1問1答 論文 保存修復

エナメル質では、リン酸をかけないと疲労強さが半分だった

1問1答 論文 保存修復

ユニバーサル3製品と従来型1製品、4つとも同じ結果になった(Suzuki 2016・Operative Dentistry)

「ユニバーサルアドヒーシブはどちらのモードでも性能が落ちない」——メーカーはそう説明します。象牙質ではそのとおりでした。ではエナメル質では。5万回の繰り返し荷重で確かめたら、はっきりした差が出ました。

論文
Influence of Etching Mode on Enamel Bond Durability of Universal Adhesive Systems
著者
Suzuki T, Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, Endo H, Erickson RL, Latta MA, Miyazaki M(日本大学歯学部/クレイトン大学・米国)
掲載
Operative Dentistry 2016;41(5):520–530
種類
in vitro(ヒト歯の平坦なエナメル質面・剪断接着強さ各群n=15・剪断疲労強さ各群n=30)
PMID
27351078

「どちらのモードでも落ちない」は、どこまで本当か

ユニバーサルアドヒーシブのメーカーは、トータルエッチでもセルフエッチでも接着性能に妥協はないと説明してきました。これが本当なら、ひとつの窩洞のなかでエナメル質と象牙質に別の使い分けができることになります。小さな修復で1つのモードしか使えない場合でも、被着面の不均一さが不利にならない——臨床的な利点は大きい。

一方で、ユニバーサルの技術が旧世代の1ステップセルフエッチに対して本当の優位を持つのかという懸念も示されてきました。複数の被着面に個別の前処理なしで適応するために、組成はむしろ複雑になっています。

そこでこの研究は、エナメル質の接着耐久性だけに絞り、5万回の繰り返し荷重(疲労試験)で確かめました。

ユニバーサル3製品+従来型1製品を、2つのモードで

用いた4製品: SU=Scotchbond Universal/PE=Prime & Bond Elect/AU=All-Bond Universal(以上ユニバーサル3製品)。対照=SP=クリアフィル S3 ボンド プラス(従来型の1ステップセルフエッチ)。
方法: ヒト歯の平坦に研磨した(4000番)エナメル質面に、内径2.4mmのステンレスリングでコンポジットの円柱を立てる。トータルエッチモード(リン酸あり)セルフエッチモード(リン酸なし)を比較。剪断接着強さ(SBS)は各群n=15剪断疲労強さ(SFS)はステアケース法・10Hzで5万回まで負荷し各群n=30。破断面とレジン/エナメル質界面をSEMで観察した。

4製品すべてで、リン酸ありが勝った

0 18.7 37.3 56 剪断接着強さ(MPa) 46.4 27.7 42.6 28.8 42.1 24.1 43.5 27.5 SUScotchbond Universal PEPrime & Bond Elect AUAll-Bond Universal SPクリアフィル S3 ボンド プラス トータルエッチ(リン酸あり) セルフエッチ(リン酸なし) 各群n=15。SDは順に 5.4/3.8、5.2/5.3、4.9/2.4、5.5/2.3。4製品すべてでトータルエッチが有意に高い。トータルエッチモードでは製品間に有意差はなく、セルフエッチモードではAUだけが他の3製品より有意に低かった。SPは従来型の1ステップセルフエッチ(対照)
エナメル質への剪断接着強さ(MPa)。4製品すべてでトータルエッチが有意に高かった
剪断接着強さ(MPa、平均±SD/トータルエッチ・セルフエッチ): SU 46.4±5.4 / 27.7±3.8。PE 42.6±5.2 / 28.8±5.3。AU 42.1±4.9 / 24.1±2.4SP 43.5±5.5 / 27.5±2.3。4製品すべてでトータルエッチが有意に高い。二元配置分散分析では、エッチングモードの主効果が有意(P<.001)である一方、接着材の主効果は有意でなかった(P=.390)。交互作用は有意(P=.003)。
0 10 20 30 剪断疲労強さ(MPa) 22.3 12.8 21.0 10.7 21.6 10.0 22.4 12.3 SUScotchbond Universal PEPrime & Bond Elect AUAll-Bond Universal SPクリアフィル S3 ボンド プラス トータルエッチ(リン酸あり) セルフエッチ(リン酸なし) 各群n=30。ステアケース法・10Hzの正弦波で5万回まで負荷し、50%が破断する応力を疲労強さとした。SDは順に 4.6/1.6、4.8/1.2、2.2/2.2、4.0/3.5。4製品すべてでトータルエッチが有意に高く、同じモードの中では製品間に有意差はなかった
エナメル質への剪断疲労強さ(MPa)。セルフエッチモードでは、いずれもおよそ半分の値だった
剪断疲労強さ(MPa、平均±SD/トータルエッチ・セルフエッチ): SU 22.3±4.6 / 12.8±1.6。PE 21.0±4.8 / 10.7±1.2。AU 21.6±2.2 / 10.0±2.2。SP 22.4±4.0 / 12.3±3.5。4製品すべてでトータルエッチが有意に高く、同じモードの中では製品間に有意差はなかった。セルフエッチ/トータルエッチの比は SU 0.574・SP 0.549・PE 0.510・AU 0.463 で、「およそ半分」は46〜57%の幅を持つ。

疲労強さを接着強さで割った比(SFS/SBS)も、4製品すべてでトータルエッチのほうが高い(SU 0.480対0.462、PE 0.493対0.372、AU 0.513対0.415、SP 0.515対0.447)。1回の強さだけでなく、繰り返しに耐える割合まで下がっているということです。

製品間で唯一はっきりした差は、セルフエッチモードでのAUでした。接着強さ24.1MPaは他の3製品より有意に低い。原著は、Chenらの分類でPEとSUが「マイルド」なセルフエッチ接着材であるのに対し、AUは「ウルトラマイルド」に分類されることを挙げ、酸性度が低いため強い機械的嵌合が得られなかったのではないかと説明しています。

破断面が語る、リン酸の役割

破壊の様子が、数字の意味を裏づけます。

破壊様式: セルフエッチモードでは、4製品とも接着界面での破壊が支配的(疲労試験ではすべて100%が接着破壊)。一方トータルエッチモードでは、混合破壊とエナメル質内の凝集破壊が増えた。SEMでは、高倍率でエナメル質の亀裂・劈開・凝集破壊がはっきり観察されている。

接着界面ではなく歯質側で壊れるようになった——これは接着が界面の強度を超えたことを意味します。SEMではさらに、トータルエッチのほうがエナメル質表面のレジンタグが長いことも確認されました。

もうひとつ、原著の考察に印象的な整理があります。エナメル質は有機成分が乏しい均質な組織なので、象牙質のようにコラーゲン線維の酵素分解(MMPによる劣化)が関与しません。したがってエナメル質の接着劣化は象牙質より単純で、接着層そのものの劣化が直接そのまま接着の破綻につながる。だから接着層の組成と性質が、エナメル質の接着耐久性を決める主因になる、という筋道です。

実際、接着層の厚みは製品ごとに違いました。PE 2〜3μm、AU 4〜5μm、SUとSP 7〜10μm。SUとSPにはナノフィラーが確認され(SPでより顕著)、AUの接着層は均質でエナメル質の破片を明瞭に含み、PEはエナメル質片を含まないハニカム状のネットワークを示していました。

象牙質の話と、並べて読む

この結論は、同じグループが象牙質で出した結果と方向が逆です。象牙質では「リン酸をかけてもユニバーサルは落ちなかった」。エナメル質では「リン酸をかけないと落ちる」。

つまり両者を合わせると、セレクティブエッチ(エナメル質にリン酸、象牙質はセルフエッチ)が理想だが、リン酸が象牙質に流れても、接着の強さという点ではユニバーサルなら損をしない——という運用が、実験室のデータの範囲では成り立つことになります。ただし原著はここに但し書きを置いています。「術後の知覚過敏は接着強さとは別の機序で生じるものであり、トータルエッチモードで象牙質のエッチングが増えれば、それが増える可能性がある。これは今後の重要な課題である」接着の数字が落ちないことと、術後経過が変わらないことは別だ、という留保です。

そしてもうひとつ。この研究では、ユニバーサル3製品と従来型のSPのあいだに、疲労強さの有意差がありませんでした。原著は「ユニバーサルは従来型の1ステップセルフエッチと接着耐久性で違わない、という帰無仮説は棄却されなかった」と明記しています。ユニバーサルの利点は「複数のモードを選べること」であって、「セルフエッチのままでエナメル質に強いこと」ではない、という読み方になります。

明日の臨床へ

第一に、エナメル質にはリン酸を置く。ユニバーサルを使っていても、セレクティブエッチの一手間を省かない。この実験では、疲労強さがおよそ半分になりました。

第二に、この数字は「研磨した平坦なエナメル質」でのものだと理解しておく。実際の窩縁は4000番まで整えた面ではありません。少なくとも、条件を揃えた実験室の面ですら差が半分ついた、という読み方になります。

第三に、「ユニバーサルだからセルフエッチで十分」とは考えない。3製品とも、対照の従来型と疲労強さで差がありませんでした。

第四に、セルフエッチモードでの接着強さは、製品の酸性度に左右されうる。ウルトラマイルドに分類されるAUは、セルフエッチモードで他の3製品より有意に低い接着強さを示しました。ただし「酸性度が低いほどリン酸の効果が大きい」という用量反応の関係は示されておらず(リン酸あり・なしの差が最も大きかったのはマイルドのSUです)、AU1製品についての説明にとどまります。

つまり: エナメル質では、4製品すべてでトータルエッチが接着強さ・疲労強さの両方で有意に高かった(疲労強さは21.0〜22.4MPa 対 10.0〜12.8MPa)。破壊様式もセルフエッチでは接着界面、トータルエッチではエナメル質内の凝集破壊へ移った。ユニバーサル3製品と従来型1ステップの間に、疲労強さの差はなかった
ここだけ、冷静に補助線
この試験は4000番まで研磨した平坦なエナメル質面で行われています。実際の窩縁は研磨面ではなく、しかも斜面や無小柱エナメル質を含みます。24時間後の測定であり、水中保管や熱サイクルによる長期劣化は評価されていません。円柱を立てた剪断試験なので、窩洞の形態やCファクターの影響も入っていません。製品も4種のみです。原著自身が注意深く書いているとおり、疲労強さにおいてAUとPEはSUとSPより低い傾向を示したものの有意ではなく、そこから臨床的な結論は引き出せません。それでも、4製品すべてで同じ向きに、しかも接着強さと疲労強さの両方で差が出たという一貫性は強く、SEMで見た破壊様式の移り変わり(界面→エナメル質内)とも噛み合っています。「エナメル質にはリン酸」という古典的な原則が、ユニバーサルの世代でも有効だと確認できた研究だと思います。

今日のひとこと

エナメル質については、ユニバーサルアドヒーシブでもリン酸エッチングは省略できない。4製品すべてで、トータルエッチのほうが接着強さも疲労強さも有意に高く、疲労強さは自己エッチモードでおよそ半分だった。象牙質では「かけても落ちない」だったが、エナメル質では「かけないと落ちる」。同じ製品でも、被着面によって答えが逆になる。

Suzuki T, Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, Endo H, Erickson RL, Latta MA, Miyazaki M. Influence of Etching Mode on Enamel Bond Durability of Universal Adhesive Systems. Oper Dent. 2016;41(5):520–530. doi:10.2341/15-347-L PMID: 27351078
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。