1問1答 論文 歯周病

BOP 10%——歯周の「健康」に、はじめて数字の線が引かれた

1問1答 論文 歯周病

2017年 世界ワークショップ ワークグループ1 コンセンサスレポート(Chapple 2018・J Periodontol)

「歯肉の状態は良好です」——この一言を、何を根拠に言っていますか。2017年の世界ワークショップは、歯周の健康と歯肉炎の境目に BOP 10% という線を引きました。さらに、治療が終わって安定した歯周炎の患者では、健康と判定するポケットの上限が ≤4mm に緩められています。同じ「BOPあり」でも、患者の背景によって意味が変わる——その整理がこの合意の中身です。

論文
Periodontal health and gingival diseases and conditions on an intact and a reduced periodontium: Consensus report of workgroup 1 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions
著者
Chapple ILC, Mealey BL, Van Dyke TE, ほかワークグループ1参加者
掲載
Journal of Periodontology 2018;89(Suppl 1):S74-S84
種類
コンセンサスレポート(AAPとEFPの合同ワークショップ・症例定義の合意)
PMID
29926944

「歯肉の状態は良好です」——その根拠は何ですか

メインテナンスで来院した患者さんに、こう伝える場面があります。「歯肉の状態は良好ですね」

そのとき、頭の中では何を見ているでしょうか。発赤の有無。腫れ。プロービングでの出血が「少し」あるかどうか。多くは印象の総合判断です。

そして次の質問に、はっきり答えられるでしょうか。「BOPが何%までなら健康ですか」

2017年にAAPとEFPが合同で開いた世界ワークショップのワークグループ1は、この問いに数字で答えました。BOP 10%未満。それが歯周の健康の線です。

「健康=病気が無い」では足りなかった

このコンセンサスレポートは、WHOの健康の定義から議論を始めています。健康とは単に病気や虚弱が無い状態ではない——だとすれば歯周の健康も、「歯肉炎も歯周炎も無い」だけでは定義として足りない。

成り立ち: 2017年の世界ワークショップは、1999年のAAP分類を全面改訂した会議。ワークグループ1が担当したのは「歯周の健康」と「歯肉の疾患・条件」で、健全な歯周組織(intact periodontium)と、支持が減少した歯周組織(reduced periodontium)の両方について、症例定義を合意した。定義は疫学調査用と、日常の臨床用の2種類が用意されている。

ここで委員会が置いた土台が、「臨床的に検出できる炎症が無いこと」という定義でした。免疫による監視は生物学的には常に働いており、それは臨床的な歯肉の健康と両立する——つまりゼロの炎症を求めているのではない、という前提です。

BOP 10%という線

BOP(プロービング時の出血部位の割合)で引かれた線

10%未満 歯周の健康

10〜30% 限局型の歯肉炎

30%超 広汎型の歯肉炎

0% 10% 30% 100%

測り方も指定されている:規格化されたプローブで 約0.25N(0.2〜0.25N)の軽い力、全歯の6点 (近心頬側・頬側・遠心頬側・近心舌側・舌側・遠心舌側)で、歯肉溝の底までプロービングする

この区分は「歯周炎の既往が無い患者」に適用される。歯周炎の既往がある患者は別の扱いになる(次の図)

疫学調査における区分。ポケット深さ ≤3mm を前提に、BOPの割合で健康・限局型・広汎型が分かれる

合意された数字はシンプルです。

健康は BOP 10%未満、かつポケット深さ ≤3mm。

歯肉炎は BOP 10%以上、ポケット深さ ≤3mm。そして疫学調査の症例定義では、BOPが 10〜30% なら限局型30%超なら広汎型の歯肉炎と区分されます(臨床では別に、軽度<10%・中等度10〜30%・重度>30%という重症度の伝え方が示されています)。

測り方も指定されています。規格化されたプローブで約0.25N(0.2〜0.25N)の軽い力、全歯の6点(近心頬側・頬側・遠心頬側・近心舌側・舌側・遠心舌側)を歯肉溝の底まで。この条件が揃ってはじめて、10%という数字が意味を持ちます。

ただし委員会は、この基準の限界も同じ文書に書いています。規格化されたプローブが普及していないこと、術者による圧やアングルのばらつき、フェノタイプや服薬や喫煙といった患者側の要因。だから日常の臨床では、健康な患者でも1〜2部位に炎症の所見が出ることがあり、孤立した部位の軽度で遅れて出る出血は「臨床的な健康」の範囲に収まりうるとされました。

また、軽度・中等度・重度の歯肉炎をはっきり分ける確かなエビデンスは無く、その区分は専門的意見の問題である——とも明記されています。

いちばん実務に効くのは「土俵が3つある」こと

同じ「BOPあり」でも、立っている土俵が違う

① 健全な歯周組織 アタッチメントロスなし

② 減少した歯周組織 歯周炎の既往なし(退縮・歯冠長延長)

③ 治療後に安定した 歯周炎の患者

アタッチメントロス なし あり あり

健康と判定するポケット ≤ 3mm ≤ 3mm ≤ 4mm (4mm以上でBOP陽性の部位が無いこと)

健康と判定するBOP < 10% < 10% < 10%

炎症が出たときの診断名 歯肉炎 歯肉炎 歯周炎の患者のまま

③だけ ≤4mm に緩めた理由 治療後に全部位で ≤3mm を達成できることは稀で、3mm超でBOP陰性の部位まで「健康でない」と扱うと 過剰治療につながる——これが多数意見だった(≤3mm・BOP無しにすべきという少数意見も記録されている)

③で歯肉に炎症が出た場合の歯肉炎の基準は ≤3mm の浅い部位での出血。4mm以上で出血していれば、それはもう「閉じたポケット」ではない

同じ「BOPあり」でも、患者がどの状態から来ているかで判定基準と診断名が変わる。③だけポケットの上限が ≤4mm に設定されている

この合意でいちばん臨床を変えるのは、実は数字そのものではありません。同じ所見でも、患者の背景によって意味が変わると整理したことです。土俵は3つあります。

① 健全な歯周組織。アタッチメントロスも骨吸収も無い。BOP 10%未満・≤3mm で健康、10%以上で歯肉炎。

② 歯周炎の既往が無いのに支持が減っている患者。歯肉退縮のある人、歯冠長延長術を受けた人などです。アタッチメントロスはあるが歯周炎ではない。判定基準は①と同じで、健康は BOP 10%未満・≤3mm。

③ 治療が成功して安定した歯周炎の患者。ここだけが違います。健康と判定するポケットの上限が ≤4mm——ただし4mm以上でBOP陽性の部位が無いことが条件です。

なぜ緩めたのか。委員会は理由を書いています。治療後に全部位で ≤3mm を達成できることは稀で、3mmを超えていてもBOP陰性の部位まで「健康でない」と扱うと、監視と支持療法で足りる部位に侵襲的な治療が向かってしまう——これが多数意見でした。「≤3mm・BOP無し」にすべきという少数意見も、再発リスクの高さを理由に記録されています。

そして、この記事のいちばんの持ち帰りがここです。歯周炎の既往がある患者に歯肉の炎症が出ても、その人は「歯肉炎の患者」にはならない。歯周炎の患者のままである。疫学目的に限っては、ひとりの患者を歯周炎の症例と歯肉炎の症例に同時に数えることはしない、と明記されています。臨床では Table 1 が、この状態を「歯周炎の既往がある患者における歯肉炎(gingivitis in a patient with a history of periodontitis)」と呼び、判定基準は ≤3mm の浅い部位での出血としています。

「安定」という状態が定義された

もうひとつ、日々の説明で使える概念が定義されました。歯周の安定(periodontal stability)です。

歯周の安定とは: 局所的・全身的なリスク因子のコントロールによって治療が成功し、その結果として ① BOPが最小(部位の10%未満)プロービング時に出血する4mm以上のポケットが無い ③ ほかの臨床パラメータが最適に改善している ④ 進行性の破壊が無い——この4つが揃った状態。

そして委員会は、そのすぐ後にこう続けています。治療を受けて安定し、現在は歯肉が健康な歯周炎の患者も、再発のリスクは高いままであり、したがって厳密に経過を追う必要がある

「治った」ではなく「安定した」。この言葉の選び方に、合意の姿勢が出ています。

明日の臨床へ

まず、BOP%を数える習慣です。6点法で測っているなら、出血部位の数を全測定部位で割るだけで出ます。28歯なら168部位で、その10%は16.8部位。健康は「10%未満」なので、出血16部位までが健康、17部位(10.1%)からは歯肉炎という具体的な目安が手に入ります。

次に、カルテに土俵を書く。この患者は①健全な歯周組織なのか、②歯周炎の既往が無いが支持が減っているのか、③治療後に安定した歯周炎患者なのか。ここが決まらないと、同じ「4mmのポケット」の意味が決まりません。③なら、BOP陰性の4mmは監視と支持療法の対象であって、侵襲的な治療へ進む対象ではない——そう判断できます(原著はこれを「なぜ閾値を ≤4mm にしたか」の理由として述べており、治療方針の勧告として書いているわけではありません)。

そして、説明の言葉を変える。歯周治療を終えた患者さんに「治りました」と言う代わりに、「安定しています。ただし再発のリスクは残るので、続けて見ていきます」と伝える。この合意は、そう言うための根拠を文章にしてくれました。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 10%という数字は、参照された研究に基づいて合意された物差しです。委員会自身が、規格化されたプローブの不足・術者間のばらつき・喫煙やフェノタイプの影響といった測定上の限界を並べたうえで、臨床では1〜2部位の所見が健康の範囲に収まりうると但し書きを付けています。つまり10%は「厳密な境界」ではなく「共通の物差し」です。とはいえ、印象で「良好です」と言っていた場所に数字が入るのは、それだけで診療の再現性を上げます。特に③の土俵——治療後の患者で ≤4mm・BOP陰性を健康と扱ってよいという線引きは、過剰な再介入を避ける実務的な根拠として、そのまま使える形をしています。

今日のひとこと

歯周の健康は「単に病気が無い状態」では足りず、BOP 10%未満という測れる状態として定義された。そして治療が終わった歯周炎の患者は、歯肉に炎症が出ても歯肉炎の患者にはならない——歯周炎の患者のままである。だから見るべきは炎症の有無ではなく、その人がどの土俵に立っているかである。

Chapple ILC, Mealey BL, Van Dyke TE, et al. Periodontal health and gingival diseases and conditions on an intact and a reduced periodontium: Consensus report of workgroup 1 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Periodontol. 2018;89(Suppl 1):S74-S84. doi:10.1002/JPER.17-0719 PMID: 29926944
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。