エンド|手術で破折を確認し写真で記録した垂直歯根破折32例を振り返り、診断のサインと考えられる原因を表にまとめた古典(Meister・Lommel・Gerstein 1980・Oral Surg Oral Med Oral Pathol)
根管治療を終えた歯に、1か所だけ深いポケット。痛みは「なんとなく違和感」程度——垂直歯根破折を疑う場面の典型像は、どこから来たのでしょうか。出どころのひとつがこの1980年の報告です。マーケット大学のペリオとエンドの教員3人が、外科的に破折を確認してカラー写真で記録した32例を集め、診断のサインと原因を振り返りました。32例中30例で骨欠損にプローブが入り、24例(75%)でエックス線写真に歯根膜腔のびまん性の拡大がありました。一方、強い痛みを訴えたのは2例(6.25%)だけで、21例(65.63%)は軽い痛みか鈍い不快感、9例(28.13%)は症状なし。原因については、27例(84.38%)を根管充填の側方加圧で力をかけすぎたことによる、と著者らは推定しています。根管充填から受診するほどの症状が出るまでは3日〜14年(平均3.25年)でした。
①その「根尖病変」、本当に根尖だけ?
根管治療から数年たった歯。痛みは「なんとなく噛むと違和感がある」程度。デンタルでは根尖部に透過像がある。再根管治療を考える場面ですが、もしその歯の根が縦に割れていたら、いくら根管をきれいにしても治りません。
この1980年の報告は、手術で確かめた垂直歯根破折32例を振り返り、見逃さないための手がかりをまとめたものです。結論を先に言うと、32例中30例で骨欠損にプローブが入り、強い痛みを訴えたのは2例だけでした。確認された破折例に共通していたのは、痛みの強さより、プローブで見つかる骨欠損のほうでした。
②当時、診断が難しかった理由
著者らは冒頭で、根管治療歯の垂直歯根破折はエンドの専門医にも歯周病の専門医にも診断が難しいと書いています。最初に患者を診るのは歯周病の専門医であることが多い、とも。当時すでに、歯周膿瘍や垂直的な骨吸収から破折が見つかった症例報告はありましたが、確定診断は外科的に開いて破折線を目で見るしかないことが多く、見つかれば抜歯が普通でした。
原因についても説が分かれていました。金属ピンやポストの腐食による膨張、ポストを入れるときの過大な圧、インレーのくさび作用、そして根管充填の側方加圧での過大な圧。どのサインがどれくらいの頻度で出るのか、原因としてどれが多いのか——それを症例の数でまとめようとしたのがこの研究です。
③手術で確かめた32例を振り返る
診査:全例で歯肉溝をプロービングし、垂直的な骨吸収を記録。全例で全層弁を開いて破折を目で確認しています。抜去した歯・歯根は破折を評価して撮影し、代表的な4歯は横断面も観察しました。
エックス線写真:多くの症例で、術前・根管充填時・毎年のリコール・抜歯前の写真がそろっています(歯を残した9例は抜歯前の写真なし)。
まとめ方:臨床とエックス線の所見(Table I)、著者らが推定した原因(Table II)、年齢層(Table III)を、例数と割合で整理。破折のない歯と比べる群はありません。
④結果1:いちばん多かったサインは「プローブが入る骨欠損」
プローブで骨欠損が見つかったのは32例中30例(93.75%)。ポケットが測れた症例では、骨の喪失は破折のある場所に起こり、破折線のいちばん深い点まで達していました。骨欠損がなかった2例は、どちらも根管充填の3日後に抜歯された歯で、著者らは「骨が失われるだけの時間がまだ経っていなかった」と見ています。この2例では、どちらも側方加圧の最中に鋭い破折音が聞こえていました。
エックス線写真では、24例(75%)に歯根膜腔のびまん性の拡大。根尖部だけに透過像があったのは7例(21.88%)で、根の一部の変位がはっきり見えたのは1例(3.13%)だけでした。ほかに、歯周膿瘍が9例(28.13%。出たり引いたりするものを含む)、瘻孔が4例(12.5%)、根管充填のときに「パキッ」という音がしたと振り返った患者が6例(18.75%)です。
⑤結果2:強い痛みは少数派
痛みは多くの場合、軽いかまったくありませんでした。強い痛みは2例(6.25%)、軽い痛みか鈍い不快感が21例(65.63%)、症状なしが9例(28.13%)です。強い痛みの2例は、どちらも最終的な加圧のときに鋭い破折音が聞こえ、24時間以内に痛み始めてだんだん悪化し、充填の3日後に抜歯されています。
根管充填から、受診するほどの症状が出るまでの期間は3日〜14年、平均3.25年。すぐに出るとは限らない、ということです。治療は32例中23例が抜歯。残した9例のうち5例は歯根切除、4例は欠損が小さかったため歯肉弁根尖側移動術と骨整形で清掃しやすい形にしています。
⑥見逃されかけた症例から学ぶ
この論文でいちばん臨床に効くのは、数字より見逃しかけた経過の記述です。
手術で開いても見落とした:根尖病変が残るため歯根端切除をした症例では、手術のときに根の頬側に骨の喪失があったのに、破折は見つかりませんでした。著者らは「術者が垂直歯根破折を骨吸収の原因として考えていなかったから」と書いています。欠損は残り、再手術で破折が見つかって抜歯になりました。
根尖だけに見える透過像:エックス線写真では根尖部だけの病変に見えても、プローブを入れると頬側に根尖まで届く骨欠損があった症例。骨の喪失が頬側にあったため、写真には写っていませんでした。
太すぎるガッタパーチャ:根尖部に写ったガッタパーチャのコーンが太いこと自体が、破折を疑う追加の手がかりになった症例もあります。
写真も骨も正常:充填の3日後に強く痛んだ歯は、エックス線写真に所見がなく、プローブでも骨欠損がなく、弁を開いても骨の喪失はありませんでした。見えていた部分に破折の証拠があり、抜歯して根の全長に及ぶ破折線が確認されています。
6年後の歯周膿瘍:7年前に根管充填した大臼歯。1年後のリコールでは近心根の根尖に歯根膜のわずかな肥厚があるだけで、遠心根はほぼ正常。6年間は無症状でしたが、遠心根の近くに歯周膿瘍が出て、手術で遠心根の垂直破折が見つかり歯根切除となりました。
⑦結果3:原因の推定は「側方加圧の力」
著者らは32例中27例(84.38%)を、ガッタパーチャの側方加圧での過大な力によるものと推定しました。残りは、生活歯へのインレー装着2例、失活歯へのインレー装着・ポスト装着・ピン装着が各1例です。インレーとポストの4例はすべて金合金でした。インレーを「叩いて」入れた歯では、インレーの近心歯肉側の隅角から根尖方向へ破折線が伸びていました。
もうひとつの論点が腐食説です。著者らは、腐食しない金合金の4例でも破折が起きたこと、銀ポイントで充填した近心根には破折がなくガッタパーチャで充填した太い遠心根が割れていた大臼歯の横断面などを挙げ、「見られる腐食は、先に破折が起きて口腔内の液が金属に届いた結果」と結論しています。ただし鋼製ピンの1例は抜歯されておらず、腐食の有無は調べられていません。
年齢は、32例中25例(78.13%)が40歳以上、19例(59.38%)が50歳以上でした。著者らは、歯は年齢とともに、また根管治療後にもろくなると考えるのが妥当だと述べています。ただしこの研究には比べる集団がないため、年齢で破折が起こりやすくなるかどうかは、この数字からは言えません。
⑧明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・根管治療歯の「長引く軽い違和感」「治らない根尖病変」「出たり引いたりする歯周膿瘍」を見たら、全周をていねいにプロービングする。32例中30例で骨欠損があったという数字は、その手間をかける理由になります。
・根尖部だけの透過像でも破折は否定できない。頬側の骨欠損はデンタルに写らないことがある、と原著が症例で示しています。
・根管充填中の「パキッ」という音は記録しておく価値があります。6例がその既往を話し、強い痛みの2例ではどちらも充填時に鋭い破折音が聞こえていました。
・側方加圧のスプレッダーは、力の加減が問われる道具です。著者らが推定した原因の大半がここに集まっていたことは、充填のたびに思い出したいところです。
・当時の手がかりは2次元のデンタルとプローブで、原著も「確定診断は開いて破折線を見るしかないことが多い」と書いています。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:垂直歯根破折の診断には、日常的なプロービングを含むエックス線と臨床のサインが役に立つ。主な原因はガッタパーチャの側方加圧での過大な力(結論では銀ポイントを押し込む力も並べている)で、インレーやダウエル(ポスト)を叩いたり押し込んだりすること、ポスト孔の削りすぎが副次的な原因と考えられる。筆者の読みでは、この論文の値打ちは頻度の数字そのものより、「痛みが弱くても、根尖だけの透過像でも、プローブを入れる」という診査の順番を、手術で確かめた症例で示した点にあります。


