ハイデルベルク大学で2011〜2013年に装着された、モノリシックジルコニア単冠86本と、唇側だけ築盛した部分ベニアジルコニア単冠72本を、5年(平均観察5.8年)にわたって前向きに追跡した観察コホート研究(Waldecker 2022・J Prosthodont Res)
「モノリシックジルコニアは割れない」——チッピングに悩まされてきた身には、ありがたい話です。ではモノリシックのクラウンは、5年経つと何が起きるのか。ハイデルベルク大学が158本を追いかけたところ、合併症は確かに起きていました。ただし、それは陶材のチッピングではありませんでした。
①チッピングから解放された、その次に来るもの
ジルコニアフレームに陶材を築盛したクラウンで、いちばん悩まされたのはチッピングでした。メタルボンドより頻度が高い、という報告も出ています。
その解決策として広まったのがモノリシックジルコニアです。築盛しないのだから、剥がれる陶材がない。しかも0.5mmの削除量で足りるため、歯質の保存にも有利だと言われます。
では、チッピングの心配が消えたあと、モノリシックのクラウンは5年経つと何が起きるのか。ハイデルベルク大学が、158本を追いかけました。
②モノリシック86本 対 部分ベニア72本を、5年追う
ここで押さえておきたいのが、この2群は無作為に割り付けられていないことです。この施設の方針は「ベニアは主に審美領域に限る」——つまり部分ベニアは前歯に、モノリシックは臼歯に偏っています。この事実が、結果の読み方を大きく左右します。
③結果——数字だけ見ると、モノリシックが負けている
5年間で合併症が1つも起きなかった率(成功率)は、モノリシック 87.0% 対 部分ベニア 95.8%。ログランク検定で有意差あり(P=0.026)です。
ところが残りの2つは違います。「失敗なし」生存率は 93.1% 対 96.2%(P=0.111・有意差なし)。「セラミック破折なし」生存率にいたっては、モノリシック 100% 対 部分ベニア 98.6%(P=0.274)で、順位が逆です。
モノリシックジルコニアは、5年間で1本も割れていません。そして唯一チッピングが起きたのは、部分ベニア側の1本(上顎左側犬歯の辺縁部)でした。
④では、モノリシックは何に負けたのか
内訳を開けると、話が反転します。モノリシック86本で記録されたのは——根管治療が必要になった支台歯が8本(9.3%)、二次う蝕の処置が4本(4.7%)、新しい治療方針のための撤去が3本(3.4%)、そして歯根の垂直破折・脱離・隣接接触の喪失・歯周病の進行がそれぞれ2本ずつ(2.3%)。
ほとんどが生物学的な合併症です。脱離2本と隣接接触の喪失2本は技術的な合併症ですが、それ以外は生物学的なもの——クラウン自体が壊れたのではなく、その下の歯や歯周組織に問題が起きている。著者らの結論の最後の一文も、そのままこう書かれています——「失敗の原因となったのは、生物学的合併症だけだった」。
そしてここに、部位の偏りが重なります。モノリシック群で合併症が起きた19本のうち、18本(94.7%)は臼歯部でした。著者らは考察でこう認めています——「臼歯部のクラウンは前歯部より合併症が多いことが複数の臨床研究で示されている以上、この差はおそらく設計ではなく部位によるものだろう」。理由として、臼歯部はアクセスが難しく、複根歯の形態が複雑であることを挙げています。
そのうえで「モノリシックと部分ベニアが前歯部と臼歯部で不均等に分布しており、前歯部の合併症が少ないため、この研究は修復物の種類の影響と部位の影響を区別するには実質的に限界がある」と、自ら書いています。研究者が自分で認めている限界は、そのまま受け取るのが誠実だと思います。
そして失敗(クラウンまたは支台歯の除去に至ったもの)の内訳も示されています。モノリシック86本のうち12本(13.8%)が失敗で、その中身は支台歯の垂直破折2本、歯周病の進行による抜歯2本、二次う蝕による修復物の撤去2本、根管治療の失敗による支台歯の除去2本、新しい補綴方針のための撤去3本、根管治療中の撤去1本。部分ベニアは72本中2本(2.8%)(歯周病進行による抜歯1・根管治療中の撤去1)でした。失われているのは、クラウンではなく歯のほうだとわかります。
審美性はどうか。最終評価で(0〜10の数値評価スケール)、モノリシックは患者 9.2±1.0・歯科医師 8.1±1.2、部分ベニアは患者 9.4±0.7・歯科医師 8.6±0.8。どちらも高く、患者のほうが歯科医師より高く点をつけているのも興味深いところです。
⑤明日の臨床へ
持ち帰れるのは、3つです。
①この研究では、モノリシックジルコニアは5年・86本で1本も割れなかった。ただし「割れない材料になった」と言い切るのは早計で、原著が引く別の研究では、モノリシック40本中2本が0.8年・1.5年で破折したという報告もあります。著者らの書き方は「技術的合併症はまれ」にとどまり、そのうえで「モノリシックまたは部分ベニアのクラウンでは、合併症は技術的なものより生物学的なもののほうがはるかに起こりやすい」と述べています。
②心配すべきは、その下の歯。いちばん多かった合併症は根管治療の必要(8本・9.3%)でした。クラウンが5年もつかどうかより、支台歯が5年もつかどうかのほうが、実際にはよほど大きな問題です。形成量・辺縁の位置・仮着期間・咬合——気を配る先が変わります。
③「有意差がついた」を、そのまま「モノリシックが劣る」と読まない。差がついたのは合併症なし生存率だけで、しかも著者ら自身が部位の偏りによる可能性を明記しています。この研究は「モノリシックか部分ベニアか」を決める研究ではありません。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
5年間の「合併症が1つも起きなかった率」は、モノリシック 87.0% 対 部分ベニア 95.8% で、モノリシックのほうが有意に低い(P=0.026)。ところが中身を開けると、話が反転する。モノリシック群の合併症は、根管治療が必要になった8本、二次う蝕4本、新しい治療方針のための撤去3本、歯根破折2本、脱離2本、隣接接触の喪失2本、歯周病の進行2本——脱離と隣接接触の喪失を除けば生物学的な問題で、セラミックの破折は5年間で1本も起きていない(セラミック破折なしの生存率 100%)。逆に、唯一チッピングが起きたのは部分ベニア側の1本だった(ただしこの差も有意ではない・P=0.274)。失敗(クラウンや支台歯の除去に至ったもの)はモノリシック12本・部分ベニア2本で、その中身は抜歯・歯根破折・根管治療の失敗——失われていたのはクラウンではなく歯のほうである。そして著者ら自身が最大の限界を認めている——この施設ではベニアを審美領域に限る方針だったため、モノリシックは臼歯に、部分ベニアは前歯に偏った。臼歯の単冠は前歯より合併症が多いことは既に知られており、「この差は設計ではなく部位のせいだろう」と本文にはっきり書かれている。審美評価は患者9.2 対 9.4、歯科医師8.1 対 8.6(0〜10のスケール)と、どちらも高かった。


