1問1答 論文 保存修復

臼歯のオーバーレイ、形成デザインはどう選ぶ?——窩洞を評価し、バットジョイントを基本に部位ごとに組み合わせる臨床プロトコル(1人の臨床医の経験にもとづく術式解説)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|臼歯の間接接着修復(アンレー・オーバーレイ・ベニアレイ)の形成デザインと手順を、イタリアの開業医が自身のプロトコルとして解説した術式論文。比較データはなく、専門家の意見と症例写真が中心(Ferraris 2017・Int J Esthet Dent)

咬頭を覆うか残すか、フィニッシュラインはバットジョイントかショルダーか。臼歯の間接修復の形成は、術者の感覚で決まりがちです。イタリアの開業医Ferraris先生はこの論文で、まず窩洞を評価し(軸間の象牙質→辺縁隆線→髄室天蓋→咬頭の順に重視)、ビルドアップをほぼ全例で行い、咬合面はバットジョイントを基本に、隣接面はスロット・ベベル・リッジアップから、部位ごとに組み合わせる手順を提案しました。咬頭の厚みは生活歯で2 mm、失活歯で3 mmを被覆の目安として引用しています。ただし、この分類は著者の臨床経験にもとづくもので、形成デザインどうしを比べた成績は示されていません。

論文
Posterior indirect adhesive restorations (PIAR): preparation designs and adhesthetics clinical protocol
著者
Federico Ferraris, DDS(イタリア・アレッサンドリアの開業医。単著)
掲載
The International Journal of Esthetic Dentistry 2017;12(4):482-502(CLINICAL RESEARCH欄)
種類
臨床術式の解説論文。著者自身の「adhesthetics(接着+審美)」プロトコルとして、適応・窩洞の評価・ビルドアップ・形成デザインの分類・形成と仕上げの手順を、文献の引用と症例写真(29図)で示したもの。形成デザインの分類は「文献に明確な分類がないため臨床経験にもとづいて提示する」と著者が明記。患者を集めた研究や、デザイン間の比較データはない
PMID
28983533

臼歯のオーバーレイ、形成はどう決めていますか

咬頭が薄い。でもフルクラウンにするほどではない。そんな臼歯で、咬頭を残すか覆うか、フィニッシュラインをどうするか。その場の感覚で決めていないでしょうか。

この論文は、その判断を1本の手順にまとめた術式の提案です。まず窩洞を評価し、残す構造に優先順位を付ける。次にビルドアップで下地を整える。そのうえで、咬合面と隣接面それぞれの形成デザインを、歯の部位ごとに選んで組み合わせる。著者は「保存的な形成と予後のバランスを取るため」と位置づけています。

なぜ「間接の部分被覆」が選ばれてきたのか

著者はまず、部分被覆の接着修復はフルクラウンより健全歯質を多く残せる、という文献を引いています。修復物の呼び方も整理しています。咬頭を覆わないインレー、1つ以上の咬頭を覆うアンレー、咬合面全体を覆うオーバーレイ(アンレーの一種)、頬側のラミネートベニアと組み合わせたベニアレイです。

著者のプロトコルでは、咬頭を覆わないインレー窩洞、特に1本だけの場合は、健全歯質を残すため原則として間接修復を選びません。間接修復の主な適応として挙げているのは次の場面です。

著者が挙げる間接部分修復の主な適応
・1つ以上の咬頭を失った中〜大きな窩洞
・複雑な修復歯の予後のために、咬頭を覆ったほうがよい窩洞
・フルクラウンでは削りすぎになる場面での、臼歯の形態修正や咬合高径の挙上
・歯髄の生活力を保ちたい亀裂歯症候群
・同じ1/4顎に中〜大きな窩洞が複数ある場合

一方で、歯頸部マージンが象牙質にあることは、間接修復を強く勧める理由にはならないとしています。間接インレーを支持する研究と、直接修復のほうが確実だった研究、差がなかった研究があり、議論が分かれるためです。亀裂歯症候群でも、コンポジットのアンレー・オーバーレイで多くの症例の症状が消えたという文献を引きつつ、無差別に使うことには慎重であるべきと書いています。

この論文:1人の臨床医による術式の提案

論文の骨格:イタリアの開業医Ferraris先生の単著。自身の「adhesthetics」プロトコル(adhesion=接着とesthetics=審美を合わせた造語)のうち、臼歯の間接接着修復(PIAR)の部分を解説したもので、関連書籍を刊行予定と書かれています。
中身:適応/窩洞の評価/ビルドアップとポスト/形成デザインの分類(咬合面・周辺部、隣接面)/形成と仕上げの手順とバー。文献58本を引用し、症例写真・模型写真29図で示しています。
ないもの:患者を集めた研究、形成デザインどうしの比較、生存率や破折率の集計。症例写真には1年後・4年後の経過が含まれますが、個々の症例の提示です。
分類の根拠:著者自身が「文献に明確な分類はないため、臨床経験にもとづいて提示する」と明記しています。

まず窩洞を読む:残す構造の優先順位と、咬頭の厚み

手順の出発点は窩洞の評価です。問診と診査で修復歴や過去の歯冠破折を把握し、う蝕と古い修復物を除去してから、残った構造を重要な順に確かめます。

窩洞の評価:残す構造を重要な順に確かめる問診・診査(修復歴・過去の歯冠破折)う蝕と古い修復物を除去1軸間の象牙質interaxial dentin最も重要2隣接面に残る辺縁隆線proximal residual ridges3髄室天蓋roof of the pulp chamber4残った咬頭壁residual cuspal walls重要度は最も低い条件が悪いほど、咬頭を削って覆うことを考える咬頭を覆うかの目安(引用文献)生活歯:咬頭の厚みが2 mmを下回れば被覆を提案失活歯:目安は3 mm非機能咬頭を残すなら壁は2.0 mm以上厚みは最も薄い所を咬頭頂の軸に沿って測るFerraris 2017の本文から作図。優先順位はFicheraらの文献(16・17)を著者がプロトコルに採用したもの、厚みの目安は著者が引用した文献(33〜35・37)の値で、この論文で成績を確かめた数値ではない
窩洞の評価の流れ(本文から作図)。優先順位はFicheraらの文献(16・17)を著者がプロトコルに採用したもの、厚みの数値は著者が引用した文献の目安

いちばん重視するのは軸間の象牙質(interaxial dentin)、次に隣接面に残った辺縁隆線髄室天蓋、そして最後が残った咬頭壁です。条件が悪いほど、歯冠破折を防ぐために咬頭を削って覆うことを考える、という考え方です。

咬頭を覆うかの目安として、著者は文献の数値を引いています。生活歯では、咬頭の厚み(最も薄い所で、咬頭頂の軸に沿って測る)が2 mmを下回れば咬頭の被覆を提案(引用元は教科書)。失活歯の臼歯では目安が3 mmです(イタリアの歯科誌の文献)。非機能咬頭の薄い咬頭はさらに弱いことがあり、接着修復では完全に覆うか削合し、残す場合の壁は2.0 mm以上必要とする実験室研究(in vitro)も紹介しています。窩洞中央のイスムスは2 mm以上とするDietschiとSpreaficoの提案(教科書)も引用されています。

ただし著者自身、「弱い咬頭を残すか覆うか、支えるのに必要な厚みは」という問いに対して、文献は絶対的な答えを出していないとも書いています。

ビルドアップは、ほぼ全例で

最終形成の前に、コンポジットでビルドアップ(ブロックアウト)を行います。著者が挙げる利点は3つです。

ビルドアップの利点(著者)
・アンダーカットを材料で埋めるので、健全歯質を削ってアンダーカットを消さずに済む
・露出した象牙質をすぐに樹脂含浸させて覆える(イミディエート・デンティン・シーリング=IDS)
・将来の修復物の厚みを決めやすくなる
欠点:防湿・接着・築盛の手間が1工程増える。重合収縮の応力が出うるので、低収縮の材料と少量ずつの積層を勧めている
マージン:エナメル質のマージンは、セメント時の接着のためにビルドアップで覆わず残す(図6の説明)

失活歯のファイバーポストについて、著者は「維持のためのポストの適応は、このプロトコルにはない」と述べています。維持形態の少ない形成で、接着に頼る修復だからです。ただし、歯の壁が大きく失われている場合や、将来クラウンにする可能性がある場合は、根管を広げすぎない条件で使ってもよい(禁忌ではない)としています。ポストが破折のしやすさを変えるかについては、文献の結果が分かれていると整理しています。

形成デザイン:咬合面・周辺部の3つ(+ベニアレイ)と、隣接面の3つ

形成に共通するルールとして、著者は3つを挙げます。挿入方向に対してアンダーカットを作らない。内側の角は丸め、フィニッシュラインは明確にする。接着に有利な下地(エナメル質のマージンと、ビルドアップ)を確保する。そのうえで、デザインを次のように分類しました。アンレー・オーバーレイの形成はバットジョイント・ベベル・ショルダーの3型で、咬頭と頬側をまとめて覆う場合はベニアレイの形成を使う、という整理です。

形成デザインの分類(著者のプロトコル)咬合面・周辺部(3型)バットジョイント基本基本形・形成量が最小咬合面の傾斜に沿って削るベベルバットジョイントの変法45°以上・長さ1〜1.5 mmショルダー丸いショルダー・深さ約1 mm歯頸側〜中央1/3の咬頭破折隣接面スロット基本丸いショルダー約1 mmう蝕のあった部位・最も一般的ベベルスロットより保存的う蝕のない接触点の回復リッジアップ辺縁隆線を守るリッジ保存/リッジ被覆の2型組み合わせ型(咬頭+頬側を覆う)ベニアレイオーバーレイの形成+頬側のベニア形成審美の要求があるときFerraris 2017の本文から作図。分類は著者が臨床経験にもとづいて示したもので、デザインどうしを比べたデータはない。1本の歯で複数を組み合わせることが多い
形成デザインの分類(本文から作図)。著者が臨床経験にもとづいて示したもので、デザインどうしを比べたデータはない

バットジョイントは形成量が最小で、接着向きとされる基本形です。咬頭と中心溝の流れに沿って咬合面を削り、平らというより傾斜のついた面にします。咬合力から歯を守るための咬頭削合、咬合面側1/3(症例により中央1/3)の咬頭破折、強い咬耗・酸蝕が適応です。咬耗した歯列のテーブルトップでは、ごく保存的なバットジョイントを勧めています。

ベベルはバットジョイントの変法で、45°以上・長さ1〜1.5 mm程度の斜面を付けます。修復物と歯の境目をなだらかにしたい審美の場面、エナメル質の接着面を広げたい場面、周辺部に修復物のスペースが要る場面が適応です。ショルダーは深さ約1 mmの丸いショルダーで、歯頸側1/3(症例により中央1/3)まで及ぶ過去の咬頭破折や、歯頸側での抱え込み(cervical grasp)が要る場面に使います。

隣接面は3つです。スロットは約1 mmの丸いショルダーで、隣接面う蝕を除去すると自然にこの形になるため、最も一般的だとしています。ベベルはスロットより保存的で、以前のう蝕がない接触点を回復するときに。リッジアップは辺縁隆線を守る形成で、咬頭を覆う場合でも隆線を残す「リッジ保存」と、わずかに削る「リッジ被覆」があります。著者は、1本の歯で複数のデザインを組み合わせることが多いと書いています(例:近心リッジアップ、遠心スロット、頬側ベベルのオーバーレイ)。

形成量と仕上げの目安

咬合面の厚みは主に修復材料で変わる、と著者は整理し、文献の目安を引いています。

咬合面の厚みの目安(著者が引用した文献)
・積層のコンポジット:2 mmで安心、やや薄くてもよい場合がある(引用元は教科書)
・モノリシックの修復(二ケイ酸リチウムなどのセラミックス、セラミックで強化したレジン系材料):1 mmが適し、通常の咬合力なら0.5 mmまで使えるとする実験室研究(破壊強度の試験)もある
・高強度のモノリシック二ケイ酸リチウムでも、臨床の合併症を避けるには1.0〜1.5 mmがより安全(根拠はクラウンの実験室研究)
手順:咬合面に深さの目安になる溝を掘ってから削る→同じ形のダイヤモンドバーで面を整える(中目107 µm・粗目151 µm)→周辺部の形成(ベベル・ショルダー)→細目46 µmで仕上げ→超微粒子25 µmや手用のチゼルでフィニッシュラインを明確に

内側の角を丸める理由として、著者は2つを挙げています。1つは、摩擦で修復物が浮く、セメントの余剰が抜けにくい、模型で鋭い角を再現しにくい、といった問題を避けること。もう1つは破壊抵抗です。二ケイ酸リチウム修復をした大臼歯で、維持形態のある形成の実験室研究(文献49・50)では破壊抵抗が中程度にとどまり、水平な形成を用いた別の研究(文献51)より低かった、と著者は比べています。接着前処理(コンポジットならサンドブラスト、ガラスセラミックならフッ化水素酸)は図で触れるだけで、この論文の主題ではないと断っています。

明日の臨床へ

著者の結論:窩洞の診断は、PIARの適応と種類を決めるうえでとても役に立つ。ビルドアップ(ブロックアウト)はPIARのほぼ全例で強く勧める。形成はバットジョイントが最も勧められ、場合によりその変法のベベル。ショルダーは、中央〜歯頸側1/3に及ぶ過去の咬頭破折がある修復にほぼ必ず使う。目指すのは、より保存的な形成で予後とのバランスを取ること。
補足(筆者の読み):
・「咬頭を覆うか」を感覚でなく、残す構造の優先順位と咬頭の厚みで言葉にできるのが、この論文のいちばんの使いどころです。院内で形成の基準をそろえる叩き台として使えそうです。
・厚みの目安(生活歯2 mm・失活歯3 mm、材料ごとの咬合面の厚み)は、著者が引用した教科書や実験室研究などの値です。どの数値も、この論文で患者の成績と照らして確かめたものではありません。
・ポストを維持目的では使わない、隣接面は辺縁隆線をできるだけ残す、という考え方は、手元のケースで形成量を見直すきっかけになりそうです。
最終的なデザインや材料の選択は、個々の歯の状態と、使う材料のメーカーの指示に合わせて判断してください。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、この論文は1人の臨床医による術式の解説で、エビデンスの段階としては専門家の意見と症例の提示にあたります。形成デザインの分類は、著者自身が「臨床経験にもとづく」と明記しており、デザインどうしで破折率や生存率を比べたデータはありません。4年後の経過写真は良好な症例の提示で、症例数や失敗例の集計はありません。第二に、数値の出どころです。生活歯の咬頭2 mm・イスムス2 mmは教科書、非機能咬頭の壁2.0 mm・材料の厚み0.5〜1.5 mmは実験室研究(1.0〜1.5 mmはクラウンの試験)の値で、臨床成績から出た数値ではありません(失活歯3 mmはイタリアの歯科誌の文献)。第三に、手順のバーはKomet社の品番で示され、謝辞では同社がこのプロトコル用のバーキットを作ったことに謝意が述べられています。利益相反の開示欄は論文中に見当たりません。また著者は、同じプロトコルの書籍を刊行予定としています。それでも、「窩洞を評価してから、部位ごとにデザインを選んで組み合わせる」という見取り図は、形成の判断を言葉にしてチームでそろえる出発点として役に立ちます。数値は目安として、続く臨床研究と合わせて読みたいところです。

今日のひとこと

著者の提案:まず窩洞を評価して咬頭を残すか覆うかを決め、ビルドアップをほぼ全例で行い、形成はバットジョイントを基本に、ベベル・ショルダー、隣接面はスロット・ベベル・リッジアップを部位ごとに組み合わせる。狙いは、できるだけ保存的に形成しながら修復歯の予後とのバランスを取ること。ただしこれは1人の臨床医の経験にもとづく術式の提案で、形成デザインどうしを比べた臨床成績は示されていない。

Ferraris F. Posterior indirect adhesive restorations (PIAR): preparation designs and adhesthetics clinical protocol. Int J Esthet Dent. 2017;12(4):482-502. PMID: 28983533
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。