抜去した第三大臼歯の咬合面象牙質を、ダイヤモンドポイント3種・カーバイドバー2種・SiC研磨紙3種で削り、クリアフィルSEボンドの微小せん断接着強さを比べた実験研究(Lee ら 2010・大韓歯科保存学会誌、本文は韓国語)
セルフエッチングシステムの接着強さのデータは、多くがSiC研磨紙で平らに磨いた象牙質で測られています。けれど臨床で接着する面は、ダイヤモンドポイントやカーバイドバーで削った面です。削る道具が変われば、スミヤー層も変わる。では接着強さはどれくらい変わるのか。韓国・朝鮮大学校のグループが確かめました。
①接着強さのデータは、どんな面で測られているか
セルフエッチングプライマーを使う2ステップの接着システムは、手順が短く、術者による差が出にくいことから広く使われています。プライマーの酸性モノマーがスミヤー層を通り抜けて下の象牙質を脱灰し、薄い樹脂含浸層を作る——だからスミヤー層を完全に除かなくても、リン酸エッチングと同等の接着強さが出る、と説明されてきました。
ただ、その接着強さの多くは、SiC研磨紙で平らに磨いた象牙質で測られています。臨床で接着するのは、ダイヤモンドポイントやカーバイドバーで削った面です。回転切削器具で削ると、器具ごとに違う粗さ・厚さのスミヤー層ができます。
先行研究では、ダイヤモンドよりカーバイドバーで削った面のほうが接着強さが高いという報告があります。ダイヤモンドの粒子の粗さについては、影響するという報告と差がないという報告があり、結果が割れていました。Leeらは、ダイヤモンドの粒度3種・カーバイドバーの刃の形2種・研磨紙の番手3種を1つの実験で並べて比べました。
②8通りに削った象牙質に、同じボンドで接着
各群の器具で象牙質表面を約0.2 mm削除:①レギュラーダイヤモンド(TF-12・粒子106〜125 µm)②ファイン(TF-12F・53〜63 µm)③超微粒子(TF-12EF・20〜30 µm)④クロスカットのカーバイドフィッシャーバー(No.557)⑤プレーンカット(No.245)⑥SiC研磨紙P120(125 µm)⑦P220(60 µm)⑧P800(22 µm)。削りかすはエアウォーターシリンジで洗って乾燥。
クリアフィルSEボンドのプライマーを20秒→エアで乾燥、ボンドを塗って弱くエア→10秒光照射(500 mW/cm²)。内径0.5 mm・高さ1 mmのTygonチューブにクリアフィルAP-X(A3)を詰めて40秒光照射し、1枚に3本の円柱を接着した。
蒸留水に24時間保管後、0.3 mmのワイヤーを掛けて微小せん断試験(1.0 mm/分)。各群n=20。一元配置分散分析+Tukey法(有意水準5%)。
③結果——同じボンドでも、30.8から59.2 MPaまで開いた
いちばん低かったのは①レギュラーダイヤモンドの30.8 MPa、いちばん高かったのは⑧SiC研磨紙P800の59.2 MPaです。回転切削器具だけで見ると、③超微粒子ダイヤモンド56.2 MPa、⑤プレーンカットカーバイド46.1 MPa、④クロスカットカーバイド45.7 MPa、②ファイン42.5 MPa、①レギュラー30.8 MPaの順でした。
④回転切削器具どうしで、統計的に言えること
数字の順番と、有意差があるかどうかは別です。Tukey法の結果を整理すると次のとおりです。
①レギュラーは、③超微粒子・④⑤カーバイドより有意に低い。②ファインとは有意差がありません。②ファインは、③超微粒子より有意に低いが、④⑤カーバイドとは有意差がありません。そして③超微粒子は、④⑤カーバイドより数値は高いものの、有意差はありません。④クロスカットと⑤プレーンカットの間にも有意差はありませんでした。
つまり、統計で言えるのは①レギュラーは③超微粒子・④⑤カーバイドより低く、②ファインも③超微粒子より低かった、ということです。「超微粒子でなければならない」「カーバイドより超微粒子が上」とまでは、この研究の統計からは言えません。
著者らは、粒子の粗いレギュラーダイヤモンドは粗く厚いスミヤー層を作り、リン酸よりpHの高いSEプライマーが、スミヤー層を通り抜けて下の健全な象牙質まで十分に届かなかったためと考えています。ただし、この研究ではスミヤー層の厚さや表面の粗さは測っていません。
⑤研磨紙の番手でも、接着強さは変わった
SiC研磨紙はP120 32.1 MPa、P220 45.3 MPa、P800 59.2 MPaで、3つの番手は互いにすべて有意差がありました。同じボンドでも、研磨紙の番手だけで接着強さの数字が大きく変わるということです。
回転切削器具と粒子の大きさが近い組み合わせで比べると、①レギュラー(106〜125 µm)と⑥P120(125 µm)、②ファイン(53〜63 µm)と⑦P220(60 µm)、③超微粒子(20〜30 µm)と⑧P800(22 µm)は、いずれも有意差がありませんでした。著者らは、実験室で臨床の切削面(ファインダイヤモンドやカーバイドバーで削った面)に近い条件を再現するなら、P220の研磨紙が使えるだろうと述べています。
⑥明日の臨床へ
②超微粒子ダイヤモンドは回転切削器具の中では数値が最も高いが、カーバイドバーと有意差はない。著者らは超微粒子を勧めているが、「超微粒子でなければならない」とまでは言えない。
③接着強さの論文を読むときは、象牙質の面を何で作ったかを見る。同じボンドでも、SiC研磨紙P120とP800の平均には約27 MPaの開きがあった(原著の平均値から計算)。研磨紙の番手が違えば、論文どうしの数字は単純に比べられない。
④この結果は、クリアフィルSEボンド1製品・24時間の値である。
⑦ここだけ、冷静に補助線
第一に、抜去した第三大臼歯の平らな咬合面象牙質での試験で、窩洞の形・深さ・部位(窩壁や歯頸部)は再現していません。
第二に、接着材はクリアフィルSEボンド1製品、評価は24時間後だけで、耐久性(熱サイクル・長期水中保管)は見ていません。
第三に、各群は7本の歯から作った20本の試験体で、同じ歯から複数本を取っているため独立したデータではありません。1枚に3本ずつなら21本になりますが、解析は各群20本で、1本を除いた理由は書かれていません。標準偏差も最大16.8 MPaと大きめです。
第四に、スミヤー層の厚さ・表面粗さ・破壊様式は観察されておらず、器具で差が出た理由は著者らの推測です。
第五に、本文は韓国語で、英文抄録だけ、4群と5群に割り当てたカーバイドバー(プレーンカットNo.245/クロスカットNo.557)が逆に書かれています。記事は表1・表2の脚注・韓国語の本文と抄録に従いました。研究は朝鮮大学校の学術研究費の支援によるものです。
それでも、「どの道具で作った面か」で接着強さの数字が大きく変わる(①レギュラー30.8 MPaと⑧P800 59.2 MPaでは2倍近い開き。平均値から計算)ことを、臨床の器具と実験室の研磨紙を並べて見せた点は、窩洞の仕上げと論文の読み方の両方を見直すきっかけになります。
今日のひとこと
クリアフィルSEボンドの象牙質への微小せん断接着強さは、削る道具で大きく変わった。回転切削器具ではレギュラーダイヤモンド30.8 MPa、ファイン42.5 MPa、超微粒子56.2 MPa、クロスカットカーバイド45.7 MPa、プレーンカットカーバイド46.1 MPa。レギュラーは超微粒子・カーバイドより有意に低く、ファインは超微粒子より有意に低かった。一方、超微粒子とカーバイドバー、ファインとカーバイドバーの間には有意差がなかった。SiC研磨紙はP120 32.1、P220 45.3、P800 59.2 MPaと番手ごとにすべて有意差があり、P220はファインやカーバイドと有意差がなかった。著者らは超微粒子ダイヤモンドを勧めているが、数値で言えるのは「回転切削器具ではレギュラーのダイヤモンドで作った面が不利で、ファインも超微粒子より有意に低かった。超微粒子とカーバイドバーの優劣はつかなかった」までである(抜去歯の平らな象牙質・24時間・1製品)。


