5万回の衝撃滑走摩耗で、従来型と並んだ自己接着型は5製品中1つだけだった(Furuichi 2016・Operative Dentistry)
自己接着型レジンセメント、すり減り方は製品で48倍違った
自己接着型レジンセメントは手順が短く、術式の感受性も下がります。ただしセメント自体がすり減れば、修復物と歯の境目に隙間ができる。5製品の物性と摩耗を、従来型のレジンセメントを対照に並べて測った研究があります。
①セメントがすり減ると、何が起きるか
自己接着型レジンセメントは、前処理の工程を減らし、術式の感受性と術後の知覚過敏を下げるために作られました。実際、使い勝手は明快です。
ただし、この簡便さには構造上の代償があります。酸性の機能性モノマーを含むため、重合の場のpHが下がり、第三級アミンとカンファーキノンの反応が妨げられて重合率が落ちうる——これは以前から指摘されてきた懸念です。
そして、セメントは口の中で露出しています。マージン部のセメントがすり減れば、修復物と歯質の間に隙間ができる。その隙間は、咀嚼のたびにセメント内の亀裂が伸びる足がかりになり、二次う蝕・接着の破綻・修復物の破折・術後の知覚過敏につながる、と原著は整理しています。
②5製品+対照を、物性と摩耗の両面から
この摩耗試験は「衝撃+滑走」を組み合わせているのが特徴です。単純に擦るだけでなく、咬合時の叩きつけと滑りの両方を模しています。
③摩耗は48倍ひらいた
最小と最大で体積損失は約48倍。従来型と統計的に差がつかなかったのは、自己接着型ではGCリンクエースだけでした。原著の臨床的意義の欄も、まさにこの一点を書いています——「摩耗抵抗性について、GL以外の自己接着型レジンセメントは従来型より有意に低い値を示した」。
SEMの像も一致します。GLと対照ECの摩耗面は比較的平滑(細かい亀裂はある)でしたが、他の自己接着型はより粗く深い摩耗面を示し、フィラー粒子が表面からむしり取られた跡と明瞭な亀裂が観察されました。
④曲げ強さと弾性率でも、対照が上に立つ
弾性率とレジリエンスでは、対照が全項目で最高値です。原著はここに実務的な意味を与えています。合着材の弾性率は、修復物と歯質の中間にあることが界面の応力集中を減らすうえで望ましいとされ、また塑性変形への抵抗(レジリエンス)が高いほど、マージンの隙間形成やセメントの破折に抵抗しやすい。自己接着型の低い弾性率とレジリエンスは、オールセラミックやミリング修復のような脆い修復物の変形・破折を防ぐうえでは不利として残る、というのが著者らの見方です。
⑤フィラー量では予測できない
この研究のいちばん面白い点は、ここだと思います。
一般には、フィラーが多いほど機械的性質が上がり、重合収縮が減り、摩耗抵抗性が高まるとされています。ところがこの実験では、フィラー量が最も少ないGCリンクエースが、摩耗では対照と並ぶ最良の成績を示し、フィラー量が2番目に多いマックスセム エリートが最も摩耗しました。原著も「フィラー量・フィラーサイズと材料特性の相関を調べたが、有意な相関は認められず、他の因子のほうが重要と思われる」と明記しています。
熱膨張係数でも同じことが起きています。フィラー量が多いME(66.9wt%)が、線熱膨張係数では51.6×10⁻⁶/℃と全材料中で最も大きい(最小はRUの37.7)。フィラーが多いほど熱膨張は小さくなるはずなのに、逆になっている。マトリックスレジンの種類やフィラーの粒径など、別の因子が効いているという読み方になります。
著者らは、自己接着型に含まれる酸性の機能性モノマーがセメント自体の重合率に影響している可能性にも触れています。カタログのフィラー量だけでは、この差は説明できません。
⑥明日の臨床へ
第一に、「自己接着型」をひとつのカテゴリーとして扱わない。この6製品の比較で、摩耗の体積損失は0.0110から0.5258mm³まで開きました。製品を選ぶ判断は、カテゴリーではなくその製品の実測データに基づく必要があります。
第二に、マージンが露出する設計ほど、この差が効く。セメントが口腔内に露出しないインレーの深い部分より、マージンが咬合面や隣接面に来る症例で摩耗抵抗性の意味は大きくなります。
第三に、脆い修復物には、弾性率とレジリエンスも見る。オールセラミックやCAD/CAM修復では、下地が軟らかいほど修復物がたわみます。この実験で自己接着型は弾性率4.4〜7.7GPaと、対照の10.6GPaに届きませんでした。
第四に、カタログのフィラー量を成績の代理指標にしない。この研究では、フィラー量と物性・摩耗の間に有意な相関がありませんでした。
これはセメント単体のブロックを、ステンレス球で叩いて滑らせた試験です。修復物の下に薄い層として存在する臨床のセメントとは、応力のかかり方も光の届き方も違います。対合はステンレス球であり、エナメル質でも修復材料でもありません。5万回という回数も、臨床の年数に換算されているわけではありません。デュアルキュア型のセメントを、この研究では光照射して硬化させていますが、修復物越しに光が届かない場面での挙動は別途評価が要ります。製品も各1ロットずつです。ひとつ注記すると、抄録および方法の本文は摩耗試験を「各セメント10個」としているのに対し、表4の脚注はn=6と記しています(曲げ試験はどちらもn=6)。また抄録の最大摩耗深さの上限「235.9μm」は、表4のマックスセム エリートの値239.5μmと一致しません。本記事は表の値を採りました。それでも、摩耗の順位と物性の順位がおおむね一致し、SEMの摩耗面の粗さとも整合していることは、この結果が測定の揺らぎではないことを支えています。
今日のひとこと
「自己接着型レジンセメント」は1つのカテゴリーではなく、中身は製品ごとに別物だった。摩耗の体積損失は最小0.0107mm³から最大0.5258mm³まで約48倍の開きがあり、従来型と差がつかなかったのは自己接着型5製品のうち1つだけ。しかもその1つは無機フィラー量が最も少ない製品で、フィラー量が2番目に多い製品が最もすり減った——カタログのフィラー量では成績を予測できない。


