1問1答 論文 エンド

NiTiファイルが折れるのは回転速度のせい?

1問1答 論文 エンド

エンド|湾曲を「角度」と「半径」の2つで表す測り方を提案し、6種類の人工根管でNiTiロータリー器具を折れるまで回して、回転速度・器具の太さ・湾曲が破断までの回転数に与える影響を調べた古典(Pruett ほか 1997・J Endod)

NiTiロータリーファイルが根管の中で折れた。回転速度が高すぎたのか、それとも湾曲がきつかったのか。この1997年の実験は、その問いに「曲げたまま回し続ける」試験で答えようとしたものです。米国テキサス大学ヘルスサイエンスセンター・サンアントニオのグループは、根管の湾曲を従来の角度1つではなく「湾曲の角度」と「湾曲の半径(曲がり方の急さ)」の2つで表す方法を提案しました。そのうえで、内径0.83 mmのステンレス管を曲げて、角度30・45・60度×半径2・5 mmの6種類の人工根管を作り、NiTiのライトスピード#30と#40を通して、回転速度750・1300・2000 rpmで折れるまで回転させています(各条件10本、ヘッドには10 g-cmの負荷)。結果、破断までの回転数(折れるまでに何回転したか)には、回転速度による有意な差が出ませんでした。一方で、湾曲の半径が5 mmから2 mmに小さくなると、器具が#30から#40に太くなると、破断までの回転数は有意に減りました。角度も30度より45度・60度で有意に減りましたが、著者らは結びで「角度だけの影響ははっきりしない」とも書いています。器具はいつも湾曲のまん中、最も曲がった点で折れていました。ただし、象牙質を削らないステンレス管の中で、同じ深さに固定して回した実験室の結果で、器具はライトスピード1種類です。

論文
Cyclic Fatigue Testing of Nickel-Titanium Endodontic Instruments
著者
John P. Pruett、David J. Clement、David L. Carnes, Jr.(University of Texas Health Science Center at San Antonio・歯内療法学講座)
掲載
Journal of Endodontics 1997;23(2):77-85
種類
器具の疲労試験(実験室研究)。18ゲージのステンレス針(内径0.83 mm)を曲げた人工根管6種類(湾曲の角度30・45・60度×湾曲の半径2・5 mm。湾曲の中心は器具先端から7 mm)。NiTiのライトスピード#30(軸径0.223 mm)と#40(軸径0.269 mm)を通し、ヘッドを動力計(Magtrol Dynamometer)のコレットに固定、10 g-cmの負荷をかけて回転速度750・1300・2000 rpmで折れるまで自由に回転。各条件10本(器具ごとに18群)。トルクが急に落ちた時点を破断とし、回転速度(rpm)×破断までの時間で破断までの回転数を算出。解析は分散分析とNeuman-Keuls法。破断面と途中まで回した器具(平均の破断までの回転数の75〜80%)を走査電子顕微鏡で観察。米国歯内療法学会の研究教育財団の学生賞による一部助成
PMID
9220735

NiTiファイルが折れた。回転速度が高すぎた?

湾曲根管でNiTiロータリーファイルが折れた。回転速度を上げすぎたのか、湾曲がきつすぎたのか、それとも太い番手を入れたからか。器具破折のあと、原因をどこに求めるかで次の一手は変わります。

この問いを「曲げたまま回し続ける」実験で整理した古典が、この1997年の研究です。結論を先に言うと、ステンレス管で作った人工根管の中でNiTi器具を折れるまで回したところ、破断までの回転数(折れるまでに何回転したか)には、回転速度(750〜2000 rpm)による有意な差が出ず、湾曲の半径が小さいほど、器具が太いほど、有意に少なくなりました

この記事では、器具を回す速さを「回転速度(rpm)」、折れるまでに回った回数を「破断までの回転数」と書き分けます。

NiTiは「折れる前のサイン」が見えにくい

ステンレスのファイルは、折れる前にねじれが伸びたり強く曲がったりしやすく、目で見て捨てどきに気づけます。ところがNiTiは超弾性でよくしなるぶん、目に見える変形がないまま、突然折れることがあると報告されていました。著者らは、使用済みNiTi器具の目視点検は当てにならない、と書いています。

一方、当時の器具の規格(ADA規格No.28)の試験は、先端を固定してねじり切る「静的」な試験でした。湾曲の中で回り続ける器具には、1回転ごとに、湾曲の外側で引っ張り、内側で圧縮がかかります。著者らは、この繰り返しの負荷による金属疲労(周期疲労)が器具破折の最も大きな要因かもしれないのに、規格には湾曲も疲労も入っていない、と問題提起しています。

今回の一手:湾曲を「角度」と「半径」に分ける

根管の湾曲は、ふつうSchneider法(1971年)で、角度1つの数字で表されます。著者らはこれに対して、湾曲部分を円の一部とみなし、円弧の角度(どれだけ曲がるか)円の半径(どれだけ急に曲がるか)を別々に測る方法を提案しました。

同じ「角度60度」でも、半径で曲がり方の急さが変わる角度 60度r半径5 mm(ゆるやかな湾曲)従来の角度1つの測り方では43度角度 60度r半径2 mm(急な湾曲)従来の角度1つの測り方では52度原著の図2をもとにした模式図(寸法は目安)。湾曲部分を円の一部とみなし、その円の半径rと、円弧の角度を別々に測る43度・52度は、この研究の60度の人工根管をSchneider法(従来の角度1つの測り方)で測った値(原著の考察と図1)
原著の図2をもとにした模式図。角度はどちらも60度でも、半径5 mmはゆるやかに、半径2 mmは急に曲がる。この研究の60度の人工根管をSchneider法で測ると、半径5 mmは43度、半径2 mmは52度になった(原著の考察)

角度が同じでも、半径が小さいほど急なカーブになります。実際、この研究の人工根管をSchneider法で測ると、半径2 mmの30・45・60度は26・40・52度、半径5 mmの30・45・60度は24・35・43度で、同じ60度の管でも従来法では43度と52度に分かれました。角度1つでは、この「急さ」の違いが見えない、というのが著者らの主張です。

人工根管:18ゲージのステンレス針(内径0.83 mm)を曲げて、角度30・45・60度×半径2・5 mmの6種類を作製。湾曲の中心は器具の先端から7 mm。
器具:NiTiのライトスピード#30(軸径0.223 mm)と#40(軸径0.269 mm)。刃のない細い軸の先に小さな切削ヘッドがある器具で、軸の太さが一定なため、刃やテーパーの影響を除いて比べられる、という理由で選ばれています。
回し方:ヘッドを動力計(Magtrol Dynamometer)のコレットに固定し、10 g-cmの負荷をかけて、回転速度750・1300・2000 rpmで折れるまで自由に回転。10 g-cmは、高度に石灰化した下顎中切歯を実際に形成し、象牙質を削ったときに記録されたトルク(6〜14 g-cm)をもとに決めています。
本数:6種類の湾曲×3つの回転速度=器具ごとに18群、各群10本
判定:トルクが急に落ちた時点を破断とし、回転速度(rpm)×破断までの時間で破断までの回転数を算出。解析は分散分析とNeuman-Keuls法。
観察:折れた器具の破断面と、平均の破断までの回転数の75〜80%まで回して止めた器具を、走査電子顕微鏡で観察。

結果:差が出たのは湾曲の半径と器具の太さ、回転速度では有意差が出ず

破断までの回転数を左右したもの・しなかったもの湾曲の半径 5 mm → 2 mm#30・#40とも、急な湾曲(半径2 mm)で破断までの回転数が少なかった有意に減少(p<0.00001)器具の太さ #30 → #40軸径0.223 mm→0.269 mm。調べたすべての半径・角度で、#40のほうが少なかった有意に減少(p<0.00001)湾曲の角度 30度 → 45度・60度45度と60度の間は有意差なし(#40・半径2 mmは除く)。著者らは角度だけの影響は不明確とも結論有意に減少(p<0.00001)回転速度 750・1300・2000 rpm多変量分散分析で有意な因子ではなかった(原著の表記は#30でp<0.10、#40でp<0.06)有意差なしステンレス管の人工根管(6種類)でライトスピード#30・#40を各条件10本、折れるまで回転させた実験室研究(原著の結果と図4〜6)原著に数値の表はなく、結果はグラフで示されている。赤=破断までの回転数を減らした因子、緑=有意差が出なかった因子
原著の結果と図4〜6から整理。原著に数値の表はなく、破断までの回転数はグラフで示されている(図の縦軸は0〜800回または0〜1,000回の目盛り)
回転速度:多変量分散分析で、回転速度は破断までの回転数を左右する有意な因子ではありませんでした。原著は「#30でp<0.10、#40でp<0.06」とだけ書いていて、どちらも有意水準のp<0.05には届いていません。一元配置分散分析では、回転速度だけを変えて差が出たのは36群のうち2群でした。
器具の太さ:調べたすべての半径・角度で、#40は#30より有意に少ない回転数で折れました(p<0.00001)。軸径の差は0.046 mmです。
湾曲の半径:半径5 mmより急な半径2 mmで有意に少ない回転数で折れ(p<0.00001)、#30・#40のどちらでも同じ傾向でした。著者らは、湾曲を表す指標のうち、破断を最も一貫して予測したのは半径だったとしています。
湾曲の角度:45度と60度は30度より有意に少ない回転数で折れました(p<0.00001)。ただし45度と60度の間には有意差がなく、例外は#40・半径2 mmの群で、ここだけは角度が大きくなるごとに有意に減りました。著者らは論文の結びで、角度だけの影響ははっきりしないとも書いています。
折れた場所:破断はいつも湾曲部分のまん中=最も曲がった点で起き、ヘッドのすぐ後ろで折れたものは1本もありませんでした。
時間:記録の上限は18分でしたが、すべての器具が回し始めて5分以内に折れています。
p値の書き方:要旨では「p<0.05、検出力0.9」、結果の章では「p<0.00001」と、同じ解析でも書き方が揃っていません。

走査電子顕微鏡の所見も印象的です。途中まで回して止めた器具は、肉眼でも、まっすぐな状態の電子顕微鏡像でも正常に見えました。ところが軸を曲げた状態で見ると、最も曲がる位置で亀裂が開いて見えたのです。破断面は、表面の縁から亀裂が始まり(第1段階)、1回転ごとに少しずつ進んだ筋(第2段階)を経て、最後に中央部が延性破壊する(第3段階)という、疲労破壊の形をしていました。

なお、角度30度で破断までの回転数が多かったことについて、著者らは「予想外」と書いています。内径0.83 mmの管が30度の群では器具を十分に拘束できず、器具が実際より大きな半径で曲がっていた可能性を考えています。

なぜ回転速度では差が出にくく、半径が効くのか

著者らの説明はこうです。器具にかかる応力は湾曲の半径に反比例すると大まかに言えるので、半径が小さいほど器具のひずみが大きくなり、疲労寿命が短くなる。太い器具も、同じ湾曲に入れば、より大きな応力を受けます。

回転速度で有意差が出なかった理由については、亀裂は1回転の引っ張りの間に少し進んで止まる、その進み方は金属中の音速に近い速さで、器具の回転よりはるかに速い、だから破断までの回転数は回転速度に左右されない、と考察しています。

ここで大事なのは、著者ら自身が付け加えている次の点です。器具には、湾曲と太さで決まるおおよその「寿命の回転数」があり、回転速度を上げれば、その回転数を短い時間で使い切る。だから低い回転速度のほうが、使える時間という意味では長くなり得る、と著者らは書いています。「回転速度は関係ない」と読むのではなく、「破断までの回転数に回転速度による有意差は出なかった」と読むのが正確です。

また著者らは、予備実験で#30を半径5 mmの管に通したとき、30度では低サイクル疲労の振る舞いになり、25度以下では疲労寿命がきわめて長かった、とも述べています。

明日の臨床へ

著者らの結論:NiTiのエンジン駆動器具では、破断の予測には回転速度より湾曲の半径・角度と器具の太さが重要(ただし角度だけの影響ははっきりしない)。器具の規格試験には、曲げた状態で回す動的な試験を入れるべきで、根管形成の研究でも半径を独立した因子として扱うべきだ。
著者らの考察からの提案:
・この実験では器具を同じ深さに固定して回したため、最も曲がる点がずっと同じ位置でした。著者らは、臨床で上下に動かし続ければ器具の寿命はかなり延びると考えられるとし、一か所にとどめる使い方は避けるべきだと書いています。ただしこれは、ステンレス器具を調べたDederichらの研究を引いた推論で、上下動の効果そのものはこの実験では調べていません。
太い器具のほうが丈夫で安全、とは言えない。湾曲の中では、太いほど少ない回転数で折れていました。
・部分的に疲労した器具は目で見ても異常がなかったため、著者らは、ステンレスの器具と同じように決めた使用期間で廃棄するのがよいとし、半径が小さく角度が大きい厳しい湾曲では1回の使用で廃棄するのが最も安全かもしれないと述べています。ただし、ライトスピードの具体的な使用基準はこの研究からは導けない、とも明記しています。
補足(筆者の読み):
・湾曲の半径は、著者らによれば、エックス線写真に円のゲージを当てて測れます。術前に「角度」だけでなく「どれだけ急に曲がっているか」を見る習慣は、この論文の物差しをそのまま臨床に持ち込むものです。
・破断までの回転数はステンレス管の中での値で、臨床で何本目・何根管目で折れるかを示すものではありません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、ステンレス管の人工根管で、象牙質は削っておらず、負荷は10 g-cmで一定です。著者ら自身、実際に象牙質を削る器具では疲労の性質が違うはずだと書いています。第二に、器具は同じ深さに固定されていて、臨床の上下動はありません。第三に、器具はライトスピード1種類で、刃もテーパーもない細い軸です。著者らは、刃は応力の集中点になり得て、テーパーは歯冠側で断面を太くすると指摘しており、刃とテーパーのある一般的なNiTiファイルにそのまま当てはまるとは限りません。第四に、1997年の器具で、その後に登場した熱処理を加えたNiTiファイルは調べていません。第五に、各群10本の実験で、回転速度の「有意差なし」は「影響がない」ことの証明ではありません(#40はp<0.06で、一元配置分散分析では36群中2群に差が出ています)。第六に、角度30度の群では管が器具を十分に拘束できなかった可能性を著者ら自身が挙げていて、角度の効果は半径ほどはっきりしていません。第七に、結果はグラフのみで数値の表がなく、群ごとの正確な破断までの回転数は原著からは読み取れません。それでも、「湾曲を半径で測る」という物差しと、「曲げたまま回して疲労を見る」という試験の型を示した点で、その後のNiTi器具の疲労研究の出発点として、今も読む価値がある1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:NiTiのエンジン駆動器具の破断を予測するうえでは、回転速度よりも、湾曲の半径・湾曲の角度・器具の太さのほうが重要だった。ただし著者らは、角度だけの影響ははっきりしないとも結んでいる。器具は最も曲がった点で、目に見える変形なしに疲労で折れていた。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「湾曲を半径でも測る」という物差しを持ち込んだ点にあります。ただしステンレス管の人工根管で、同じ深さに固定して回した実験室の話で、臨床での破折率を比べたものではありません。

Pruett JP, Clement DJ, Carnes DL Jr. Cyclic fatigue testing of nickel-titanium endodontic instruments. J Endod. 1997;23(2):77-85. PMID: 9220735
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。