エンド|根管治療後に持続する根尖病変から何が培養されるのかを、北米の集団で調べた研究。水酸化カルシウムの貼薬が日常的なスカンジナビアの先行研究と比較することで、「貼薬が腸球菌を選抜している」という当時の仮説を検証している(Hancock 2001・Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod)
根管治療の失敗はしばしば技術の失敗として扱われ、そのせいで治療後にどの微生物が生き残るのかの情報は乏しいままでした。分かっていたのは、再治療の根管の細菌叢が未治療の失活根管とはまるで違うこと——未治療の壊死根管は多菌種でグラム陰性と陽性がほぼ半々、偏性嫌気性菌が優勢なのに、再治療例はグラム陽性菌が優勢の単一感染に近く、Enterococcus faecalisが主役として繰り返し報告されていました。ここに仮説が生まれます。E. faecalisを調べた先行研究は2本ともスカンジナビアのもので、スカンジナビアでは水酸化カルシウムの根管貼薬が日常的な手順。そして腸球菌は水酸化カルシウムへの感受性が低い。嫌気性菌だけを狙った貼薬が、腸球菌に都合のよい環境を作ったのではないか——。ならば水酸化カルシウムをあまり使わない米国で調べれば少ないはずです。著者らは、3年以上前に根管治療を終え、根管充填が根尖から4mm以内に達し、口腔内への露出がない、持続する根尖透過像をもつ54歯を厳密な無菌操作のもとで採取しました(術野の無菌性は全症例で確認、溶媒は一切使わず、最初の採取前は洗浄液も使わない)。結果、54歯中34歯(63%)で細菌が培養され、菌が出た歯では1〜3菌種・平均1.7菌種、グラム陽性菌が80.4%(採取法①での値)。そしてE. faecalisの検出率はスカンジナビアの研究と有意差がありませんでした。著者らの結論は「水酸化カルシウムのせいではない。初回治療中の不十分な無菌操作・防湿、あるいは歯冠側からの漏洩のせいだ」です。
①「水酸化カルシウムがE. faecalisを選んでいる」という疑い
根管治療の失敗は、しばしば技術の失敗として扱われます。そのせいで、治療後にどの微生物が生き残るのかについての情報は乏しいままでした。
分かっていたのは、再治療の根管の細菌叢は、未治療の失活根管とはまるで違うということ。未治療の壊死根管は多菌種でグラム陰性とグラム陽性がほぼ半々、偏性嫌気性菌が優勢なのに対し、再治療例はグラム陽性菌が優勢の単一感染に近い——そしてEnterococcus faecalisが主役として繰り返し報告されていました。
ここから著者らは「中間貼薬としての水酸化カルシウムの使用が、E. faecalisの増殖を招いているのではないか」という仮説にたどり着きます。ならば水酸化カルシウムをあまり使わない国で調べればよい。実際、当時の米国では水酸化カルシウムの中間貼薬はさほど強調されておらず、むしろX線で根尖透過像がある失活根管ですら単回法へ移行する流れがありました。
結論を先に言います。米国でもE. faecalisの検出率はスカンジナビアと有意差がありませんでした。著者らの解釈は「水酸化カルシウムのせいではない。初回治療中の無菌操作・防湿の不備、あるいは歯冠側からの漏洩のせいだ」です。
②今回の一手:汚染の入り込む隙を徹底的に潰す
この論文の丁寧さは、「採取したものが本当に根管内の細菌か」を担保する手順に表れています。
採取の手順が細かい。ラバーダムをデンタルフロスで結紮し、歯とラバーダムをヨードチンキで消毒。滅菌カーバイドバーでアクセスし、歯とクランプの境目はCavitでバリア。アクセス後にもう一度30%過酸化水素とヨードチンキで消毒したあと、5%チオ硫酸ナトリウムで拭ってヨードを失活させます(残ったヨードが培養に影響しないように)。
さらに、溶媒(ソルベント)は一切使わない。ガッタパーチャの回収に溶媒が必要と判断された症例は除外。根尖から0.5〜2.0mmまで最低でもISO #35のKファイルで到達できない歯も除外。10名がこうした理由で除外され、そのうち3名は上顎第一大臼歯の近心頬側根に未処置の第2根管が見つかったケースでした。
採取は2通り。採取法①=根管に輸送培地を入れ、Hファイルで内容物をかき出してペーパーポイントに吸わせる。採取法②=そのあと象牙質が清潔・乾燥するまで器具で削り、最後の3〜5本のファイルの先端4mmを滅菌した矯正用のディスタルエンドカッターで切り落として培地へ入れる。1回目の採取前は洗浄液を使わず、2回目の前も生理食塩水のみ。次亜塩素酸ナトリウムは全採取が終わってから使いました。
③結果:34歯に菌がいて、その大半は1〜3菌種だけ
2法を合わせると54歯中34歯(63%)で細菌が培養されました。逆に言えば、X線上に持続する根尖病変があるのに20歯では培養できる細菌が出ませんでした。
採取法②では28歯から42株。単一菌種17・2菌種8・3菌種3で、全例が1〜3株、平均1.50菌種。グラム陽性菌88.1%。C. albicansは検出されませんでした。
E. faecalisの現れ方が特徴的です。採取法①でE. faecalisが分離された10歯のうち6歯では、それが根管内の唯一の微生物でした。残る4歯も、ほかに1菌種があるだけ。採取法②でも9歯中6歯が単独でした。腸球菌は他の細菌の助けなしに根管内で生き延びられることが報告されており、その姿がそのまま出ています。
④細菌が出やすかったのは「浅い充填」と「大きい病変」
5つの因子を調べて、有意だったのは2つだけでした(いずれもP<0.05)。
一方、ポストの有無・歯種・修復物の質は有意ではありませんでした。修復物の質は「良好21・不十分28・不良5」と分かれていたにもかかわらず、です。
面白い脇道も2つ。根管充填がオーバーだった2歯は2歯とも陽性でしたが、例数が少なく有意ではありません。そして充填材を除去したあとに明らかな破折線が見つかり、抜歯を勧めることになった歯が4歯ありました。
⑤本題:水酸化カルシウム犯人説は支持されなかった
スカンジナビアの先行研究との比較が、この論文の目的でした。
この結果が仮説を崩します。水酸化カルシウムを中間貼薬として使う文化圏と、あまり使わない文化圏で、E. faecalisの検出率が変わらなかった。ならば水酸化カルシウムが腸球菌を選抜しているとは言えない。
著者らはさらに、この研究の中の小さな観察も添えています。ノースカロライナ大学で水酸化カルシウムを貼薬して治療した4名では、E. faecalisは1例も出ませんでした(例数が少ないので、あくまで補強材料です)。
⑥明日の臨床へ
・E. faecalisは単独で生きる。採取法①で分離された10歯のうち6歯では唯一の微生物だった。
・著者らは再治療では別の貼薬・別の洗浄液を検討すべきと述べている。本文ではクロルヘキシジンとカンフォレイテッドパラモノクロロフェノールが水酸化カルシウムより有効かもしれないと引用され、洗浄についてはヨウ化カリウムヨードが次亜塩素酸ナトリウムやクロルヘキシジンよりE. faecalisの除去に強力なようだと紹介されている(いずれも引用文献に基づく記述で、本研究が検証した内容ではない)。
・いちばん効く対策は、初回治療の無菌操作と仮封かもしれない。この論文の結論はそこを指している。
・根管充填が根尖から2〜4mmで止まっている失敗例は、細菌が出る確率が高い。再治療の見立てに使える所見である。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:北米でも細菌の培養率はスカンジナビアの研究と同程度で、培養できた失敗例の大半は1根管あたり1〜3菌種。主要な起因菌はE. faecalisで、培養陽性だった歯の30%に認められた(原著の抄録と結論が挙げるこの30%は採取法①での33歯中10歯。2法を併用すると34歯中11歯=32.4%)。核心はその解釈です。水酸化カルシウムを中間貼薬として使う文化圏と、あまり使わない文化圏で、E. faecalisの検出率が変わらなかった——つまり水酸化カルシウムが腸球菌を選抜しているとは言えない。著者らは「E. faecalisは正常な口腔内細菌叢の一部で、未処置の感染根管にも少数は存在する。再治療例での著明な増加は、不十分な無菌操作による治療中の侵入か、仮封が不良なために来院の合間に入り込んだためと考えられる」と結論しました。数字で押さえるなら、2法を合わせて54歯中34歯(63%)が培養陽性、菌が出た歯の大半は1〜3菌種(採取法①では33歯中31歯=93.9%)で平均1.7菌種、グラム陽性菌が80.4%(いずれも採取法①での値)、ペーパーポイント法でE. faecalisが分離された10歯のうち6歯では、それが根管内の唯一の微生物でした(削片法でも9歯中6歯)。細菌の検出率と有意に関連したのは根管充填の位置(根尖から2〜4mmで終わっていた12歯中9歯=75.0%)と病変の大きさ(5mm²超の14歯中11歯=78.5%)だけで、ポストの有無・歯種・修復物の質は有意ではありませんでした(いずれもP<0.05/有意差なし)。筆者の読みでは、この論文の値打ちは菌名の一覧より「薬剤のせいか、術者の無菌操作のせいか」を、文化圏をまたいだ比較で切り分けにいった設計にあります。ただし本研究と先行研究を合わせて32〜56%の検体では、X線上に病変があるのに培養できる細菌が出ません。著者らはPCRのような培養によらない手法の必要性を明記しています。


