エンド|4-META/MMA-TBBレジンセメント(スーパーボンドC&B)をウシの象牙質に接着し、1日後と10年後の引張接着強さ・壊れ方・接着界面の電子顕微鏡像を比べた実験室の研究(Aoki・Kitasako・Ichinose・Burrow・Ariyoshi・Nikaido・Tagami 2011・Dental Materials Journal)。各時点10本・37℃の水道水に保存・水は毎週交換。口の中での成績を調べた研究ではない
スーパーボンドで着けた象牙質の接着は、年単位でどこまで保たれるのか。Aokiらは2011年、ウシの象牙質にスーパーボンドC&Bで接着した試料を37℃の水に保存し、1日後と10年後に引張接着強さを測りました(各10本)。平均は1日後17.2 MPa、10年後6.0 MPaで、有意に下がっています(p<0.01)。壊れる場所は、セメントの中から象牙質側へ移りました。透過型電子顕微鏡では、10年後のハイブリッド層に、一部の試料でレジンの欠けが見られ、その上のレジン層には崩れがほとんど見られませんでした。ウシの歯を水に漬けた実験室の研究で、口の中での脱離や修復物の寿命を調べたものではありません。
①スーパーボンドで着けた象牙質、水の中で10年たつとどうなる?
スーパーボンド(4-META/MMA-TBBレジンセメント)は、象牙質によくつくセメントとして長く使われてきました。着けた直後の接着強さが高いことは、多くの実験で示されています。では、その強さは年単位で保たれるのでしょうか。
Aokiらは2011年、ウシの象牙質にスーパーボンドC&Bで接着した試料を37℃の水に保存し、1日後と10年後に引張接着強さを測りました。壊れた面と接着界面は、電子顕微鏡で観察しています。実験室の研究です。
・引張接着強さの平均は、1日後 17.2 MPa、10年後 6.0 MPa。有意に下がった(p<0.01)
・壊れ方も変わった。1日後は「セメントの中、または象牙質面にレジンが残る壊れ方」が59%。10年後は「象牙質の中を含む壊れ方」が69%(各時点90か所の観察。p<0.001)
・透過型電子顕微鏡では、10年後のハイブリッド層に、一部の試料でレジンの欠けが見られ、劣化した部分ではコラーゲン線維がほとんど見えなくなっていた。その上のレジン層には、崩れやナノリーケージが見られなかった
・ウシの歯を水に漬けた実験で、口の中で修復物が何年もつかを調べた研究ではない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らの序論によると、スーパーボンドC&B(サンメディカル)は合着だけでなく、矯正用ブラケットの接着や歯周治療での暫間固定にも、20年以上広く使われてきました。メーカーによれば、組成は10年以上変わっていません。
一方で、初期の接着強さは高くても、時間とともに少しずつ下がるという報告がいくつかあります。同じグループのKitasakoらは、ウシの象牙質で3年の水中保存後に、1日後・6か月後より有意に低い接着強さを報告していました。
では、もっと長い期間ではどうか。接着界面のどこが傷むのか。透過型電子顕微鏡(TEM)で銀の沈着を見る「ナノリーケージ」の観察は、10年前には広く使える方法ではありませんでした。10年という長さで、レジンセメントの接着耐久性とハイブリッド層の形の変化をTEMで調べた報告はない、と著者らは述べています。帰無仮説は「10年たっても、接着強さと形態に変化はない」です。
③実験の組み立て:1日後と10年後を比べる
使ったのは、抜去から6か月以内のウシの歯です。歯冠の浅い象牙質を平らに出し、1000番の耐水研磨紙で仕上げました。歯はエポキシ樹脂に埋めています。
・接着する範囲:直径3mmの穴をあけたビニールテープ(厚さ0.15mm)で決めた
・前処理:10%クエン酸・3%塩化第二鉄の液を10秒。水洗し、乾かしすぎないように軽く乾燥
・接着:スーパーボンドC&Bを筆積み法で塗り、コンポジットレジンの棒(直径4mm・長さ15mm)を垂直に着けた(メーカーの指示どおり)
・保存:37℃の水道水。水は毎週交換。防腐剤や抗菌剤は入れていない
・測定:1日後と10年後に、各10本を引張試験(クロスヘッド速度1mm/分)。比較はt検定
原著によると、1日後と10年後の試料は、同じ実験者が同じ研究室で、同じ接着手順で作っています。引張試験は試料を壊す試験なので、同じ試料を2回測ったのではなく、時点ごとに10本ずつを壊しています。
壊れた面は走査型電子顕微鏡(SEM)で見て、1本につき9か所の壊れ方を3種類に分けました(各時点で10本×9か所=90か所)。接着界面は、同じ方法で別に作った試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察しています。銀の液に漬けて、すき間に銀が沈着する様子(ナノリーケージ)も見ました。
④結果(1):接着強さは10年で有意に下がった
・1日後:17.2 ± 3.6 MPa
・10年後:6.0 ± 1.7 MPa
・差は有意(p<0.01)
平均どうしで計算すると、10年後は1日後のおよそ35%で、下がった幅はおよそ65%です(表2の平均から筆者が計算。著者らも考察で「約65%の低下」と書いています)。著者らは、10年後も平均で5 MPaをわずかに上回る接着強さが残っていた、とも述べています。
著者らは考察で、同じグループの過去の実験(3年まで)と並べて、こう読んでいます。接着強さは最初の1年で大きく下がり(約40%の低下)、その後はゆっくり下がって、3年で約50%、10年で約65%の低下になった。ただし、1年と3年の値は別の実験の数字です。今回の実験で測ったのは、1日後と10年後の2時点だけです。
⑤結果(2):壊れる場所が、セメントの中から象牙質側へ移った
・A(セメントの中で壊れる、または象牙質面にレジンが残る部分的なはがれ):1日後 59% → 10年後 16%
・B(レジンと象牙質の界面での完全なはがれ):1日後 22% → 10年後 15%
・C(界面のはがれと象牙質内の破壊の混合、または象牙質の中だけの破壊):1日後 19% → 10年後 69%
・分布の差は有意(p<0.001、カイ二乗検定)
SEMの写真では、10年後の試料で、象牙細管の中にレジンタグが残った像や、タグが折れたり抜けたりした像が示されています。著者らはこれを、保存によってレジンの機械的な性質が変わったことを示す所見としています。
⑥結果(3):傷んでいたのはハイブリッド層だった
・厚さ約3μmのハイブリッド層が見られた
・ハイブリッド層の中に、レジンのしみ込んだコラーゲン線維が、横紋のある形で見えた
・銀の沈着は、ハイブリッド層の中にまばらに点在。セメントの層には見られなかった
・レジンタグが、ハイブリッド層の一部と一緒に象牙細管から抜けた像があった
・一部の試料では、ハイブリッド層のレジンが部分的に失われ、大きな欠けができていた
・ハイブリッド層のコラーゲン線維の並びは、見分けにくくなっていた
・銀の沈着は、ハイブリッド層の中の点在に加えて、ハイブリッド層と象牙質の境目に沿って見られた
・ハイブリッド層の上のレジン層は緻密なままで、ナノリーケージや崩れは見られなかった
TEMは形を見る観察です。欠けの大きさや銀の量を、数字で比べたものではありません。それぞれの処理条件で5個以上の試料を観察した、と書かれています。
⑦なぜこうなったのか(著者らの考察)
・1日後にセメントの中で壊れることが多かったのは、スーパーボンドがフィラーを含まず、機械的な強さが低いためと考えられる
・酸で処理した象牙質の底まで、レジンがコラーゲン線維を包みきれていなかった可能性がある。包まれずに残った部分が、長い目で見た弱点になった
・1日後からハイブリッド層に銀の点在があったことは、モノマーのしみ込みや重合が完全ではなかったことを示すのかもしれない
・長期では、水を吸ったレジンの加水分解と、むき出しのコラーゲンの分解が進んだと考えられる。象牙質に由来する酵素(MMP)の関与を指摘する報告もある
・保存水を毎週替えたことが、象牙質からのカルシウムの溶け出しや加水分解を早めた可能性がある
一方で、ハイブリッド層の上のレジン層は、10年たっても崩れていませんでした。スーパーボンドは水を含まない組成で、吸水がとても少ないとされています。著者らは、この結果を疎水性のレジン層の利点として挙げています。
⑧明日の臨床へ
・帰無仮説(10年で変化はない)は棄却された。スーパーボンドの象牙質への接着耐久性には、10年で明らかな違いが見られた
・10年後も、平均で5 MPaをわずかに上回る接着強さは残っていた
・接着界面とハイブリッド層の劣化は、接着修復の耐久性を損なうおそれがある(ほかの研究を引いての記述)
・よりおだやかな酸や、歯の無機質になじみやすいモノマーが長期の接着耐久性に与える影響と、実験室の劣化試験が臨床で何を意味するかは、今後の研究が必要
・「着けた直後の接着強さ」と「年単位で水にさらされた後の接着強さ」は別のもの。そう考える材料になります
・傷んでいたのはハイブリッド層で、その上のレジン層ではありませんでした。弱点になりうるのは「象牙質とレジンのつなぎ目」だ、という見方につながります
・この実験では、接着した試料が10年間ずっと水の中にありました。口の中で修復物の下にある接着面が同じ速さで傷むかどうかは、この論文からは言えません
・ほかのレジンセメントや接着システムとは比べていません。「スーパーボンドはほかより長もちする/しない」とは読めません
・調べたのはウシの歯冠の浅い象牙質です。根管の中の象牙質や、ポストの接着を調べた実験ではありません
測ったのは1日後と10年後の2時点で、各10本です。同じ試料を追ったのではなく、時点ごとに別の試料を壊しています。途中の経過(1年で約40%、3年で約50%の低下)は同じグループの過去の実験からの引用で、今回の実験の数字ではありません。
原著を読むときに気をつけたい点が3つあります。(1)引張試験は、接着面が直径3mmと広い従来型の方法です。著者らは、試料を作った当時はこれが最も広く使われた方法だったと説明しています。(2)壊れ方の検定は、10本×9か所=90か所を数えたものです。同じ歯の9か所は互いに似やすいので、p値は少し割り引いて読むのが安全だと筆者は考えます。(3)TEMの観察には、引張試験のあとセメントの中で壊れた試料を選んだ、と方法に書かれています。選ばれた試料の像で、すべての試料を代表するとは限りません。
調べたのは1製品で、比べる相手になるほかの材料はありません。資金は日本学術振興会の助成(#21592413)と文部科学省のグローバルCOEプログラムです。利益相反についての記載は原著に見当たりません。スーパーボンドC&Bはサンメディカル社の製品です。
それでも、同じ手順で作った試料を10年置き、強さ・壊れ方・電子顕微鏡像の3つをそろえて示した報告は多くありません。「接着のどこが時間に弱いのか」を具体的に見せてくれる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、ウシの象牙質にスーパーボンドC&Bで接着して37℃の水に10年保存すると、引張接着強さの平均が17.2 MPaから6.0 MPaへ有意に下がり、ハイブリッド層に劣化が見られたということです(各10本、p<0.01)。ハイブリッド層の上のレジン層には、崩れがほとんど見られませんでした。水を毎週替えた実験室の条件で、咬む力や温度変化は与えていません。ほかのセメントとも比べていません。口の中での脱離や修復物の寿命を調べた研究ではなく、著者らも、実験室の劣化試験が臨床で何を意味するかは今後の課題としています。筆者の読みでは、「着けた直後の強さ」と「長く水にさらされた後の強さ」を分けて考えるきっかけになる1本です。


