2017年 歯周病・インプラント周囲疾患の新分類 ワークグループ3 コンセンサスレポート(Jepsen 2018・J Periodontol)
「これは食いしばりでできたくさび状欠損ですね」——長く使われてきた説明です。ところがAAPとEFPが合同で開いた2017年の世界ワークショップは、咬合力について4つの「否定」を並べました。アタッチメントロスを起こす根拠はない。NCCLを起こす信用できる根拠もない。アブフラクションの存在は現在の根拠に支持されない。歯肉退縮も起こさない。では咬合力は何に関係するのか、そこは残されています。
①「これは咬合が原因のくさび状欠損です」と説明していませんか
頬側歯頸部のくさび状の欠損。歯肉退縮。歯の動揺。この3つが同じ患者さんに揃うと、説明は自然にこうなります。
「食いしばりや咬合の力で、歯頸部がたわんで欠けていくんです」。アブフラクションという言葉も、いつのまにか日常語になりました。
この説明は、直感的でよくできています。エナメル質と象牙質が咬合力でたわみ、応力が集中する歯頸部が疲労破壊する——理屈として筋が通っている。だからこそ広まりました。
ところが2017年、アメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)が合同で開いた世界ワークショップのワークグループ3は、この点について短い一文を残しています。「アブフラクションの存在は、現在のエビデンスに支持されていない」。
②この文書は何を決める会議だったのか
2017年の世界ワークショップは、1999年のAAP分類を全面的に改訂した会議です。歯周炎のステージ・グレード分類が生まれたのもこの場でした。
そのなかでワークグループ3が担当したのは、歯周組織に影響する全身疾患と、発育性・後天性の条件という領域です。
この記事で扱うのは、そのうち③の咬合力です。ワークグループ3の合意には、ほかにも臨床の言葉づかいを変える内容が複数含まれています(後述)。
③咬合力について合意された「4つの否定」
否定された4つを、原文の言い回しに沿って並べます。
1つめ。アタッチメントロス。「ヒトにおいて外傷性咬合力または咬合性外傷が歯周組織のアタッチメントロスを起こすというエビデンスは無い」。
2つめ。くさび状欠損(NCCL)。「外傷性咬合力がNCCLを起こすという、信用できるエビデンスは無い」。
3つめ。アブフラクション。セメントエナメル境に生じるくさび形の欠損を、エナメル質と象牙質のたわみと疲労の結果として説明する用語——「その存在は現在のエビデンスに支持されていない」。
4つめ。歯肉退縮。「観察研究のエビデンスからは、咬合力は歯肉退縮を起こさない」。
一方で、すべてが否定されたわけではありません。歯周炎の重症度との関連は観察研究で報告されており、動物モデルでは骨吸収を増やしうるとされました。ただし「ヒトで歯周炎の進行を速めるというエビデンスは無い」。関連はあるが、因果と進行加速は示せていない——この距離感が合意の中身です。
歯根膜の炎症については、方向が違います。ヒトと動物の研究から外傷性咬合力が歯根膜に炎症を起こしうるという、限られたエビデンスがあるとされました。4つの否定と並ぶなかで、因果の向きが(弱いながら)肯定された唯一の項目です。
④では咬合の何を見るのか——動揺が「進行しているか」
原因論では慎重だった委員会も、動揺の扱いについては実務的な線を引いています。
正常な歯周支持がある歯に外傷性咬合力が加わると、現れるのは適応性の動揺——進行しません。これが一次性咬合性外傷です。
歯周支持が減った歯に、正常あるいは外傷性の咬合力が加わると、進行性の動揺になります。歯の移動や、噛んだときの痛みを伴うこともある。これが二次性咬合性外傷で、患者さんの快適さのために固定(スプリンティング)が必要になりうるとされました。
そして委員会は「reduced periodontium(減少した歯周組織)」という言葉そのものに注文を付けています。動揺が進行しているときにはじめて、その力がその人・その部位の適応能力を超えていると言える。支持が減っていること自体は、判断の材料にならないという整理です。
用語も更新されました。歴史的に「過剰な咬合力(excessive occlusal force)」と呼ばれてきたものは、「外傷性咬合力(traumatic occlusal force)」に改称されています。定義は「歯および/または歯周付着装置の傷害をもたらすあらゆる咬合力」。矯正力も、この分類の中に並べて置かれました。
⑤同じ合意で変わった、もうひとつの言葉
ワークグループ3の合意には、補綴と歯周の境界に関わる変更も入っています。
「生物学的幅径(biologic width)」という用語は、「supracrestal tissue attachment(歯槽頂上部の付着組織)」に置き換えられました。組織学的には接合上皮と歯槽頂上部の結合組織性付着から成るもので、その根尖・歯冠方向の寸法は一定ではない——だから「幅径」という語をやめて置き換える、というのが委員会の提案です(改称の理由そのものは文書に書かれていません)。
そのうえで、修復物のマージンが歯槽頂上部の結合組織性付着の中に侵入すると、炎症と歯周支持組織の喪失に関連することは、ヒトの研究から支持されるとされました。ただし、その悪影響がプラークバイオフィルムによるのか、外傷によるのか、材料の毒性によるのか、あるいはその組み合わせなのかは判定できないと明記されています。
ほかにも、糖尿病関連歯周炎と喫煙関連歯周炎はそれぞれ独立した疾患ではなく、診断名に添える修飾因子(descriptor)として扱うこと、歯肉退縮に隣接面のアタッチメントロスを基準とした新分類(RT1・RT2・RT3)を導入することなどが合意されています。喫煙が歯周炎のリスクを2〜5倍に高めることは確立している、という記述もこの文書の中にあります。
⑥明日の臨床へ
まず、説明の言葉を変えるところからです。
くさび状欠損を見て「咬合が原因です」と断定する根拠は、2017年の合意には無い。同じように「食いしばりで歯肉が下がりました」も、観察研究のエビデンスでは支持されません。「原因ははっきりしていませんが、ここは知覚過敏やう蝕が起きやすい場所です」と伝えるほうが、現在の根拠に忠実です。なお知覚過敏やう蝕・NCCLが起こりやすいという記述は、原著では歯肉退縮によって露出した根面について述べられているものです。
ただし咬合を診ること自体が不要になったわけではありません。委員会は症例定義のなかで、外傷性咬合力の存在を示しうる所見としてフレミタス、歯の動揺、温度感受性、過度の咬耗、歯の移動、咀嚼時の不快感や痛み、歯の破折、エックス線的な歯根膜腔の拡大、歯根吸収、セメント質増生を挙げ、これらの徴候・症状を予防し治療するために、外傷性咬合力の臨床的管理は適応であると明記しています。
そのうえで、支持が減った歯で動揺が進んでいるなら、それは力が適応の範囲を超えたサインであり、快適さのための固定を検討する場面になります。
そして「生物学的幅径」という言葉を、そろそろ手放す。数値で固定されたものではなく、症例ごとに寸法が変わる付着組織である——用語の変更はその認識の変更でもあります。マージンをどこに置くかを考えるとき、この理解の差は小さくありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
くさび状欠損を見て「咬合が原因です」と言い切れる根拠は、2017年の合意には無い。原因と言える根拠が示されていないのは、アタッチメントロス・NCCL・歯肉退縮の3つ。判断が保留されたのが「歯周炎の進行を速めるか」。一方で委員会は、フレミタスや咬耗や破折を含む徴候の予防と治療のために、外傷性咬合力の臨床的管理は適応であるとも明記している。


