エンド|サイズ・断面・形がまったく同じで、削り出した後の熱処理だけが違う2本のレシプロファイル(Reciproc BlueとReciproc)。45°に曲がった樹脂の模擬根管を自動装置で同じ条件で形成し、根管の中心からのずれと、ファイルにかかる力を比べた実験研究(Maki 2020・Dental Materials Journal)
湾曲根管をNiTiファイルで形成すると、ファイルがまっすぐに戻ろうとして根尖付近が外側へずれる(トランスポーテーション)ことがあります。では、形は同じで熱処理だけを変えたファイルなら、ずれ方は変わるのか。東京医科歯科大学のグループは、45°に曲がったJ字の樹脂模擬根管14本を、Reciproc Blue R25とReciproc R25に7本ずつ割り付け、手の癖が入らない自動の形成装置で形成しました。結果、根尖から0・0.5・1mmの3か所で、Reciproc Blueのほうが中心からのずれ(センタリング比)が有意に小さく、ファイルが根管へ引き込まれる上向きの力(スクリューイン)も9.84N対11.21Nで有意に小さい結果でした。一方、回転の力(トルク)と押し込む力には差がなく、根尖から2・3mmでも差はありませんでした。ただし樹脂の模型での実験で、ファイルの柔軟性そのものはこの研究では測っていません。
①同じ形のファイル、熱処理だけで仕上がりは変わる?
曲がった根管をNiTiファイルで形成すると、根尖付近が外側へ削られ、元の根管の中心からずれてしまうことがあります。いわゆるトランスポーテーションです。
レシプロファイルの定番Reciprocは、同じ形のまま熱処理だけを変えたReciproc Blueに切り替わりました。では、形が同じで熱処理だけが違うと、湾曲根管の仕上がりは変わるのか。この研究は、そこだけを取り出して比べました。
結論を先に言います。45°に曲がった樹脂の模擬根管で、根尖から0〜1mmの範囲では、Reciproc Blueのほうが外側へのずれが有意に小さく、ファイルが根管へ引き込まれる上向きの力も有意に小さい結果でした。ただし、回転の力(トルク)と押し込む力には差がなく、根尖から2・3mmの位置でも差はありませんでした。
②なぜ「熱処理」なのか
NiTiファイルの破折や、湾曲根管での段差(レッジ)・ずれは、今も悩みの種です。そこでメーカーは、往復運動(レシプロ)と合金の熱処理という2つの工夫を重ねてきました。熱処理でNiTi合金の相が変わると、体温で柔らかく曲がりやすいマルテンサイト相やR相が現れる、と著者らは緒言で説明しています。
・Reciproc Blue:サイズ・断面・形はReciprocと同じで、削り出した後に新しい熱処理を加えたもの。表面にできる酸化チタンの層で青く見える
・どちらも同じ「Reciproc All」モード(反時計回り150°・時計回り30°・300rpm)で動かす
Reciproc Blueは、Reciprocより柔軟で、繰り返し曲げても折れにくいという報告がすでにありました(いずれも他の研究の結果)。ただ、著者らが調べた範囲では、曲がった根管を形成したときの仕上がりと、ファイルにかかる力を同時に2本で比べた研究はまだありませんでした(仕上がりだけなら、抜去歯で比べて差がなかった研究があります。⑥で紹介)。
③今回の一手:手の癖を消した自動装置で、同じ条件で削る
・ファイル:Reciproc Blue R25とReciproc R25(先端#25・テーパー0.08)。1本のファイルは1根管だけに使用
・動かし方:独自の自動根管形成装置にハンドピースを固定し、往復運動しながら下へ2秒・上へ1秒のペッキング。根尖6mm手前まで形成したあと、2mmずつ作業長まで進めた
・測ったもの①:形成前後の写真を重ね、根尖から0・0.5・1・2・3mmの位置でセンタリング比を計算
・測ったもの②:模型の台の下にセンサーを置き、形成中の最大トルクと最大の縦方向の力を記録
センタリング比は、外壁側と内壁側がどれだけ削られたかの差を、形成後の根管の太さで割った値です。0なら元の中心どおりで、プラスは外側へ、マイナスは内側へずれたことを表します。
縦方向の力のうち、上向きの力は、ファイルの刃が壁に食い込んで根管の奥へ引き込まれるスクリューインの強さを表す、と著者らは位置づけています。
④結果①:根尖0〜1mmでは、Reciproc Blueのほうがずれにくかった
どちらのファイルも、センタリング比はプラス=根尖付近が外側へずれる向きでした。NiTiファイルが曲がった根管の中でまっすぐに戻ろうとするためだ、と著者らは説明しています。
そのうえで、根尖から0・0.5・1mmの3か所では、Reciproc Blueのセンタリング比がReciprocより有意に小さく(p<0.05)、ずれが少ない結果でした。図から読むと、Reciprocが0.4前後だったのに対し、Reciproc Blueは0.15前後です。一方、2mmと3mmでは有意差はありませんでした。
なお、図の誤差の幅(標準偏差)はどちらも大きく、1本ごとのばらつきは小さくありません。
レッジは、Reciprocで7本中1本にでき、Reciproc Blueでは0本でした(この差は統計で比べていません)。ファイルの破折や変形は、どちらの群でも1本もありませんでした。
⑤結果②:引き込まれる力は小さく、トルクは同じ
上向きの力(スクリューイン)の最大値は、Reciproc Blue 9.84N、Reciproc 11.21Nで、Reciproc Blueのほうが有意に小さい結果でした(p<0.05)。平均の差は1.37Nで、本文の平均値から計算すると約12%小さい値です。
一方、下向きの力(Reciproc Blue 2.96N、Reciproc 3.72N)と、最大トルク(刃が切る向き 26.80N·mm と 29.06N·mm、逆向き 4.99N·mm と 6.51N·mm)には、どれも有意差がありませんでした。
⑥なぜ差が出たのか——形が同じだから、熱処理の違いと読める
2本はサイズ・断面・形・動かし方がすべて同じです。そのため著者らは、今回の差は熱処理とそれによる合金の性質の違いで説明できるだろう、と考えています。
Reciproc Blueは、Reciprocより曲げたときの抵抗が小さく(柔らかい)、体温でマルテンサイト相とR相を含むと報告されています。柔らかいファイルほど根管のずれが少ないという過去の研究とも一致する、と著者らは述べています。スクリューインが小さかったのも、柔軟さで形成中に内部にたまる余分な応力が減るためかもしれない、という見立てです。
⑦明日の臨床へ
・差が出たのは根尖から0〜1mmの範囲。根尖付近の外側へのずれに気をつけたい、強く曲がった根管で意味を持ちうる結果。
・上向きの力(引き込まれる力)はReciproc Blueのほうが小さかった。ただしトルクと押し込む力は同じで、破折はどちらにも無かった。
・どちらのファイルでも根尖付近は外側へずれていた。ファイルを替えればずれがなくなる、という結果ではない。
・これは45°の樹脂模型での結果。実際の歯(特に湾曲が緩い根管)では差がなかったという報告もあり、そのまま当てはめない。
レシプロファイルを選ぶとき、「形が同じなら中身も同じ」とは限らない——その根拠の1つとして覚えておく距離感がちょうどよさそうです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。各群は7本と少なく、湾曲は45°のJ字形1種類だけです。センタリング比の数値は図だけで示され、表はありません(本記事の数値は図から読み取った概数)。方法には「レッジができた模型は解析から外した」とありますが、Reciprocで1本レッジができたのに、図は「各群7本の平均」と記載されており、どう扱ったかは読み取れません。また、自動装置は一定の速さで上下させるだけなので、術者が抵抗を感じて手を止めるといった実際の操作とは違います。それでも、形・サイズ・動かし方をそろえ、熱処理だけを変えて比べたという設計は、熱処理の影響を知る材料として価値があります。研究は日本学術振興会の科研費で行われ、著者らは利益相反は無いと記載しています。
今日のひとこと
形・サイズ・動かし方がまったく同じで、削り出した後の熱処理だけが違う2本を、45°に曲がった樹脂模型で比べた実験です。根尖から0〜1mmの範囲で、Reciproc BlueはReciprocより外側へのずれ(センタリング比)が有意に小さく、根管へ引き込まれる上向きの力も9.84N対11.21Nで有意に小さい結果でした。一方、トルクと押し込む力には差がなく、根尖から2・3mmでも差はありませんでした。各群7本の樹脂模型での結果で、柔軟性そのものはこの研究では測っていません。持ち帰るのは「同じ形でも、熱処理の違いで湾曲根管の根尖付近の仕上がりと引き込まれ方が変わりうる」という1点です。


