1問1答 論文 保存修復

根管治療の前に象牙質をボンディングしておく?——抜去歯のin vitro研究で、エンドの薬剤にさらした後に接着した群は24時間後のμTBSが約70%低下。薬剤の前に封鎖(IPDS)した群は対照と有意差なし

1問1答 論文 保存修復

保存修復|根管治療で使う次亜塩素酸・EDTA・シーラーにさらす前と後、どちらで象牙質を接着するか。抜去した第三大臼歯20本で微小引張接着強さを比べたin vitro研究(Carvalho ほか 2025・Journal of Esthetic and Restorative Dentistry)

根管治療を終えた歯に築造やCRで接着するとき、象牙質はすでに次亜塩素酸ナトリウムやEDTA、根管シーラーにさらされています。ブラジルとオランダ・米国の研究グループは、補綴で使う即時象牙質シーリング(IDS)を根管治療の「前」に行う方法(IPDS:immediate pre-endodontic dentin sealing)を、抜去した第三大臼歯20本(1群5本)の平らな象牙質で試しました。24時間後の微小引張接着強さ(μTBS)は、薬剤の後に接着した群が12.84 MPaで、薬剤を使わない対照(42.68 MPa)より約70%低い値でした。薬剤の前に接着したIPDS群は43.12 MPa、薬剤の後に象牙質を約0.5mm削り直してから接着した群は45.21 MPaで、どちらも対照と有意差はありませんでした。

論文
Immediate Pre-Endodontic Dentin Sealing (IPDS) Improves Resin-Dentin Bond Strength
著者
Marco A. Carvalho, Priscilla C. Lazari-Carvalho, Paulo E. T. Maffra, Thábata F. Izelli, Marco Gresnigt, Carlos Estrela, Pascal Magne(UniEVANGÉLICA・ゴイアス大学/ブラジル、フローニンゲン大学/オランダ、Magne Education/米国)
掲載
Journal of Esthetic and Restorative Dentistry 2025;37(1):39-47. DOI: 10.1111/jerd.13395
種類
in vitro研究(抜去歯)。う蝕のない第三大臼歯20本を4群(各5本)に無作為に割り付け、歯冠を切断して平らにした象牙質に根管治療の薬剤(2.5%次亜塩素酸ナトリウム・17%EDTA・AH Plus)を作用させ、接着の時期を変えて24時間後のμTBSを測定
PMID
39760150

根管治療の前に、象牙質をボンディングしておく?

根管治療を終えて、いざ築造やCRで接着する。そのとき象牙質は、すでに次亜塩素酸ナトリウムやEDTA、根管シーラーにさらされています。表面を清掃してから接着しても、本当に元の接着力は出ているのか。

この論文は、補綴で使われてきた即時象牙質シーリング(IDS)を根管治療の「前」に行う方法(IPDS)を、抜去歯で試したin vitro研究です。結論を先に書くと、24時間後の微小引張接着強さ(μTBS)は、薬剤の後に接着した群だけが12.84 MPaと、薬剤を使わない対照(42.68 MPa)より約70%低い値でした。薬剤の前に接着したIPDS群(43.12 MPa)と、薬剤の後に象牙質を削り直してから接着した群(45.21 MPa)は、対照と有意差がありませんでした。

エンドの薬剤は、なぜ接着の邪魔になるのか

著者らは緒言で、引用文献をもとに次のように整理しています。次亜塩素酸ナトリウムは酸化剤で、象牙質の表面に酸素の多い層を作ってレジンの重合を妨げ、象牙質のコラーゲンも傷める。濃度が高く作用時間が長いほど、その影響は大きい。さらに根管シーラーは象牙細管に入り込む。

一方、形成直後の新鮮な象牙質にすぐ接着して封鎖するIDSは、印象材や仮着材による汚染を防ぎ、接着強さを高めることが、間接修復の分野で報告されてきました。これを根管治療の前に行えば、薬剤から象牙質を守れるのではないか。辺縁の封鎖や破折強度についての先行研究はあるものの、接着強さそのものへの効果はまだ調べられていなかった、というのが著者らの問題意識です。

今回の研究:接着する「時期」を4通りに変えた

研究の骨格:矯正・外科・補綴の理由で抜去された、う蝕のない第三大臼歯20本(患者18〜35歳)を使ったin vitro研究。歯冠を切断して平らにした象牙質を、ソフトウェアで4群(各5本)に無作為に割り付けました。
4つの群
対照:薬剤にさらさずに接着
後から接着(LDh):薬剤にさらした後、最終修復の時点で接着
IPDS:先に接着・封鎖してから薬剤にさらす
削り直し(PLDh):薬剤にさらした後、超音波のダイヤモンドチップで象牙質を約0.5mm削り直してから接着
薬剤の再現:2.5%次亜塩素酸ナトリウムに1分×5回、17%EDTAに3分、再び次亜塩素酸に1分浸し、AH Plusを塗って10分待ち、95%アルコールで余剰を除去。
接着:2ステップのセルフエッチング(Clearfil SE Bond)+厚さ0.5mmのフロアブルレジンでコーティング。薬剤にさらした3群は、最終修復の前に研磨剤で清掃し、アルミナでサンドブラスト(対照群はこの工程なし)。IPDS群はさらにリン酸で表面を清掃し、疎水性ボンドを塗ってからCR(Z100)を築盛。
評価:蒸留水に24時間保管した後、1本あたり10本のビームでμTBSを測り、歯ごとの平均値で比較(ANOVA+Tukey検定)。破壊した場所も実体顕微鏡で分類。

結果:後から接着だけが、大きく落ちた

0 20 40 60 24時間後の接着強さ μTBS (MPa) 42.68 12.84 43.12 45.21 対照(薬剤なし) 後から接着(薬剤の後) IPDS(薬剤の前) 削り直し(薬剤の後に削る) 表1の平均値(各群5本、1本あたりビーム10本の平均)。SDは順に5.95・4.27・5.08・5.66。Tukey検定で後から接着だけが他の3群と有意差(p<0.001)、他の3群どうしは有意差なし
24時間後の微小引張接着強さ(表1の平均値・各群5本)。後から接着の群だけが他の3群と有意差あり

μTBSの平均は、対照42.68 MPa、後から接着12.84 MPa、IPDS 43.12 MPa、削り直し45.21 MPaでした。後から接着の群は他の3群すべてと有意差があり(p<0.001)、対照・IPDS・削り直しの3群どうしには有意差がありませんでした(p=0.872〜0.999)。後から接着の群は対照より約70%低い値です(原著の記載。平均値から計算しても69.9%)。

0 33.3% 66.7% 100% 破壊した場所の割合 (%) 72% 28% 100% 0% 86% 14% 82% 18% 対照 後から接着 IPDS 削り直し 樹脂含浸層で破壊 フロアブルのコーティング層との界面で破壊 表3より。濃い棒=樹脂含浸層、淡い棒=コーティング層との界面。レジンや象牙質の中で割れた凝集破壊は集計から除外(その本数は記載なし)
破壊した場所の割合(表3)。後から接着の群は、集計したビームの100%が樹脂含浸層で壊れていた(凝集破壊は集計から除外)

壊れた場所にも差がありました。後から接着の群は、集計したビームの100%が樹脂含浸層で破壊。対照・IPDS・削り直しの群では、14〜28%がフロアブルのコーティング層との界面で壊れていました。電子顕微鏡の観察では、IPDS群の界面は連続していたのに対し、後から接着の群では界面にすき間が見られ、象牙細管の中には薬剤の残りが観察されています(記述的な観察で、数値化はしていません)。

なぜ差がついたのか(著者らの考察)

著者らは、後から接着の群が低かった理由を、次亜塩素酸によるコラーゲンの変性で樹脂含浸層がうまくできず、シーラーが象牙細管を汚染したためと考えています。アルコールでの清掃とサンドブラストだけでは、接着力は戻りませんでした。

削り直しの群で接着強さが戻ったのは、薬剤にふれた表層の象牙質を取り除いたから、というのが著者らの読みです。シーラーは象牙質に0.5〜1mm入り込むという報告を引きつつ、この研究の材料と手順では約0.5mmの削り直しで足りたと述べています。ただしシーラーによっては1mm近く必要な場合もありうる、とも書いています。IPDSなら、この削り直しそのものを省ける、というのが著者らの主張です。

明日の臨床へ

著者らの結論(この抜去歯の実験の範囲で):根管治療の前に象牙質を接着しておくと、24時間後のμTBSは対照と有意差がなかった。IPDSをしない場合は、接着強さを戻すために薬剤にふれた象牙質を削り直す必要がある(この研究で試した削る量は約0.5mmの1条件だけで、下限は検討していないと著者ら自身が述べています)。
著者らの提案(この研究では確かめていない):IPDSを行えば、健全な象牙質を削り直さずに済むうえ、弱った咬頭の補強や、ディープマージンエレベーションと組み合わせた防湿の改善にもつながる。最終修復では、ガッタパーチャの上をグラスアイオノマーで覆い、IPDSの層をサンドブラストとリン酸で清掃して疎水性ボンドを塗り、CRを足していく手順を紹介しています。
補足(筆者の読み):
・すぐ使える読み方は、「薬剤にふれた象牙質に、清掃だけで接着すると弱い」という点です。根管治療後に築造・CRをするなら、表層を一層削ってから接着するという選択肢が、この実験の結果とは合っています。
・IPDSは、崩壊の大きい歯で隔壁を作るタイミングと重ねやすい手順です。ただし、封鎖した層が根管治療の期間(数日〜数週間)を経ても同じ接着力を保つかは、この研究では調べていません(24時間後だけの測定です)。
・咬頭の補強や歯の破折を防ぐ効果、修復物の長期成績は、この研究のアウトカムではありません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、抜去歯のin vitro研究で、1群わずか5本です。著者ら自身も限界に挙げており、症例数の計算はしていません。対照・IPDS・削り直しの間に「有意差がなかった」ことは、同等であることの証明ではありません。第二に、接着強さは24時間後だけで、熱サイクルなどの劣化試験はしていません。第三に、薬剤は根管や髄腔の中ではなく、切断して平らにした歯冠の象牙質に浸して作用させており、シーラーの硬化待ちも10分です。実際の根管治療で象牙質が受ける影響とは違う可能性があります。3種類の薬剤は続けて作用させており、どれが接着を下げたのかは分けていません(シーラー単独の汚染では接着強さに差がなかったという Peters らの先行研究も、著者らが引用しています)。また、IPDS群の封鎖から最終修復までの間隔は記載がなく(手順からは短時間とみられ)、臨床のように数週間あいた場合は試されていません。第四に、IPDS群だけ最終修復の前にリン酸と疎水性ボンドを追加し、対照群はサンドブラストをしていないなど、群間で手順が完全には同じではありません。第五に、測定は1人の術者が行い、盲検化の記載はありません。細かい点では、原著は「IPDSで238%上昇」と書いていますが、平均値から計算すると約236%です(削り直しの252%は一致)。レジンや象牙質の中で割れた凝集破壊は集計から外しており、その本数は書かれていません。資金はブラジルの国の研究助成(CNPq)で、著者らは使用材料のメーカーとの金銭的利害はないと申告しています。一方、責任著者のMagne先生の所属はMagne Education(米国ビバリーヒルズ。論文の所属表記)で、IPDSの手技はMagne先生らの成書でも紹介されています。それでも、「エンドの薬剤にふれた象牙質に、そのまま接着すると弱い」というはっきりした差は、築造やCRの前処理を見直すきっかけになる数字です。臨床での成績を確かめる研究が待たれます。

今日のひとこと

著者らの結論:この抜去歯の実験の範囲では、根管治療の薬剤にさらす前に象牙質を接着・封鎖しておく(IPDS)と、24時間後の微小引張接着強さは薬剤を使わない対照と有意差がなかった。一方、薬剤にさらした後にそのまま接着すると約70%低く、象牙質を約0.5mm削り直した群では対照と有意差がなかった(削る量の下限は検討していないと著者ら)。臨床での成績や、歯の破折を防ぐ効果は、この研究では調べていない。

Carvalho MA, Lazari-Carvalho PC, Maffra PET, Izelli TF, Gresnigt M, Estrela C, Magne P. Immediate Pre-Endodontic Dentin Sealing (IPDS) Improves Resin-Dentin Bond Strength. J Esthet Restor Dent. 2025;37(1):39-47. PMID: 39760150. DOI: 10.1111/jerd.13395
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。