1問1答 論文 保存修復

エナメル質より軟らかいCRでも、対合エナメル質は摩耗した——18製品の試験管内摩耗試験。同じ用途の中で見ると、間接修復用はCR側、CAD/CAM冠用はCRよりエナメル質側が摩耗しやすい傾向

1問1答 論文 保存修復

直接修復用・間接修復用・CAD/CAM冠用のコンポジットレジン18製品について、フィラー形状をSEMで比較し、ウシ歯エナメル質に対する試験管内の二体摩耗試験で「CR側の摩耗量」と「エナメル質側の摩耗量」を示した解説記事(染屋ら 2019・歯科学報 カラーアトラス)

コンポジットレジンは直接修復だけの材料ではなくなりました。インレーにも、CAD/CAM冠にも使われています。エナメル質より軟らかいCRなら、対合の歯にはやさしいはず——本当にそう言い切れるでしょうか。東京歯科大学歯科理工学講座が、ウシ歯エナメル質を相手にした試験管内の摩耗試験で、18製品のCRの「自分の摩耗」と「相手の摩耗」を図にして見せてくれています。統計検定のない傾向の報告として読んでいきます。

論文
コンポジットレジン-フィラーの形状と摩耗特性(カラーアトラス)
著者
染屋智子, 笠原正彰, 服部雅之(東京歯科大学 歯科理工学講座)
掲載
歯科学報 119(6):479-481, 2019(東京歯科大学学術機関リポジトリ hdl.handle.net/10130/5077)
種類
カラーアトラス(図説形式の解説記事)。直接修復用・間接修復用・CAD/CAM冠用のコンポジットレジン(各6製品・計18製品)の硬化体のフィラー形状をSEMで比較し、試験管内の二体摩耗試験(上部試料=直径5 mmの半球状コンポジットレジン、下部試料=レジン包埋したウシ歯エナメル質。水中で荷重10 N・スピード1.5 Hz・ストローク幅3 mm・ストローク回数30,000回)を行って、CRの摩耗体積を摩耗痕の直径から、エナメル質の摩耗体積をレーザー顕微鏡の三次元解析から算出したもの。原著論文ではなく解説記事であり、n数・群間の統計比較は示されていない
PMID
なし(日本語の解説記事。PubMed未収載)

「CRは軟らかいから対合歯にやさしい」で終わらせない

長石系陶材、二ケイ酸リチウムガラスセラミックス、ジルコニア——硬質の材料が対合歯を摩耗させることは、よく知られています。だからCRは安心、という感覚を私たちはどこかで持っています。

硬さの数字だけを見れば、その感覚にもうなずけます。この報告で紹介されたCRのビッカース硬さは直接修復用で50-97、間接修復用で50-196、CAD/CAM冠用で65-114エナメル質の300 Hv(ヒトのエナメル質について報告された引用値)と比べれば、たしかに低いのです。

ところが著者らは、そこで止まりません。「セラミックに属するガラス成分をフィラーとして含むコンポジットレジンの、エナメル質に対する摩耗挙動については不明な点が多い」——だから試験管内で実際に測ってみた、というのがこの報告です。

ウシ歯エナメル質と、水中で30,000回こすり合わせる

研究の骨格: 直接修復用・間接修復用・CAD/CAM冠用のコンポジットレジンを各6製品、計18製品選び、まず硬化体のフィラー形状を走査型電子顕微鏡(同一倍率)で比較した。
次に二体摩耗試験。上部試料に直径5 mmの半球状コンポジットレジン、下部試料にレジン包埋したウシ歯エナメル質を取り付け、水中で、荷重10 N・スピード1.5 Hz・ストローク幅3 mm・ストローク回数30,000回で摩耗させた。
コンポジットレジンの摩耗体積は摩耗痕の直径から算出、エナメル質の摩耗体積はレーザー顕微鏡の三次元解析から算出した。

上下で測り方が違う点は押さえておきたいところです。CR側は摩耗痕の直径から幾何学的に計算し、エナメル質側は三次元解析で求めている——同じ手法で測った値どうしの比較ではありません。

結果——どの用途の群にも、エナメル質側に摩耗が出た製品があった

0 113.3 226.7 340 ビッカース硬さ Hv 50 97 50 196 65 114 300 300 直接修復用CR 間接修復用CR CAD/CAM冠用CR エナメル質 報告された下限 報告された上限 本文に示された範囲。CRの3群は「50-97/50-196/65-114」という下限と上限で示されており、製品ごとの個別値は本文には記載されていない。エナメル質の300 Hvは西村ら(1986)が報告したヒトのエナメル質の引用値(試験に使ったウシ歯エナメル質の実測ではない)で、範囲ではなく単一の値なので下限・上限とも同じ高さで描いている。硬さはいずれもエナメル質より低い。硬さと摩耗量の関係は原著では解析されていない
用途ごとのビッカース硬さの範囲と、エナメル質(300 Hv・ヒトの引用値)との位置関係。どれもエナメル質より軟らかい

まずフィラー形状。多くのコンポジットレジンは、多様なサイズの球状フィラーを持っていました。一方、直接修復用のBEP(ビューティフィル E ポステリア)、間接修復用のLUW(ルナウィング)とEST(エステニアC&B)、CAD/CAM冠用のLAU(ラヴァ アルティメット)には比較的大きな不定形状フィラーが含まれていました。ただし著者らは、用途の違い(直接修復用・間接修復用・CAD/CAM冠用)でフィラーの形状に違いは認められなかったと明記しています。

摩耗量はどうか。コンポジットレジン側では、間接修復用のESTが0.189 mm³で最も大きく、一方で摩耗体積が0.010 mm³以下のものも多くみられました——同じCRという括りの中でも、製品によって摩耗量が大きく違っていました。

エナメル質側では、直接修復用のBEPが0.054 mm³で最も大きいという結果でした。図5を見ると、どの用途の群にもエナメル質側に摩耗が出た製品がありました(ほぼ0の製品もあります)。

同じ用途の中で、CR側とエナメル質側のどちらが摩耗しやすかったか(傾向)

間接修復用CR 硬さ 50-196 Hv CR側が摩耗しやすい エナメル質側は小さめ CR側が最大だった EST(0.189 mm³) 6製品中5製品で同じ向き(図の読み取り) 直接修復用CR 硬さ 50-97 Hv CR側も摩耗 ▲▼ エナメル質側も摩耗 エナメル質側の摩耗量が最大は この群の BEP(0.054 mm³) CAD/CAM冠用CR 硬さ 65-114 Hv CR側は小さめ エナメル質側が摩耗しやすい 同じ用途の中での比較で、 他の用途より削るという意味ではない

硬さだけでは語れない どの用途のCRもエナメル質(300 Hv・ヒトの引用値)より軟らかいのに、エナメル質側にも摩耗が出た 著者が記述した「同じ用途の中での傾向」で、用途どうしで対合エナメル質の削れ方を比べたものではない。 統計検定なし・n数の記載なし。ウシ歯エナメル質を使った試験管内の二体摩耗試験(水中・30,000回)

同じ用途の中で、CR側とエナメル質側のどちらが摩耗しやすかったか(著者が記述した傾向。用途どうしの比較ではない)

著者らは、用途ごとに「同じ用途の中で、CR側とエナメル質側のどちらが摩耗しやすいか」という傾向も書いています。ここは読み違えやすいところで、用途どうしで対合のエナメル質の削れ方を比べたものではありません(エナメル質の摩耗が最も大きかったのは、上のとおり直接修復用のBEPです)。

間接修復用… エナメル質よりコンポジットレジンに摩耗が起きやすい傾向。CR側の摩耗が相対的に大きい側(図から読むと6製品中5製品で同じ向き。なかでもESTのCR側0.189 mm³が突出)。
CAD/CAM冠用… コンポジットレジンよりエナメル質に摩耗が起きやすい傾向。エナメル質側の摩耗が相対的に大きい側。
直接修復用… コンポジットレジンとエナメル質が同程度に進行。

ビッカース硬さの範囲は用途間で重なっていて、硬さの順に並べられるわけではありません。そしてどの用途のCRもエナメル質より軟らかいのに、エナメル質側に摩耗が出ていました。なお著者らは硬さと摩耗量の関係を解析しておらず、その機序にも踏み込んでいません。

明日の臨床へ

①「CRだから対合歯にやさしい」とは言い切れない。この試験では、どの用途のCRでもエナメル質側に摩耗が出た。エナメル質の摩耗が最も大きかったのは直接修復用のBEPだった。
②対合が天然歯なら、CRでも対合の咬耗を経過観察の項目に入れておく。ただしウシ歯を使ったin vitroの結果で、臨床での頻度や程度は示されていない。
③間接修復用CRは、この試験ではCR側の摩耗が相対的に大きかった。ただし製品数は各6つで、統計検定はない。
④用途名より、製品ごとの差が大きい。CR側の摩耗量はESTの0.189 mm³から0.010 mm³以下まで開いていた。「CAD/CAM冠用だからこう」と一括りにできない。
⑤硬さの数値だけで対合歯への影響を判断しない。この報告では、どれもエナメル質より軟らかいのに、エナメル質側に摩耗が出ていた。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは原著論文ではなく「カラーアトラス」という図説形式の解説記事(3ページ)です。試験条件と結果の傾向は書かれています。18製品それぞれの摩耗量は図(誤差棒つき棒グラフ)で示されていますが、本文に製品名つきで書かれた摩耗量はEST 0.189 mm³とBEP 0.054 mm³の2つだけ(ほかに「0.010 mm³以下のものも多い」という記述がある)で、n数・誤差棒の意味・群間の統計比較は書かれていません。「傾向が見られた」は統計的有意差の主張ではないことに注意が必要です。第二に、ウシ歯エナメル質を用いた試験管内(in vitro)の二体摩耗試験であり、唾液・咀嚼サイクル・pH変化・三体摩耗(食物を介した摩耗)は再現されていません。比較に使われたエナメル質の300 Hvも、ヒトのエナメル質の引用値で、試験に使ったウシ歯の実測ではありません。第三に、30,000回のストロークが臨床の何年に相当するかは示されていません。第四に、上部試料が半球状CRで下部がエナメル質という形態の非対称があり、摩耗量の算出法もCR側とエナメル質側で異なります。原著に資金提供・利益相反の記載はありません。それでも、「エナメル質より軟らかいCRでも、対合のエナメル質側に摩耗が出る。しかも製品ごとの差が大きい」という観察を図で示した価値はあり、材料選択の際に頭の片隅に置いておきたい知見です。

今日のひとこと

ウシ歯エナメル質との試験管内の二体摩耗試験で、18製品のCRを用途別に並べた傾向の報告(統計検定なし・n数の記載なし)。ビッカース硬さは直接修復用50-97・間接修復用50-196・CAD/CAM冠用65-114で、いずれもエナメル質の300 Hv(ヒトのエナメル質の引用値)より低い。それでもどの用途のCRでもエナメル質側に摩耗が出た。エナメル質側の摩耗量が最も大きかったのは直接修復用のBEP(0.054 mm³)。CR側の摩耗量が最も大きかったのは間接修復用のEST(0.189 mm³)で、0.010 mm³以下のものも多くみられ、製品ごとの差が大きい。著者らは、同じ用途の中で見ると間接修復用ではエナメル質よりCR側が、CAD/CAM冠用ではCRよりエナメル質側が摩耗しやすい傾向、直接修復用は両者が同程度と記述しているが、これは用途どうしで対合エナメル質の削れ方を比べたものではない(図4・図5を目盛りから読むと、間接修復用6製品のうち5製品でCR側の棒がエナメル質側より高い)。フィラー形状は、BEP・LUW・EST・LAUに比較的大きな不定形状フィラーが見られたが、用途の違いによるフィラー形状の差は認められなかった。著者らの結論は「コンポジットレジンは、自身だけでなく対合歯も摩耗させることを考慮したうえで選択することが必要」。

染屋智子, 笠原正彰, 服部雅之. コンポジットレジン-フィラーの形状と摩耗特性. 歯科学報 2019;119(6):479-481. http://hdl.handle.net/10130/5077
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。