エンド|根尖側と歯冠側に2つの湾曲があるS字の根管で、グライドパス(本格的な形成の前の細い通り道)を手用ステンレスKファイル・PathFile・Scout RaCeの3通りで作り、元の根管からの偏りを1mmごとに比べたレジン模型の実験(Ajuz 2013・Journal of Endodontics)
グライドパスは手用のKファイルで#20まで——長くそう教わってきた手順です。著者らは、S字(2つの湾曲)のレジン製トレーニングブロック60個を20個ずつ3群に分け、手用ステンレスKファイル(#08→#10→#15→#20)、PathFile(#13→#16→#19・300rpm)、Scout RaCe(#10→#15→#20・同じ設定)でグライドパスを作りました。形成の前後を実体顕微鏡で撮って重ね、根尖端(0mm)から7mmまで1mmごとに、近心壁と遠心壁の削れ方の差=偏りを測っています。結果、どの器具もそれぞれの湾曲の内側の壁を多く削っていましたが、Scout RaCeは全8か所で、PathFileは根尖端を除く7か所で、Kファイルより偏りが有意に小さく、2種の回転式の中ではScout RaCeが0・2・3・5・6mmの5か所でPathFileより有意に小さい結果でした。たとえば6mmの位置ではKファイル0.433mm・PathFile 0.279mm・Scout RaCe 0.130mmです。
①S字の根管、グライドパスは何で作る?
湾曲の強い根管で、NiTiロータリーの本格的な形成に入る前に「まず手用Kファイルで#20まで通しておく」。そう教わって、今もそうしている先生は多いと思います。ところが、根尖側と歯冠側に2つの湾曲があるS字の根管は、元の形を崩さずに形成するのが難しいことが知られています。
この研究は、S字のレジン模型で手用ステンレスKファイル・PathFile・Scout RaCeの3通りでグライドパスを作り、元の根管からの偏りを1mmごとに比べたものです。
結論を先に言います。どの器具も湾曲の内側の壁を多めに削って偏りましたが、その偏りは回転式NiTiの2種のほうが手用Kファイルより小さく、Scout RaCeが最も小さかった。たとえば6mmの位置では、Kファイル0.433mm・PathFile 0.279mm・Scout RaCe 0.130mmでした。
②なぜグライドパスにこだわるのか
グライドパスとは、根管口から根尖の末端までを、なめらかで中心を外れずに細く広げておいた通り道のこと。著者らは、その後の形成、とくに回転式NiTiで形成するときの土台として非常に重要だと述べています。
一方で、S字の根管は2つの湾曲があるため、形を崩さずに形成するのが難しいことが以前から報告されています。回転式NiTiの破折も、S字では1つの湾曲より少ない回転数で起こるという報告があります。
③今回の一手:S字の模型60個を、3通りで通す
・手用Kファイル群:ステンレスKファイル #08→#10→#15→#20(円周ファイリング)
・PathFile群:Kファイル #08で作業長まで通した後、PathFile #13→#16→#19(300rpm・1.0Ncm)
・Scout RaCe群:Kファイル #08で作業長まで通した後、Scout RaCe #10→#15→#20(同じモーター・同じ設定)
洗浄は水道水で、1本ごとに2mL(計10mL)。
評価は、形成の前後を実体顕微鏡(10倍)で同じ条件で撮影して重ね合わせる方法です。根尖端(0mm)から7mmまで1mmごとの8か所で、近心壁と遠心壁のレジンがそれぞれどれだけ削れたかを測り、その差を「偏り」としました。差が0なら、中心を外れず均等に広がったことになります(ただし見ているのは近遠心の平面だけ)。測定は、どの群かを知らされていない評価者2人が一緒に行いました。
④結果①:どの器具も「湾曲の内側」を削った
まず各群の中で見ると、どの器具もほぼすべての位置で偏りが出ていました。近心壁と遠心壁の削れ量に有意な差がなかったのは、PathFileの1mm(P=.11)とScout RaCeの7mm(P=.39)の2か所だけです。
偏る向きは、器具を問わず共通でした。根尖端(0mm)と4〜7mmでは近心壁、1〜3mmでは遠心壁が多く削れていて、著者らはこれをそれぞれの湾曲の内側の壁にあたると説明しています。細いファイルでも、湾曲の内側を削って根管をまっすぐにする方向に偏る、と読めます(筆者の解釈)。
⑤結果②:回転式NiTiの2種は、Kファイルより偏りが小さい
3群を比べると、Scout RaCeは全8か所でKファイルより偏りが有意に小さく、PathFileも根尖端(0mm)を除く7か所でKファイルより有意に小さい結果でした(いずれもP<.05)。
差が大きいのは5〜6mmの位置です。5mmではKファイル0.429mm・PathFile 0.256mm・Scout RaCe 0.109mm、6mmでは0.433mm・0.279mm・0.130mm。一方、根尖端(0mm)ではKファイル0.419mmとPathFile 0.398mmに有意差がなく、Scout RaCeだけが0.151mmと小さく出ました。
著者らが注目しているのは、Scout RaCeの最後のファイル(#20)が、PathFileの最後(#19)より先端の径がわずかに太いにもかかわらず、偏りが小さかった点です。
⑥なぜScout RaCeは偏りにくかったのか
著者らは、理由はまだ確かめられていないとしたうえで、先端の形の違いが主な理由かもしれないと考えています。
どちらも断面は四角形ですが、PathFileは溝のピッチが一定で、先端の移行角が短く「切削する先端」と見なせる形。一方Scout RaCeは溝のピッチが交互に変わり、先端は丸く移行角が長い形で、刃は先端の根元から0.5mmのところから始まります。つまりScout RaCeの先端は削るよりも案内役(ガイド)として働く、という見立てです。著者らは、この先端の形の影響は別の研究で確かめるべきだとしています。
柔軟性の差も考えられますが、各シリーズの最初のファイルどうしを比べた先行研究では、Scout RaCeのほうが柔らかいとは示されていません。各シリーズの太いファイルどうしで柔軟性に差が出るかは、まだ分かっていません。
⑦明日の臨床へ
・前提は細い手用ファイルで作業長まで通してから。この研究でも、回転式の2群はKファイル #08で通した後にNiTiを使っている。
・著者らは、細い手用ステンレスファイル(#06・#08・#10)で確実に通せるなら、#10より太いステンレスの手用ファイルは減らし、グライドパスはNiTiで作るという考えを示している。太く硬いステンレスのファイルほど偏りが大きいと報告されているため。
・偏りやすいのは湾曲の内側の壁。S字の模型では、どの器具でも湾曲の内側が多く削れていた。
なお、著者らは、#19・#20まで広げたNiTiのグライドパス用ファイルでも偏りは出ていたことから、もっと細いサイズ(#10や#15)で止めた場合の影響も今後調べるべきだと述べています。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
S字のレジン模型でグライドパスを作ると、どの器具もそれぞれの湾曲の内側の壁を多めに削り、元の根管から偏る。ただしその偏りは、回転式NiTiのPathFileとScout RaCeのほうが手用ステンレスKファイル(#20まで)より小さく、2種の中ではScout RaCeが最も小さい結果でした(6mmの位置でKファイル0.433mm・PathFile 0.279mm・Scout RaCe 0.130mm)。著者らは、細い手用ファイル(#06〜#10)で通したあとは、#10より太いステンレスの手用ファイルを減らし、グライドパスはNiTiで作るという考えを示しています。ただし象牙質ではなくレジンの模型で、術者は1人、評価は近遠心の平面だけ。その後の形成や治療の成績は見ていません。


