとの応力の数値の一覧や比較はありません。
資金はブラジルの公的な研究助成機関(CNPq)の支援で、著者らは利益相反はないと述べています。実験にはグラスファイバーポスト(White Post DC・FGM社)とセメント(RelyX Unicem・3M ESPE社)が使われていますが、メーカーからの資金提供の記載はありません。
それでも、フェルール・ポストの種類・長さを同じ条件の中で動かし、「破折抵抗に有意差が示されなくても、ひずみや壊れ方の内訳は違いうる」ことを見せた実験は、ポストを選ぶ前に考える順番を整理してくれます。まずフェルール。そのうえで、臨床の成績は患者さんを追った研究で確かめる。そう読むのが良さそうな1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、牛の前歯に1回の力をかけて壊す試験で、フェルール2mmがある群は、ポストの種類や長さにかかわらず破折抵抗が有意に高かったということです(あり909〜1026N、なし607〜724N)。ポストの長さで破折抵抗に統計学的な差はなく、ポストの種類どうしも、表2の比較では有意差が示されていません。違ったのは壊れ方と力のかかり方で、7mmの鋳造ポストコアは歯根の破折が90〜100%(原著の図2から筆者が読み取った割合)、歯根の隣接面のひずみもグラスファイバーより有意に高い値でした。著者らは「フェルールがないとき、グラスファイバーポストは壊れ方の面で保存的な選択。鋳造ポストコアならポストはできるだけ長く」と結論しています。ただし、壊れ方の差は検定されておらず、12mmのグラスファイバーでも歯根の破折は起きています。臨床での成績を示した研究ではありません。筆者の読みでは、ポストを選ぶ前に「フェルールを残せるか」を考える材料になる1本です。


