1問1答 論文 虫歯

象牙質まで透過像が伸びていても、穴が開いていたのは4割——歯を離開させて直接見た1992年の研究

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|隣接面う蝕の診断・切削の閾値・バイトウイング

バイトウイングで隣接面に透過像が見えたとき、「もう象牙質まで来ているから削ろう」と考えます。ではその透過像の下に、本当に穴は開いているのか。スコットランドの一般歯科で、子ども211名の歯にエラストマーを1週間入れて隣接面を離開させ、直接目で見て確かめた研究があります。永久歯で象牙質の外半分まで透過像が達していた面のうち、実際に窩洞形成が確認できたのは40.9%でした。

論文
An in vivo Comparison of Radiographic and Directly Assessed Clinical Caries Status of Posterior Approximal Surfaces in Primary and Permanent Teeth
著者
N.B. Pitts, P.A. Rimmer(ダンディー大学歯学部 歯科保健学教室/歯科保健サービス研究ユニット)
掲載
Caries Research 1992;26(2):146-152
種類
in vivo の診断精度研究(小児211名・永久歯1,468面・乳歯756面)
PMID
1521308

その透過像の下に、本当に穴は開いていますか

バイトウイングで隣接面に透過像が見える。象牙質まで来ている。「じゃあ削ろう」——この判断の根拠は、「象牙質に達する透過像=窩洞形成がある」という前提です。

ではその前提は正しいのか。隣接面は隣の歯に隠れていて、直接見ることができません。この研究はそこを、エラストマー(歯間分離用のゴム)を1週間入れて歯を離開させ、実際に目で見るという方法で確かめました。スコットランドの一般歯科医院に通う5〜15歳の子ども211名永久歯1,468面・乳歯756面という規模です。

先に結論: 永久歯で象牙質の外半分まで透過像が達していた面のうち、実際に窩洞形成が確認できたのは40.9%エナメル質の内半分までの透過像では10.5%。逆に、直視で見つかった白斑病変のうちバイトウイングに写っていたのは35.5%だけだった。

どう測ったか

  • 離開:エラストマーによる一時的な歯間分離を1週間。その後、歯科用照明とミラーで直視して判定
  • X線:患者ごとにバイトウイング2枚。フィルムホルダーと矩形絞りを使用し、拡大鏡(×2)とビューボックスで読影。臨床判定が終わるまでフィルムは読まない設計(バイアス回避)
  • X線コード:R0 透過像なし/R1 エナメル質の外半分まで/R2 エナメル質の内半分(エナメル象牙境まで含む)/R3 象牙質の外半分まで/R4 象牙質の内半分に達する
  • 臨床コード(WHO基準を一部改変):0 健全/1W 白斑(前う窩)/1B 褐色斑(前う窩)/2 エナメル質内の窩洞形成/3 象牙質に及ぶ窩洞形成/4 歯髄波及が疑われる窩洞。探針で隣接面を探ることはせず、視診のみ
  • 再現性:同一検査者による4週間後の再判定で、Dice係数は臨床0.95・X線0.85。⚠️ ただしこれは従来の(分離をしない)診査についての値で、著者らは「研究の運営上の都合により、分離後の面の判定の再現性は評価できなかった」と明記しています

結果①:透過像の深さと、穴の有無は一致しない

0 33.3% 66.7% 100% 臨床的に窩洞形成が確認された割合 (%) 0% 0% 0% 2% 10.5% 2.9% 40.9% 28.4% 100% 95.5% R0 透過像なし R1 エナメル外半分 R2 エナメル内半分 R3 象牙質外半分 R4 象牙質内半分 淡い棒が乳歯。各コードの面数は永久歯 1,323/100/19/22/4、乳歯 420/102/34/134/66。1週間のエラストマー分離後に直視して判定した
X線的な透過像の深さ別に、直視で窩洞形成が確認された割合
  • 永久歯:R0 0%(1,323面)/R1 0%(100面)/R2 10.5%(19面)R3 40.9%(22面)/R4 100%(4面)
  • 乳歯:R0 0%(420面)/R1 2.0%(102面)/R2 2.9%(34面)/R3 28.4%(134面)/R4 95.5%(66面)
  • 永久歯と乳歯でR2・R3の傾向は違って見えるが、この差は統計学的に有意ではなかった(原著は「傾向は顕著だったが、差は統計学的に有意ではなかった」と記述しています)

この数字を「治療の閾値」に翻訳すると、こうなります。

  • 永久歯のR2(エナメル内半分)をすべて修復した場合89.5%の面は、修復する前には窩洞が無かったことになる
  • 永久歯のR3(象牙質外半分)をすべて修復した場合59.1%は「早すぎる」と見なされうる介入だったことになる
  • しかもR3で窩洞形成があった面の3分の2は、臨床的にはエナメル質内の窩洞(コード2)だった——X線が示す深さと、実際の欠損の深さも一致していない

結果②:見落としは、逆方向にも大きい

0 33.3% 66.7% 100% バイトウイングで検出できた割合 (%) 35.5% 61% 74.7% 80.4% 永久歯 乳歯 淡い棒が褐色斑。直視で見つかった前う窩病変のうち、バイトウイングでも透過像として捉えられていた割合。永久歯では白斑の3分の2近くがX線に写っていなかった
直視で見つかった前う窩病変のうち、バイトウイングでも透過像として捉えられていた割合
  • 永久歯:白斑病変の35.5%、褐色斑病変の61.0%しかX線に写っていなかった
  • 乳歯:白斑74.7%、褐色斑80.4%と、こちらは比較的よく写っていた
  • X線で健全と判定された永久歯の面から、直視で白斑80面・褐色斑30面が見つかった(前う窩病変全体の54.7%)
  • 一方でX線が窩洞を示したのに直視で見つからなかった例は、1つも無かった
  • 透過像の深さ判定(エナメルか象牙質か)が直視と一致したのは、永久歯で約60%(87/145)、乳歯で44%(147/336)
バイトウイングは「穴を見逃さない」が、永久歯では「初期病変を半分以上見逃した」。永久歯では、直視で見つかる白斑の3分の2近くがX線には写っていなかった(乳歯では22.2%の見落としにとどまる)。原著の言葉では、X線は窩洞を見逃さないという点では特異度が高い——一方で初期病変の検出は、少なくとも永久歯では十分でなかった。

結果③:接触点があるかどうかで、まったく違う

0 33.3% 66.7% 100% X線に透過像が無かった(R0)面の割合 (%) 77.2% 95.6% 34.3% 70.5% 永久歯 乳歯 淡い棒が接触の無かった面。面数は永久歯 接触あり438/接触なし1,030、乳歯 接触あり312/接触なし444。差はいずれもP<0.001。なおX線でも直視でも健全だった面に限ると、永久歯は65.3%対90.0%、乳歯は47.8%対69.4%(原著の表の実数から計算)
もともと解剖学的な接触があった面と、無かった面で、X線に透過像が無かった(R0)面の割合
  • 永久歯:接触があった面でX線に透過像が無かったのは77.2%、接触が無かった面では95.6%
  • 乳歯:接触あり34.3%、接触なし70.5%——乳歯の接触面では、3分の2に透過像が見られたことになります
  • X線でも直視でも健全だった面に限ると、永久歯は接触あり286/438=65.3%・接触なし927/1,030=90.0%、乳歯は149/312=47.8%・308/444=69.4%(原著の表の実数から計算)
  • この差は永久歯・乳歯ともに P<0.001

著者らは、接触点のまわりの微小環境が、う蝕原性の細菌叢の産生と保持に有利に働くのだろうと考察しています。原著の記述は「もともと解剖学的な接触があった隣接面のほうが、病変を示す可能性が高かった」という関連までで、この集団での観察です。接触が無い面には萌出途上や空隙といった別の要因も混じりうるので、部位そのもののリスク特性として一般化するのは一段先の話になります。

明日の臨床へ

  • 「エナメル質に限局した透過像」は、まず予防で対応する——ただし原著の書き方は慎重で、「定期的に通院しているスコットランドのこの小児集団において、永久歯の、X線的にエナメル質に限局した病変は、予防的アプローチで対応できることを示唆するように思われる」です。永久歯のR1では窩洞形成がゼロ、R2でも10.5%でした。著者らは同じ段落で「偽陽性・偽陰性は起こりうるので、X線所見は他のすべての情報と合わせて判断しなければならない」とも書いています
  • R3(象牙質外半分)でも、即切削とは限らない。この集団では6割に穴が無く、穴があった面の3分の2もエナメル質内の窩洞でした。ただし著者らは「象牙質に及ぶ病変の最適な戦略には、さらに大規模な研究が必要」とも書いています
  • X線が健全でも、初期病変は疑う。永久歯の白斑の35.5%しか写っていません。清掃状態・食習慣・フッ化物の使用といった他の情報と合わせて判断する必要があります
  • 接触点のある面を重点的に見る。同じ口の中でも、接触の有無でリスクが大きく違います
  • 乳歯と永久歯を同じ基準で扱わない。乳歯ではR2の窩洞形成が2.9%と低い一方、接触面の健全率は34.3%と低い。著者らも「乳歯と永久歯で異なるアプローチが正当化されるかもしれない」と書いています

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず「直視=ゴールドスタンダード」ではありません。著者ら自身「組織学的検査のような真の基準とは見なせない」と明記しています。窩洞形成があると判定されなかった面にも、微細な欠損はありえます。また面数が偏っています——永久歯のR2は19面、R3は22面、R4はわずか4面で、40.9%や100%はこの小さな分母から出た値です(乳歯はR3が134面、R4が66面と厚い)。対象は定期的に通院しているスコットランドの小児で、う蝕活動性の高い集団や成人には、そのままは当てはめられません。加えて1992年のフィルムX線での結果であり、現在のデジタル画像やCBCTとは条件が違います。さらに、乳歯で複数の分離器具を同時に入れると離開量が小さくなり、視診の精度が落ちる可能性も著者らが指摘しています。それでも「透過像の深さと窩洞形成は一致しない」「初期病変はX線に写らないことが多い」という2点は、その後の低侵襲歯科の議論の土台になった知見です。四半世紀を超えて、いま撮っている1枚のバイトウイングをどう読むかに直結しています。

今日のひとこと

透過像の深さ別に「実際に窩洞形成があった割合」は、永久歯で R0 0%/R1(エナメル外半分)0%/R2(エナメル内半分)10.5%/R3(象牙質外半分)40.9%/R4(象牙質内半分)100%。乳歯では 0/2.0/2.9/28.4/95.5%。つまり永久歯で象牙質外半分まで達した透過像でも、6割には穴が開いていなかった。逆方向の見落としも大きく、直視で見つかった永久歯の白斑病変のうちバイトウイングに写っていたのは35.5%、褐色斑でも61.0%にとどまる。著者らは「エナメル質に限局した透過像は予防的に対応してよいのではないか」と結んでいる。ただし直視も組織学的検証ではなく、著者ら自身が「ゴールドスタンダードとは言えない」と書いている点は押さえておきたい。

Pitts NB, Rimmer PA. An in vivo comparison of radiographic and directly assessed clinical caries status of posterior approximal surfaces in primary and permanent teeth. Caries Res. 1992;26(2):146-152. PMID: 1521308. DOI: 10.1159/000261500
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。