1問1答 論文 口腔顔面痛・顎関節症

咀嚼筋の痛みにスプリント、効いたのは装置そのもの?——咬合面スプリントを終日・通院時30分だけ・咬合面を覆わない口蓋床の3群で比べたら、痛みは3群とも下がり、群の間に有意差はなかった(1994年)

1問1答 論文 エンド

口腔顔面痛|咀嚼筋の筋筋膜痛(顎関節症の筋痛タイプ)の患者63人を、①咬合面スプリントを通院時に30分だけ ②咬合面を覆わない口蓋床を終日 ③咬合面スプリントを終日の3群に無作為に分け、10週間・7回の来院で痛みと生活の質を比べたランダム化比較試験(Dao 1994・Pain・モントリオール大学)

咀嚼筋が痛む患者さんに、まずスプリント。よく効く実感がある先生も多いと思います。でもそれは装置の働きなのか、時間とともに自然に良くなった分なのか。モントリオール大学のグループは、咀嚼筋の筋筋膜痛の患者63人を3群に分けました。咬合面を覆う上顎スプリントを食事以外ずっと着ける群、同じスプリントを通院時に30分だけ着けて持ち帰らない群、咬合面を覆わず咬み合わせに触れない口蓋床を終日着ける群です。痛みの強さ・不快さ(安静時とワックスをかんだ後)と生活の質を10週間追ったところ、どの群でも痛みは時間とともに有意に下がり、生活の質もよくなりました(不快さの下がり方は終日スプリント群が大きめでしたが、有意差ではありません)。しかし痛みのどの項目でも、群の間に有意差はありませんでした。しかも生活の質の改善は、スプリントを入れる前から始まっていました。ただし1群20人前後の1994年の試験で、小さな差を見分ける力は足りていません。

論文
The efficacy of oral splints in the treatment of myofascial pain of the jaw muscles: a controlled clinical trial
著者
Thuan T.T. Dao, Gilles J. Lavigne, Anne Charbonneau, Jocelyne S. Feine, James P. Lund(モントリオール大学 歯学部・神経科学研究センター)
掲載
Pain 1994;56:85-94. doi:10.1016/0304-3959(94)90153-8
種類
ランダム化比較試験(並行群・盲検評価)。受診した148人のうち条件を満たした63人(16〜45歳・女性53人/男性10人・咀嚼筋の痛みが週4回以上かつ12週以上・咀嚼筋などの圧痛3か所以上。関節の器質的変化・スプリント治療歴などは除外)を3群に無作為に割り付け:①受動的対照=咬合面を覆う上顎スタビライゼーション型スプリントを通院時に30分だけ装着(持ち帰らない)/②能動的対照=咬合面を覆わずクラスプで留めるU字型の口蓋床を食事以外終日/③治療群=①と同じスプリントを食事以外終日。10週間に7回来院(最初の3回が基準期間、3回目に装着し、装着後1・3・5・8週に評価)。安静時とワックス3分間咀嚼後の痛みの強さ・不快さを100 mmのVAS、睡眠・仕事・社会活動・抑うつ・不安・食欲への影響を5段階で記録。VASの計測者は群を知らない。最終解析は19人・20人・22人
PMID
8159444

①スプリントで良くなったのは、装置のおかげ?

咀嚼筋が痛む患者さんにスタビライゼーション型のスプリントを入れる。数週間たつと「だいぶ楽になりました」と言われる。よくある場面です。

でも、その改善はスプリントそのものの働きなのでしょうか。それとも時間がたって自然に良くなった分や、通って診てもらう安心感なのでしょうか。この研究は、そこを切り分けるために「スプリントを持ち帰らない群」と「咬み合わせに触れない装置の群」を対照に置きました。

結論を先に言います。痛みは3群とも時間とともに有意に下がりましたが、群の間に有意差はありませんでした。生活の質も3群ともよくなり(6項目の合計指数に群間差なし)、その改善はスプリントを入れる前から始まっていました。

②なぜ「対照群」が大事なのか

スプリントは顎関節症の治療として広く使われ、高い成功率の報告も数多くあります。ただ著者らは、それまでの報告の多くが対照群・無作為化・盲検での評価・十分な人数といった、臨床試験に欠かせない手順を踏んでいなかったと指摘します。

・咀嚼筋の痛みは波のように良くなったり悪くなったりする
・自然に治まる人も少なくない
・プラセボ効果が改善の大きな部分を占める可能性がある
・だから「スプリント前後で比べて良くなった」だけでは、装置の効果とは言い切れない

そこで著者らは、筋筋膜痛(関節の病変がなく、咀嚼筋の痛みが主な人)に絞り、並行群のランダム化比較試験を組みました。

③今回の一手:同じスプリントを「30分だけ」と「終日」で比べる

・対象:受診した148人のうち、条件を満たした63人(16〜45歳、女性53人・男性10人)。咀嚼筋の痛みが週4回以上・12週以上続き、咀嚼筋などに圧痛が3か所以上ある人。関節の雑音や画像で関節の変化がある人、スプリントや咬合治療を受けたことがある人などは除外
・①受動的対照(19人):咬合面を覆う上顎スプリントを、通院時に30分だけ着けて、終わったら回収
・②能動的対照(20人):咬合面を覆わず咬み合わせに一切触れないU字型の口蓋床を、食事以外終日
・③治療群(22人):①と同じスプリントを、食事以外終日
・解析対象:63人のうち2人(片頭痛と診断された1人、口蓋床を終日着けなかった1人)は除外し、解析は61人。途中でやめた終日スプリント群の2人は、やめるまでのデータを含めた(上の人数は解析時のもの)
・スプリントはフェイスボウで半調節性咬合器に付着して製作し、中心位で調整、犬歯誘導を付与

患者さんには全員に同じ説明をしています。「痛みの原因はわかっていないこと」「いろいろな形と着け方を試して、いちばん実用的で効くものを探していること」。つまり、どの群も自分が本命の治療を受けていると思える設計です。

・期間:10週間に7回来院。最初の3回(約2週間)は基準期間で、3回目に装着。装着後1・3・5・8週に評価
・評価:痛みの強さと不快さを100 mmのVASで、安静時とワックスを3分間かんだ後に記録。痛みが睡眠・仕事・社会活動・気分の落ち込み・不安・食欲にどのくらい響いたかを5段階で記録
・盲検:記入した用紙はその場で歯科医師が番号付きの封筒に封をし、VASの長さは群を知らない助手が測った
・ものさしのチェック:毎回、灰色の四角の濃さもVASで答えてもらい、VASの使い方が途中で変わっていないかを確かめた

④結果①:痛みは3群とも下がった。でも差はなかった

安静時の痛みの強さ・不快さは、スプリントを入れたあと3群とも時間とともに有意に下がりました(p<0.001)。一方で、群の間の差も、時間と群の組み合わせの差(交互作用)も有意ではありませんでした。

最終来院時に、基準期間の平均から60%を超えて痛みが減った人の割合を群ごとに見たのが次の図です。

0 20% 40% 60% 痛みが60%を超えて減った人の割合(%) 31.6% 21.1% 57.9% 42.1% 38.9% 57.9% 通院時に30分だけ 口蓋床を終日 スプリントを終日 安静時の痛みの強さ 安静時の痛みの不快さ 原著Table II。7回目の来院時に、基準期間の平均から60%を超えて下がった人の割合。左=咬合面スプリント(通院時30分のみ)、中=咬合面を覆わない口蓋床、右=咬合面スプリント(食事以外終日)。群間の分布に有意差なし。回答数は群・項目ごとに18〜19人
最終来院時に、安静時の痛みが基準期間の平均から60%を超えて下がった人の割合(原著Table II)。群間の分布に有意差はない

痛みの強さでは、咬み合わせに触れない口蓋床の群が57.9%といちばん高く、終日スプリント群は38.9%、30分だけの群は31.6%でした。不快さでは終日スプリント群が57.9%で最も高くなりました。項目によって”いちばん”が入れ替わり、どれも統計的な差はありません。全体では、痛みの強さが60%を超えて下がった人が42.9%、逆に強くなった人が17.9%いました。

原著の図では、終日スプリント群の下がり方が大きく見える場面もあります。著者らもそれに触れたうえで、群間差は有意でなかったとしています。

⑤結果②:かんだ後の痛みも、生活の質も、同じ流れ

0 20 40 60 VAS(mm・3群をまとめた推定平均) 35.1 31.0 38.4 32.2 42.9 40.2 46.6 43.8 安静時の強さ 安静時の不快さ 咀嚼後の強さ 咀嚼後の不快さ 装着前 装着1週後 原著Table III。群間差がなかったため3群をまとめた推定平均(咀嚼後=ワックスを3分間かんだ後)。濃い棒=装着前、淡い棒=装着1週後。その後も毎週1.5〜2.1 mmずつ下がった
3群をまとめた推定平均(VAS・mm)。装着前と装着1週後(原著Table III)。群間差がなかったため3群をまとめて示されている

ワックスを3分間かんだ後の痛みは、安静時より有意に強く(p<0.001)、これも治療中に少しずつ下がりました。治療の終わりには、3群の平均の差は5 mm未満でした。3群をまとめた推定では、安静時の痛みの強さは装着前35.1 mm → 装着1週後31.0 mm、その後は毎週およそ1.9 mmずつ下がっています。

生活の質も3群ともよくなりました。6項目を合計した指数は時間とともに有意に下がり(改善)、群間差はありませんでした(p=0.99)。ひとつだけ、「社会活動」への影響が改善した人は終日スプリント群で少なかった(16%、他の2群は53%・59%)のですが、著者らはこの群はもともと点数が低く、改善の余地が小さかったためと説明しています。

・生活の質の改善は、スプリントを入れる前の基準期間から始まっていた
・灰色の四角の濃さの評価は、期間中ほぼ変わらなかった(30〜50 mmの範囲)=VASの使い方が変わったせいで痛みが下がって見えたわけではない
・同じ人の中での来院ごとの揺れ(分散232 mm²)は、人と人の差(170 mm²)より大きかった

⑥なぜ差が出なかったのか——著者らの見立て

著者らは、痛みの軽減と生活の質の改善は治療の種類に関係しない「非特異的」なものだったと考えられる、と結論しています(著者らの考察)。理由として挙げているのは次の3つです。

・プラセボ効果:筋筋膜痛の治療では、30〜64%の患者さんにプラセボ効果が出たという報告がある
・自然寛解と症状の波:治療しなくても約26%が改善するという推定がある
・通院と診察そのもの:生活の質がスプリント装着前から良くなっていたことは、治療者がいること・診療の場に入ることが治療と同じくらい大事かもしれないことを示す

さらに、最初に試験を終えた患者さんの予備的な追跡では、終了後3か月以内に痛みが治療前の水準へ戻り、スプリントを使い続けていたのは27人中16人(59%)でした。

もうひとつ興味深いのが人数の話です。治療の終わりに観察された群間の小さな差を「本物」と証明するには、安静時の痛みの強さで750人、不快さで240人が必要と計算されました。著者らは、それほどの人数でないと示せない差なら、装置の治療的な中身はごく小さいと考えるのが慎重だと述べています。

⑦明日の臨床へ

この論文は「スプリントは無意味」と言っているわけではありません。著者ら自身、筋筋膜痛にこれより効くと示された治療もない以上、スタビライゼーション型スプリントは、元に戻せない治療や長期の薬物療法に代わる保存的な選択肢として意味があると書いています。

・スプリントは決定的な治療ではなく、痛みの管理を補う手段として位置づける
・「スプリントで良くなった」ことを理由に、咬合を大きく変える補綴・外科へ進む根拠にしない(著者らは、事後の診断でこうした「仕上げ」の治療に進むことを戒めている)
・改善には経過・関係づくり・評価と調整にかける時間が大きく効いている可能性がある。説明と経過観察そのものを大切にする
・筋痛は波がある。1回の評価で効いた・効かないを決めず、経過で見る

⑧ここだけ、冷静に補助線

これは1994年に発表された、各群19〜22人のランダム化比較試験です。著者らも、もっと大人数なら差が見つかる可能性は否定できないと書いています。「差がなかった」は「同じだと証明された」とは違う点に注意がいります。
対象は関節に病変のない筋筋膜痛の、16〜45歳のフランス語圏の白人63人に限られ、治療期間は装着後8週と短めです。装着時間は患者さんへの聞き取りでしか確かめておらず、客観的な装着記録はありません。
ここからは筆者の読みです。比べたのはスタビライゼーション型スプリントと、咬み合わせに触れない口蓋床・通院時30分だけの装着で、何もしない群(無治療群)はありません。3群とも来院・診察・説明は同じように受けているので、この試験がはっきり示すのは「咬合面を覆って終日着けることの上乗せが見えなかった」ということです。その後、多くの試験やシステマティックレビューが出ているので、今の臨床判断は新しいエビデンスと合わせて考えたいところです。それでも、「良くなった」の中身を対照群で切り分けたという設計の考え方は、今も色あせません。

今日のひとこと

咀嚼筋の筋筋膜痛の患者を、咬合面スプリントを終日・同じスプリントを通院時30分だけ・咬み合わせに触れない口蓋床を終日の3群に分けると、痛みも生活の質も3群とも少しずつよくなり、痛みと生活の質の合計指数に群間の有意差はありませんでした。著者らは、改善の多くは自然経過・プラセボ効果・通院して診てもらうこと自体によるものだろうと考え、スプリントは「決定的な治療」ではなく痛みの管理を補う手段と位置づけています。1994年の各群20人前後の試験なので、持ち帰るのは「スプリントで良くなったように見えても、それは装置だけの力とは限らない。咬合を大きく変える治療に進む根拠にはしない」という視点です。

Dao TTT, Lavigne GJ, Charbonneau A, Feine JS, Lund JP. The efficacy of oral splints in the treatment of myofascial pain of the jaw muscles: a controlled clinical trial. Pain. 1994;56:85-94. doi:10.1016/0304-3959(94)90153-8. PMID: 8159444
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。