カリオロジー|1歳6か月児健診・3歳児健診・生活環境・数量化理論I類
1歳6か月児健診でう蝕がある子は、全国でわずか7.4%。ところが3歳児健診では56.1%まで跳ね上がります。この1年半に何が起きているのか。そして——1歳半の時点で配れる問診票から、3歳の姿はどこまで見通せるのか。広島市の保健所で、同じ子ども875名を2つの健診でつないだ研究があります。
①1歳半で7.4%、3歳で56.1%
厚生省の昭和63年度の報告です。1歳6か月児健診でのう蝕有病者率は7.4%。それが3歳児健診では56.1%。この1年半で、半分以上の子にう蝕ができる。
ここで問いが立ちます。1歳半の健診でやっている保健指導は、この急増を止められているのか。そして——1歳半の時点で配っている問診票から、3歳の姿はどこまで見通せるのか。
②同じ子どもを、2つの健診でつなぐ
- 対象:広島市内のある保健所で平成2年度(1990年4月〜1991年3月)に3歳児歯科健診を受診した1,466名のうち、1歳6か月児健診も受けていた875名(男児422名・女児453名)とその母親
- デザイン:後ろ向きコホート研究。この分野の先行研究の多くが断面調査だったのに対し、同じ子どもの1歳半と3歳を紐づけた点が新しい
- 曝露:1歳6か月児健診の案内に同封して事前に記入してもらった保護者アンケートと、当日に保健婦が母子管理票にもとづいて行った問診
- アウトカム:3歳児健診でのdmf歯数。診査は人工照明下・仰臥位で歯鏡と探針を使い、歯単位で記録
- 解析:①カテゴリー別のdmft比較(t検定)②1歳6か月時点の18項目を説明変数、3歳時のdmf歯数を目的変数とした林の数量化理論I類
この保健所の子どもたちは、全国値より虫歯が少ない集団でした。dmft指数は1歳6か月で0.11・3歳で2.37(全国は0.22・2.91)、う蝕有病者率は4.5%・49.8%(全国は7.4%・56.1%)。比較的良好な地域だという前提で読む必要があります。
③3歳の虫歯を決めていた6つの項目
頭ひとつ抜けているのが「1歳半の時点でう蝕があるかどうか」(0.333)です。カテゴリースコアを見ると、う蝕あり +5.14/う蝕なし −0.25——他の項目とは桁が違います。1歳半で1本でもあれば、それだけで3歳の見通しは大きく変わるということです。
生活習慣と家庭背景の側で残ったのは5つ。出生順位(0.139)/間食の規則性(0.110)/哺乳瓶の使用(0.100)/母親が毎日仕上げ磨きをするか(0.085)/含糖甘味飲料を飲むか(0.073)でした。出生順位のカテゴリースコアは、第1子 −0.34・第2子 0.09・第3子以降 +1.07。第3子以降だけが際立って高い。
④1歳半の習慣・家庭背景で分けると、3歳のdmftはこう違う
- 間食が規則的(576名)1.96/不規則(299名)3.14(p<0.001)
- 哺乳瓶をやめている(724名)2.15/まだ使っている(151名)3.41(p<0.001)
- 断乳できている(810名)2.27/できていない(65名)3.60(p<0.01)
- 母親が毎日仕上げ磨き(726名)2.23/時々またはしない(149名)3.03(p<0.05)
- 出生順位:第1子(450名)2.09/第2子(308名)2.45/第3子以降(117名)3.21
- 家族構成:複合家族(115名)3.20/核家族(760名)2.24(p<0.01)
一方で、差が出なかった項目も同じくらい重要です。性別(男2.46/女2.28)、保育所通園の有無(1.94/2.41)、そして授乳方法——母乳2.56/人工乳2.20/混合2.58で、統計学的な差はありませんでした。「母乳だから虫歯になる」という単純な図式は、このデータからは出てきません。
ひとつ、読むときに注意が要る項目もあります。食事中のテレビ視聴は有意差ありとされた項目のひとつですが(p<0.05)、原著は本文で「テレビをつけているものでdmftは有意に高い」と記す一方、Table 5の数値はつけている群2.01・つけていない群2.58と逆向きで、本文と表が一致していません(Table 6のカテゴリースコアは本文と同じ向きです)。著者らはこの項目を「う蝕との関連というより躾の一つ」と位置づけており、方向を断定して読むべき結果ではありません。
⑤妊婦教室に出た母親の子は、虫歯が少なかった
広島市は初妊婦を対象に3講座の妊婦教室をやっていました。この項目の対象である第1子の母親450名のうち36%が少なくとも1回参加し、歯科医による講座を受けたのは32%。
- 妊婦教室:1回も出ていない(287名)2.41/3回すべて(111名)1.37(Table 5では p<0.01、原著本文では p<0.05 と表記が割れている)
- 歯科の講座:受講あり(146名)1.54/なし(304名)2.35(p<0.05)
ただしこの項目は第1子の母親にしか実施されておらず、対象は450名です。そして「教室に出るような母親」という性格の偏りが丸ごと乗ります。数量化理論の解析では、この項目は説明変数に入っていません。因果ではなく、あくまで関連としてしか読めない結果です。
⑥明日の臨床へ——指導のタイミングを前へ
- 著者らの結論は明快です。効いていた項目のほとんどは、1歳6か月児健診より前に始めるべきものだった。哺乳瓶をやめる、断乳する、間食を規則的にする——どれも1歳半で言われても、すでに習慣になっている
- 実際この保健所では、4か月児・9か月児の健康相談(受診率85%以上)があり、歯科の内容は9か月時に保健婦が短時間触れるだけでした。著者らはここに歯科保健指導を載せることを提案しています
- 診療室に置き換えるなら——1歳半で「もうある子」に力を注ぐのは正しい(偏相関係数0.333)。同時に、まだ無い子には、哺乳瓶・間食・仕上げ磨き・甘い飲料の4点を、1歳半より前に伝える
- 第3子以降と複合家族は、この研究で一貫して数字が高かった群です。上の子の間食を欲しがる、育児に慣れて甘くなる、祖父母が育児に加わる——著者らはそう考察しています。「お母さんだけでなく祖父母にも届く伝え方」という視点は、今もそのまま使えます
今日のひとこと
3歳時のdmf歯数に効いていたのは6項目——1歳半でのう蝕の有無(偏相関係数 0.333)、出生順位(0.139)、間食の規則性(0.110)、哺乳瓶の使用(0.100)、母親の仕上げ磨き(0.085)、含糖甘味飲料(0.073)。ただし重相関係数は0.438で、説明できた分散はR²にして約2割にとどまる。それでも「1歳半の問診票のどこに重点を置くべきか」の順番は示された。だからこそ著者らは、指導を1歳半より前へ動かすべきだと書いている。


