1問1答 論文 保存修復

リン酸は15秒か、3秒か——象牙質で試したら答えが変わった

1問1答 論文 保存修復

3秒なら、どの接着材も対照より落ちなかった(Takamizawa 2016・European Journal of Oral Sciences)

セルフエッチ系にリン酸を足すかどうかは「する/しない」で語られがちです。でも実際に効いているのは、足すかどうかではなく「何秒か」かもしれません。0秒・3秒・10秒・15秒の4条件で、接着強さと5万回の疲労強さを測った研究があります。

論文
Influence of different pre-etching times on fatigue strength of self-etch adhesives to dentin
著者
Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, Suzuki T, Scheidel DD, Erickson RL, Latta MA, Miyazaki M(日本大学歯学部/クレイトン大学・米国)
掲載
European Journal of Oral Sciences 2016;124(2):210–218
種類
in vitro(ヒト抜去歯の平坦な象牙質面・剪断接着強さ各群n=15・剪断疲労強さ各群n=30)
PMID
26918658

「する/しない」ではなく「何秒か」で見る

リン酸エッチングは、エナメル質の接着では標準の手順です。だからセルフエッチ系でも、エナメル質にだけリン酸を置くセレクティブエッチが広く行われています。ところが臨床では、リン酸が象牙質側へ流れることは珍しくありません。

ここで思い出したいのが、エッチアンドリンス系ですら「長すぎるリン酸は不利」だという先行研究です。象牙質のエッチング時間を15秒から120秒・180秒へ延ばすと接着強さが下がる。乳歯では推奨時間の半分(7秒)のほうが15秒より有意に高い接着強さを示した報告もあります(Sardella・Osorio)。さらにSanabeらは、24時間後は7秒と15秒で差がなかったのに、6か月・12か月の水中保管で接着強さが落ち、その低下は15秒群でとくに大きかったと報告しています。

ならば、セルフエッチ系に足すリン酸も「時間」の問題として見直せるのではないか。それがこの研究の出発点です。

0秒・3秒・10秒・15秒を、4種類の接着材で

用いた4製品: EL=Prime & Bond Elect(ユニバーサル)/SU=Scotchbond Universal(ユニバーサル)/GB=Gエーニアル ボンド(従来型の1ステップセルフエッチ)/OX=オプチボンド XTR(2ステップセルフエッチ)。
方法: ヒト抜去歯の平坦に研磨した象牙質面に、リン酸の前処理を0秒(対照)・3秒・10秒・15秒行ってから接着材を塗布し、コンポジットの円柱を立てる。剪断接着強さ(SBS)は各群n=15剪断疲労強さ(SFS)はステアケース法・10Hzで5万回まで負荷し各群n=30。処理後の象牙質面とレジン/象牙質界面をFE-SEMで観察した。

3秒なら誰も損をしない。15秒で落ちるのは従来型

0 20 40 60 剪断接着強さ(MPa) 26.9 34.0 36.1 28.3 42.6 45.2 41.5 39.2 31.1 29.9 28.2 24.6 50.2 48.9 45.8 45.2 ELPrime & Bond Elect SUScotchbond Universal GBGエーニアル ボンド OXオプチボンド XTR リン酸なし リン酸3秒 リン酸10秒 リン酸15秒 各群n=15。ELとSUはユニバーサル、GBは従来型の1ステップセルフエッチ、OXは2ステップセルフエッチ。対照(リン酸なし)と有意差があったのは、ELの3秒・10秒(高い)と、GBの15秒(低い)
象牙質への剪断接着強さ(MPa)。ELは3秒・10秒で対照より高く、GBは15秒で対照より低かった
剪断接着強さ(MPa、平均±SD/0秒・3秒・10秒・15秒): EL 26.9±3.4 → 34.0±8.8 → 36.1±7.0 → 28.3±5.7(3秒と10秒が対照より有意に高い)。SU 42.6±4.0 → 45.2±6.5 → 41.5±5.6 → 39.2±6.0(3秒と15秒の間に有意差。対照はどちらとも有意差なし)。GB 31.1±3.8 → 29.9±3.7 → 28.2±2.4 → 24.6±2.8(15秒だけが対照より有意に低い)。OX 50.2±4.9 → 48.9±5.2 → 45.8±9.7 → 45.2±8.1(4条件のあいだに有意差なし)。二元配置分散分析では前処理時間・接着材とも主効果が有意(いずれもP<.001)、交互作用も有意(P<.001)。
0 10 20 30 剪断疲労強さ(MPa) 12.0 14.7 15.0 13.6 20.3 21.4 20.0 17.6 15.9 14.9 14.3 11.5 25.3 23.1 23.1 22.2 ELPrime & Bond Elect SUScotchbond Universal GBGエーニアル ボンド OXオプチボンド XTR リン酸なし リン酸3秒 リン酸10秒 リン酸15秒 各群n=30。ステアケース法・10Hzで5万回まで負荷し、50%が破断する応力を疲労強さとした。対照と有意差があったのはGBの15秒のみ(15.9→11.5MPa)。SUは3秒と15秒の間に有意差があった
象牙質への剪断疲労強さ(MPa)。対照より有意に低かったのはGBの15秒だけだった
剪断疲労強さ(MPa、平均±SD/0秒・3秒・10秒・15秒): EL 12.0±4.3 → 14.7±3.6 → 15.0±3.5 → 13.6±1.7(4条件で有意差なし)。SU 20.3±2.7 → 21.4±2.0 → 20.0±3.2 → 17.6±2.4(3秒と15秒の間に有意差)。GB 15.9±2.2 → 14.9±3.9 → 14.3±3.0 → 11.5±2.815秒だけが対照より有意に低い)。OX 25.3±3.7 → 23.1±5.5 → 23.1±6.4 → 22.2±6.2(有意差なし)。

整理すると、こうなります。

3秒: どの接着材でも対照より下がらず、ELでは接着強さが上がった。10秒: ELを除き対照との有意差はないが、値は下がる傾向。15秒: 従来型のGBだけが、接着強さも疲労強さも明確に低下OXは全条件で最高値を保ち、時間の影響を受けなかった。

疲労強さを接着強さで割った比(SFS/SBS)も、同じ向きを示します。ELを除く3製品では、15秒群の比だけが対照より低い(GB 0.51→0.47、SU 0.48→0.45、OX 0.50→0.49)。10秒までは対照とほぼ同値なので、落ちるのは15秒に至ってからという形です(この比には統計処理がされていないので、傾向として読む値です)。

SEMが見せた、3秒と15秒の違い

象牙質表面の像が、この差をきれいに説明します。

処理後の象牙質面: リン酸なし=OX以外の製品では、スメア層は除去されたように見えるものの、研磨紙の擦過痕と象牙細管のプラグが残っていた3秒=スメア層とプラグは除去され、表層の管周象牙質が部分的に溶解15秒=スメア層とプラグは完全に除去され、管周象牙質は完全に溶解して細管がじょうご状に開大していた。
レジン/象牙質界面: リン酸なしの1ステップセルフエッチでは薄い移行層のみ(OXでは約0.5μmの混成層)。3秒で1ステップ系にも約1μmの混成層ができ、15秒では1.5〜2μm(OXでは4〜5μm)へ厚くなった。

ここが要点です。混成層は厚ければ良いものではありません。原著はHashimotoらを引き、エッチング時間が長いほど脱灰層が深くなり、その底部にレジンが染み込まないまま脱灰された象牙質が残る——そこが界面のなかの弱い帯になると説明しています。

もうひとつの説明が、化学結合の材料を削ってしまうことです。セルフエッチ系はもともと象牙質にリン酸を使う前提で設計されておらず、機能性モノマーがハイドロキシアパタイトと強く相互作用することを頼りにしています。リン酸で前処理すると、そのアパタイトが大きく失われる。加えてコラーゲン網が虚脱すれば、脱灰層の深部までモノマーが届かなくなります。

原著はここで、GBについてのHanabusaらの報告も引いています。微小引張接着強さでは総エッチと自己エッチで差が出なかったが、総エッチのあとの混成層は多孔性でレジンの浸透が乏しかった——つまり数字に出ない劣化の伏線がある、という指摘です。

明日の臨床へ

第一に、象牙質にリン酸が乗ってしまう場面では、時間を短く済ませる。この実験の3秒群は、どの接着材でも対照を下回りませんでした。原著の結論も「リン酸の前処理時間を短くすることで、従来型セルフエッチ接着材の象牙質接着耐久性への悪影響を最小化できる」というものです。

第二に、ユニバーサルでは短時間のリン酸がプラスに働きうる。ELは3秒・10秒で対照より有意に高い接着強さを示しました。原著は「短時間のリン酸前処理は、ユニバーサルアドヒーシブの象牙質接着性能を高める」と結んでいます。

第三に、エナメル質のために15秒を確保する必要があるのか、を確かめる。原著はTsujimotoらの報告を引き、リン酸の前処理時間が3秒を超えてもエナメル質の接着強さも表面自由エネルギーもそれ以上は増えなかったことを紹介したうえで、両研究を合わせると「リン酸の前処理時間を3秒に短縮することは、エナメル質と象牙質の双方にとって臨床的に妥当でありうる」と述べています。つまりこの論文の含意は「象牙質だけ短くする」ではなく、そもそも3秒で足りるのではないかという方向です。

第四に、2ステップセルフエッチ(OX)は、そもそも時間の影響を受けにくかった。全条件で最も高い値を保っています。使っている製品のカテゴリーによって、この話の重みは変わります。

つまり: リン酸の前処理は時間で結果が変わり、接着材によって向きも変わった(交互作用 P<.001)。3秒ならどの接着材も対照を下回らず、ユニバーサルのELは3秒・10秒で対照より高かった。15秒で明確に落ちたのは従来型のGBだけ(接着強さ 31.1→24.6MPa、疲労強さ 15.9→11.5MPa)。
ここだけ、冷静に補助線
これは平坦に研磨した象牙質に円柱を立てた剪断試験で、窩洞の形態でもCファクター下でもありません。そして24時間後の測定——原著が引用しているSanabeらの報告こそ「6か月・12か月の水中保管で差が開いた」ものですから、この研究自体は、その長期の劣化を追ってはいないという点は押さえておく必要があります。製品も各カテゴリー1〜2種で、ここに載っていない製品へ広げることはできません。ひとつ注記しておくと、この論文の抄録・結果本文・結論のいずれにも「3秒の前処理でSUとELは対照より高い接着強さを示した」とありますが、いずれも「有意に」とは書いていません。表2の統計記号では SU の3秒(A)と対照(AB)は同じ文字を共有しており、有意差があったのはELのみ——考察でも「ELは3秒と10秒で対照より有意に高い接着強さを示した」とEL単独で書かれています。本記事は表と考察の記述を採りました。それでも、SEMで見た「3秒=管周象牙質が部分的に溶解/15秒=細管がじょうご状に開大」という形態の差が、そのまま数字の差に対応しているのは説得力があります。

今日のひとこと

象牙質へのリン酸は「かけるかどうか」より「何秒か」で結果が変わる。この実験では、3秒ならどの接着材も対照より落ちず、ユニバーサル1製品はむしろ上がった。一方15秒では、従来型の1ステップセルフエッチが接着強さも疲労強さも明確に下がった。セレクティブエッチで象牙質にリン酸が乗ってしまう場面を考えると、時間の管理には意味がある。

Takamizawa T, Barkmeier WW, Tsujimoto A, Suzuki T, Scheidel DD, Erickson RL, Latta MA, Miyazaki M. Influence of different pre-etching times on fatigue strength of self-etch adhesives to dentin. Eur J Oral Sci. 2016;124(2):210–218. doi:10.1111/eos.12253 PMID: 26918658
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。