1問1答 論文 保存修復

金インレーの咬合面マージン、ベベルは付けるべき?——ベベルありの縁は、バーニッシュで金を押し広げて閉じやすいと著者らは結論(抜去歯での実験・断面写真による定性的な観察・1976年)

1問1答 論文 保存修復

抜去歯に、咬合面ベベルあり・なしのType II金合金インレーを作ってリン酸亜鉛セメントで合着し、頬舌方向の断面を35〜80倍で観察して、縁の閉じ方を比べた実験研究(Hoard & Watson 1976・Journal of Prosthetic Dentistry)

鋳造インレーは、印象・ワックス・鋳造のどこかで必ず寸法が変わり、合着するとセメントの層でさらに浮き上がります。そのため咬合面の縁には、どうしても隙間が残ります。この隙間を、ベベルを付けた縁と付けない縁のどちらがうまく閉じられるのか。UCLAの保存修復の2人が、抜去歯に合着した金インレーを切って、断面を顕微鏡で確かめました。

論文
The relationship of bevels to the adaptation of intracoronal inlays
著者
Richard J. Hoard, Jay Watson(米国 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 歯学部 保存修復)
掲載
Journal of Prosthetic Dentistry 1976;35(5):538-542. PMID: 1063870
種類
in vitro 実験(抜去歯に窩洞を形成し、直接法でワックスパターンを作ってType II金合金で鋳造。咬合面ベベルあり・なしのインレーを、決めた手順で縁をバーニッシュ・研磨して25倍で確認し、リン酸亜鉛セメント〔5 kgの荷重で6分間保持、合着の最初の4〜5分間に縁を再バーニッシュ〕で合着。樹脂に包埋して頬舌方向に切断し、断面を35〜80倍で写真に撮って比べた。使った歯やインレーの数、隙間の計測値、統計解析の記載はない
PMID
1063870

鋳造インレーの縁には、必ず隙間が残る

鋳造インレーは、形成してから合着するまでに寸法が変わる場面がたくさんあります。著者らは、形成から最終的な合着までに「72回」の変化の機会があるという成書の記述を引き、印象材・ワックスパターンの収縮とゆがみ、鋳造収縮、そして合着時のずれが、縁の適合を悪くすると述べています。

さらに合着では、窩洞と鋳造体のあいだのセメントと、押し込むときの水圧で、インレーが最後まで沈みきりません。窩底や歯肉側の壁で浮いた分が、咬合面の縁(窩縁)の開きとして現れます。

なぜ縁の開きが問題か。著者らは、50 μmの開きで二次う蝕を招くのに十分だったという先行研究(引用文献の題名によるとアマルガム充填の研究)や、金インレーの漏洩は時間とともに増えたという報告を挙げています。そしてもう1つ、探針だけに頼ると、隙間があっても安心してしまうことを、探針の先と縁を並べた顕微鏡写真で示しています。

模型図では「ベベルなし」が有利に見えた

ベベルの役割は、昔から切り抜きの模型図で説明されてきました。著者らが示した4枚の図では、

模型図の見え方(原著Fig. 1〜4):
ベベルなしのインレーは、沈みきらないことの影響をいちばん受けにくく見える
水平なベベルでは、沈みきらなかった分と同じだけベベル部が開く
・ベベルが着脱方向と平行に近づくほど、縁の開きは小さくなる(この関係は三角関数で表せる)

ただし著者らは、この模型図は実際の臨床の状態を正しく表していないと述べています。実際の鋳造では寸法変化があり、図より大きな開きが出るからです。そこで、より臨床に近い形で、縁がどう合うのかを確かめることにしました。

抜去歯に金インレーを合着して、断面を見た

抜去歯でベベルあり・なしの金インレーを比べた手順金インレー作製抜去歯にベベルあり・なしの2種類縁をバーニッシュ研磨後に25倍で確認リン酸亜鉛で合着5kgで6分、合着中も再度バーニッシュ断面を観察頬舌方向に切り35〜80倍原著の方法から作図。金合金はType II。歯やインレーの数、隙間の計測値、統計の記載はない
実験の流れ(原著「METHODS AND MATERIALS」から作図)
研究の骨格: 抜去歯にインレー窩洞を形成し、咬合面ベベルあり・なしの2種類のインレーを作った。直接法でワックスパターンを作り、Type II金合金で鋳造した(埋没材はType IIの吸水膨張型)。
縁の合わせ方は手順を決めた。まず縁を見ながら閉じて見えるまでバーニッシュし、ディスクとストーンで肉眼で段差がなくなるまで整え、もう一度バーニッシュして25倍の実体顕微鏡で確認。それ以上は手を加えなかった。
リン酸亜鉛セメントで合着し、5 kgの荷重で6分間押さえ、合着の最初の4〜5分間に縁を再バーニッシュした。3時間後に余剰セメントを除き、再び25倍で確認。
樹脂に包埋して頬舌方向に切断し、断面を研磨して35〜80倍で写真に撮り、ベベルあり・なしの縁を比べた。
使った歯やインレーの数、隙間の計測値、統計解析は記載されていない。

結果——閉じ方が違った。「引き伸ばす」か「押し広げる」か

縁の隙間の閉じ方(著者らの観察と説明)ベベルなし(Fig. 6)金を「引き伸ばす」必要がある(延性)支えのない空間の上で伸ばすことになる理想的な実験室の条件でも難しかった伸ばした薄い金は仕上げで失われやすいベベルあり(Fig. 7・8)薄い縁を「押し広げて」閉じる(展性)主に伸びに頼らずに閉じられる著者らは、より予測しやすい方法と結論長いベベルの断面もFig. 8で示した原著の本文と断面写真から作図。定性的な観察で、隙間の計測値・統計はない
ベベルなし・ベベルありの縁で、隙間の閉じ方がどう違ったか(原著「RESULTS AND DISCUSSION」と断面写真Fig. 6〜8から作図。数値の比較ではない)

著者らは、金の縁を合わせる操作を、金を引っぱって伸ばす(延性)か、押しつぶして広げる(展性)かで隙間を閉じ、金を永久変形させる過程だと整理しています。

ベベルなしの縁(断面写真Fig. 6)では、隙間を閉じるために金を引き伸ばす必要がありました。著者らによると、これは実験室の理想的な条件でも難しかった。理由は、支えのない空間の上で伸ばすことになり、針金を引き伸ばすときのように結晶がすべり合えないこと。しかも伸ばした少量の金は、仕上げの器具で削れたり、はがれたりしやすい。実際にこの研究では、パミスや酸化スズを付けたラバーカップで、合わせたはずの金の一部が損なわれたと書かれています(どの縁で何件かの記載はありません)。

ベベルありの縁(Fig. 7、長いベベルのFig. 8)は、主に伸びに頼らずに閉じられます。著者らは、ベベルの薄い金は曲げる・たたく・スウェージング(押し広げる)といった作用を受けやすい(展性)と説明し、「こちらのほうが、金合金の縁を合わせる、より予測しやすい方法だ」と結論しています。なお、この実験で縁に行った操作はバーニッシュと研磨、合着中の再バーニッシュで、たたく操作を比べたわけではありません。

なぜ「伸びるはずの金」が伸びなかったのか

Type II・Type IIIの金合金の伸び(引張試験での伸び率)は20〜35%あると成書に書かれています。だから「ベベルがなくても、金を引っぱって縁を閉じられる」という考え方がありました。

著者らは、伸び率は一方向にまっすぐ引っぱって得た値で、その力を臨床でかけるのは難しいと注意を促しています。そして窩縁の上には金を支えるものがなく、薄く伸ばした金は仕上げで失われやすい。結語では、ベベルを付けた縁をマレットやスウェージングで合わせるほうがうまくいく方法だとしています(この実験で行ったのはバーニッシュです)。著者らは、展性についての研究がとても少なく、もっと研究が必要だとも述べています。

明日の臨床へ

①縁をバーニッシュして合わせる前提の修復物なら、ベベルの役割を思い出す。この研究の結論は、合着の前と最中に縁をバーニッシュするType II金合金インレーについてのもの。著者らは、ベベルを付けた縁のほうが、金を押し広げて予測どおりに閉じやすいとしている。
②探針で引っかからなくても、隙間がないとは限らない。著者らは、探針だけに頼ると誤った安心感を持ちかねないことを、探針の先と縁を並べた顕微鏡写真(Fig. 5)で示している。
③ベベルなしで引き伸ばした薄い縁は、研磨で失われやすい。この研究では、パミスや酸化スズを付けたラバーカップで、合わせた金の一部が損なわれたと書かれている(どの縁で何件かの記載はない)。
④材料が違えば、同じ答えになるとは限らない(ここから筆者の補足で、原著は調べていない)。日本の保険診療で多い金銀パラジウム合金は、Type II金合金とは組成も性質も違う。接着で付けるセラミックやレジンのインレーは、縁をバーニッシュできず、ベベルの考え方そのものが別の議論になる。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、抜去歯を使った実験室の研究で、口の中での適合や二次う蝕を追ったものではありません。第二に、使った歯やインレーの数、隙間の大きさの計測値、統計解析が一切書かれておらず、結論は断面写真(Fig. 6〜8)を見比べた定性的な観察と、著者らの材料学的な説明にもとづいています。第三に、ベベルの角度や長さの条件もはっきり示されていません。第四に、1976年当時の材料と方法(Type II金合金、アスベストのリング裏装、リン酸亜鉛セメント)で、現在の主流の修復とは前提が違います。それでも、「金は伸びるから縁は閉じられる」という数字の上の理屈と、実際に器具で合わせたときの手ごたえの違いを、断面で見せた点は、ベベルの意味を考えなおすきっかけになります。

今日のひとこと

ベベルを付けない縁は、隙間を閉じるために金を「引き伸ばす(延性)」必要があり、著者らは、支えのない空間の上で伸ばすことになるため実験室の理想的な条件でも難しく、伸ばした薄い金は仕上げの器具で削れたりはがれたりしやすいと述べている。ベベルを付けた縁は、主に伸びに頼らず、薄い金を押し広げる(展性:原著の言葉では曲げる・たたく・スウェージング)ことで閉じられ、著者らはこれを、金合金の縁を合わせる、より予測しやすい方法と結論した。ただし、実験で縁に行った操作はバーニッシュと研磨で、抜去歯に合着したType II金合金インレーの断面写真を見比べた定性的な観察である。歯の数・隙間の計測値・統計の記載はなく、接着で付ける現在のセラミックやレジンのインレーを調べたものでもない。

Hoard RJ, Watson J. The relationship of bevels to the adaptation of intracoronal inlays. Journal of Prosthetic Dentistry. 1976;35(5):538-542. PMID: 1063870
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。