1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

実験で作る痛み、2回目も同じように出る?——健康な男性20人の前腕にグルタミン酸とカプサイシンを皮内注射。2回の実験の一致(ICC)は中等度〜非常に高いが、同じ人の中では痛みの範囲が大きくぶれた(2014年)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|健康な男性ボランティア20人の前腕にグルタミン酸とカプサイシンを皮内注射し、7日以上あけて同じ実験を2回行い、痛覚過敏とアロディニアの再現性を級内相関係数(ICC)と変動係数(CV)で調べた実験疼痛モデル研究(Nilsson ほか 2014・Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology)

痛みの薬や治療の仕組みを調べる研究では、健康な人にわざと痛みを起こす「実験疼痛モデル」がよく使われます。顎の筋肉にグルタミン酸を注射する研究もその1つです。では、そのモデルは2回やっても同じように反応を作れるのでしょうか。この研究は、健康な男性20人の前腕にグルタミン酸とカプサイシンを皮内注射し、7日以上あけて同じ実験を2回行いました。カプサイシンでは、尖った刺激への感覚の強さの点数(修正VAS・5が痛みの閾値)が注射前より58.1〜102.9%、筆でなでる刺激への点数が75%上がりました。ただし注射直後の平均は、どの条件も痛みの閾値未満です(原著の図からの読み取り)。グルタミン酸で上がったのは60gと100gの刺激だけ(19.5%・18.7%)で、筆による反応(アロディニア)は出ませんでした。注射直後の2回の一致(ICC)は0.61〜0.94で、原著の基準で中等度〜非常に高い範囲。一方、同じ人の1回目と2回目のばらつき(CV・注射直後)は、刺激への点数が13〜27%だったのに対し、痛みの範囲は41〜61%と大きめでした。患者さんではなく健康な人の前腕の皮膚での結果です。

論文
Intradermal glutamate and capsaicin injections: Intra- and interindividual variability of provoked hyperalgesia and allodynia
著者
Matias Nilsson, Dorte Lassen, Trine Andresen, Anders K Nielsen, Lars Arendt-Nielsen, Asbjørn M Drewes(デンマーク・オールボー大学病院 消化器・肝臓科 Mech-Sense、オールボー大学 感覚運動相互作用センター)
掲載
Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology 2014;41:423-429. doi:10.1111/1440-1681.12229
種類
健康ボランティアの実験疼痛モデル研究(同じ実験を7日以上あけて2回くり返し、再現性を調べた。患者さんは含まれない)。対象は健康な白人男性20人(平均24歳・18〜38歳)。研究費はObel家財団。著者らは利益相反なしと記載
PMID
24684312

①「健康な人に痛みを作った実験」、どこまで信じる?

口腔顔面痛の論文を読んでいると、「健康な人の咬筋にグルタミン酸を注射して痛みを起こし、〇〇の効果を調べた」という研究によく出会います。

患者さんの痛みは、原因も経過も人によってまちまちです。そこで、条件をそろえて痛みの仕組みを調べるために、健康な人にわざと痛みを起こす「実験疼痛モデル」が使われます。

ただ、ここに素朴な疑問があります。同じ人に同じ注射をしたら、2回目も同じように反応が出るのか。出方が毎回ばらばらなら、薬の前後で比べた差が薬のせいなのか、たまたまなのか、区別できません。

この論文は、その「再現性」を確かめた研究です(2014年・デンマーク)。

結論を先に書きます。
・カプサイシンの皮内注射で、尖った刺激への感覚の強さの点数(修正VAS・5が痛みの閾値)が58.1〜102.9%、筆でなでる刺激への点数が75%上がった。ただし注射直後の平均は、どの条件も痛みの閾値未満(図からの読み取り)
・グルタミン酸で上がったのは60gと100gの刺激だけ(19.5%・18.7%)。筆による反応(アロディニア)は出なかった
・注射直後の2回の実験の一致(ICC)は0.61〜0.94。原著の基準で中等度〜非常に高く、カプサイシンの点数(0.61〜0.69)は中等度
・同じ人の中のばらつき(CV・注射直後の値)は、刺激への点数が13〜27%、痛みの範囲は41〜61%と大きめ
・対象は健康な男性20人の前腕の皮膚。患者さんや口の中での結果ではない

②痛覚過敏とアロディニアを「作る」モデル

長引く痛みの患者さんには、痛覚過敏(痛い刺激がより強く痛む)とアロディニア(ふつうは痛くない刺激が痛む)がよくみられます。原著は、これらが実験室で再現できれば、臨床の痛みの一部の側面をまねられると説明しています。

そのために使われてきたのが、皮膚へのカプサイシン(唐辛子の辛み成分)とグルタミン酸の注射です。原著によると、カプサイシンの注射で起きる焼けるような痛みはC線維が担い、注射部位の周りに広がる二次性の痛覚過敏やアロディニアは、2番目の神経細胞が敏感になること(中枢性感作)で起きると考えられています。

ところが、これだけ広く使われているのに、このモデルの再現性はまだ確かめられていなかった、と著者らは書いています。

③今回の一手:同じ実験を、7日以上あけて2回

対象は健康な白人男性20人(平均24歳、18〜38歳)。女性はグルタミン酸で痛みが強く出るという先行研究があり、その影響を除くため男性だけにしたと書かれています。全員が右利きで、全員が最後まで参加しました。

実験の組み立て
・注射:右の前腕の内側にグルタミン酸(0.1 mol/L を0.1 mL)、そのテストが終わってから左の前腕にカプサイシン(1 mg/mL を0.1 mL=100 μg)
・刺激への感覚の強さの点数:太さの違う4本のフォン・フレイ・フィラメント(10・15・60・100g)と筆で、注射部位を刺激。注射前と注射直後に測った
・痛みの範囲:26gと60gのフィラメント(痛覚過敏)と筆(アロディニア)を8方向から注射部位へ近づけ、痛みを感じ始めた位置を結んだ面積。注射直後・15分・30分・60分に測った
・点数のつけ方:0〜10の修正VAS。0〜5未満は痛くない感覚の強さで、5が「痛み」を感じ始める点
・反復:7日以上あけて同じ実験をもう1回。同じ参加者は、同じ検者が2回とも担当

再現性は2つの物差しで見ています。ICC(級内相関係数)は、参加者どうしの差が2回の実験で保たれるか。CV(変動係数)は、同じ人の1回目と2回目の値がどれだけぶれるかです。

④結果1:カプサイシンははっきり反応し、グルタミン酸は一部だけ

まず、注射で反応が本当に起きたかです。注射前と注射直後の、刺激への感覚の強さの点数(修正VAS)を比べています。

注射直後に、感覚の強さの点数がどれだけ上がったか
・カプサイシン:フィラメント10・15・60・100gで、それぞれ102.9%・90.2%・72.9%・58.1%上昇。筆でなでる刺激も75%上昇(いずれもP<0.001)
・グルタミン酸:上がったのは60g(19.5%)と100g(18.7%)だけ(ともにP<0.001)。10gと15gでは痛覚過敏は検出されず、筆による反応(アロディニア)も出なかった
・注射直後の平均点は、どの条件も5(痛みの閾値)を下回っている(原著図3からの読み取り)。上がったのは「痛くない側」の感覚の強さの平均

原著はこの上昇を痛覚過敏・アロディニアと呼んでいますが、平均で見るかぎり「はっきり痛い」水準まで上がったわけではない点は押さえておきたいところです。

範囲にも違いがありました。カプサイシンのアロディニアの範囲は時間とともに縮み、注射直後と比べて15分で34.5%、30分で57.8%、60分で78.8%小さくなりました(有意な変化)。

痛覚過敏の範囲は、原著本文では、カプサイシンでもグルタミン酸でも60分の間「安定していた」とされ、有意な変化は報告されていません。ただし図4を見ると、グルタミン酸の範囲の平均は60分で注射直後の半分近くまで下がっています(図からの読み取り)。

⑤結果2:2回の実験の一致(ICC)は中等度〜非常に高い

次に再現性です。注射直後に測った全項目のICCを並べました。

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ICC(2回の実験の一致) 0.81 0.69 0.68 0.61 0.73 0.66 0.88 0.67 0.74 0.83 0.94 0.90 0.86 0.89 0.91 0.85 点数10g 点数15g 点数60g 点数100g 点数筆 範囲26g 範囲60g 範囲筆 グルタミン酸 カプサイシン 注射直後(T0)のICC。原著Table 1・Table 2のT0の全項目。濃い棒=グルタミン酸、淡い棒=カプサイシン。点数=フォン・フレイ(g)と筆への感覚の強さの点数(修正VAS)、範囲=痛覚過敏(26g・60g)とアロディニア(筆)の広さ。グルタミン酸の点数10g・15g・筆と範囲 筆は、注射で反応が出なかった指標。原著の基準:0.50〜0.69中等度、0.70〜0.89高い、0.90以上非常に高い
注射直後(T0)のICC。原著Table 1(刺激への感覚の強さの点数)とTable 2(痛みの範囲)のT0の全項目。濃い棒=グルタミン酸、淡い棒=カプサイシン。グルタミン酸の「点数10g・15g・筆」と「範囲 筆」は、注射で反応が出なかった指標。原著の基準は、0.50〜0.69が中等度、0.70〜0.89が高い、0.90以上が非常に高い

いちばん低かったのは、カプサイシンの刺激への点数(フィラメント4本で0.61〜0.69)で、原著の基準では中等度です。グルタミン酸の15g(0.68)も中等度でした。

一方、痛みの範囲のICCは注射直後で0.85〜0.94と高く、15分・30分・60分を含めても、グルタミン酸で0.73〜0.94、カプサイシンで0.76〜0.93でした(原著Table 2)。

注意したいのは、グルタミン酸の10g・15g・筆は、そもそも注射で点数が上がらなかった指標だということ。ここのICCは「注射で作った反応の再現性」ではなく、刺激そのものへの感じ方の再現性に近いと読めます(筆者の読み)。注射前の点数のICCも、グルタミン酸の日で0.60〜0.82、カプサイシンの日で0.72〜0.87でした。

⑥結果3:でも同じ人の中では、範囲が大きくぶれた

ここがこの論文のいちばん面白いところです。同じ人の1回目と2回目のばらつき(CV)を見ると、景色が変わります。

0 20% 40% 60% 80% CV(同じ人の2回のばらつき) 18% 26% 19% 27% 18% 23% 13% 19% 15% 24% 61% 41% 57% 44% 53% 58% 点数10g 点数15g 点数60g 点数100g 点数筆 範囲26g 範囲60g 範囲筆 グルタミン酸 カプサイシン 注射直後(T0)の変動係数(CV)。原著Table 3・Table 4のT0の全項目。濃い棒=グルタミン酸、淡い棒=カプサイシン。数字が小さいほど、同じ人の1回目と2回目の値が近い。グルタミン酸の点数10g・15g・筆と範囲 筆は、注射で反応が出なかった指標
注射直後(T0)の変動係数(CV)。原著Table 3・Table 4のT0の全項目。濃い棒=グルタミン酸、淡い棒=カプサイシン。数字が小さいほど、同じ人の1回目と2回目の値が近い。グルタミン酸の「点数10g・15g・筆」と「範囲 筆」は、注射で反応が出なかった指標

注射直後のCVは、刺激への点数がグルタミン酸13〜19%、カプサイシン19〜27%。これに対して痛みの範囲は、グルタミン酸53〜61%、カプサイシン41〜58%でした。

15分・30分・60分を含めると、範囲のCVはグルタミン酸で15〜79%(下限15%は、反応が出なかった筆の範囲)、カプサイシンで31〜58%に散らばっています(原著Table 4)。痛覚過敏の範囲(26g・60g)だけで見ると、グルタミン酸57〜79%、カプサイシン40〜49%です。著者らも、同じ人の中のばらつきは刺激への点数の方が、範囲より全体に小さかったとまとめています。

範囲はICCが高いのにCVも大きい。一見矛盾しますが、筆者はこう読みます。範囲の広さは人によって大きく違うので、多少ぶれても「広く出る人は2回とも広い」という順位は保たれ、ICCは高く出る。けれど同じ人の中で見ると、1回目と2回目の面積はかなり違う。ICCが高いことと、同じ人で毎回同じ値が出ることは別です(ここは筆者の補足です)。

⑦明日の臨床へ

これは健康な人の前腕の皮膚で行った実験で、治療の効果を調べた研究ではありません。そこで、原著に書かれている範囲と、そこからの筆者の読みを分けて書きます。

原著に書かれている範囲
・著者らの結論は、グルタミン酸とカプサイシンは再現性のある痛覚過敏・アロディニアの反応を生み、基礎研究や、中枢で起きる現象の変化を調べる研究に向いている、というもの
・ばらつきを減らす工夫として、2回の実験は7日以上あける、同じ人は同じ検者が担当する、皮膚温は32±1℃を目標にする(実測の平均は約31℃で、29℃台の人もいた)、皮内注射の成功は注射部位の小さな膨らみで判定する、を採用している
・考察では、同じ日に何度もカプサイシンを注射すると、1週間あけた場合よりばらつきが大きくなったという先行研究を紹介している
ここからは筆者の読み(原著が歯科について述べたことではありません)
・患者さんの痛みの治療に直接使える知見ではない。対象は健康な若い男性で、部位は前腕の皮膚
・実験疼痛モデルで「薬で痛覚過敏の範囲が縮んだ」という論文を読むときは、範囲は同じ人の中のばらつき(CV)が注射直後で41〜61%あった指標だと頭に置く。人数が少ない研究ほど注意したい
・フィラメントや筆で刺激して点数をつける方法は、同じ人の中で比較的安定していた。口腔顔面痛の診察で、筆や綿棒でなでて反応を確かめる考え方と通じるが、口の中や顔で同じことが言えるかは、この研究からは分からない
・「痛覚過敏」と書かれていても、点数が痛みの閾値を超えたとは限らない。尺度の読み方まで確かめたい
ここだけ、冷静に補助線対象は健康な白人男性20人だけで、女性・高齢者・痛みを抱える患者さんは含まれていません。部位は前腕の皮膚で、顔や口の中、筋肉への注射とは条件が違います。
著者ら自身も、注射直後の痛みや不快感が薬によるものか、針そのものによるものかを分けるため、痛くない液を注射する比較を今後入れるべきだと書いています。また、グルタミン酸はいつも右腕に先に、カプサイシンは左腕に後から注射しているので、薬の違いと腕・順番の違いは切り分けられていません。
数値の細部にも注意が要ります。要旨には「グルタミン酸の筆への点数のICCは0.83超」とありますが、表では0.82と0.74です。グルタミン酸ではアロディニアが出なかったとしながら、表には筆で測った範囲のICCとCVが載っています。本記事は表の値で書きました。
それでも、実験疼痛モデルの「再現性」を、参加者どうし(ICC)と同じ人の中(CV)の2つに分けて示した点は、痛みの研究を読むうえで役に立ちます。口腔顔面の部位で同じ検証が進むと、さらに臨床に近づきそうです。

今日のひとこと

この研究が示したのは、健康な男性の前腕で、カプサイシンの皮内注射は刺激への感覚の強さを上げ、2回の実験で参加者どうしの差がおおむね保たれた(ただしカプサイシンの点数の一致は中等度)ということです。ただし注射直後の平均点は痛みの閾値未満で、グルタミン酸では上昇が重い刺激(60g・100g)だけ、アロディニアは出ませんでした。また、刺激への点数は同じ人の中で比較的安定していた一方、痛みの範囲は同じ人でも1回目と2回目で大きくぶれました。実験疼痛モデルで「薬で痛みの範囲が縮んだ」という論文を読むときは、その指標がもともとどれだけぶれるのかを思い出したい1本です。患者さんへの治療効果を示した研究ではありません。

Nilsson M, Lassen D, Andresen T, Nielsen AK, Arendt-Nielsen L, Drewes AM. Intradermal glutamate and capsaicin injections: intra- and interindividual variability of provoked hyperalgesia and allodynia. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2014;41:423-429. doi:10.1111/1440-1681.12229. PMID: 24684312
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。